2025年5月7日(水)、コロプラは新作ゲーム『神魔狩りのツクヨミ』を配信開始した。数々の名作を生み出してきた希代のゲームクリエイター・金子一馬氏の新作でありながら、ゲームジャンル「カード創造ローグライク」が示す通り、生成AI技術をゲームシステムの根幹に採り入れた意欲作でもある。
なぜ、家庭用ゲームの奇才はモバイルゲームの世界へと身を投じたのか、そして、自身のイラストを学習させた「AIカネコ」がゲーム中の報酬となるカードを生み出すという無二のゲームデザインのねらいとそこにいたった経緯はどのようなものなのか。開発チームに尋ねた。
Information
リリース:配信中
価格:アイテム課金制(基本プレイ無料)
Platform:iOS、Android、PC(Steam)
ジャンル:カード創造ローグライク
jintsuku.jp
©COLOPL, Inc.
iPhone登場に受けた衝撃を抱え、コロプラへ
CGWORLD編集部(以下、CGW):本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは、皆さまのご紹介をお願いします。
齋藤ケビン雄輔氏(以下、ケビン):齋藤ケビン雄輔です。本作では開発プロデューサーを務めました。
金子一馬氏(以下、金子):金子一馬です。僕はコンセプトプランナーというかたちで、ストーリーや世界観設定、キャラクターデザインなどを担当しています。
今野慎一氏(以下、今野):2Dデザイナーの今野です。キャラクターや背景のデザイン監修に加え、AIで生成される「神魔札」と、その学習に使用された素材の制作を担当しました。
香賀律希氏(以下、香賀):シナリオライターを担当しました香賀律希です。金子さんの補佐として、世界観構築にも携わりました。
S.K.氏:UIデザイナーのS.K.です。UIを中心に、ゲーム内のデザイン全般を担当しています。

CGW:ついに『神魔狩りのツクヨミ』がリリースされました。金子一馬さんにとっては久々の完全新作であり、しかもコロプラへの転職後初のタイトルという点でも注目を集めています。まずは、その経緯についてお聞かせください。
金子:よく「なぜアトラスからコロプラに?」と聞かれるんですが、そもそも僕が前の会社を離れたのは、もう10年近く前なんです。その後、別のゲーム会社に入ったんですが、そこではなかなかゲームをかたちにできない時期が続いていて……。
かといって、僕は他のゲーム会社のことをあまり詳しく知らないんですよ。いくつかの大手企業については知っているけど、そこに行くという選択肢でもなかった。そこで転職エージェントを利用したんです。すると、登録して数時間後にはオファーが一気に届いて。その中のひとつがコロプラでした。
CGW:家庭用ゲームの名作を手がけてこられた金子さんが、モバイルゲームの会社に移籍されたことに驚いたファンも多かったと思います。何かきっかけがあったのでしょうか?
金子:もう20年近く前になりますが、初めてiPhoneを見たときに「これはやばい」と思ったんですよ。電話というより、実質的には持ち歩けるPCだと感じました。実際、PCゲームもどんどん移植されていきましたし、それまでのガラケー向けゲームとは根本的にちがう印象を受けたんです。
それで、「ゲームって、必ずしも家のテレビの前でやる必要はないのかもしれない」と思うようになりました。ただ、当時僕がいたのは家庭用ゲームの業界だったので、そういった企画を通すのは難しかった。だから、ずっとやりたかったことが実現できそうな会社として、コロプラを選んだというわけです。

CGW:家庭用テレビの前に縛られないゲーム体験という点では、携帯ゲーム機も選択肢としてあり得たように思います。そのあたりはいかがでしょうか?
金子:ネットワークや最新のテクノロジーを使うことに関心があるんですよ。プレイヤーのフィードバックによってゲームのかたちや体験が変化し、それをさらに応用していく……そうした循環にすごく興味をもっています。
前の会社でもオンライン要素や技術を採り入れたタイトルはありましたが、僕自身はそういったプロジェクトに関わることができなかった。それもあって、自分のやりたいことができる環境を求めていたんです。
趣味の散歩からタワ-マンションのゲームへ
CGW:そこから約10年のブランクを経てコロプラに転職されたわけですが、入社後すぐに『神魔狩りのツクヨミ』の企画が立ち上がったのでしょうか?
金子:そうです。コロプラに入社して間もなく「何かゲームの企画を出してほしい」と言われて、今作のベースとなる世界観を提案しました。僕はこれまでずっとRPGばかりつくってきたので、そのつもりで企画を出したんですが、社内の偉い方々やプランナーたちと何度もディスカッションを重ねる中で、ローグライクと生成AIといった要素が並び立ち、現在のかたちに発展していきました。

CGW:本作の舞台は「20XX年の東京に立つ閉鎖されたタワーマンション」という設定ですが、すでに並々ならぬ金子節がにじみ出ています。この世界観はどのようなきっかけで決まったのでしょうか?
金子:まず僕は、ゲームをつくるときに「どういう問題を解決する物語にするか」を考えるんです。例えば「隕石が落ちてくるから食い止めろ」でもいい。物語というのは、大なり小なり“問題の発生とその解決”を描くものだと思っています。
ゲームの場合、その「解決」はよりアクティブであるべきだと思うんですが、どんなかたちであれ問題が必要なんですよね。で、比較的小規模なゲームで扱う問題としてちょうどいいのが「脱出」だなと考えました。そうして、ひとつの建造物が舞台になりました。
タワーマンションを選んだのは、僕の趣味である散歩がきっかけです。よく豊洲のあたりを歩くんですが、あのあたりって最近タワマンがすごい勢いで建ってるんですよ。でも住民の数に対して、スーパーやインフラが追いついていない。橋が何本か落ちたら外と遮断されて、争いが起きそうにすら見える。そういう想像が膨らんで、「これは舞台として面白いかも」と思ったんです。
なので、「脱出」というゲーム上の目的ありきで決めた設定なんです。別に、映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)のように“動く鉄道からの脱出”でもよかった。でも今回は、散歩でタワマンをよく見かけていたのと、僕が映画『ジャッジ・ドレッド』(2012)が好きだったこともあって、たまたまタワマンになったという感じです。

CGW:その世界観を受けて、齋藤さんをはじめとするスタッフの皆さんの反応はいかがでしたか?
ケビン:金子さんが入社されたという話は、僕らがプロジェクトに参加する前から社内で噂になっていました。「あの金子一馬さんが来たらしい」「何やらゲームを企画しているらしい」と、少しずつ耳に入ってきてはいたんです。ただ、実際に設定資料を初めて読んだときは、正直わからない部分が多かったですね。特に金子さんが得意とされている神話やオカルトの要素については……。

金子:意外と、みんな知らないことが多いんですよ。例えば「神社にはオスとメスがある(祀られているのが男神か女神かで建築様式が異なる)」といった話すら最初は伝わらなくて、「この人、何を言ってるんだ?」という反応をされてしまって(笑)。
ケビン:それは仕方ないですよ(笑)。僕らとしても、資料を読み込んでも読み込んでも、わからないことだらけでした。でも、そういうレベルでこだわるからこそ、金子さんの作品には熱心なファンがついているんだと思いますし、独自の世界観が際立つ理由でもあると感じました。なので、ゲームとして破綻しないように調整すべき部分を除いては、金子さんの描く世界をできる限りそのまま活かすことに徹しようと決めました。
香賀:とはいえ、金子さんがやろうとしている“核の部分”はすごく明確でしたよね。プレイヤーの選択を通して問いを投げかけるという構造は、これまで金子さんがつくられてきたゲームの延長にあるものだと感じたので、飲み込みやすかったです。
私はもう、「神・金子一馬からのお告げや神託を受け取り続ける巫女になろう」と思いながら、ひたすら話を聞いていました(笑)。

今野:閉鎖空間の中を進み、階層を登っていく……というくり返しの構造は、システム的にもコンパクトでした。そのぶん、タワーマンションの外観をどう設計するかといったビジュアル面の検討にも、しっかり時間を割くことができました。

S.K.:調整が必要だったのは、ゲーム的な理屈を設定や物語の側とどうすり合わせるか、という点でした。例えば「死亡するとスタート地点に戻る」「ステージをクリアすると所持していたカードが全て破棄される」といったゲーム的なお約束に対して、何らかの説明や納得感をもたせられないか。そうした部分で歩み寄りをお願いすることもありました。

生成AIは「パーソナライズされたゲーム体験」を提供する
CGW:そもそも、生成AIをゲーム企画の柱に据えることになったきっかけは何だったのでしょうか?
ケビン:コロプラという会社自体が、新しいテクノロジーを活用して新しいゲーム体験を生み出すことを、ビジョンや思想の根幹に据えているんです。そのため、生成AIが注目され始めた初期の段階から、「生成AI×ゲーム体験」というテーマについては継続的に検討されていました。
その中で、生成AIの「入力に応じてランダムにそれらしい出力を返す」という特性に着目しました。この特性を活かせるゲームジャンルを検討する中で、ランダム性が重要な意味をもつ「デッキ構築型ローグライク」にたどり着き、「生成AI×デッキ構築型ローグライク」という企画の核が固まっていきました。

CGW:生成AIを活かしたゲームというと、NPCとの会話をAIで生成するというかたちでランダム性を利用したものが多くみられます。こうした選択肢は検討されなかったのでしょうか?
ケビン:やっぱり、「すでにあるものをなぞっても意味がない」と感じたんです。せっかく新しい技術を使うなら、自分たちにしかできないことをやるべきだと思っていました。そこで、AIの“ランダム性”をどこに活かすべきかを考えたとき、「報酬となるカード」に注目したんです。
CGW:スマートフォンゲームにおける報酬のカードやイラストは、いわば“ブランド品”のような存在で、所有欲や憧れを刺激する方向性が主流ですよね。その部分に生成のランダム性を導入するのは、ある意味で定石に逆行する発想だと思います。なぜこの選択に踏み切ったのでしょうか?
ケビン:確かに、そこはリスクを感じていた部分ではありました。ただ、AIを使ったゲーム体験の本質は「パーソナライズ」だと思ったんです。つまり、AIがその人に合わせたものを生み出す、という発想です。プレイスタイルや攻略のアプローチに応じて、同じゲームでも人によって異なる体験が提示される。そう考えると、報酬もまた一律ではなく、その人に合わせた“唯一のもの”であるべきじゃないかと考えました。
金子:実際、体験版を遊んでくれた方たちがDiscordに感想を投稿してくれているんですが、自分だけのカードに対して強い愛着をもってくれているのがわかります。誰もが同じカードを目指すような従来の構造とは異なりますが、「自分だけの○○」として楽しんでくれているようです。

CGW:作中では、金子さんの絵を学習した生成AI「AIカネコ」がカードイラストを描きます。このしくみに対して、金子さんとしては抵抗感などはありませんでしたか?
金子:いえ、むしろ「どんどん取り込んでください」というスタンスでしたね。AIが描いた“金子一馬風”のイラストを見るたびに、「ああ、自分はこう見られているんだな」と感じて面白かったです。
ちょっと変な話ですが、鏡で自分の顔を見たときに覚える違和感を、イラストで味わっているような感覚があって。自分が描いた覚えのない絵を見ながら、「確かに金子ならこういうの描きそうだな」と納得したり、「目隠ししてるキャラばっかりだな……もう少し引き出しを増やしたほうがいいかも」と自省したり(笑)。

CGW:アニメやゲームなど、金子さんのこれまでのキャリアでは、複数人のチームで統一された画風に沿って制作することも多かったと思います。今回の「AIカネコ」との共同作業は、人間のアーティストとの制作とどう違いましたか?
金子:一番の違いは、「文句を言わない」ことですね(笑)。人間と一緒に制作していると、演出の都合で描いてもらった部分をどうしても削らざるを得ないことがある。でも、それって描いた側からするとショックなんですよ。文句も出るし、こちらも気を遣って「飲み物でも買ってくるか……」となる。でもAIなら、そういう気遣いはいらない。いくらでも却下できるし、何度でも修正をお願いできる。その自由さは、ある意味ではとてもありがたいです。
ただ、その分“機転が利かない”んですよね。何かを提案してきたり、そこから偶然面白い展開につながったりするようなことはまずない。その気苦労のなさと、決まりきった感じが、よくも悪くも人間とは違うところだと思います。
ケビン:たまに、斜め上に突き抜けたものを出してくることはありますけどね。
金子:そうそう。「嘘だろ?」って言いたくなるようなものが出ることもある。でも、それが“あり”だなと思えたら、そのまま採用しちゃうこともあるんです。金子一馬はこうは描かないけれど、「AIカネコ」という別のアーティストとしてはいいと思うから、それも学習に組み込んで伸ばしていこうという瞬間もある。だから「AIカネコ」という名前でありながら、金子一馬とは独立した人格として育てているような、不思議な感覚があるんです。

CGW:そう聞いていると、いわゆる“過学習”のような、いかにも「誇張された金子一馬風」の絵になってしまう危険性もあると感じます。AIカネコの学習過程は難しくなかったのでしょうか?
ケビン:実際に、そうした問題はありました。過学習が進みすぎて、ノイズのような画像しか出なくなったり、逆に同じ構図・同じ表情の絵ばかりが生成されるようになったりして。そこで、意図的に“少し金子さんらしくないもの”も混ぜて学習させるなど、調整を加えていきました。
当然ですが、AIカネコが金子さん本人より優れた絵を描くということはあり得ませんし、80点くらいの質になってしまいます。その上で、物語やゲームデザインの枠組みで、どう楽しんでもらえるかを重視しました。
例えば、金子さんご本人が描いたイラストは、ゲーム内で「神」が授けるカードに使用され、一方でAIカネコが描いたものは「偽神」から贈られるカードに使用されています。こうした“メタ構造”も含めて演出の一部としてコントロールしていますね。
金子:生成されたカードの中でも特に人気が高かったものに関しては、僕がリファインして“本物”として実装するイベントも行いましたね。
ケビン:本作の目的は高性能なAIを見せることではなく、AIを通じて新しいゲーム体験を届けることにあります。僕らとプレイヤー、そして技術と物語、ゲームデザインが一体となって体験をつくっていけたらと考えています。
生成AIとゲーム開発の行く先は
CGW:今回、生成AIをメインに組み込んだゲームがリリースまでたどり着きました。開発をふり返っていかがでしたか?
ケビン:とにかく、技術の進化が速すぎて驚きました。企画段階では「これは無理だろう」と思っていたことでも、少し時間が経つとあっさり解決できてしまう。
金子:その一方、「やりたいのにどうしてもできない」ということも多かったです。例えば、僕は人間離れした造形の神や悪魔も出力されるようにしたかったんですが、なかなか上手く出力されなかった。今の世の中にないような存在はまだ理解できないみたいで、そういった表現を苦手としているようです。
ケビン:とはいえ、AIを使ったゲーム体験はこれからも模索されていくと思います。その中で、今回の取り組みを通じて、第一人者としてひとつのやり方を提示できたことには意味があったと感じています。
CGW:みなさんとしては、今後エンターテインメント分野における生成AIはどのように進化していくとお考えですか?
金子:正直、進歩が速すぎて予想はつかないですね。ただ、楽しみ方そのものが変わっていくんじゃないかとは思っています。体験版を遊んだ方々の感想をDiscordで見ていて印象的だったのは、「金子一馬が描いた絵」そのものよりも、「金子一馬的な世界観」を楽しんでくれていたことなんです。そう考えると、イラストというものが“誰が描いたか”というよりも、服のブランドやテイストを選ぶような感覚に近づいていくのかもしれません。
今野:技術的なところでいうと、まずいま注目されている2Dイラスト生成の次の段階として、2D映像生成の実用が増えていくんじゃないでしょうか。それから3Dの技術が来て、簡単にモデリングやリギングができるようになって、と進化していく気がしています。
香賀:文章作成においても、ChatGPTでネタ出しをするのが珍しくなくなってきたので、このまま道具の一種として定着すると思います。昔は執筆といえば手書きだったのが、パソコンでのタイピングが当たり前になったように、AIもいずれ当たり前になるんじゃないでしょうか。
S.K.:本作品では、金子さんの世界観とローグライクというゲーム性に合わせ、解き方次第で開きが変わる(結果が変わる)カラクリ箱から着想し、「寄木細工」のような意匠を施したデザインを採用しているのですが、そういった緻密なデザインでありながら構造やしくみが決まっているようなものなどに使われていくかもしれません。
ケビン:今後は、AIという“道具”をどう使いこなすかが問われてくると思います。制作物が早く仕上がるようになったぶん、それをどう評価し、どう調整するかという能力がより重要になる。
ただし、AIを使うことで「人間の仕事を置き換えた」だけと感じられてしまうと、観客やユーザーは納得しないと思うんです。置き換えること自体が目的ではなく、なぜAIを使うのか、そのねらいや物語性、最終的にユーザーが得られる体験に意味があるか——そこまで設計された作品が出てきたときにようやく受け入れてもらえるのかな、と思っています。
CGW:ありがとうございました。
TEXT_稲庭 淳 / Jun Inaniwa
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota