この春劇場公開され、本日Blu-ray&DVDが発売となる『映画刀剣乱舞-黎明-』。本作のVFXは、ハリウッドで活躍する日本人アーティストたちが参加し、チームが構成されたことも大きな話題を呼んだ。本稿では、いくつかのハイライト・シークエンスにスポットを当て、実際にVFX制作に参加したアーティストの皆さんに解説いただく。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 302(2023年10月号)からの転載となります。

    Information

    『映画刀剣乱舞-黎明-』
    Blu-ray&DVD発売 2023年11月22日(水)/価格:11,880円(Blu-ray)、10,780円(DVD)/発売元:マーベラス・東宝/販売元:東宝
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    ©2023「映画刀剣乱舞」製作委員会/NITRO PLUS・EXNOA LLC

    アメリカ・台湾・日本の3拠点共同によるVFX制作

    まず、今作のVFXをまとめ上げたVFXスーパーバイザーの山際一吉氏に話を聞いた。「現在、ハリウッドを拠点に活動していますが、知人の日本のプロデューサーからお話をいただき、VFXスーパーバイザーとして参加することになりました。そこで、これまでに作品でご一緒した方々にお声がけをし、チームを結成しました」。

    山際一吉/Kazuyoshi Yamagiwa

    米国チーム VFXスーパーバイザー/シニア Flame コンポジター

    東京都出身。東海大学工学部光画像工学科を卒業後、デジタルエッグにてFlameアーティストとしてキャリアを重ね、2009年にロサンゼルスのLola Visual Effectsに入社。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』、『ザ・ウォーカー』などの様々な映画作品に携わる。2013年に日本に帰国し、フォートンを経てフリーランスに。NHKにて『生命大躍進』や『精霊の守り人』の制作に参加。20164月に再渡米、Lola Visual Effectsに復帰しシニアFlameコンポジターとして活躍『X-MEN:アポカリプス』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『See ~暗闇の世界~』などの映画作品に携わる。202010月、「映像をもっと楽しく簡単に」をコンセプトにAEPr、OFXのプラグインであるSkinworksのベンダーdigitalbigmoを立ち上げる。現在ロサンゼルスを拠点に活動中。

    Kazuyoshi Yamagiwa - IMDb

    コンセプトの設定やスーパーバイズはアメリカで、VFX制作の実作業は日本と台湾というかたちで制作チームを構成。「台湾チームは、以前LAで一緒に映画『アバター』などのVFXに参加した友利重治氏が台湾で設立したスタジオSOLVFX LLCを中心として構成しました」。

    友利重治/Shigeharu Tomotoshi

    台湾チーム VFXプロデューサー/VFXスーパーバイザー

    台湾生まれ、東京育ち。明治学院大学 商学部卒業後に渡米し、Hydraulx Visual Effectsに入社。『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』、『アバター』など、全36本ものハリウッド映像作品に携わる。2013年に台湾に帰国し、「SOLVFX LLC.索爾視覺效果」を設立。アメリカ、日本、台湾からのエリートを集め、国際的な視点をもつプリプロのアートデザイン、CGシーン、実撮合成等の様々なサービスを提供する。2018年にNetflixオリジナルの台湾ドラマ作品「子供はあなたの所有物じゃない」が台湾第54回金鐘賞の最優秀美術賞を受賞。2019年に台湾水土保持局と協力し、ショートフィルム『初めての珈琲』を制作し、台湾コーヒーを日本市場に推進する。2022年にVFXスーパーバイザーを務めた香港映画『Where The Wind Blows』と『The Sparring Partner』が第41回香港国際映画祭で最優秀視覚効果賞にノミネートされた。現在、台湾を拠点に活動中。

    Shigeharu Tomotoshi - IMDb

    この作品におけるVFXショットは1,000ショット以上に上り、映画全体の総予算から比べると、相当な比率をVFXに費やしているという。実際のショット・ワークの期間は、4ヶ月から5ヶ月ほど。

    「ハリウッドでは、ポストプロダクションが始まってから参加するケースがほとんどでした。今回のようにプリプロの段階から全体を通して作品に関わったのは初めての経験でしたので、日本での撮影に参加した際にはLAチームの矢ヶ崎 裕二氏と共に現場でのオンセットスーパーバイズもさせていただきました」。

    矢ヶ崎 裕二/Yuji Yagasaki

    米国チーム VFXスーパーバイザー/CGスーパーバイザー/ルックデヴスーパーバイザー/シニアライター

    学習院大学理学部を卒業後、大手電機メーカーにてシステムエンジニアとして勤務。その後、渡米しPixel EnvyyU+coMoneyShot Productions等でRed Hot Chili PeppersやLinkin Park等のMV制作に参加。その後Hydraulx Visual EffectsやLola Visual Effects にて映画『アベンジャーズ』、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』 等に携わる。また映画『カリフォルニア・ダウン』ではライティングスーパーバイザー、ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界 シーズン2』 ではルックデヴスーパーバイザーを務めた。その後『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、『アベンジャーズ/エンドゲーム』などのマーベル作品、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』 、『マンダロリアン』などの動画配信サービス系の作品、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』、 『ウエスト・サイド・ストーリー』等のアカデミー賞ノミネート映画など、様々な映像作品に携わる。現在ロサンゼルスを拠点に活動中。

    Yuji Yagasaki - IMDb

    ハリウッドと日本のプロジェクトの進め方のちがいにおいては、日本の長編作品で長年キャリアを積んできた髙玉 亮氏に協力を仰ぎ、日本でのワークフローに順応できる体制を整えた。アメリカ、台湾、日本と、それぞれ離れた場所での作業だったため、会議やチェックは全てリモートで実施。

    「制作におけるコミュニケーションと情報共有には主にftrackを使い、Zoomでのレビュー時にショットの再生を共有したり、ノートを画面上に描き込んだりして、遠隔でのデメリットを軽減し、同時に膨大なショットの管理に役に立ちました。また、アメリカ・日本・台湾の各地にNASとクラウド同期システムを導入し、データをよりスムーズに共有できました」(山際氏)。

    髙玉 亮/Ryo Takatama

    プロダクションサポート/VFXプロデューサー

    CGアーティストとして2年間活動した後にマネジメント側の立場で複数プロダクションでのキャリアを積む。2015年にフリーランスのVFXプロデューサーとして独立後は劇場映画や動画配信サービス作品を中心に、TVドラマ、CM、MV、LIVE会場のステージ映像等々数多くの映像作品に関わり、そのジャンルは多岐に渡る。近年の主な参加作品は『劇場版コンフィデンスマンJP ロマンス編/プリンセス編/英雄編』『線は、僕を描く』『全裸監督』『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』など。

    Ryo Takatama - IMDb

    <1>OP&EDシークエンス

    始まりから終わりまで観客を惹きつける

    「オープニングに関しては、参加した時点である程度編集が決まっていたこともあり、全体の色味や空気感、世界観の調整、後半の刀剣男士が登場するシーンの見せ方、最後のロゴタイトルにフォーカスし進めていきました」と語るのは、OP&ED VFXスーパーバイザーを務めた佐藤隆之氏。

    刀剣男士のカットに関しては、三日月宗近の瞳や衣裳など、青色や白を多めに用い、そこに桜の花びらを加えることで美しさと平和な印象をもたせた。

    「本編に登場する刀剣男士のそれぞれの顔がしっかり出ると期待感が薄れてしまうので、耶雲監督とお話ししながら逆光を用いて撮影、さらに合成の段階でもマスクなどを用いながら、各刀剣男士の色味や明るさを細かく調整していきました」。

    佐藤隆之/Takayuki Sato

    OP&ED VFXスーパーバイザー

    都内のスタジオで映像とデザインの経験を積み2004年LAに渡米、米国の美大などでモーショングラフィックスを学んだあと、2009年にモーショングラフィック界の大手Prologue Filmsに入社。映画『アイアンマン2』、『トロン・レガシー』などを含む数々のハリウッド映画のタイトルシーケンスやVFX、TVCM、TV番組のタイトルアニメーション制作などに携わる。2013年に日本に帰国後も国内外問わず、ショートフィルム『The Moment of Beauty』、『Portal』の制作、浜崎あゆみ、東方神起、EXILEなどのツアー用CGやMV制作、欧州のモーターショーにてAudiブース用CG制作、米国ドラマ 『HEROES REBORN/ヒーローズ・リボーン』のOPタイトル、映画『スター・トレック BEYOND』、『ブレードランナー2049』のタイトルシーケンス制作等に携わる。

    Takayuki Sato - IMDb

    一方、時間遡行軍のカットでは、目の光の色味などに危険を象徴する赤を多めに用い、オープニングの時点ではまだ本編の時代感(現代と過去を行き来する)が出すぎてしまわないよう、ロトやキーイングなどを行いながら背景のディテールを抑え、逆におどろおどろしさを表現するためパーティクルの渦のようなアニメーションを加えていったという。

    メイン・オン・エンド(エンドロールの冒頭において、メインキャストを紹介するための特別な演出。以下、MOE)はもともと制作が予定されていなかったこともあって、制作が決定した際には時間がそれなりに限られており、その間でできる表現とクオリティとのバランスを考慮しながらデザインと演出を考案していった。

    「打ち合わせでMOEでは最終的に刀剣男士の登場のみと決まったため、その後監督と見せ方の方向性を相談しながら、カメラムーブ等をふんだんに用いたモーショングラフィック主体の背景演出などではなく、刀剣男士一振り一振りがじっくりと観られて、エンディングでもう一度ファンが喜ぶような見せ方ということを意識してつくり上げていきました」。

    作品への期待を高めるオープニングシークエンス

    オープニングシークエンスの、刀剣男士集合カット。ひと振りずつキーイングした刀剣男士を合成し、あえて顔をしっかり見せず、逆光で演出している。

    時間遡行軍のカット。刀剣男士カットと対比させるため、赤を基調に渦のようなアニメーションを加え、おどろおどろしさを表現。

    刀剣男士をじっくり魅せるメイン・オン・エンド

    メイン・オン・エンドは、全体的に統一感を出すため使用する要素を限定し、主に刀剣男士、紋、桜の花びら、人物や名前などの前景が十分に目立つよう暗めの少し青みがかった背景、そこに奥行き感を補足する若干のパーティクル要素を加えて構成。

    「映画本編にもリンクする白黒からカラーに切り替わる演出に加え、各要素の登場のさせ方は映画『シャーロック・ホームズ』のタイトルシークエンス制作の際に用いた表現等を織り交ぜつつ、あくまでも刀剣男士が十分に目立つよう各グラフィックのレイアウトやタイミングを調整していきました」。

    <2>渋谷・スクランブル交差点での戦闘シークエンス

    最大の見せ場である大規模なアクションシーン

    本作では、渋谷のスクランブル交差点での刀剣男士と時間遡行軍の戦闘が大きな見どころだ。その物量は、総カット数196カット、総フレーム数18,706フレーム、総尺にして約13分にもおよぶ。

    「ハリウッドと比較すると、どうしても撮影期間やポスプロ期間が短いので、まずは一番の見せ場である渋谷スクランブル交差点のシークエンスに関して、『どの部分をバックグラウンドとして置くか』という、レイアウトを決めていくところからのスタートでした」と山際氏が語るとおり、最も注力されたシークエンスである。

    「本作が2012年という設定でしたので、撮影前から当時の渋谷のリサーチ等も行いながらモデリングを開始していました。TOHOシネマズやSHIBUYA109のロゴ、後方のビルが2012年には未だ存在していなかったりなど、今と微妙にちがっている部分を可能な限り再現しました」と、渋谷のシークエンスを担当した矢ヶ崎氏は語る。

    「渋谷のシーンは登場人物もショット数も多く、カメラもダイナミックに動くので、ショットごとのカメラ位置・方向は撮影前に入念に検討し決めていきました」。

    撮影時にはラフのモデリングを360度でレンダリングしてiPadに取り込み、現場で「どちらの方向に、どんな建物があるか」を常に把握できるようにしたという。「実際、各ショット撮影前にアクション監督の雲雀大輔氏と、どの立ち回りのときにどの位置で撮影したらよいかを確認するのに大変役に立ちました」。

    渋谷スクランブル交差点のシークエンスの実写撮影は、足利スクランブルシティスタジオで行われた。撮影では、後工程でカメラの方向や時間帯の調整に柔軟に対応できるよう、1~2時間おきに東西南北4方向でカラーチャート等の環境データに加え、実際のカメラがどの方向を向いて撮影したかが後でわかるように、カットごとに時間、カメラ位置、方向を全て記録。

    「渋谷やスカイツリーの撮影は基本的にはグリーンバックなので、実際の画面では背景が全てグリーンになるショットもあり、こういったデータを取っておいたおかげで、後で背景がどの方向かわからなくなる問題を防ぐことができました」。

    『映画刀剣乱舞-黎明-』VFX BREAKDOWN EP.1 (渋谷スクランブル交差点編)

    フルデジタルによるアセット制作

    渋谷のアセットの一例。「看板の広告も、制作部と細部まで話し合いを重ね、『全ての看板に広告をはめる』という気が遠くなるような作業も、時間がない中で地道にこなしていきました」。

    大量の時間遡行軍が出現するカット

    渋谷における時間遡行軍登場シーン。カメラが引きながら時間遡行軍が現れてくる。

    「ここは『時間遡行軍が大量に現れて、ピンチ感を出したい』という耶雲監督からの要望があり、画面全体に時間遡行軍を出現させました。実際に手前に人物を配置するとカメラと干渉するため、撮影時にはBGの時間遡行軍のみ実写で撮影。マーカーを置いておき、その位置にCG時間遡行軍を配置しました」。

    CG合成カットでは、HDRI撮影にRICOH THETA Z1を使用。また、撮影用のカメラで、ミラーボール、グレーボール、カラーチャートの撮影も行なった。

    バックリットとレンズフレアによるドラマティックな演出

    渋谷のシーンは「ドラマティックにしていきたい」ということから、役者の背面から光が当たるバックリットにして、レンズフレアを加えることで、よりドラマティックな表現にしている。画像は膝丸(左)と髭切(右)のカット。

    「撮影前に、背景の雲の色味などを設定上の時間帯に合うよう、事前にコンセプトを決定して共有しました。実際の作業では、まずCGを渋谷の実写素材にマッチするようにレンダリングした後、全体を作品上で設定された時間帯に合うようにコンポジットで調整を行なっています。コンポジットは主にNukeで行い、一部のエフェクトについてはAfter Effectsも併用しています」。

    フレーム単位でエフェクトを調整した戦闘シーン

    ラストの刀剣男士の戦闘シーンは一番の大舞台であるため、制作チームと「どう格好良く見せられるか」を何日も議論し、背景や刀のレンズフレアの位置・サイズの微調整、刀のひと振りひと振りに少し異なるエフェクトを1フレームずつ入れるなど、こだわり抜いたという。

    「刀のエフェクトも最初は5フレームでつくってみて、『少し長すぎるから3フレームにしてみよう』など、一瞬の動きですが、細部まで細かく制作して、刀剣男士のアクションがより格好良く見えるように制作していきました」。

    画像は小烏丸と時間遡行軍の戦闘シーン。DJI Ronin 4Dを使った激しいカメラアクションの撮影は、トラッキングやロトの作業にとっては、ショット数や被写体の多さも相まって、特に大変だったという。

    「中でもグリーンバックの鶯丸、青空バックの一期一振など背景に溶けこんでしまう刀剣男士、そして、劇中の演出で白黒になる刀剣男士などは全てロトを細かく切る必要があり、よりいっそう手がかかりました」。

    こういったVFX現場の涙ぐましい苦労の末、刀剣男士の流れるようなアクションとダイナミックなカメラワークは、非常に見応えのあるものとなった。

    <3>台湾チームが手がけた様々なVFX

    監督のイメージをアートで全員に共有

    劇中に敵として登場する酒呑童子のCGモデル制作やその他のエフェクトなどは、友利氏のマネジメントにより、SOLVFXを中心とした台湾チームが制作を担当。

    「光の線が日本全土に広がっていくエフェクトや、酒吞童子の手から出る力など現実には存在しないものについては、具現化するのに時間がかかってしまいがちです。耶雲監督のイメージをより鮮明にするため、監督、VFXチームを交えて検討したリファレンスなどを基に、コンセプトイメージをコンセプトアーティストの上野拡覚氏に描いていただき、全員でイメージを共有できるようにしました」(友利氏)。

    そのコンセプトイメージから、実際のショットでどのように再現するか、編集前の撮影データを用いてR&Dを行い、実際のショット確定後に適用していくことで効率化を実現した。

    上野拡覚/Hiroaki Ueno

    コンセプトアーティスト

    サンフランシスコのAcademy of Art Universityイラストレーション科を卒業後帰国。フロム・ソフトウェアにて新規ゲーム開発、セガVE研究開発部、セガサミー・ビジュアル・エンターテイメント、マーザ・アニメーションプラネットにて多くの映画や映像制作に携わる。その後フリーランスのアートディレクター、コンセプトアーティストとして独立。ゲームやCGアニメーション制作をはじめ、実写映画、施設開発など様々なジャンルに渡り手がけている。代表作に『バイオハザード: ヴェンデッタ』(アートディレクション)、NHK 大河ファンタジー『精霊の守り人II 悲しき破壊神』『精霊の守り人~最終章~』(VFXアートディレクション)、Netflix『アースクエイクバード』、 『宇宙海賊キャプテンハーロック』(アートディレクション)など。

    Hiroaki Ueno - IMDb

    また、今回は、光のエフェクトのショットや、渋谷スクランブル交差点のスモークのカットにおいて、DaVinci Resolve 18に搭載されたAIによるDepth Map生成機能を使用することで作業をより効率的に進めることができたという。

    Depth Map機能はデプス情報を正確に分離し、マスクとして出力する。そのため、手前の人物は濃い白のマスクで表示され、奥に行くほどマスクが薄くなるように表現することが可能だ。このマスクを利用することで、スモークの合成においても後方に行くほどスモークが濃くなる表現が容易になった。

    「ワイドショットやミドルショットなどでスモークを合成するシーンや光のエフェクトを合成するシーンでは、通常は各人物ごとにマスクを切り分けるという非常に時間のかかる作業が必要ですが、今回のDepth Map機能を使用することで効率的なショット制作が可能となりました」(友利氏)。

    この作品のように、アメリカ、日本、台湾のVFXチームによる国際的なコラボレーションによる映画のVFX制作というのは、数少ない制作事例ではないだろうか。制作期間と予算の制約の中で、効率良くクオリティを高めていく試みが行われたプロダクション・ワークフローは、非常に興味深い。今後も、このような作品が生まれていくことを期待したいものである。

    酒呑童子の頭部モデル

    スキャンデータからリトポロジーしてモデルを作成、口の開閉や目の動きなど表情が作れるようにセットアップしている。髪の毛はMaya XGenで作成、Houdiniで動きをシミュレーションした。

    ▲特殊造形の百武 朋氏によるコンセプトイメージ
    ▲酒吞童子・第三形態のCGモデル

    酒呑童子の変化

    酒呑童子に角が生えるシーンは、監督が内側から角が熱を保ちながら生えていくというイメージが伝えられたため、撮影では特殊メイクで角があるバージョンと、同じポジションで角がないバージョンの撮影を行なった。「角に関してもスキャンデータをベースとしたモデルを使用、内側からエネルギーを出しつつ角のエッジが赤くなり角が形成され伸びていく様子をHoudiniで表現しました」。

    目の変化も同じようにカラーコンタクトありとなしの状態を同じポジションで撮影し、怒りで身体が熱くなり鬼に変形していく様子をわかりやすく見せるために、血管が徐々に浮き出て瞳孔が広がっていく変化を合成で表現。

    『映画刀剣乱舞-黎明-』VFX BREAKDOWN EP.4 (酒呑童子編)

    光の壁

    垂直に伸びる虹色の光線の束が壁のようになり、日本全土に広がっていく。「コンセプトイメージをつくり、イメージを共有しました。光が通過した後には、軽くヒートディストーションをかけてエネルギー感を出しています」。

    星太刀の崩壊シミュレーション

    終盤、時間遡行軍の首魁・星太刀が崩壊していくカット。

    ▲星太刀の3Dスキャンデータ
    ▲星太刀の3DスキャンデータをベースにしたCGモデルを実写の星太刀にマッチムーブし、粉々に砕けて酒吞童子の手に吸い込まれていく様子を、Houdiniの流体シミュレーションによって表現している

    桜となって消える山姥切国広

    山姥切国広が桜となって消えていく場面。「今回、桜吹雪が演出としてよく登場したのですが、日本以外の国では、そもそも桜がない国もあり、桜の花びらが散る様子を一度も目にしたことがないという場合も少なくありません。そのため、海外スタッフに『桜が散る様子』をなかなか上手く伝えられず、大変でした」(山際氏)。

    ▲スキャンデータ
    ▲スキャンデータをアタリとして使い、山姥切国広の体が、下からパーティクル状の桜の花びらに置き換わっていく様子を、HoudiniとBlenderによって表現している。
    『映画刀剣乱舞-黎明-』VFX BREAKDOWN EP.5(桜吹雪・本丸編)

    Blenderで表現した「念い(おもい)」の軌跡

    「念いの通った跡」を示す、光の軌跡のエフェクト。コンセプトイメージをベースに、光の軌跡をBlenderによって3D上で表現している。軌跡の光の強さ(濃度)は、物語が展開していくに従って、濃度が強くなっていくように見せている。

    『映画刀剣乱舞-黎明-』VFX BREAKDOWN EP.3 (念い・小鬼編)

    CGWORLD 2023年10月号 vol.302

    特集:『ポリゴン・ピクチュアズ40周年をふり返る』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2023年9月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_鍋 潤太郎
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada