映像や音、センサを自在につなぎ、リアルタイムに表現を生み出す「TouchDesigner」。
空間演出の必携ツールとしてアートやライブ演出、インスタレーションの現場で活用され、近年はデジタルツイン分野にも広がりを見せている。その開発の背景と今後の展望を、開発元Derivativeの創業者グレッグ・ハーマノヴィック氏に聞いた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 327(2025年11月号)掲載記事からの転載となります。
Greg Hermanovic/グレッグ・ハーマノヴィック氏
Derivative Founder and President
derivative.ca
TouchDesinger
TouchDesigner Commercial:120,000円(税込132,000円)
TouchDesigner PRO:440,000円(税込484,000円)
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www.borndigital.co.jp/product/touchdesigner/
TouchDesignerとは何か——誕生から理念まで
Q1. まず、TouchDesignerとはどのようなソフトなのか、改めて教えてください。
グレッグ・ハーマノヴィック氏(以下、グレッグ):TouchDesignerはリアルタイムで動作するビジュアル・プログラミング環境です。アーティストやデザイナー、プログラマー、学生、研究者など、幅広い人々に使われています。インタラクティブアートやジェネラティブなビジュアル表現、映像・照明・レーザーを組み合わせたインスタレーション、さらにはカスタムメディアシステムの開発まで、応用範囲は多岐にわたります。
Q2. TouchDesignerが生まれた背景を教えていただけますか?
グレッグ:最初はライブショーやVJのためのリアルタイム合成・ビジュアルツールとして開発を始めました。その後、ユーザーがより野心的で複雑なプロジェクトに取り組むようになるにつれて、機能も大きく拡張され、ユーザー主導の方向に進化していきました。
TouchDesignerの起源は2000年にまで遡ります。もともとはSideFXのHoudini 4.1から派生したもので、Houdiniは映画や映像制作向けの3D特殊効果ツールでした。そこから私は、リアルタイムかつパフォーマンス志向の広い市場に対応できるツールを目指し、Derivativeを設立しました。当時は低価格のGPUでもリアルタイム合成や3D処理が可能になり始めており、そのながれに合致したのです。
私たちはこれを「TouchDesigner」と名付け、ディズニー、プラダ、カナダのロックバンドRush、そしてテクノミュージシャンのリッチー・ホゥティン(Plastikman)といったプロジェクトに携わりながら、ソフトを根本から再設計・再構築しました。やがてTouchDesignerは十分に成熟し、現在のように製品として提供・サポートできる段階に至りました。
Q3. 開発を通じて、一貫して大切にしてきた理念はありますか?
グレッグ:核となる理念がいくつかあります。まず「現代のアーティストがあらゆるものをつくれるツールにする」ということです。スイスアーミーナイフのように、多彩で予期しない用途にも対応できる存在であることを目指しています。
次に「コードを書かずに扱える」こと。ノードベースでプロシージャル、全てがリアルタイムで動作するため、試行錯誤が容易で結果をすぐに確認できます。必要な場合にはPythonや独自コードを追加して拡張する自由度も備えています。
さらに、インターフェイスは直感的で視覚的にわかりやすいことを重視しています。「WYSWID(What You See Is What It’s Doing)」──画面に見えているものがそのまま動いている、という思想です。 加えて相互運用性も重要です。できる限り多くのデバイス、プロトコル、ソフトウェアとデータをやり取りできるようにし、データを中立的かつ交換可能な形式で扱えるよう設計しています。
TouchDesignerは「自分のツールやUIをつくるためのツール」でもあります。例えば、ユーザーが市販ソフトに頼らず、自分のスタイルに合わせたVJ用のアプリケーションを構築できるのです。
そして、何よりも大切にしているのはコミュニティとの関係です。ユーザーの声を聞き、開発やサポートも「コミュニティファースト」で取り組んでいます。
TouchDesignerが拓くリアルタイム表現と活用事例
Q4. CGや空間演出の観点から見たとき、TouchDesignerの強みはどこにあるのでしょうか?
グレッグ:最小限のコーディングで、あらゆるものをつなげることができる点です。映像、照明、データハードウェア、バーチャルシステムとの間で画像やデータを柔軟に操作できます。
全てがリアルタイムで、オーサリング環境も最終出力と同じ。コンパイルやエクスポートは不要です。ノードベースの設計により、各ステップで視覚的フィードバックが得られ、プロシージャルなワークフローで実験や探索がしやすいのも特長です。
さらに、オープンデザインのプラットフォームとして、Pythonによる拡張やSDKを使った独自ノードの開発も可能です。
Photo Credit:Yea Chen(Chill Production)
Q5. どのような分野で活用されていますか?
グレッグ:本当に幅広いです。舞台、音楽、ライブショー、企業施設、博物館、放送、科学研究、医療、プロトタイピング、クラウド/エッジコンピューティング、AIと連動したインタラクティブメディアなどに利用されています。
Q6. Unreal EngineやUnity、センサーやプロジェクタとの連携についても教えてください。
グレッグ:TouchDesignerとゲームエンジン間では、NDI、Spout/Syphon、WebRTC、SDI/ST2110、OSC、TCP/IP、WebSocketsなど、多数のプロトコルを通じてデータをやり取りしています。さらに「TouchEngine for Unreal」を使えば、TouchDesigner側のコントロールやUIをUnreal側のコントロールやUIと直接連携させることもできます。
Q7. 国内外で、空間演出におけるユニークな活用事例があればご紹介ください。
グレッグ:White VoidとRobert Henkeが制作したビジュアルインスタレーションおよびライブパフォーマンス「Deep Web」は、レーザー、動くキネティック装置のトラッキング、振り付け、Ableton Live、そしてTouchDesignerを組み合わせた象徴的なプロジェクトです。レーザーは動く球体に正確にキャリブレーションされ、ダイナミックな光の彫刻を生み出します。
グレッグ:スペインにある、世界最大の単一口径光学望遠鏡「GRANTECAN」をデジタルツイン化するプロジェクトです。天体物理学者で同望遠鏡のディレクターであるRomano Corradi氏(TouchDesignerユーザーでもあります)が中心となり、y=f(x) LabのRoy Gerritsen氏、Tim Gerritsen氏と共に、GRATECANのデジタル化を推進しています。実際の観測データを取り込み、処理・分析できる機能的な仮想レプリカを構築することで、運用、保守、安全、開発を支援しています。
新機能「POPs」とTouchDesignerのこれから
Q8. 2025年6月にExperimentalビルドで導入された新機能「POPs」について教えてください。
グレッグ:POPs(Point Operators)は、3Dシーンを生成・操作・レンダリングするための新しいプロシージャルノード群です。点群、パーティクル、プロシージャルなサーフェスモデリングなどを含み、GPUで加速されており、膨大なジオメトリデータをリアルタイムで処理できます。さらにPOPsはそれにとどまらず、DMX照明の設計・制御やレーザー制御にも利用でき、データ可視化のために多様な数値データを操作することも可能です。
Photo Credit:Studio y=f(x)
Q9. 最後に、今後の開発ロードマップや注力分野についてお聞かせください。
グレッグ:今年、POPsを初めてリリースしましたが、これは始まりにすぎません。今後さらに多くの機能拡張を予定しています。POPsに加えて、TOPs(イメージ処理)、CHOPs(コントロール)、DATs(文字・数値データ)、外部データとの連携、Pythonを組み合わせることで、ユーザーによる強力な新しいアプリケーションが次々と生まれてくるでしょう。
私たちは、変化の速い技術環境に柔軟に対応しつつ、ユーザーが作品をさらに発展させていけるよう、継続的に支援していきたいと考えています。
CGWORLD 2025年11月号 vol.327
特集:空間CG
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2025年10月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT&EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
EDIT_池永 都 / Miyako Ikenaga