人気タイトル『ベヨネッタ』シリーズの新作、『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』が3月17日(金)にリリースされた。シリーズ作とは一線を画す絵本をモチーフとした温かみのあるビジュアルの開発について、プラチナゲームズに聞いた。
前回のキャラクター制作、モーション、UIに続き、今回は背景とエフェクトの制作について紹介する。
関連記事:作画キャラと3Dエフェクトが絡む異色の独特の絵本ルックで魅せる『ベヨネッタ』シリーズの前日譚『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』(1)
Information
Interviewee
Point 01:スタイリッシュに描き出す背景としての妖精の森
コンセプトアートからレイアウト、レベルデザイン、ポストプロセスを経て仕上がったルックは、まさに「絵本らしさ」と「妖精の森」というコンセプトそのものだ。
ファンタジックな背景のコンセプトアート
本作のイメージを特徴付ける重要な要素のひとつが、スタイリッシュな絵本の世界を表した背景だ。リードコンセプトアーティストの陳 俊承氏は、「ちょっと不思議でメルヘンチックなモチーフをランドマークにしてデザインを進めました。森の中に大きなカゴや、公園みたいなものを置いたんです」と、「妖精の森」と「絵本っぽさ」というコンセプトを背景で表現するための工夫について話した。
またエンバイロメントアーティストの佐事晃斗氏によると、背景セクションでは「手描き感のある画として映える背景」、「レイアウトの疎密感」、「プレイヤーがカメラを動かせないストレスを感じず、画づくりも担保できるカメラワークを意識した背景」という3点に配慮して背景制作を進めたそうだ。
アセットをバランス良くレイアウトして美しい背景のシルエットを得る
本作では、ステージに配置したアセットのシルエットが背景デザイン上の重要なポイントになる。画面に緻密さを出すためには細かくアセットを配置していきたいところだが、アセットが多くなると処理落ちしてしまう。多すぎると処理落ちし、減らしすぎてもチープになるというせめぎ合いの中、ひとつひとつ実機で処理を確認しながらレイアウトを進めたという。
「アセットにはマテリアルに含まれるリッチさや立体的表現が含まれていませんから、画面のレイアウトやカラーバランスを整えないと、すごくクオリティが下がってしまうことになります。そこにはかなり気を遣いました」と佐事氏。
レベルデザインと画づくりを両立させるためのカメラ調整
本作ではユーザーがカメラを動かせないことから、カメラ位置をどう設定するかがとても重要になった。カメラによるレベルデザインと画づくりの両立が欠かせないため、気を遣ったという。また、俯瞰に設置されたカメラが「森」の設定と相性が悪かったと佐事氏は話す。
「森は天井が塞がっていないと深い森という感じがしないものです。でも今回は天井を開けたまま、深い森の中を歩いている雰囲気を出さなくてはならなかったので、木々からの落ち影を効果的に地面やキャラクターに落としたり、手前に被さるアセットの配置を工夫したりして対応しました」(佐事氏)。
UVによる影の表現とガラスシェーダ
影は基本的にアルベドマップに描き込まれているが、対応できない場合はUVグラデーションを使用。この方法であればテクスチャなしで静的な影を表現できる。また、ガラスの反射表現にはガラスシェーダが用いられており、ハイライトと共に模様も投影されている。
背景のLODは3段階用意
本作にはディテールの細かいアセットも多いため、背景の軽量化対策としてLODを3段階用意した。基本的にはカメラ位置に応じて自動でLODを切り替えるよう設定してあるが、強制的にLODを下げて表示する箇所もある。
絵本の世界観をポストプロセスで完成させる
ポストプロセスを適用して絵本の世界観をグッと高める。
ポストプロセスによる背景のアウトライン描画
背景のアウトラインは、キャラクターと同様の背面法に加えて、深度差、マスクの輪郭、シャドウの輪郭などを利用して描画している。深度差については、オブジェクト同士に一定以上の深度差がある場合にアウトラインを描画する。
この方法ではカメラが寄った際にラインが太くなる問題を回避できるため、より手描きに近いラインになるという。
なお、キャラクターにはラインがデザインに含まれているため背面法アウトラインを採用し、対象とカメラの距離によって押し出し幅を変化するようにして画面上のラインの太さが均一に見えるように調整しているとのこと。
Point 02:絵本の中の画として描くエフェクト表現
「エフェクトも絵本の一部」というコンセプトに沿って制作された、手描きの風合いをもつオーガニックなエフェクト群が、ゲーム体験を一段上のレベルに引き上げる。
エフェクトにも絵本や手描きのコンセプトを反映
本作ではエフェクトにも絵本のコンセプトを反映させ、いわゆるVFX的なものからは離れた表現を模索。
「重点的に考えたのは、絵本のテイストを感じられる一方で、鮮やかでリアクションが気持ち良いエフェクトです。エフェクトはそもそもがCG的要素が大きくて、絵本とはかけ離れたものだと思うので、そこをどう擦り合わせるのかが課題でした」とVFXアーティストの岸 杏樹氏は話す。
手描き素材を使った術「ウィッチパルス」のエフェクト
本作のエフェクトには、一部アートセクションによる手描きのテクスチャが活用されている。ゲーム開発において、ここまでアート側からテクスチャの提供を受けたり、アート側と監修作業を密にやるというのはかなり珍しいことだという。
またプラチナゲームズでは、エフェクトは自社エンジンに組み込まれた効果ツールで制作する。効果ツールで作成したエフェクトはそのままエンジン内で実装まで行える。
属性系エフェクトの表現で活躍する手描き素材
エフェクトのテクスチャを手描きで用意する場合、ひとつの動きに複数枚のテクスチャが必要となり、コストパフォーマンスは非常に悪い。しかし本作のような絵本の世界を表現するという目的がある場合、手描きテクスチャの選択は効果的になる。
手描き素材で上質に仕上げる背景のエフェクト表現
手描きのテクスチャは背景にも使われている。十分にアートディレクションされた手描きテクスチャにより、絵本から切り出されたようなルックが見事に表現されている。
エフェクトを組み合わせた絵本の滲み表現
絵本イベントの滲み表現もエフェクトを用いたもののひとつ。画面上の紙もエフェクトで表示しているが、その紙のエフェクトに対して「陽炎シェーダ」(ノーマル情報を使って歪みを与えるシェーダ)を適用することで、紙の一部を消し込むというしくみだ。VFXセクションが消えるエフェクトまでを作成し、シネマティックセクションが引き継いで組み込んでいる。
深度差と滲みをかけ合わせた絵本イベントのアウトライン表現
絵本イベントに登場するアウトラインによる描画表現も、自社エンジンの効果ツールを使って作成している。深度差によるアウトライン生成を行い、滲み表現のエフェクトを合成することで、じわじわとラインが出現するエフェクトになる。
CGWORLD 2023年6月号 vol.298
特集:映画『THE FIRST SLAM DUNK』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年5月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_大河原浩一(ビットプランクス)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada