2024年5月25日(土)、Webメディア・ゲームメーカーズ(株式会社ヒストリア)主催のイベント「ゲームメーカーズ スクランブル2024」がTOC有明Convention Hall EASTホールにて開催された。
本記事では大勢の来場者で賑わいを見せた会場の様子に加え、全10講演のセッションの中から「初心者からのステップアップ!見る人に楽しんでもらうための丁寧なBlender」の模様をそれぞれレポートする。
ゲーム開発体験や相談コーナーなどユニークな企画が盛りだくさん
「ゲームメーカーズ スクランブル」は「ゲーム開発に関わる人たち同士で盛り上がる」ことをコンセプトにしたリアルイベントである。2023年に続く2回目の開催となった今年は、定員が昨年の380人から700人に拡大された。イベント当日は、全10講演のセミナーを中心にバラエティに富んだコンテンツをラインナップした。
イベントのオープニングでは、9月下旬にゲームメーカーズ編集部による書籍『ゼロから始めるゲーム制作!プロが使うUE5で3Dアクションゲームを作ろう(仮)』が、ボーンデジタルから刊行されることが発表。予約の開始も告知された。
同書はUnreal Engine 5(以下、UE5)を学び、初心者からゲーム制作にチャレンジできる解説書だ。どのようなPCを選べば良いのかから始まり、UE5のインストールや基本的な操作方法、ステージギミックのつくり方やレベルデザインまで、ゲーム制作に必要な要素をステップ・バイ・ステップで解説している。手順に沿って進めれば、オリジナルゲームをつくることが可能だ。
今後、学習内容に沿ったサンプルゲームも公開予定だという。ゲームメーカーズのマスコットキャラクター・遊日コロンがゴールを目指して進むジャンプアクションで、特典として自作ゲームで使えるステージギミックも付属する。独創性あふれるゲームをつくりたい人はぜひ手を取ってほしい。
展示エリアには、書籍販売コーナー「ゲームメーカーズ書房」に今年も5社がブースを出展。ゲームメーカーズ編集部がオススメする各社の書籍が、会場限定特価で販売された。
そのほか、プロと一対一で対話ができる「プロに聞ける!なんでも相談所」、ゲーム開発が体験できる「UE5&Blenderハンズオン」と「アナログゲーム制作ワークショップ」、来場者が付箋で気になる疑問に答える「教えて?スクランブル」など、ユニークな企画を実施。イベント終了後には懇親会も行われ、プロのクリエイターやゲーム業界志望の学生が交流する場としての役割も果たした。
3DCGのために年間1,000時間使う! 初心者向けBlenderセミナー
「時間を溶かせ」、「資料をよく観察する」など和牛先生による上達の極意
「初心者からのステップアップ!見る人に楽しんでもらうための丁寧なBlender」の講演には、「3DCG教え屋さん」の肩書きで専門学校の非常勤講師を務め、様々な技術書を執筆する和牛先生が登壇。3DCG制作の心構えやテクニックを伝授した。
はじめに「プロクオリティのモデルをつくるには?」という問いに対して、和牛先生は「時間を溶かすこと」だと回答した。ゲームが遊べば遊ぶほど上手くなるのと同じように、3DCGクリエイターも費やした時間が全てだと断言し、年間1,000時間を最低目標に掲げた。
年間1,000時間というと、1日当たり3時間弱になる。専門学校の授業時間数は年間800時間以上と定められているが、当然、3DCG以外も学ぶため授業だけで1,000時間に達するのは難しい。ゆえに自分の時間をどれだけ3DCGに使えるのかが勝負になってくると言う。
時間をかけるためには、やる気を持続させることが重要だ。和牛先生はゲーム『スプラトゥーン』シリーズのヘビーユーザーでもあり、作品のファンアートを発表することで楽しみながら腕を磨いてきたと、自身の経験をふり返った。
さらにVRChatで定期的に開催されているアバター自作交流会やワールド制作雑談会に参加し、クリエイター仲間と作品を見せ合ったり話し合ったことも技術向上に貢献したと言う。このように時間をかけることを苦痛に感じず、自然に作業ができる環境を整えることの大切さを説いた。
クオリティアップには資料のリサーチも欠かせない。和牛先生は3DCGモデルをつくる場合には必要十分な資料を集めて、可能であれば本物を見て触ってほしいと話す。
講演ではコーヒーグラインダーの作例が紹介された。下画像の作例では一見、正しい形に見えるものの、コーヒー豆は内部の刃で砕かれて前方に落ちるというしくみになっており、豆の入口と出口が一直線に繋がっているデザインは構造上ありえない。こういったミスはしくみを理解しておけば確実に減らすことができる。
そして、和牛先生は対象を観察することも忘れないでほしいと釘を刺す。というのも、資料をせっかく集めたにも関わらず、作業時にはそれを参考にしない人が非常に多いのだという。
つまりPureRefなどのリファレンスソフトを使って資料を常時表示しておくだけでも、他の人と差を付けることができるということでもある。3DCG制作は観察と描画をひたすらくり返す作業であり、デッサンなどを通じて観察力を叩き込んでほしいと説いた。
作品を見ながら「脱・初心者」テクニックを具体的に紹介
講演の後半では和牛先生の作品を紹介しながら、どのようなねらいでその作品がつくられたかを解説してくれた。まず作品の雰囲気を大きく左右する要素に、配色がある。
同講演用に制作したビジュアル(下画像)のうちゲームを表現した配色のものは、椅子が青、タンスが緑、ドアが赤とポップな色づかいになっている。これは第一印象だけでゲームのグラフィックだとわかるようにしたかったため。もしMVであれば部屋全体を赤くしたビビッドな色づかいにするなど、配色を変えれば様々な用途に対応できる。
また作品のもつ情報量に関しては、多いことが必ずしも良い作品には繋がらないとコメントした。
情報量が増えるとユーザーは何を見れば良いのかわからなくなりがちで、さらに日本の場合はリアルなグラフィックのAAAタイトルが必ずしも大ヒットするわけではない傾向にある。そこで、必要に応じて情報をコントロールすることが鍵となる。
初心者が忘れがちなのがベベル(面取り)である。Blender起動時に表示されるデフォルトキューブは90度角になっているが、現実にはそこまで角が鋭いものは存在しない。そのためベベルをかけるだけでハイライトが入ってリアリティが生まれ、精度によって印象を演出できるため、スムージングも含めて忘れないようにしたいと言う。
質感は丁寧に仕上げれば「物がどのように使われてきたのか」というバックボーンまで伝えることができる。
講演ではSubstance 3D Painterを使って作成したキャリーバッグやそば湯を入れる湯桶(ゆとう)を紹介した。傷などを加えて使用感を出し、わずかな凹凸をプラスすることで反射光に歪みを出すなど、細部までこだわっている。
3DCGは1万時間学んでも「まだ楽しめる」
最後に、和牛先生は3DCGはツールだけでなく、幅広い知識が求められるとコメントした。
より印象に残る画をつくるためにはカメラの知識が、キャラクターの衣装をつくるためには服の型紙の知識が必要になり、「いろいろな知識をギュッと詰め込めるのが3DCGの面白いところ」だと語る。そういった細部への興味はCGを学んでいけば自ずと湧いてくるものなので、まずは時間を注ぎ込んでほしいとメッセージを送った。
そして「3DCGはプレイ時間が1万時間が超えても平気で楽しめる分野だと思います。一緒に楽しんでいければ嬉しいです」と未来のクリエイターたちの背中を後押しして、大盛況の内に講演は幕を閉じた。
Information
ゼロから始めるゲーム制作!プロが使うUE5で3Dアクションゲームを作ろう!(仮)
編著者:ゲームメーカーズ編集部
定価:3,080円(本体 2,800円+税 10%)
ISBN:978-4-86246-588-7
総ページ数:208ページ(予定)
サイズ:B5正寸、オールカラー
発売日:2024年9月下旬(予定)
発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
■ゲームメーカーズ公式リリース記事
https://gamemakers.jp/article/2024_05_25_69161/
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada