自動運転システム「Aurora Driver」を開発する米Aurora Innovation(以下、Aurora)は、シミュレーション環境の構築にHoudini+USDと内製レンダラ「Alba」を用いている。それらの運用の詳細と、進化の方向性を紹介する。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 326(2025年10月号)からの転載となります。

    Interviewee

    Aurora Innovation

    ソフトウェアエンジニア:成田裕明氏、ソフトウェアエンジニア:ヴィルマン龍介/Ryusuke Villemin氏、ソフトウェアエンジニア:ヴィンセント・セリテラ/Vincent Serritella氏
    以上、Aurora Innovation
    aurora.tech
    © 2024|Aurora Proprietary

    Houdini+USDで自動運転向け環境構築を効率化

    Aurora Driverはカメラ・レーダー・LiDARの3つのセンサ群とソフトウェア、高性能な計算基盤から構成される自動運転システムだ。2025年7月にはAurora Driverを搭載した大型トラックによる夜間の無人走行をダラス~ヒューストン間で開始し、大規模な実用展開に向けて着実に前進している。

    開発においては、実地での試験走行はもちろん、より多様な道路条件や交通状況での検証を可能にするために、実地で得たデータを基にした高精細なデジタルツイン環境の構築が不可欠となる。

    同社はこの環境構築に、HoudiniとUSDを採用。Houdiniのプロシージャルなワークフローは、実際の走行ログに基づいたリアルなシナリオシーンの大量生成や、そこから派生する合成シナリオを様々なインプットを組み合わせて柔軟に制作できる点で非常に有効であり、HDAを活用することで独自開発にも適している。

    Aurora Driver Now Autonomously Hauling Freight at Night

    また、USDベースで運用することで他ツールとのデータのやりとりやアセットの更新、バージョン管理も容易だ。これは、社内の様々なデータを常に最新状態に保ちながら、プロトタイプから大規模なシミュレーション用データまで幅広く対応するAuroraのスケーラブルな制作体制に非常にマッチしているのだという。

    さらに、シミュレーションで生成される膨大なシーンを物理的に正確に描画するため、内製のスペクトルレンダラ「Alba」を開発。各センサのデータを正確に再現できるだけでなく、マルチモーダル設計により、複数種類のセンサからのデータを同時にレンダリングすることが可能だ。

    今後は、映像を含むデータ全体の品質をさらに向上させると同時に、その制作工程を自動化していくことが目標のひとつだという。また、希少な気象条件、輸送ルート上で起こり得る特殊なシチュエーションの再現やバリエーションをさらに増やしていくことも重要な課題と捉え、自動運転開発におけるデジタルツイン環境の信頼性と有効性を一層高めていきたいと考えているとのことだ。

    自動運転システム開発と映像制作のフロー比較

    下の画像は、AuroraがSIGGRAPH 2024の講演で示した、自動運転システム開発(画像内上)と映像制作(画像内下)のおおまかなワークフロー比較図。レシピやスクリプトをベースにレイアウト・アセット制作を行い、アニメーションやエフェクトなどのシーン構築を経て出力する、という基本工程は共通していることがわかる。

    同社のエンジニアの中には、Pixarをはじめとする映像制作会社から転身したスタッフも多く、映像制作のノウハウが自動運転分野でも活かされているという。主なちがいとしては、自動運転システム開発では、2K/4Kのフレームを出力するだけではなく、カメラ・レーダー・LiDARの全てのセンサデータを含むログを出力する点、360度全ての視界に含まれる情報を再現する必要がある点などが挙げられる。

    Houdiniを活用した制作プロセスとテンプレート

    ▲【A】Auroraのデータ制作プロセス。アセットは社内でモデリングするか、特定の車両が必要な場合は有償アセットを購入し、それらのアセットとテクスチャ、リグなどのデータは社内のデータベース(SAM)に取り込む。マッピングチームから提供された地図情報(アトラス)と組み合わせて、Houdini上でUSDを用いてプロシージャルモデリング、アクター、ライティングなどの工程を経てシーンを構築していく
    ▲【B】シーン構築に使用するHoudiniのマスターテンプレート。作業のほとんどは、HoudiniのUSDオーサリング環境であるSolaris上で構成している。上から【C】各シナリオに固有の条件や情報を管理・制御するINFOノード、【D】バリエーションの定義やシナリオの挙動(コレオグラフィ)を構築、【E】USDシーンの構成、ライティング、メタデータなどの設定を行う、【F】最終的にオープンソースのレンダリング管理システムOpenCueにシーンをエクスポートし、ログ生成を行う、というながれでまとめられている

    自動車アセットの正規化処理

    ▲自動車アセットをデータベースに取り込む際には、プロシージャルネットワークを通して正規化処理が行われる。プリプロセシング段階ではモデルのグルーピング、パーツ分割、面の表裏や法線の調整、マテリアルのアサイン、USD階層の構築などを行い、4つのホイールと2本の車軸を自動検知した後、アセット名を定義し、検証を経てパブリッシュする
    ▲アセットの検証はデータベースへのインポート時だけではなく、定期的に行われている。マテリアルが欠落している場合は、「No Material」の赤いテキストがアセット画像上にオーバーレイされた状態でレンダーが返される

    HDAの活用

    Auroraは、道路のジオメトリ生成、地図データのジオメトリ化などの工程をHDAとしてモジュール化している。これにより、複雑な処理を迅速に行うための便利なノードやネットワークを構築できているという。

    • ▲使用しているHDAの一例
    • ▲道路のジオメトリ生成HDA
    ▲地図データのジオメトリ化HDA
    ▲アクターのパスアトリビュートを計算するHDA

    プロシージャルな道路生成

    地図データから道路のジオメトリをプロシージャルに生成する手順を示す。

    • ▲マッピングチームから提供された地図データに含まれる、車線や境界など道路の領域を示すカーブ
    • ▲同じく地図データに含まれるハイトフィールドのデータ
    • ▲道路はいくつかの領域に分割される
    • ▲分割後、IDに基づいてループ処理が行われてレンダリング可能なジオメトリへと変換される
    • ▲アトリビュートから道路の破線や車線の境界線を抽出
    • ▲ここまでに生成した道路の構成要素を統合
    ▲最終的にジオメトリを全て統合し、1つの連続した道路が作成される

    路面の構築ができたら、次は地形を作成していく。

    ▲ベースとなる路面データ。これを基に、地形を構成するための様々なマスクやアトリビュートを計算する
    • ▲傾斜
    • ▲勾配ベクトル
    • ▲ブレンド用マスク
    • ▲路面からの距離
    ▲プロシージャルにスカルプトを行い、もっともらしい地形を作成
    ▲【A】の路面データとマージする。ここから、植生や道路鋲、路上のゴミなどをインスタンス配置していく

    独自レンダラAlbaで複数センサが認識する世界を高精度に再現

    Albaによるレンダリング結果

    ▲Auroraの独自レンダラAlbaで出力した検証用カメラのレンダリング結果
    ▲作成された環境が、検証用のシナリオに合わせて展開された例。対向車の有無や路肩に人がいるなど、様々なシチュエーションがある
    ▲自動運転の検証中に、Aurora Driverの認識システムが捉えているセンサデータの画面。上段はカメラの映像、下段はLiDARの点群。下段の青いボックスは、センサデータを基に認識システムが生成したトラッキング情報。右側の車線から別の車両が左折して前を横切るというシナリオで、別の車両が正確に認識されている

    参考文献

    A Procedural Production System for Autonomous Vehicle Simulation
    Vincent Serritella, Viktor Lundqvist,Matt Webb, Taylor Shaw, Riley Niu, Zach Repasky,Robert Graf and Magnus Wrenninge. 2024. In ACM SIGGRAPH 2024 Talks.

    Alba: A Multimodal Rendering System for Autonomous Vehicle Simulation.
    Ryusuke Villemin, Magnus Wrenninge, Steve Capell, Anton Gribovskiy, I-Chen Jwo, and Steve Bako. 2024. In ACM SIGGRAPH 2024 Talks.

    CGWORLD 2025年10月号 vol.326

    特集:実用デジタルツイン ショーケース
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年9月10日
    価格:1,540 円(税込)

    詳細・ご購入はこちら

    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada