話題沸騰中のアイドルグループ iLiFE!の『メロメラ』MV。昨年12月にYouTubeで公開され、約半年で1,000万回再生を突破した話題作だ。楽曲のテーマである恋愛の駆け引きをカーレースに置き換え、メンバー9人それぞれの個性を宿した「バディレーサー」たちが宇宙空間のコースを疾走する。
バーチャル空間でくり広げられるメンバーたちのライブパフォーマンスと、フルCGによるレースシーン。この2つを巧みなエディットで一体化させた本作は、CG・VFXを全面的に活用したアイドルMVとして斬新なビジュアルを実現している。
そんなMVを手がけたのはKASSEN。設立当初からCG・VFXプロダクションの範疇を超えた作風と活動領域で注目を集めてきた同社だが、本作では企画演出から撮影、CG・VFX、編集、グレーディングまで、制作全体をKASSENが一貫して担ったという。多才なアーティストたちが高いモチベーションの下、短期集中で作り込んだ本作の舞台裏に迫った。
Director : Takahiro Ota (KASSEN)
VFX Supervisor / Online : Kai Inoue (KASSEN)
CG Director : wanoco4D (KASSEN), Kentaro Kanaya (KASSEN)
CG Artist : Ishida (KASSEN), Kakuto Shimizu (KASSEN), Masaya Mihara (KASSEN)
CG Animator : Hana Setogawa (KASSEN), Tsumugi
FX Artist : Eichi Murata (KASSEN), Taisei Nakamura (KASSEN)
Modeler : Aoi Yamasaki (KASSEN), Rikito Shibata (KASSEN), Hidenori Ikito (KASSEN), Ryuichi Iwata, Yuta Ito (WACHAJACK), lobolabo, Sorashido Work, MSBH
Technical Artist : Yu Heying (KASSEN), Hiroyuki Kishimoto (KASSEN)
Compositor : Tomoyo Akiyama (KASSEN)
Graphic Designer : Kai Inoue (KASSEN), Mimi Shiota (KASSEN)
Character Designer : Ishida (KASSEN)
Motion Graphics : Toyoda Keitaro (KASSEN), Asaka Kishida, Kai Inoue (KASSEN)
Matchmove : Naoki Korematsu (CGSLAB), Maison COMADO
Rotoscope : No.1 Graphics Inc.
Director of Photography : Ryota Shimomura (THE ONE.)
1st AC : Ryoutaro Ishihara (85mm)
2nd AC : Yuki Ishibashi
3rd AC : Kohei Sagawa
DIT : Kosuke Sato
Key Grip : Tsugumi Kudo (FineFilms)
Grip Assistant : Ko Kumazawa (FineFilms), Hiroki Kato (FineFilms)
Lighting Director : Yosuke Fujita
1st Lighting Assistant : Tatsuki Sato (PICTCORE)
2nd Lighting Assistant : Natsuru Chiba (PICTCORE), Yu Kawamura (PICTCORE), Kaho Nishitani (PICTCORE), Yota Nomura, Kodai Nagashima
Light board Operator : Masayuki Sugino
Light board Assistant : Motoki Takenaka
Chroma Key Screen Support : Hiroyuki Morita (MAGIC HAND Inc.), Shu Morozumi (MAGIC HAND Inc.), Masayuki Okada (MAGIC HAND Inc.), Yoshiaki Ishikawa (MAGIC HAND Inc.)
Shooting STUDIO : YELLǑW STUDIǑ
Shooting Producer : Yusaku Nakagawa (MOMENTUM)
Assistant Shooting Producer : Daiki Sasahara (KASSEN)
Shooting Assistant Director : Yosuke Mimori
Production Assistant : Seitaro Ono (KASSEN), Shuma Terasaka (KASSEN), Kanako Oi (KASSEN)
Edit : Kaho Kumagai (KASSEN)
Color Grading : Kai Inoue (KASSEN)
Sound Designer : Hiroto Fukuyama
Producer : Takahiko ‘AMIJAK’ (KASSEN)
VFX Producer : Moeka Nakamura (KASSEN)
Production Manager : Luke Kamata (KASSEN)
Creative Studio : KASSEN
学生時代に思い描いた、プロダクション像そのものだった
——まずは皆さんの自己紹介と、本作で担当された役割を教えてください。
ディレクター 太田貴寛(以下、太田):
KASSENの太田です。これまでVFXスーパーバイザーとして実写VFXを中心にキャリアを積んできましたが、近年はディレクションも手がけるようになりました。本作では監督を務めつつ、
VFXスーパーバイザー/オンライン編集 井上 櫂(以下、井上):
井上です。データフローなど技術面の設計を見つつ、オンライン編集を担当しました。さらに、劇中のモーショングラフィックスやレーシングカーに貼るデカールなど、グラフィックデザイン周りも手がけています。
CGディレクター 和野公星(以下、和野):
和野です。本作ではレーシングカーとレースコースの制作を中心に、終盤に登場する破壊表現も担当しました。
CGディレクター 金谷健太郎(以下、金谷):
金谷です。iLiFE!さんのパフォーマンスシーン、いわゆる実写VFXパートのショットワーク全般を担当しました。あわせて、本作用のパイプラインやツールの整備も行なっています。
CGアーティスト 石田(以下、石田):
石田です。本業はイラストレーターで、キャラクター系のデザインが得意分野です。本作ではiLiFE!さんのバディとなるキャラクターのデザイン、モデリング、リギング、アニメーションまで全般的に担当しました。
CGアニメーター 脊戸川 花(以下、脊戸川):
脊戸川です。キャラクターアニメーションを担当しています。普段はMayaをメインツールにしているのですが、仕事でBlenderを使って動きを付けたのは今回が初めてでした。
FXアーティスト 村田英知(以下、村田):
村田です。Houdiniを使って、レースシーン中盤の見せ場となる路面が凍結するエフェクトと、後半のパフォーマンスシーンに登場する花火のエフェクトを担当しました。
-
太田貴寛/Takahiro Ota
Director
@OTA_MOV -
井上 櫂/Kai Inoue
VFX Supervisor / Online
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和野公星/Kosei Wano
CG Director
@wanoco4D -
金谷健太郎/Kentaro Kanaya
CG Director
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Ishida/石田
CG Artist
@segu_ishida -
脊戸川 花/Hana Setogawa
CG Animator
-
村田英知/Eichi Murata
FX Artist
@xnsinfulcloud
——皆さん、担当領域がかなり幅広いですね。
太田:
KASSENには複数の技能をもったメンバーが多数在籍しています。
映画やシリーズ作品といった大きな案件では分業制をとることが多いですが、今回のようなMVは短期集中型になるので、各スタッフの強みを引き出すためにもゼネラリストとして取り組んでもらいました。
和野:
短い期間だったこともあって、レーシングカーはカメラワークとコース作りとキャラクターアニメーションを同時に考えないと成立しませんでした。誰かがコース(背景セット)を作ったら、次の人がコースに合わせてレーシングカーを作るといった進め方だと納期に間に合わせられなかったはず。そこで、各自が得意とする領域を兼務するかたちに自然となりました。
井上:
企画の段階から、みんながその日の仕事が終わったら集まって、「自分はここを担当したい」というように、得意なことややりたいことをああだこうだと自由に言い合って、それを太田さんが取りまとめてくれた感じです。
KASSENには、学生時代にひとりで自主制作を中心に作品をつくってきたスタッフが多くて、彼らはプロになってからチームプレーや分業のノウハウを身に付けてきました。
普段の仕事では作品の一部分を担当することがほとんどなので、企画から完成まで自分たちでつくれた今回は、学生時代に思い描いていたプロダクション像そのものでした。
——全体的なスケジュールを教えてください。
太田:
企画がスタートしたのが2025年10月で、パフォーマンスシーンの実写撮影を2025年11月下旬に行い、完成したのが12月のクリスマス直前でした。カレンダー上は2ヶ月ほどありますが、実際に作業に費やせた期間は1ヶ月ほどだったと思います。
デザインワークやアセット制作は撮影前から進めていたものの、実写パートを撮ってみないと最終的なデザインを固めることも、本格的に画づくりを進めることも難しい部分が多々あるので。みんなで集中的に取り組んでいたのは1ヶ月ちょいのはずですが、その限られた期間でやりきりました。
井上:
レース場などの背景セットは撮影が終わってから作り始めたので、ショットワークは実質1ヶ月だったと思います。
恋愛バトルを、宇宙規模のレースで表現
——どのようなご縁で、本作を担当されることになったのですか?
太田:
2025年の夏頃に、iLiFE!さんの事務所から直接メールでご相談をいただいたのがきっかけです。ご一緒するのは今回が初めてでしたが、KASSENが携わってきたものをご覧になって興味をもってくださったことからのオファーでした。
——それは創り手としては嬉しいですね。
太田:
本当にそう思います。そして今回は、「『メロメラ』という楽曲のミュージックビデオをつくってほしい」というとてもシンプルなオーダーでした。だから、ビジュアルコンセプトや演出もKASSENから積極的に提案させていただきました。
——さらに今回は、CG・VFXをはじめとするポストプロダクションだけでなく、実写撮影の仕切りなど制作全般をKASSENで請け負われたそうですね。
太田:
はい。「KP(KASSEN Production)」として、文字通り企画から完成までの全ての工程をKASSENで担当させていただきました。
KASSENは設立当初から、CGプロダクションやポスプロの範疇に止まらず、機会があれば積極的に新たなことへ挑戦し続けています。その過程で方針に賛同してくれたディレクターやシネマトグラファー、プロデューサーが在籍している点も特徴です。
ただ「プロダクション」と名乗ると、普段お仕事をいただいている制作会社さんと活動領域がバッティングしてしまう懸念がありました。加えて、映像制作全体のプロデュースとなると経験が足りなかったこともあり、これまで「KP」と名乗ることはありませんでした。
ですが現在の映像制作では、CGやVFXが絡まないプロジェクトの方が少ない状況です。僕たち自身も様々なノウハウを蓄積してきたので、本作のようなCG・VFX要素の多い案件だからこそ「KP」を打ち出すことにしました。
——本作は企画・演出からご担当されたとのことですが、どのように決めていきましたか?
太田:
この取材に参加しているメンバーが中心になって、「アイドルたちが、どんなことをすれば面白い表現になりそうか?」といったことを話し合いました。
ここで大きかったのは、今回は自分たちで全ての工程を担当するので、CGで表現するか、実写・美術で表現するかを、部署間の都合ではなく作品にとって最適かどうかという基準でフラットに考えられたことです。
例えば、制作全般を担うプロダクションとCG・VFXプロダクションが別々の場合、「なるべく美術でセットを作り込んでCG合成を少なくする」、逆に「撮影は全編グリーンバックでセットも最小限にして、CGで作り込む」といった綱引きが往々にして発生します。
ですが今回は、それがありませんでした。「できるだけ効率的に自分たちが目指すビジュアルを創り出すにはどうすれば良いのか」ということを、かなりフラットに、初期の段階で議論できました。
——そこから「恋愛バトルをカーレースで表現する」というアイデアが生まれたわけですか?
太田:
そうとも言えますね。ただ、iLiFE!メンバーが実際にレースをするとなると、撮影時にハンドルなどレース用の何かを美術スタッフさんに作っていただく必要が生じてしまいます。ですから、基本的に彼女たちにはライブパフォーマンスをしてもらうという点は最初に決めていました。
その上で、レースシーンはフルCGで描くことにしました。和野や石田など、キャラクター表現を得意とするスタッフが参加してくれましたし、実は乗り物のレース表現には、キャラクターアニメーションの工数を比較的抑えられるという利点があるんです。運転しているキャラクターは、下半身の動きを最小限にできるので。
和野:
レーシングカーは、金谷くんのアイデアでした。KASSEN的には、まったくやったことがない表現よりも、これまでに似た表現を手がけたことがあるほうが色々な算段を立てやすいというメリットもあります。
金谷:
和野さんは乗り物表現もキャラクター表現も得意です。僕はどちらかというと実写VFXを得意にしているので、お互いの強みを掛け合わせられるのではないかと考えました。
——アイドルMVならではの“作法”のようなものはありませんでしたか?
太田:
それは色々とありました。アイドルMV特有の決まりごとがわりとあって、それに詳しいスタッフが社内に何人かいたことにすごく救われました。
1番大きかったのは、ファンの方はメンバーの映像を見たいからミュージックビデオを見るということです。iLiFE!メンバーのカットとそれ以外のカットの配分は8:2ぐらいをキープすることを、制作中は意識し続けていました。
ほかにも、iLiFE!のメンバーは9人いますが、ひとりひとりの扱いを平等にする必要もありました。
何か1つの演技をする場合も、ワンカットで9人が同時に行なうようにしたり、ひとりずつ、3人ずつとカットを分けつつも同じ演技をインサートしたりすることを徹底しました。もちろん、単調に見えないようにカッティングにもこだわりましたし、メンバーのライブシーンとフルCGのレースシーンの構成にもこだわりました。
メンバーカラーから裏設定まで。細部に遊び心を凝らす
——キャラクターデザインは、どのように進めていきましたか?
石田:
最初はスケジュールや工数を考慮して、キャラクターは共通のヒト型にした方がいいんじゃないかと太田さんに提案しました。
ところが太田さんから、「いや、宇宙にいるんだからエイリアンにしよう。各メンバーの個性を反映した多様性のあるエイリアンとしてデザインしてほしい」というオーダーをいただき、形状もサイズもまったく異なるエイリアンを、メンバーひとりにつき1体ずつデザインしていきました。
太田:
先ほど「8:2」というお話をしましたが、全体の2割という尺でストーリーを丁寧に展開させるのは難しいだろうと思っていたんです。
キャラクター9体それぞれの見せ場は1度ぐらいになってしまう。だとしたら、その1度の出番でしっかりと個性を描く必要があります。そこで石田には、メンバーそれぞれの色と特徴をキャラクターデザインに込めてもらうようにしました。
——メンバーカラーは、どのようにキャラデザへ反映されましたか?
太田:
iLiFE!さんでは、赤色担当のメンバーの役割はこうだ、といったことがはっきりしているので、フル活用させてもらいました。
メンバーカラーに加え、このメンバーはご飯が好きとか、動物に喩えるならウサギ、クマなど、各メンバーのイメージが確立されている。そこが戦隊ヒーローものみたいで面白いなと。9人が並んだときの立ち姿が一枚画として成り立つようなバランスで考えていきました。
ただし、変なモチーフとリンクさせてファンの方がガッカリしてしまうことは避ける必要もあったので、各メンバーの特徴を引き継ぎつつポジティブな方向性にまとめることにも注意しました。
石田:
デザインは2Dから起こしています。それぞれのメンバーの個性を確認しながら、「赤色担当の心花りりちゃんはご飯が好きだから、レーシングカーは炊飯器みたいなデザインにしよう」といったアイデアをみんなで出し合い、一気に落とし込んだ感じです。
制作期間が短く、モデリングに精通している参加スタッフも限られていることを考慮して、なるべくモデリングしやすいシンプルなデザインにまとめることを心がけました。シンプルでありながらも、しっかりと可愛さを込めるという方針ですね。
——キャラクターデザインを詰めていく過程で、苦労したところはありましたか?
石田:
目のハイライトの具合や、水色担当・虹羽みにさんのバディレーサー「QUANTUM RATS」の胴体にくびれを付けるか付けないかといったところで、みんなの意見が分かれた記憶があります。
太田:
最終的にくびれを入れてもらいましたが、初期デザインはくびれのない丸いシルエットでした(上図を参照)。虹羽さんは小柄でグループ最年少ということで「ネズミ」をモチーフにデザインを考えていったのですが、オレンジ担当・小熊まむさんのバディレーサー「BIG MAX」のクマのデザインに近づきすぎてしまって。全体としてのバランスも考慮しながら調整を重ねていきました。
——バディレーサーという設定や名前は、どのように決めていきましたか?
石田:
私が最初にキャラクターデザインのスケッチを描いたときに、各キャラクターの名前とちょっとした設定を添えて提出したんです。
すると太田さんが「こんな設定を加えてみたら」と提案してくださったり、ほかのメンバーからも色々なアイデアを出してもらったりして、それらがデザインや設定に反映されていった感じです。
太田:
あれは楽しかったですね。メンバーの分身ではなく、バディレーサー(相棒)という位置づけで、各レーサーはどうしてこのレースに参加しているのかというバックボーンや特技、マシンの特徴といった設定を、みんなでアイデアを出しながらしっかりと作成しました。
個人的には『チキチキマシン猛レース』のようなイメージが頭の中にありました(笑)。MVの序盤にメンバーとバディレーサーを紹介するパートを設けていますが、各カットの左下に、それぞれの設定を小さく英語で載せています。ファンの方はコマ送りしながら翻訳して楽しんでくださったりもして、嬉しいですね。
細部にまで遊び心を凝らすことで、長く愛される作品になるのだと改めて実感しました。
目指したのは、宇宙で本当にライブをやっている中継映像
——本作は、宇宙空間に浮かぶスタジアムがメイン舞台です。この世界観は、どのように設計されましたか?
太田:
iLiFE!さんは昨年8月に初の日本武道館ワンマンライブ『ONELiFE!』を開催されるなど、どんどん活動の規模が大きくなっていたタイミングでリリースされたのが『メロメラ』でした。
そんな彼女たちの勢いを象徴すべく、宇宙にあるでっかいスタジアムでライブパフォーマンスする姿を描こうと。さらに、このMVだけのためにデザインするというよりは、多くの人気アーティストがコンサートを行う、宇宙を代表するスタジアムであるという設定の下、リアリティにもこだわりながらデザインしていきました。
金谷:
こういうステージものは、画面に対して床が映る面積が多くなってくるものです。そうなってきたときに、床をどう見せるのかが大事だと思っていて。俯瞰的な視点ではなく、実写カメラの構図から捉えたときにどう見えるのかを常に考えながら作成していきました。
——ルックについてはいかがですか?
金谷:
太田さんから要望としてあったのは「ライブ感」でした。実際のライブ映像って、生感があるというか、良い意味でルックがあまり調整されていなくてフレームレートが高いシャープな見た目で、色もパキッとしています。そういう生感を画に込めたいと、ずっとおっしゃっていました。
CGベースでMVをつくるとシネマティックな見え方になりがちですが、『メロメラ』MVで目指したのは、本当に宇宙でライブをやっている中継映像のようなビジュアルでした。そこで、ムービングライトやフォグなどのステージ演出も、実際のライブ映像を意識しながらコンポジットワークで調整していきました。
——3DCGワークでは、レンダラは何を使われましたか?
金谷:
今回は、一部の3Dエフェクト以外はBlenderでショットワークを行いました。実写合成パートであるライブシーンはCyclesを、フルCGパートのレースシーンはEEVEEを利用しています。
先ほどお話ししたように、ライブシーン用の背景セットは実写撮影を終えてからつくり始めることになったため、本当に時間がありませんでした(苦笑)。最初はEEVEEでやることも検討しましたが、Cyclesの方が実写合成における陰影などを追い込めるので、こちらを選びました。
KASSENでは、BlenderのレンダリングもDeadlineを使って社内のレンダーサーバーに投げられるワークフローをシステムの方が構築してくださっているので、限られた期間でなんとか間に合わせることができました。
——ライブパートはショット数も多いですが、どのような効率化を行いましたか?
金谷:
ライブパートは、宇宙のスタジアムという共通のエンバイロンメントを基準に画づくりを行なっていきます。そのため、ベースとなるシーンさえつくってしまえば、あとはベースシーンのカメラやライティングを読み込むことで、ある程度は自動化できることが大きかったですね。
その意味では、エンバイロンメントにどれだけ汎用性をもたせられるのかが大事です。そこさえ担保できれば、ライブプレート(実写素材)のカメラトラッキングデータと各ショットの設定を自動的に読み込み、Blenderシーンとして展開する仕組みを構築することで、ショットごとにイチから画づくりを行う手間を省けます。
過去案件で構築したパイプラインをカスタマイズすることで、それを実現しました。ライブシーンは自動化を利用してショットを量産し、それと並行して、厳選したフルCGカットを作り込んでいく。そういう要領でショットワークを進めていきました。
——今回は、ライブパートの全ショットで固有のCGカメラを設定されたそうですね。
金谷:
この点が、通常のワークフローと大きく異なるところだと思います。
今回は、汎用素材では対応しにくい独特なカメラアングルのカットが多かったため、ショットごとにカメラを用意してレンダリングしました。また、3Dカメラトラッキングが難しいカットについては、2Dトラッキングでカメラワークを追い込みました。
複数ショットで共有する汎用素材については、1フレームだけレンダリングしたものを書き出して、Flame側で調整してもらいました。その意味では工数が増えましたが、この方が整合性を取れるので、画としての一体感は高められたと思います。
井上:
レンダー素材も全ショットでカメラの原点が揃っているので、ポジションマップなども基本的には流用できるようにしていました。こうすることで、コンポジットワークも効率化できました。
物理演算もベイクもなし。キーフレームだけで見せる破壊表現
——今回、Blenderをメインツールにされた理由を教えてください。
和野:
まず、参加スタッフにBlenderを使い慣れている人が多かったことですね。
それに加えて今回は、普段Mayaで作業されている実力派アニメーターの脊戸川さんが参加してくれたので、Blenderの難点に挙げられがちなアニメーション周りの課題に、この機会に本格的に取り組んでみようというチャレンジもありました。
Mayaをメインツールとするアニメーターが使いやすい環境を用意できれば、改善につなげられると考えたんです。
脊戸川:
最初にお話したとおり、普段はMayaメインなんですけど、今回は作業期間が短いことから、和野さんたちがMayaのアニメーションレイヤーと同様の動作をするツールなどを用意してくれました。
Mayaに近い操作環境を整えていただけたので、特に苦労することなく動きを付けることができました。
和野:
アニメーションレイヤーをどのように使っているのか教えてもらいながら、逆に本流のアニメーションの付け方を僕らBlender使いも勉強するという感じで開発を進めました。
——キャラクターリグはどのように組まれたのですか?
石田:
キャラクターのリグは、Blender標準のRigifyを利用しました。
和野:
個人的に新鮮だったのは、脊戸川さんがメインで担当されたBIG MAXの動きですね。
すごくシンプルな丸いシルエットなので、普通に腕を曲げると歪な形になりがちなんですよ。そこで脊戸川さんは、Rigifyの補助ボーンを使って、腕を曲げたときに関節の位置を少しずらすという調整をされていて。
僕は普段リアル系のヒト型ばかり作っているので、そういった動かし方はあり得ないだろうと思って使っていなかったんですけど、脊戸川さんが動きを付けると劇的に画が良くなるんですよ。シルエットで整えるという発想がなかったので、勉強になりました。
——後半に登場する、BIG MAXがコースをパンチで割るという大がかりな破壊表現が印象的でした。
和野:
あれは僕がBlenderで実装しやすい範囲で作り貯めていた、ジオメトリノードを用いたお手軽破壊ツールでつくりました。
肝は、Destruction Timeというものを仕込んでおき、時間を進めるとまず破片が領域で分かれ、ある時間を過ぎたら分離して飛んでいくように設定している点ですね。
そこにキーフレームを打つことで、物理演算も逐次計算もせずにパンチの衝撃でレーシングコースを構成する破片が飛び散っていくように見せる仕組みです。
ベイクが不要なので緩急も付けられますし、最終的な壊れ具合から逆算してつくることもできます。いかに少ない変数で複雑な破壊表現に仕上げられるかという設計思想ですね。
——ルックの面ではどのような調整を行なったのでしょうか。
和野:
破片のマテリアルは普段だとコンクリートなんですけど、入力するオブジェクトは自由に設定できるんです。今回はアイドルMVなのでメルヘンな雰囲気が大事かなと思い、レインボーロード的なトーンで破片がキラキラ光るように調整しました。
あとは壊れやすさをテクスチャで表現していて、均等な質感というよりは、木材みたいな指向性のある壊れ方をしてほしいという調整をしています。破壊表現自体は概ね1日でつくることができました。
脊戸川:
あのシーンのBIG MAXのアニメーションも私が付けています。
アニメーター側ではタイミングを調整するだけで、ものすごくクオリティの高い破壊表現が出来上がったので驚きました。
通常のワークフローだと、アニメーターはプリミティブなオブジェクトを使ってキャラクターの動きを付けたら、「あとはお願いします」という感じなので。
和野:
そうでした。僕がトランスフォームを付けたわけではないので、その意味では、僕が仕込んだ破壊ツールは一種のリグと言えるかもしれません。
——Houdiniによるエフェクトワークについてもお聞かせください。
井上:
Blenderをメインツールとするスタッフはどちらかというとゼネラリストなので、大がかりなエフェクトについては村田くんにHoudiniでつくってもらいました。
村田:
僕が担当したのは、中盤で白色担当・あいすさんのバディレーサー「FROST M ICE」が発射したアイスクリーム弾で路面が凍結するエフェクトと、クライマックスでライブパートの背景に打ち上がる花火のエフェクトです。
ちなみに、マフラーから出ている炎や火花などは和野さんがBlenderで作られたもので、大きなエフェクトを僕の方で担当しました。
凍結エフェクトは、地面に広がっていく氷、画面奥に出てくる氷の柱、空中に舞っている雪片というように、各要素を個別のノードツリーで作っています。
凍結した路面の走行痕は、凹みだけHoudiniで作っておき、そこに重ねる走行痕はコンポジットワークで合成してもらいました。
——花火エフェクトは、どのように?
村田:
花火は数が多いので、プロシージャルな仕組みをフル活用しました。300フレームぐらいの長尺でシミュレーションを作って、それをカットごとにオフセットして使っています。アングルが違うカメラでオフセットをかければ、まったく別の見え方になるように工夫しました。
花火の表現をつくったのは今回が初めてですが、まばらに爆発するポイントシミュレーションなど同様の表現はよくつくっていたので、特に悩むことはありませんでした。
金谷:
TIPS的なトピックとして、HoudiniからUSDでポイントキャッシュを書き出してBlenderに読み込むと、めちゃくちゃ軽いデータとして扱えるんですよ。それこそ、リアルタイムで再生できるぐらいの速度が出ます。
今回も村田くんに作ってもらったポイントキャッシュをBlenderに読み込み、発光的なマテリアルをアサインして、照り返しの表現を加えています。メッシュにするとハイポリすぎて動作が重くなってしまいますが、ポイントの状態なら軽い。Intensityなどの情報も属性として持たせることができるので、発光エフェクトの照り返しを表現するには最適なワークフローだと思います。
全ショットでリライティング。Blender上で人物の肌に光を乗せる
——実写撮影については、どのような事前検証を行いましたか?
太田:
特別な検証はしていません。今までの経験でやったというのが正直なところです。
撮影は、iLiFE!さんがよく利用されている横浜のイエロースタジオ(現A STUDIO)で行いました。
撮影ステージは、彼女たちがパフォーマンスのために広がったら横幅いっぱいという大きさでした。ですが結果的に、カメラトラッキングをしっかりと行えば、このステージで全シーンを撮影できたので、効率良く撮ることができました。
——撮影スケジュールを教えてください。
太田:
1日で撮りきりました。メインのスタジアムシーンとエレベーターのシーンとでセッティングを変更する時間が必要でしたし、TikTok用の撮影も行なったので本当に限られた時間でしたが、CG・VFXワークで画づくりを行う方針だったので、実写撮影では必須のものだけを撮ることを徹底しました。
エレベーターのシーンでは、少し特殊な撮り方をしました。舞台を数十センチほど高くしてもらい、上昇感を演出するために縦方向に動く照明を仕込みました。Blenderユーザーなら誰もが知っているIan Hubertの『Dynamo Dream』ティザーに着想を得た手法です。
——グリーンバックで撮影したライブプレートの品質が非常に高い印象を受けました。
太田:
合成幕のクオリティに定評あるマジックハンドさんにご協力いただきました。
グリーンバックなどの合成幕は照明部が用意する習慣がありますが、照明部の方々もクロマキー専門で活動されているわけではありません。
合成幕はくり返し使われるものなのでしっかりとクリーニングする必要がありますし、幕を張るときにシワを伸ばして均等に綺麗に設置できているかどうかで、キーイングの精度が大きく変わってきます。
最近は難易度の高い複雑な合成が求められる現場が増えていることから、マジックハンドさんのような会社が生まれたのだと思います。
井上:
実際、今回のグリーンバック素材のクオリティは良かったですね。キーイング作業は最小限で済みました。
——ライブ感を意識されたとのことですが、実写撮影のカメラワークにおける工夫を教えてください。
太田:
iLiFE!さんは普段、正面と裏面のあるフォーメーションでパフォーマンスされていて、『メロメラ』の振りにも採用されています。
わかりやすさも必要だったので、基本的には正面を向いた状態でパフォーマンスしてもらいつつ、スタジアムの円形のステージデザインを活かして、クレーンによる円を描くようなカメラワークを積極的に使いました。
先ほどエレベーターのシーンでは舞台を少し高くしたとお話ししましたが、数十センチだけ上げたことでローアングルに入れるようになり、エレベーターが上昇する印象を高めることができました。ライブ感を込めるという意味でも、VFXでカメラワークを変えたりはせず、撮影時のカメラワークを活かしています。
——ライブパートのショットワークでは、どのような画づくりを行いましたか?
金谷:
全ショットでリライティングを行いました。
リライティング作業を効率的に行うために、オープンソースのAIコードを利用してライブプレートからノーマルマップを生成しています。ほかにもKASSENには人物のマスクやリライト素材を生成するためのインハウスツールがあるので、それらも利用しました。
——本作特有の手法はありましたか?
金谷:
通常はNukeやFlameにノーマル素材を読み込んでリライティングを行いますが、今回はBlenderシーンに配置した板ポリに人物のライブプレートとマスク、そしてノーマルを読み込んで作業しました。
ライブプレートを表示した状態だと作業しづらいので、その部分だけ白い板ポリの表示にして、そこにノーマル情報が反映されたCGライトの結果が乗った素材をレンダリングし、コンポジット工程に渡すようにしています。先ほどお話しした花火の照り返しも同じ手法です。
ショット数が多いので、シーンやショットナンバーを指定すれば自動的に読み込まれる仕組みを構築しました。実は当初、太田さんから「全カットでリライティングしたい」と言われたときは「マジか……」と思ったんですけど(笑)、この仕組みで対応できました。
井上:
この手法は、ムービングライトのアニメーションがそのままリライト素材にも乗ってくることが利点でした。
オンライン編集も、カット数が多いので最初の段階では汎用的なセットアップに注力しました。汎用的なカットでルックを作り切ってから、ほかのカットに適用していく。マスクとベースコンプさえあれば、ほぼ調整なしで追い込めるものを用意しています。
各メンバーの単身ショットも9人分を個別につくるのではなく、Flameのバッチ内でメンバーカラーを指定すれば、そのカラーのルックになる仕組みを構築しました。
——アイドルMVならではの画づくりについてもお聞かせください。
井上:
フェイストーンはかなり詰めましたね。オンライン編集の最終日に太田さんとふたりで肌色を整えたことで、可愛らしさを高めることができたと思います。
太田:
この調整がとてもシビアでした。可愛さを各パラメータの数値に置き換えていくわけですが、わずかな変更で印象が変わってしまうので。
ほかにも、各メンバーの固有色を意識した画づくりが重要でした。グリーンキャンセルした状態だと色がけっこう転んでしまうので、井上にFlameでめちゃめちゃ調整してもらいました。
実写撮影時にリファレンスを撮っておくといった工夫が大事だなと思いました。
KASSEN内で完結したことで、ものづくりの本質に向き合うことができた
——公開後の反響はいかがでしたか。
太田:
おかげさまで再生回数も伸び続けて、公開から半年ほどで1,000万回を突破しました。その後もiLiFE!さんのMVを継続して担当させていただいているので、しっかりとご期待に応えていくつもりです。
——最後に、それぞれのお立場から総括のコメントをお願いします。
井上:
企画の段階からみんなのやりたいことや得意なことを、ちゃんと最後まで発揮できたのが何よりも嬉しかったです。
KASSEN内で全ての工程が完結していたので提案もしやすく、その空気感も含めてすごく意義のあるプロジェクトでした。
和野:
アイドルMVとしてはかなり特殊なテイストだと思いますが、長い目で見ると、iLiFE!さんの新たな一面を提示できたんじゃないかなと。
僕自身はもちろん、参加した全スタッフが新しい知見を得られた良いプロジェクトでした。
脊戸川:
新しいチャレンジを色々と実践できて楽しかったです。BIG MAXがパンチでコースを破壊するショットのアニメーション作業では、Blenderならではの強みを実感できました。
石田:
今回、KASSEN内で初めてアートディレクションというか、キャラクターのデザインからショットワークまで一括して担当できたのが、すごく楽しくて。とても良い仕事だなと思いました。このような機会を、これからもねらっていきます。
金谷:
実作業面でありがたかったのが、Blenderがバージョン5.0でマルチパートEXRに対応して、EXRファイルの読み込みが早くなったことでした。あれがなかったら、多分、納期に間に合わなかったかもしれません。意外と知らない人がまだ多い印象なので、この記事で知った方はぜひ試してみてください。
プロジェクトとしては、文化祭みたいなノリがすごく楽しかったです。
村田:
ひさしぶりに夜な夜なエフェクトを作り込むことに専念できたのが、楽しかったです。
終始、お互いに意見を言いやすい雰囲気で、みんなで考えるという進め方だったことが、作業の効率化にもつながった気がします。
太田:
分業された制作体制では、どうしても自分の担当領域に意識が集中してしまい、作品全体を見渡しながらものづくりをする機会は少なくなりがちです。
仕事なので好き勝手にはできませんが、自分たちがつくったと胸を張れるものをつくる経験はすごく大事だと思っていて、この作品はみんなで良いものをつくったと胸を張れるものになりました。
今回は企画から携わることができ、最初から最後までKASSEN内で完結できたことが、ひとつのステップアップにもなりました。
——ありがとうございました。今後のご活躍にも期待しています!
INTERVIEW & EDIT_NUMAKURA Arihito