7月7日は『アイドリッシュセブン』(以下、『アイナナ』)プロジェクトの記念日!
『アイナナ』は2015年8月にゲームサービスを開始し、以降アニメ化やライブ開催など、様々に展開しているコンテンツだ。5月20日(土)からは、4グループ16人のアイドルが一堂に会する壮大なライブステージ『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』(以下、『劇場ライブ』)が全国劇場にて開催されている。月刊『CGWORLD』vol.299では、48ページにわたって『劇場ライブ』を特集した。『アイナナ』の記念日に合わせて、特集の中から「PART 2 錦織 博監督&山本健介監督インタビュー」を抜粋・再編集し、全2回に分けてお届けする。
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INFORMATION
『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』
『アイドリッシュセブン』
錦織 博氏は映画『モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ』(2018)で監督を務めて以来、『BEASTARS ビースターズ』(2019)、『TRIGUN STAMPEDE』(2023)にも絵コンテや演出で参加してオレンジから様々な刺激を受けてきた。山本健介氏は『Mr.AFFECTiON』MV(2019)に続いて『アイナナ』作品の監督を務めている。16人が並び立つ『劇場ライブ』を、開始からアンコールまで余すところなく撮りきった両監督に、本作が完成するまでの軌跡を語ってもらった。
森羅万象という大きな世界観で全体を包み、各々の個性を出す
CGWORLD(以下、CGW):ここ10年近く、錦織監督はオレンジの作品に関わり続けていますね。
錦織 博監督(以下、錦織):オレンジは代表の井野元(英二)さんをはじめ、スタッフのアニメーションの技術がとにかく素晴らしいんです。作品を完成させる度に課題を克服していくので、成長のスピードも速く、感銘を受けてきました。3DCGでアニメーションをつくることへの興味も尽きないし、オレンジの仕事を間近で見続けたくて、様々な作品に参加させていただきました。一方で、作中にキャラクターのライブが入る作品をいくつか手がけてきたこともあって、3DCGとライブに対する自分なりの課題をもっていたんです。そんな中で、安藤(次郎/制作プロデューサー)さんから『劇場ライブ』の話をいただけたので、「10年分の経験を総動員してやろう」という気持ちでワクワクしながら参加を決めました。
山本健介監督(以下、山本):『Mr.AFFECTiON』MVの監督をやらせていただいた後、半澤(優樹/『Mr.AFFECTiON』MV 制作プロデューサー)から「『劇場ライブ』の話が来ました!」と聞かされて、「また『アイナナ』に携われるかな?」と期待していたんです(笑)。安藤から「錦織さんとの共同監督をお願いできませんか?」と言われたときには「やったー!」という気持ちでした。『アイナナ』には思い入れがあったので嬉しかったですね。僕は長尺作品の監督経験がなかったので、演出面は錦織監督から学ばせていただこうと思いました。逆に画づくりの面で貢献したいとも思いましたね。
錦織:実際にはあえて明確な役割分担を決めませんでした。プリプロ段階では「個性の強い4グループが集まったときに、彼らがどんなライブをやるのか?」をオレンジさんのこの会議室で延々と話し合いましたね。実際に制作が始まった後は、お互いの得意分野に応じた棲み分けが自然とできていったように思います。
INTERVIEWEE
山本:プリプロが始まった当初、僕は「どういうビジュアルでステージを飾っていくのか?」の方に意識がいきがちで、アイドルのあり方まではなかなか思いが届きませんでした。錦織監督の思い描くものを聞いて、「そうか、そこを考えなきゃいけないんだよな」と気づかせていただきました。
錦織:話し合う中で、ライブ全体の時間のながれや空間を大きな世界観で包んであげれば、各々の個性が自ずと引き出せるんじゃないかと思うようになりました。それで森羅万象というでっかいキーワードを打ち立てたんです。その後で、つくりたい世界観にふさわしい設定、演出、舞台装置などをセットリストに合わせて決めていった感じです。
『劇場ライブ』のオープニング映像
山本:かなり早い段階で錦織監督が森羅万象というキーワードを示してくださったので、それを具体化するための言葉や演出を下岡さんたちと一緒に出していきました。
錦織:「今日は夜中までやるぞ!」みたいな感じで(笑)、何回か膝を突き合わせて話し合いましたね。
CGW:『劇場ライブ』用の4グループの新作衣装で四季を表現するという種村有菜先生(キャラクター原案)のアイデアも、森羅万象というキーワードから生まれたのでしょうか?
錦織:そうです。『劇場ライブ』の衣装は大きく分けると4種類あって、種村先生には新作衣装のデザインをお願いしました。そのときに「四季を表現しては?」というアイデアをいただいたので、ステージ演出の一部にも取り入れました。
七瀬 陸(IDOLiSH7)の新作衣装
亥清 悠(ŹOOĻ)の新作衣装
百(Re:vale)の新作衣装
九条 天(TRIGGER)の新作衣装
山本:セットリストの後半の新曲も、森羅万象というキーワードや世界観を伝えた上でつくっていただきました。同じキーワードが出発点でも、グループごとに解釈がちがっていたので、個性豊かなステージ演出を実現できたと思います。
錦織:前半から後半まで一貫したコンセプトの基でつくっていますが、前半は4グループのこれまでの歩みや思いをファンと一緒に共有してもらう時間で、後半はより深く『劇場ライブ』のコンセプトに浸っていただける時間になっていると思います。
「これは本物なんだ」と感じてもらえるステージにしたかった
山本:「16人が並び立つステージ」というイメージも、早い段階から錦織監督が提案してくださいましたね。
錦織:セットリストを決める前に、「16人が並ぶ画を撮るためには何が必要か?」から考え始めました。実際にそのまんまの画をつくれたときに、「これをやりたかったんだ」という達成感がありましたね。
山本:「16人が並び立つクライマックスにどうやってたどり着くか?」という課題を前に、全員でアイデアを出し合いました。例えば「ステージには16人が横に並べる大階段が必要だから、それなりに巨大な会場ということになりますよね」と誰かが言い出して、「2023年5月に完成したばかりの、都内にある大型ライブ施設」というレインボーアリーナの設定が生まれました。
レインボーアリーナの全景
錦織:話し合いの中では「途中でカメラがステージ裏に回る」、「前日譚のお話を入れる」といったアイデアも出ましたが、最終的には「ライブの開始からアンコールまでを余すところなく撮りきろう」という方針になりました。これまでに僕が手がけたアニメでは、楽曲の部分とMCの部分とで見せ方を変えたりしていましたが、今回は極力ひとつの見せ方を貫いています。例えばIDOLiSH7が自分たちの楽曲を歌い終わってMCでŹOOĻを呼び込むときには、「実際に、このステージで可能かどうか」を重視しました。なるべく誇張や嘘のない、シームレスにつながるステージにしたいという思いが最初からありましたね。楽曲ごとの演出や舞台装置がどんな技術を使ってつくられているのか、どうやったら前後の楽曲のビジュアルと美しくつながるのかといったことも考えました。
レインボーアリーナのステージに立つ4グループ
山本:一貫してリアリティは大事にしました。ファンの皆さんに「これは本物なんだ」と感じてもらえるステージにしたかったんです。演出の中には現在の技術だと実現できないものもありますが、「数年先にはできるかもしれない。この技術を使えば理論上はできるはず」と思えるギリギリのリアリティをねらいました(笑)
錦織:衣装に関してもリアリティを重視しています。アイドルたちがメインビジュアルや予告で着ている衣装は「2022 BLACK or WHITE LIVE SHOWDOWN」(2022年12月開催)のものですが、『劇場ライブ』用にリメイクしました。種村先生のデザイン画を『アイナナ』のリアルライブの衣装を手がけてきた南 圭衣子さんにお渡しして、「実在する布でつくったらどうなるか」という想定の基で、生地の色や厚み、光沢感を指定していただいたんです。
山本:その指定をふまえて若林 優さん(総撮影監督/エニシヤ)とオレンジが全ての衣装の質感を設定したので、本作のステージに映えるルックになっていると思います。アンコールでは、16人が揃いのライブTシャツを着て最後の挨拶をしてくれたりもします。
CGW:本物のライブみたいですよね!
山本:そこは下岡さんのこだわりでした。ファンとアイドルが同じライブTやラバーバンドを身に付けて同じ時間を過ごすというのも、ライブで見たい風景ですからね。
八乙女 楽(TRIGGER)のルック開発
(2)『劇場ライブ』という
新しいエンターテインメントを実現できた
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.299(2023年7月号)
特集:『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年6月9日
TEXT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
EDIT_李 承眞/Seungjin Lee(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota