ゾンビ、SF、タイムトラベルといった要素を盛り込んだ、グラスホッパー・マニファクチュア(GhM)最新作。本作ではGhM初となるUE5を採用し、フォトリアル寄りのハイエンド表現にも挑戦。実写やドット絵など、多彩なビジュアル表現を混在させた画づくりについて、開発チームに話を聞いた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 335(2026年7月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。
“統一しない”ことで生まれるGhMらしさ
GhM代表・須田剛一氏は、日本のゲームクリエイターの中でも特に強い作家性をもつ存在として知られている。その独創的な作品世界を支えているのが、各スタッフが自由にアイデアを持ち寄り、それぞれの個性を活かしながら進めていくGhMならではの開発スタイルだ。
開発・販売:グラスホッパー・マニファクチュア/リリース:発売中/価格:5,500円/Platform:PS5、Xbox X|S、PC(Steam)/ジャンル:アドベンチャー、アクション
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2月に発売し、6月にコンテンツのアップデートが行われたばかりの最新作『ROMEO IS A DEAD MAN』は、PS5/Xbox Series X|S/PC向けに開発された完全新作。GhMがNetEase Games傘下となって初の新作でもあり、須田氏と共同ディレクターを務めた山﨑 廉氏によれば、須田氏の「ゾンビものをやりたい」というアイデアを起点に企画が立ち上がったという。
グラフィックス面では、これまでのGhM作品とは異なるアプローチに挑戦している。従来の作品ではNPRシェーダを活用したスタイライズ表現が特徴的だったが、本作では最新世代機向けタイトルとして、フォトリアル寄りのハイエンド表現へ舵を切った。
一方で、作品全体を単一のルックへ統一することはあえて行なっていない。実写、アニメ、ドット絵、モーションコミックなど、多様なビジュアル表現を同居させる“アラカルト” な画づくりも本作の大きな特徴だ。山﨑氏は「あえて統一しないことも、グラスホッパーらしさ」と語る。
開発基盤には、同社として初めてUE5を採用。Naniteによってポリゴン数の制約が大きく緩和された一方、Lumenによる動的ライティングではベイクが行えず、ランタイムでの負荷調整に苦労したという。特に本作は敵の同時表示数やエフェクト量も多く、ハイエンド表現とパフォーマンスの両立が大きなテーマとなった。次からは、各セクションの制作について詳しく見ていく。
フォトリアルと違和感が両立するキャラクター表現
強烈な個性を生み出すモデルとモーション
本作のキャラクター制作では、フォトリアル寄りの表現へ挑戦する一方で、GhMらしい奇抜なデザイン性も維持する必要があった。特に今回は、外部アーティストによるコンセプトアートをベースにしたものが多く、キャラクターごとにテイストも大きく異なっている。
キャラクターリーダーの鈴木童羽氏は、「2Dとしては成立していても、フォトリアル寄りの3Dモデルへ落とし込むと、立体として整合性がとれず難しかった」とふり返る。特に主人公のヘルメットのような複雑な構造をもつデザインでは、見た目の印象を維持しながら、内部構造と両立させる必要があったという。
制作では、仮モデル段階から本番に近いシルエットとジョイント位置を固めた状態でアニメーション制作へ受け渡し、その後ブラッシュアップを進行。アニメーションとの往復を前提にした制作フローが採られた。
また、本作ではPS5/Xbox Series X|S世代向けタイトルとして、ポリゴン数やテクスチャ容量の制約も大きく緩和された。そこで、キャラクターモデルでは高密度なディテール表現を実現するため、512ピクセル四方のタイリングノーマルを複数組み合わせるなど、リッチな質感表現にも取り組んでいる。中には1枚のテクスチャに2種類のノーマル情報を格納し、重ねて使用することでタイリング感を抑えているケースもあるという。
モーション制作でも、GhMらしい自由度の高い制作体制が採られている。モーションリーダーの石川武文氏は、「一般的にはプランナー側で細かくフレームを決めるケースも多いが、GhMではアニメーション側の裁量が大きい」と語る。企画側から提示されたキャラクター設定やコンセプトを基に、アニメーションチーム側で攻撃内容やリスト構成を検討し、プログラマーと連携しながら実装を進めていくスタイルだ。
特にエネミー制作では、須田氏からの「生っぽい感じ」というオーダーに沿って、キャラクターごとの“生態”を想像しながら、不気味さや気持ち悪さを感じさせる動きを追求。その一例として、一部の攻撃モーションでは、逆再生の動きをモーションキャプチャし、さらにその動きを逆再生して利用した。通常とは異なる身体の挙動によって、独特の違和感を生み出している。
フェイシャル制作では、NetEase Gamesの協力を受けた内製ツールも導入。MetaHumanのトポロジーをベースにしたフェイシャルリグを活用し、カットシーン制作とも連携しながら表情制作を進めていったという。
キャラクターモデル制作のポイント
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▲縦方向の切断モデル。断面形状がエネミーごとに大きく異なるため、多くは個別に制作されている -
▲横方向の切断モデル。こちらは共通断面を流用するケースが多い。出血エフェクトで視認しづらいこともあり、制作コスト削減にもつながっている
二層構造のヘルメット
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▲主人公ロミオが装備するヘルメット。山﨑氏によれば、NetEaseGames側からは「ヘルメットをシンプルにしてほしい」という要望もあったという -
▲内側の黒いヘルメット。ロミオのヘルメットは二層構造となっており、内部にも別形状のモデルが配置されている。鈴木氏は「2Dデザイン通りに制作すると頭部が大きくなりすぎるため、内側のモデルは変形を加えて収めている」と語る
高密度な質感を支えるテクスチャ構成
主人公ロミオの顔テクスチャの構成。
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▲HSC(HairMask、Scatter=Thickness、Cavity)マップ -
▲ディテールマップ。512×512のタイリングテクスチャを使用しており、R・GチャンネルとB・Aチャンネルへ異なるノーマル情報を格納。複数のディテールノーマルを重ねがけすることでタイリング感を抑えている
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▲ディテールマップのR・Gチャンネルに格納されている皮膚用ディテールノーマル。比較的若い皮膚表現に使用 -
▲ディテールマップのB・Aチャンネルに格納されている別パターンのディテールノーマル。こちらは年齢感のある皮膚表現に使用。キャラクターごとにそれぞれの適用比率を調整
半透明を使わない質感表現の工夫
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▲エネミー「ジェリーロッター」と、擬似半透明表現を適用した球体モデル。本キャラクターはジェル状の物質に覆われたデザインとなっているが、実際には負荷軽減のため半透明マテリアルを使用していない。外層ジオメトリをカメラ奥方向へ押し込む処理とディザリングを組み合わせることで、擬似的な半透明表現を実現している -
▲擬似半透明表現を無効化した状態。外層ジオメトリによる構造が確認できる
逆再生で演出する不気味なモーション
ガイコツ型エネミー「パニッシャー」のモーション制作例。モーションアクターに“逆再生用” の動きを演じてもらい、その収録データ(左列1〜6)をさらに右列1〜6のように逆再生して使用している。通常とは異なるタイミングや身体の挙動が生まれることで、生理的な不気味さを演出。
血飛沫表現へのこだわり
エネミーの流血エフェクトは、「剣の軌跡が接触した位置から血飛沫が発生するしくみとなっており、部位欠損のタイミングに合わせてNiagaraによる流血表現をアニメーション側で制御しています」(VFXアーティスト・チョウ シキン氏)。断面モデルは6パターンをベースに共通化しつつ、演出と負荷のバランスをとっている。
▲流血量は、須田氏の強いこだわりによって段階的に増量されていったという。山﨑氏は「普通のゲームと比べてもかなり多い量でしたが、須田からは『もっともっと!』とオーダーが入った」とふり返る
多彩な画づくりが共存する作品世界
制約を逆手に取ったGhMらしい画づくり
本作の特徴のひとつが、実写、ドット絵、コミック風演出、UIなど、多様なビジュアル表現を同居させた“アラカルト” な世界観だ。こうした表現の混在は従来のGhM作品にも通じる要素だが、本作では開発上の制約や工数調整も、新たな表現手法を生み出すきっかけになっている。
開発初期には、ひとつの街を探索するオープンワールド的なゲームプレイも構想されていた。しかし本作はタイムトラベルを題材としており、時代ごとに異なる街並みを制作する必要があったため、最終的にはステージクリア型の構成へ方針転換した。
背景リーダーの渡邉いずみ氏は、「基本的には現実ベースの世界観です。一部ではアセットストアも活用し、背景制作を効率化しています」と語る。一方で、拠点となる時空シップ「ラストナイト号」では、空間全体を服部グラフィクス氏によるピクセルアートで構成。3Dパートとは大きく異なるビジュアルによって、作品全体に独特なリズムを生み出している。
映像ディレクターの荒木琢真氏が手がけたオープニング映像では、開発初期に構想されていた街のジオラマを実際に制作し、コマ撮りアニメーションとして撮影。さらにゲーム中のカットシーンでは、漫画のコマ割りを思わせる演出も導入されている。工数面を考慮した手法でありながら、ストーリーごとに異なる画風を取り込める点も特徴となった。
UI制作では、外部デザイナーと連携した開発体制を採用。UIリーダーの平田美和氏は、「まず社内で最低限のモックを制作し、それを基にデザイナーへ発注しています」と説明する。UIは3Dアクションパートと、2Dドット絵による時空シップパートで大きくデザインを切り替えており、当初はより尖ったデザインも検討されていたが、最終的には視認性や操作性を重視したかたちへ調整されたという。
2Dデザインを基にした時空シップ制作
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▲2Dデザイン画を基に社内のコンセプトアーティストが起こした3Dデザイン画 -
▲3Dデザイン画をベースに背景チームが仕上げた完成モデル。渡邉氏によれば、2Dデザインをそのまま立体化するのではなく、3D空間内での陰影や情報量を再設計しながら制作を進めたという。また、巨大アセットをゲーム内で動作させるため、スタティックメッシュ化とBlueprint制御も導入している
ブロック生成で演出する亜空間
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▲主人公ロミオが時空移動の過程で訪れる異常空間「亜空間」の開発中画面。現実世界とは異なる不安定な空間として設計されており、移動に合わせて足場となるブロックが組み上がっていく構造を採用している。須田氏からは「現実離れした空間にしたい」というオーダーがあったという -
▲開発中の亜空間。植物やライティングも含め、“居心地の良い異空間” を目指して調整が進められた
時空シップ内のピクセルアート
当初、時空シップ内部は3D空間として制作する予定だったが、工数面を考慮し、最終的には服部グラフィクス氏によるピクセルアートの表現へ方針転換。結果として、本作の“アラカルト” な世界観を象徴するパートのひとつとなった。
ボクセル化で演出する亜空間への遷移
亜空間への出入り時には、キャラクターがボクセル状に分解・再構築される演出を導入。企画、背景、エフェクト各セクションが連携しながら制作が進められた。
実写ジオラマを活用したオープニング演出
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▲オープニング映像用に制作されたジオラマの撮影風景。マクロレンズを用いたクレーン撮影によって、巨大都市を見下ろしているようなスケール感を演出している。ジオラマ制作は、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』第3村のジオラマ制作を手がけた外部スタッフが担当した -
▲ジオラマ全景
漫画表現を活かしたモーションコミック
漫画のコマ割りをベースに展開するカットシーン「モーションコミック」。本作では、イラストにAEによるカメラワークや演出を加えることで、多彩な画風のカットシーンを制作している。
世界観ごとに切り替わるUIデザイン
本作のUIは、ゲーム内のシチュエーションごとに大きくデザインテイストを切り替えている。一方で、視認性やローカライズ対応も重視されており、実装面では実用性との両立も図られた。
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▲ミニゲーム「デッドギア・キャノンボール」のUI。1980年代ゲームを思わせるビジュアルで設計されている -
▲ビジュアルノベル風のUI。3Dアクションパートとは異なるテイストを導入することで、本作ならではの多彩な世界観を演出
CGWORLD 2026年7月号 vol.335
特集:『スマスロ ミリオンゴッド-神々の軌跡-』
判型:A4ワイド
総ページ数:118
発売日:2026年6月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada