CGWORLD vol.324の特集「オレンジの挑戦と進化」では、Netflixシリーズ『リヴァイアサン』(独占配信中)、Netflixシリーズ『BEASTARS FINAL SEASON』(Part1:独占配信中、Part2:2026年独占配信)の2作品を通して、オレンジの最新の挑戦と進化を深掘りした。本特集の中から、「PART 2『リヴァイアサン』/TOPIC 2 美術」を全3回に分けて転載する。第3回では、背景制作の応用例と、フェレラ監督のビジュアル設計に応える美術表現の多様性を紹介する。
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第10話・専門知識を活かした、ニューヨークのホテルロビーのリデザイン
美術部では、スタッフ間のノウハウ共有や全員のスキルの底上げを図りつつ、個々人の強みを活かすことにも取り組んでいる。
ニューヨークのホテルロビーの美術制作では、建築業界出身のスタッフの専門知識が大いに活かされた。「クラシックな建築様式にしたい」というフェレラ監督の意向を受け、同スタッフはコリント式の柱頭やアーチ付きのドアなどを提案し、背景モデルをネオクラシック調に大胆リデザイン。演出意図を汲みつつ、品のある内装へと仕上げた。通常は背景モデリング班が修正を担うが、本人の強い思い入れもあり、一部のパーツを自ら制作した。




第5〜8話・イスタンブールの街並みの制作
第5〜8話に登場するイスタンブールの街並みは、美術部が主導して制作した。遠景は1枚画の美術を描き、中景〜近景は社外の平沢下戸氏(フリーランス)がBlenderのジオメトリノードを使って自作した建物ジェネレータで半自動生成している。シャープたちが訪れる皇帝の宮殿は、美術部の3D班が手動で丁寧にモデリングした。




通常、背景モデルの制作は背景モデリング班が担当し、質感に関しては、キャラクターが絡む部分を背景モデリング班が、絡まない部分を美術部が担当する。しかし、このイスタンブールや、第1話と第2話の森、第10話と話11話のニューヨークのビル群のような大規模な背景は美術部が一括して手がけている。
なお、イスタンブールの夜間の戦闘シーンでは、建物ジェネレータのモデルをそのまま使うと重すぎるため、レンダリング画像に加筆し、平面ポリゴンに貼り込む処理で対応した。
フェレラ監督によるイメージボードと、それを出発点にした美術ボード
フェレラ監督が描いたイメージボードは非常に完成度が高く、リアルとファンタジーの中間にある独特な世界観を的確に提示してくれた。ストームウォーカーや、クジラ型飛行獣のリヴァイアサンをはじめ、ファンタジー要素をいかに現実味あるものとして画に落とし込むかが、美術制作における重要なテーマとなった。



イメージボードは劇中のほぼすべてのロケーションを網羅し、時間経過やシーンごとのバリエーションも描かれていたため、美術ボード制作の出発点として非常に有効だったという。クランカー側の美術ではディーゼルパンク的な機械文明を、ダーウィニスト側では生物的な柔らかさを意識。3Dに描き足す際は、温かみを加えるためにシルエットを変えたり、陰影を描き足したりするなどの工夫を凝らした。
「劇場作品さながらのフェレラ監督の画づくりには、今後のオレンジ作品に活かせる多くの学びがありました」(中島氏)。


第4話・アレックの内面を映し出す、スイス上空の美術
アレックがスイス上空の雲海を眺めるカットは、特に中島氏の印象に残っている。戦いを経て仲間を得た彼の、心の晴れやかさを映し出すような美術に仕上がったという。一方で、その爽やかさが、シャープの罪悪感を際立たせてもいる。中島氏は「キャラクターが内面を語らない分、美術の光と色で表現したい」というフェレラ監督の意図に応えるべく、細心の注意を払った。


INFORMATION

月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.324(2025年8月号)
特集:オレンジの挑戦と進化
『リヴァイアサン』と『BEASTARS』で描く未来
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2025年7月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上 陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota