コンピュータエンターテインメント開発者を対象に、ゲームに関する技術や知識共有をはかる国内最大級のカンファレンス・CEDEC。本記事では、7月22日(火)から24日(木)にかけて開催されたCEDEC2025のセッションより、株式会社Cygamesによる「『ウマ娘 プリティーダービー』における映像制作のさらなる高品質化へ! ~豊富な素材出力と制作フローの改善を実現するツールについて~」を紹介する。

撮影〜コンポジット工程における3つの課題
umamusume.jp
2021年のサービス開始以来、大きな人気を誇る『ウマ娘 プリティーダービー』だが、メディアミックスまで含めた大成功と多面的な展開を行なっているだけあり、本作にはTVCMをはじめとした様々なゲーム外映像が存在する。
講演では本作の開発元であるCygamesよりクライアントサイドエンジニアの嘉寺尚也氏が登壇し、各種映像制作を可能にしたツールとワークフローについて解説した。

嘉寺氏はまずウマ娘における映像制作のワークフローを紹介。Unityのシーンからゲーム内素材の画像を撮影、それらをAfter Effects(以下、AE)でコンポジットし、映像を出力するという標準的なワークフローだが、ここには3つの課題があったという。

まず、クオリティ面での課題。
シーンの制作をUnity上で行なっているため、ポストプロセスやライティングはゲーム上で可能なものに限られるが、元となっているゲームがモバイル向けであるがゆえに、映像としてのクオリティ上限が低く設定されてしまう。

そして、イテレーション面での課題。
Unity上での撮影を行うたびに前準備としての作業があり、アーティストの負担が大きいこと。また、リアルタイム処理により髪や衣服などの揺れものを描画しているため、撮影のたびに画に微妙な変化が生じてしまうこと。

これらの課題に対して、嘉寺氏らは解決方針を検討。
結果的に「コンポジット素材を増やしたい!」「セットアップを楽にしたい!」「結果を安定させたい!」という3つの方針が示され、これらを満たす新ツールの開発が始まった。
機能を充実させ、操作をシンプルにした新ツール
まず、従来は最終描画結果のみが出力されていたところ、コンポジット専用素材を撮影可能にした。デプス、ノーマル、アウトライン、マスク、シェード、シャドウと別個に撮影できるようになり、AEでのコンポジット段階でできることが増えたという。


次に、撮影のセットアップの簡易化として、エディタウィンドウを起動するだけで必要な設定から素材の撮影までもを行えるようにした。変更した設定も全て保存され、前回の撮影の続きや作業の引き継ぎも簡単に行えるようになったため、セットアップにアーティストの1日が費やされるということもなくなった。

最後に、結果の安定化として、撮影前に0フレーム目から撮影開始直前までのフレームをシミュレーションし、エフェクトのランダム性もシード値を固定、同じ画を安定して撮影できるようになった。
これらにより、品質と効率の向上を実現することができたという。

続いて、嘉寺氏は各ツールの具体的な機能を紹介。
撮影フロー自体は非常にシンプルで、撮影したいシーンを開き、ツールを開いて各種設定を行い、撮影ボタンを押す、のみだ。

ツール上での設定は、オブジェクトに関する設定、コンポジット素材に関する設定、出力に関する設定の3つ。

オブジェクトに関する設定は、ツールを立ち上げ時にシーンを解析し、描画対象のオブジェクトをキャラクターや背景、プロップ、エフェクト、などとカテゴリ分けする。そして、カテゴリ単位、オブジェクト単位で表示を切り替えることができ、必要な素材のみでの撮影が行える。


コンポジット素材に関する設定では、デプス、ノーマル、アウトライン、マスクなどの撮影素材を選択できる。デプスでは、最大値Zmaxを設定し、カメラからの距離に応じたデプスを反映させることができる。また、マスクに関してもオブジェクトやマテリアルごとに色を設定し、マスクを作成することが可能だという。






出力設定では、連番で出力される画像についてPNGとOpenEXRのフォーマット選択や、その圧縮形式の選択、ファイル名のタグ指定などが可能になる。
これらの設定を1つのエディタウィンドウ上で済ませれば、あとは撮影を行うだけだ。

ひと通り説明を負えると、嘉寺氏はツールのデモを披露。
昨年放映のCMにて実際に使用されたシーンを用いて、壇上での説明通りに軽々と撮影を済ませていく様子が実演された。

最後に、撮影した素材と、それを基に制作された映像を紹介。
要素を分解しつつ、ゲーム外映像の制作にあたって、いかにUnity上のデータからディテールアップを行い、リッチな映像を制作しているかが語られた。「これからも私たちは、ウマ娘たちを輝かせる最高のコンテンツをつくるため、映像制作に取り組んでいきます」との言葉と共に講演は終了した。






TEXT_稲庭 淳 / Jun Inaniwa
EDIT_小村仁美 / Hitomi Sagano(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada