今年で10周年を迎えた人気ファンタジーRPG 『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』を原作とするアクションRPG『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』。『グラブル』の繊細なイラスト表現の世界を 3DCGのハイエンドグラフィックで細部まで再現し、 空の冒険への圧倒的没入感を生み出した開発陣のこだわりと工夫を、4回に分けて紹介する。
第2回となる今回は、『グラブル』の世界に入り込んだような感覚を抱く『リリンク』の背景の画づくりの工夫について紹介。その中でも重要な雲と風の表現について掘り下げていく。
関連記事
・『グラブル』らしいキャラクター表現の追求~『グランブルーファンタジー リリンク』(1)キャラクター編
雲の表現
空の冒険に説得力をもたせる雲を描く
騎空艇による空の冒険シーンも数多く描かれる本作では、雲の表現も演出上重要な要素となっている。
「『リリンク』の背景にある雲は、『雲』と聞いてイメージするような一般的な形状に縛られず、あくまでも画面構成としてどのように表現したいかをコンセプトとして制作していきました。例えば、巨大、広大感をより演出する形や、翼を大きく広げているように見える形など、演出としてどのような形の雲を表現したいのかを考えています」(シニアエンバイロメントアーティスト/以下、SEA)。
これらの雲は、天球の描写やボリュームを使った作成、板ポリゴンにテクスチャをマッピングして組み合わせるなど、状況に応じて使い分けている。特に板ポリゴンを使った雲は、Fogboardという雲素材を配置・調整するための独自機能を用いて、色味やスケールなどを自由にコントロールできるしくみになっている。
雲の素材はゲームを通して10パターン強が用意されており、それらを大量に組み合わせて様々な雲の形や色を表現。
「雲を表現するときには、シーンで見せたい雲の前にあるものが暗ければ後ろにある雲は明るく、見せたいものが明るければ後ろを暗くという風に、見せたい対象が後ろにある雲や空に溶け込んで見えなくなってしまわないよう、雲や空の明暗やコントラストのバランスに気を配りながら画面を設計しています。明暗の境界が縁取ったようになるとわざとらしく見えるので、自然に見えるように形や明暗差を注意深く調整しました」(SEA)。
また、巨大な雲の前に騎空艇グランサイファーを小さく配置するなど、スケール感の演出にも気を配った。
加えて、それぞれのステージ、例えば辺境の街フォルカと花都シードホルムでは雲のデザインが異なるなど、演出の一要素としても雲のデザインを利用している。「カメラに映る範囲が固定のカットシーンではショットごとに雲の色や形を専用で作成しており、とても時間と労力をかけた部分です」と、雲の表現に対するこだわりの高さが窺える。
多彩な雲の制作
Fogboardによる繊細な雲の表現
空に配置された雲の多くは、「Fogboard」と呼ばれるエンジン上で配置できる板ポリゴンに雲のテクスチャをマッピングしたオブジェクトを組み合わせて表現されている。Fogboardはテクスチャの色味などをパラメータでコントロールすることができるため、組み合わせ次第で様々な雲の形状や状態のバリエーションを作成することができる。
シーンによって表情を変える雲
背景としての雲のデザインは、演出に合わせてステージやカットシーンごとに異なっている。例えば同じ晴天の出立のシーンでも、辺境の街フォルカ、花都シードホルムそれぞれの街の雰囲気が出るように、雲や空の色と形、構成等を差別化している。
また、物語的に重い雰囲気であれば重い感じの空にというように、あくまでも演出を主体にデザインされているという。
インゲームの雲
インゲーム内の雲の表現も、基本的にはカットシーンの雲とデザインルールは同じだが、視点の移動や処理負荷などを考慮し、Fogboardとポストプロセスを組み合わせて表現されている。
風の演出
風と揺れの両面から各シーンの印象を強化する
『リリンク』はゲーム全体を通して風の演出が際立っている。地上のステージにせよ、騎空艇上のステージにせよ、何らかのかたちで常に風が吹いており、キャラクターの衣装や髪の毛、背景の樹木などが状況に応じて風の影響を受けている。この風の演出は『リリンク』の開発においても大きなポイントだった。
フィールドに吹く風の設定は、ウインドシーンオブジェクトと呼ばれる風のエミッタをステージ上の様々なエリアに配置し、風の強弱、方向、揺らぎなどを細かく調整するしくみだ。
シーンごとに風の状態を設定できるため、辺境の街フォルカでは穏やかな風、エインステッド群島では爽やかな風、山岳のような高い場所では強い風など、ステージの特徴に合わせて風の演出を変えることができ、より各ステージの印象が強化されている。
風の表現は、風を発生させるエミッタと風を受けるレシーバの2つの要素で構成されており、風を受けたときの挙動を設定することができる。扉を開けると風が吹き込んでくるというような演出や、雲の挙動も風によってコントロールすることが可能だ。
ゲームエンジン内に風の設定をシミュレーションできるステージが用意されており、演出内容と風の状態の整合性がとれているのかを確認しながら設定を行なっている。
風を演出するには、それを受けるキャラクターの揺れもの設定も非常に重要だ。キャラクターの揺れものは、まずゲーム中での最大の風力をキャラクターが受けたときにも揺れをしっかり表現できることを意識し、キャラクターごとに細かく調整された。
「『グラブル』のキャラクターデザインは、髪や衣装といった揺れものとなる要素が多く、それらの素材も多種多様です。2Dイラストのキャラクターのイメージそのまま、3Dモデルにするにあたっての苦労もありましたが、『グラブル』のキャラクターたちを3Dで再現することをテーマに1つ1つ丁寧に設定しています」(リードリギング&シミュレーションアーティスト/以下、LR&SA)。
本作の開発では、この揺れものの動きに関して非常にこだわりをもって進められ、揺れものの動きが演出に合致しているのかを確認する定例会議をこまめに開催しながら修正をくり返してブラッシュアップが施されていったという。
フィールドに吹く風
風のしくみ
『リリンク』では、演出に合わせてステージのエリアによって風の強さや方向が異なる。エリアに吹く風は、ウインドシーンオブジェクトをステージに配置することで、自由に演出することができる。
風のテスト部屋
風の設定をする際には、専用のテスト部屋が用意されており、事前に風の挙動を確認できるようになっている。このテスト部屋には、風の影響を受けたときにリアクションをするオブジェクトが複数配置されている。
キャラクターの揺れ
見映えの良いはためきを目指して
キャラクターの揺れものは、風が吹いていることが見た目にわかりやすく、またエリアごとのちがい、キャラクターの個性も表現できるよう、細かく設定が施されている。画像はカタリナの髪やマントのなびきの例だ。
髪型に応じた調整
ゲームに登場するキャラクターの髪型は短髪から長髪まで、多くのバリエーションがあるため、それぞれのキャラクターの髪型に合わせ、見映えを意識した調整が施されている。
移動に合わせた見映えの調整
本作はアクションゲームということもあり、キャラクターの移動速度が速いことに加え、プレイヤーの操作によってリアルタイムにモーションが切り替わり緩急も発生する。どんな環境でも揺れものが安定して揺れるように高速移動時にもキャラクターのシルエットを保つ調整がされている。
シルエットを維持するための重力設定
ロゼッタのように長髪や衣装の長い揺れものは、通常通りに設定してしまうと重力方向へ垂れ下がってしまう。反対に、無理にシルエットを保とうとすると不自然に固まってしまうなど調整が難しい。
本作では各ジョイントで重力のブレンドを行えるように揺れものシステムで柔軟に対応し、質感を損なうことなくキャラクターのシルエットを実現している。
キャラクターの具体例
【カタリナ】
キャラクターによって、付加されている揺れものの要素が異なっているため、キャラクターごとに揺れものに対する対応は様々。カタリナは長髪に加えてかなり長めのマント、腰布と揺れものが多いキャラクターだ。
【ロゼッタ】
ロゼッタは長髪、ロングスカート、スカートの周囲のリボンなど、シルエットに影響する揺れものが多いキャラクター。前述の重力ブレンドの設定などを活用して、シルエットを維持している。
【ジークフリート】
ジークフリートは長髪に加え、鎧と布が重なっており揺れもの要素が複雑なキャラクターのひとり。補助骨によって自動的に避ける仕込みに加え、干渉が発生した場合にはアニメーターが調整できるコントローラも追加してめり込みを回避している。また、揺らすためのジョイントとは別に、部分的に頂点シェーダを適用して揺れもののディテールを表現している。
【ゼタ】
ゼタも髪の毛やスカートに加え、腕から伸びる長い布や腰からのベルトなど、揺れもの要素が複雑で多い。ゼタ固有のシルエットを保ちつつ、緻密な揺れもの設定によりそれぞれの素材感を表現。本作のアクションで揺れものが映えるキャラクターのひとりになっている。
(3)アクション編に続く(近日公開予定)。
CGWORLD vol.309(2024年5月号)の特集では、本記事で紹介した内容に加えてイラスト調の背景を再現するための様々な工夫についても解説! ぜひ本誌もチェックしてください!
CGWORLD 2024年5月号 vol.309
特集:『グランブルーファンタジー リリンク』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年4月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT _大河原浩一(ビットプランクス)
EDIT _小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada