CGWORLD vol.324の特集「オレンジの挑戦と進化」では、Netflixシリーズ『リヴァイアサン』(独占配信中)、Netflixシリーズ『BEASTARS FINAL SEASON』(Part1:独占配信中、Part2:2026年独占配信)の2作品を通して、オレンジの最新の挑戦と進化を深掘りした。本特集の中から、「PART 2『リヴァイアサン』/TOPIC 2 美術」を全3回に分けて転載する。第2回では、ハイブリッドな画づくりを支える3D美術の実践例と、それを支えるツールの工夫を解説する。

記事の目次

    関連記事

    『リヴァイアサン』美術の最前線【第1回】:オレンジ社内に新設された美術部の挑戦

    第6話・シャープが閉める扉の連番出力

    1枚画の美術制作とは別に、美術部独自の手法として①連番出力、②環境マップ、③3Dカメラワークの3種類があり、オレンジでは「3D美術」と総称している。この中の①は、動きを付けた扉や椅子などを、Blender上で連番出力する手法だ。従来はカメラマップを使ったり、美術側でテクスチャにペイントしたりしていたが、前者は複雑なBOOK分けが必要で、後者はUV座標とモデルとの対応関係の把握が難しかった。

    本作では、アニメーターが動きを付けた扉などのAlembicデータをBlenderに読み込み、美術側で着色している。

    ▲扉を着色している、Blenderの作業画面

    カメラアングルに応じてハイライトなども調整した上で、連番画像として出力し、最終的な仕上げをPhotoshop上で行なっている。これにより2Dの加筆は最小限に抑えられ、効率的かつ高品質な画づくりが可能となった。Substance 3D Painterなどを使い、モデル全体に対して質感をペイントすると手間がかかるので、ベースの質感はBlenderのプロシージャル機能で設定し、必要な箇所のみ手動で描き足す運用が、最も効果的だと判断された。

    • ▲Blenderから出力した連番画像
    • ▲完成映像

    第10話・ニューヨークのビル街の環境マップ

    アレックたちが小型飛行船でビル街を移動するカットは、カメラが大きくパンするため「②環境マップ」を用いた。これは、Blender上に背景モデルを配置し、1点から360度のレンダリングを行なった後、Photoshop上で必要な範囲のみを加筆して仕上げる手法だ。

    ▲加筆済みの環境マップ

    加筆済みの環境マップはアニメーターに提供され、3ds Max上でキャラクターと合成してレンダリングされる。これによりシーンデータが軽量化され、作業効率も大幅に向上した。またアニメーターは原図制作から解放され、カメラを設定したシーンデータを美術側に渡すだけで済むようになった。ただしこの手法の場合、カメラの移動はできないという制約がある。

    ▲環境マップを設定した、3ds Maxの作業画面
    ▲完成映像

    第2話・リヴァイアサン艦橋の3Dカメラワーク

    リヴァイアサンの船外から艦橋正面へカメラが回り込むカットでは、「③3Dカメラワーク」の手法を採用。Blender上で、艦橋の外装・内装はもちろん、空や雲などの背景まで含めて、全フレーム分を連番出力している。

    ▲艦橋を着色している、Blenderの作業画面

    作業内容は「①連番出力」と同様だが、美術側の担当範囲が広く、微調整も多いため別扱いされている。艦橋の窓ガラスはBOOK分けをして、透明度の変化をAE上でアニメーターが制御。視差マッピングにより、窓ガラスに対する雲の映り込みも表現している。キャラクターのセルはアニメーター側でレンダリングしており、AE上で挟み込む構成になっている。

    艦橋内にはパイプ類や乗組員が多数存在するため、BOOK分けも複雑になったが、カメラの動きと背景が綺麗に噛み合う仕上がりとなった。

    • ▲Blenderから出力した連番画像
    • ▲完成映像

    中島氏の自作ツールによる効率化

    本作の制作序盤は、アニメーターにとって使いやすい背景モデル制作の知見が美術部内に乏しく、数多くの失敗も経験した。アニメーターへの申し送りが不十分だったことで、提供したモデルが意図しない使われ方をされてしまったケースもあり、以降はなるべく密なヒアリングと情報共有を心がけるようにしたという。

    また、3ds MaxからBlenderへのデータ変換の方法も試行錯誤の連続で、変換の安定化にいたるまでには時間がかかった。そうした中で、中島氏は自身でツール開発に着手。美術スタッフとして参加した過去作品でスクリプトが必要になったことをきっかけに、独学で習得したスキルを活かし、3ds MaxからAlembicデータを出力するツールや、Blender用の読み込みツールのアドオンを開発した。

    ▲3ds MaxからAlembicデータを出力するツール
    ▲Blender用の読み込みツールのアドオン

    BlenderのアドオンにはBOOK分け機能なども実装されており、現場の作業効率を大きく向上させている。ツールの更新もワンクリックで行えるように設計してあり、トラブル防止にも貢献。美術監督業務と並行してシステム面の整備にも奔走する日々は多忙を極めたが、現場を支える基盤づくりとして大きな成果を上げた。

    『リヴァイアサン』美術の最前線【第3回】は8月6日(水)に公開します。

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.324(2025年8月号)

    特集:オレンジの挑戦と進化
    『リヴァイアサン』と『BEASTARS』で描く未来
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2025年7月10日

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上 陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota