今年で10周年を迎えた人気ファンタジーRPG 『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』を原作とするアクションRPG『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』。『グラブル』の繊細なイラスト表現の世界を 3DCGのハイエンドグラフィックで細部まで再現し、 空の冒険への圧倒的没入感を生み出した開発陣のこだわりと工夫を、4回に分けて紹介する。
第1回となる今回は、キャラクター表現を取り上げる。『グラブル』の3DアクションRPGを開発するにあたり、繊細なイラストで描かれる個性豊かなキャラクターたちをいかに再現できるかが大きなテーマとなった。セル調とは異なる情報量の多いイラスト調のモデル制作、さらに動いてもそれを崩さないリグの工夫に迫る。
キャラクターモデリング
『グラブル』のイラストを3Dで再現するために
『リリンク』では、まず『グラブル』のアートスタイルをそのまま再現することがコンセプトに掲げられた。統一感のあるビジュアル表現は一見するとスタイライズされたセル調に思えるが、一般的なセル調がアニメ表現を目指して複雑な描画要素を間引いていることに対し、本作ではハッチングによる陰影表現や複雑なアウトラインによる表現を盛り込むことで“イラストらしさ”を再現している。
「イラストの要素分解を行いながら、メンバーで意見を出し合って表現を決めました」(リードキャラクターモデルアーティスト/以下、LCA)。
バトル中、最大4人のキャラクターが縦横無尽に駆け巡るハイスピードなアクション性を担保するために、モデルのレギュレーションも細かく決まっていた。DCCツールはMaya、ZBrush、Substance 3D Painterで、1キャラクターにつき約10万ポリゴンで構成されている。
造形の複雑さによって前後するものの、1キャラクターの制作期間は約7ヶ月。『グラブル』の空の世界には主に4つの種族が存在し、プレイアブルキャラクターの身長は90cm前後のハーヴィンから240cmを超えるドラフまで大きく異なるが、モデル制作の効率化を目的として、トポロジーやコンポーネントを共通化するためのユニバーサルメッシュ(共通素体)を事前に用意。
ユニバーサルメッシュは種族別ではなく「男性/女性」の2タイプとなっており、これに対してドラフ族のもつ角やエルーン族の耳など種族ごとのユニークな要素が個別に制作されている。
テクスチャはアルベド、ノーマル、ラフネス、メタリックに加えて特殊なマスクを含むテクスチャがキャラクターごとに設定されており、共通部分はユニバーサルメッシュを介して共有することでメモリを削減。
『グラブル』らしさを決定づけるハッチング技法については、Substance 3D Painter上で線の方向や太さ、入り抜きを制御できる独自ツールを用意し、まさに「ほしいところに線が引ける」環境での調整が行われた。
キャラクター制作フロー
ユニバーサルメッシュ
全キャラクター共通で使用されたユニバーサルメッシュ。
キャラクター制作フロー
今回は、4月下旬のアップデートで新たに配信されたシエテを例に、キャラクター制作のながれを紹介する。
イラストの再現
自動顔変形
2Dの題材を3Dに落とし込む際には、角度による印象のズレという問題がどうしても立ちはだかる。特にユーザーがカメラを自由に動かせるゲームでは、印象がズレやすい角度からモデルを見られる可能性もある。本作ではこれを改善すべく「自動顔変形」を実装。プレイヤーが見ている角度に応じて元のイラストに沿った印象となるよう、自動的に造形が調整されるしくみだ。
「正面に合わせて造形すると、どうしても俯瞰・アオリ・横顔などカメラの角度によってはイラスト的な見映えが適していないところが出てしまいます。どの角度から見てもキャラクターの可愛さ・格好良さを追求するために、多くのキャラクターにこのしくみを実装しています」(リードフェイシャルアニメーションアーティスト)。
キャラクターの具体例
【シエテ】
伝説の騎空団・十天衆を束ねる全空最強の剣の使い手、シエテ。本作に登場するプレイアブルキャラクターには装備した武器1種が表示されるが、シエテの場合は自身の武器に加えて7体の剣神、剣神がそれぞれ持つ武器7本、剣拓(アビリティで使用する剣)5本を制作する必要があった。
【ルリア】
本作のヒロインであるルリア。空の世界を主人公と共に冒険し、メインストーリーにおける各種イベントに登場する。
【ナルメア】
プレイアブルキャラクターの1人、ナルメア。
【プロトバハムート】
メインストーリー冒頭で登場する「プロトバハムート」。「プロトバハムートは『グラブル』の象徴的なキャラクターなので、細かいフィードバックを受けながら細部まで気を遣って制作しました」(LCA)。
キャラクターリグ
キャラクターの魅力を支えるセットアップ
本作のリギングは人型キャラクターのフェイシャルを除き、全てMotionBuilder(以下、MB) で制作。まずMayaでのセットアップは骨入れとスキニング、補助骨の追加、Character Definitionの設定を行い、MBでHumanIKのキャラクタライズを実行。量産を目的としたルールづくりを行うことで、共通部分を自動化しセットアップ作業を効率化している。
また、Mayaで仕込まれた補助骨システムは、MBとゲーム上でも同じように駆動し、どの環境でも同じシルエットを確認することができる。
本作のキャラクターリグは「『グラブル』のイラストを再現すること」をテーマに制作された。正座や腕組み、足組み、あぐらをかけるかどうかなど、人間が取り得る可動域を全てカバーする必要があった。
また、プレイヤーは上下左右、自由にカメラを回すことができるため、360度どこから見ても説得力のあるシルエットになるように、各関節に補助骨を仕込んでいる。
一例として、膝をそのまま曲げると太ももとふくらはぎがめり込むが、補助骨によってめり込みを回避しつつ太もものボリューム感を保って自然なシルエットを表現することができている。
補助骨システムは7通りの制御方法から選択することができ、関節位置以外にもカタリナのようなマントや甲冑、ナルメアのような長髪の根元部分にも仕込まれており、自動的にめり込みを避けると共に、アニメーション作業の軽減にも貢献している。
また、キャラクターに使用できる骨数は、カテゴリごとに設定されており、プレイアブルキャラクターやボスクラスのアセットには十分にリソースが割り当てられ、一度に画面に表示される数が多いNPCや小型エネミーには少ないリソースで制作するように厳密にレギュレーションが決められている。
スキニングでは「素材感」が特に意識されており、素体部分の筋肉や布素材の衣装など柔らかい材質と、甲冑など硬い材質など、物体の硬度に応じてウェイトを塗り分けて制御。この他にも、肘や膝を曲げた際、筋肉の盛り上がりを補助骨で表現することで、序盤のプロトバハムート戦のようにカメラが近づく演出にも十分堪えられるデフォーメーションを実現している。
イラストを再現するセットアップ
補助骨システム
補助骨システムは、駆動骨の動きに連動して補助骨を自動的に動かす、DCCとエンジン上でランタイム動作するしくみ。この補助骨によって、3Dキャラクターが苦手とするポーズも含め、自由なアニメーション環境を担保した。
筋肉の表現
リグの具体例
【フェリ】
最もデータ構成に苦労したキャラクターとして挙げられたのは、幽霊のペットを最大5体引き連れた上、自身も鞭で戦うフェリだ。変幻自在に動かせる鞭自体に多くのジョイントを必要とするほか、フェリ本人に加え5体の幽霊のペットにもそれぞれジョイントが割り当てられるため、レギュレーション内での制作の難易度が高かったという。
【エクスカリオン】
エネミーは人型以外の場合も多く、それぞれ個別にリギングおよびセットアップが行われている。
【ルシファー】
本作では超高難度クエストのボスとして登場するルシファー。浮遊する複数の武器と12枚もの羽をもつため、物量との戦いとなった。『グラブル』ではルシファーや、彼が生み出した天司たちの羽表現がストーリー進行上重要な要素となっているため、本作における重要なボスという観点も含めて柔軟なレギュレーションで制作が進められた。
(2)ワールド編に続く(近日公開予定)。
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特集:『グランブルーファンタジー リリンク』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年4月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT _神山大輝(NINE GATES STUDIO)、岸本ひろゆき
EDIT _小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada