駅ナカや商業施設で存在感を増すカプセルトイ。コロナ禍に実店舗と独自流通網を広げてきた。そんな中、高いアート性と技術力でアート雑貨ファンの人気を集めているのがケンエレファントだ。年間、100種類以上のカプセルトイを発売する中から、今回は「宮下サトシ アートピースコレクション」&「ザリガニボーイズ フィギュアコレクション」のデジタル造形によるメイキングを紹介する。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 338(2026年10月号)からの転載となります。

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    宮下サトシ アートピースコレクション

    陶器の質感をトイで表現、4体4様のアプローチ

    ここで紹介するのは陶芸家・彫刻家である宮下サトシ氏とのコラボレーション作品「宮下サトシ アートピースコレクション」。宮下氏は海外のクラシックアニメやカートゥーンの影響を色濃く受けた、ポップでサイケデリックな世界観を陶芸で表現している作家で、その陶芸作品のもち味がそのままミニチュア化されている。

    ラインナップは「PUN( プン)」「PAGLIACCI(パリアッチ)」「BUDDY(バディ)」「MOLN(モルン)」の全4種。実はこの4体、基となるデータ形式も立体化のアプローチもそれぞれ異なる。ここでは、その使い分けに注目しながらフィギュア事業部のメイキングを追う。

    ケンエレファント

    「世界を面白くする」を経営理念に掲げ、カプセルトイ、ソフビ人形、アップサイクル活動、出版事業などの分野で活動。なお、ケンエレファントのカプセルトイショップ「KENELE STAND」は現在、秋葉原、新橋駅などで15店舗を展開。
    kenelestore.jp

    まず、プンは提供されたイラスト素材に近い角度で、Rhinocerosでアタリをつくり、ZBrushでディテールを詰めている。また、パリアッチは実物の作品が存在するが、少しひねりが利いている。フィギュア化したのは原作の頭部のみで、そこに蝶をあしらうアレンジを加えた。さらに、バディも実物のオブジェが存在したため、方針は忠実再現。Rhinocerosで基本形状を組み、ZBrushに読み込んで細部をつくり込み、原作の雰囲気をデジタル原型へ落とし込んだ。

    一方、壺のようなボディのモルンは、Fusionの回転体で形状を起こし、フィレットで角を丸めて基本形状を制作した後、ZBrushでキャラクターと表面の質感を追加する。入り口はバラバラでも、最後は同じ棚に並ぶ4体。陶器作品と見比べながら質感を合わせ込むのに苦労したという。

    写真左より、原型師・N.I氏・開発造形上長・小嶋喜徳氏・原型師・林 諒多氏、原型師・福増竜馬氏、原型師・本広英二氏(以上、ケンエレファント フィギュア事業部)

    原型データが完成したらその後のフローは4体とも同様。社内のPhrozen製の3Dプリンタで出力し、ヤスリがけと白いサーフェイサー(下地塗料)で下地を整えて着彩へ。色は作家との色決めを入念なミーティングで詰め、部位ごとに色見本の国際規格であるPANTONEによる色指定を受けて、それらを混ぜ合わせて塗る。市販の塗料では作家特有の色が出せないため、ほぼ全色を調色して臨む。

    目指すのは「陶器のような触り心地」だ。複雑な柄には自作のデカール(水転写シートなどの転写シール)を使うが、透明デカールは、通常のプリンタでは下地の色が透けてしまう。そこでホワイトインク搭載の「CMYW」仕様プリンタで白を敷いてから刷り、濃色パーツの上でも狂いのない発色を実現。ここまでを1人の原型師が一貫して手がけるというから、恐れ入る。

    陶芸家・彫刻家として活躍している宮下サトシ氏。1992年東京都生まれ。海外のクラシックアニメーションにインスピレーションを受けた、自由に変形するフォルムと、生命の気配を感じさせる独自の形が魅力の、いま注目の作家だ
    ©Satoshi Miyashita

    カプセルトイ「宮下サトシ アートピースコレクション」の4体

    ラインナップは全4種。

    • ▲PUN(プン)
    • ▲PAGLIACCI (パリアッチ)
    • ▲BUDDY(バディ)
    • ▲MOLN(モルン)

    イラスト素材からつくられたプン

    ▲Rhinocerosでアタリを制作
    • ▲ZBrushでつくり込み。Moveブラシを中心にCrease、DamStandard、Clayブラシを補助的に使用して形状が仕上げられた
    • ▲プン、パリアッチ、バディの3体を担当したのは原型師のN.I氏。写真はプンの制作中の様子

    実際の作品から頭部だけをトイ化したパリアッチ

    • ▲パリアッチの陶芸作品。本来はもう少し大きいが、カプセルトイ化するにあたり頭部だけのデザインに変更
    • ▲Rhinocerosでの作業画面。デカールもRhinocerosで作成されている
    ▲ZBrushで、手で粘土を捻ったかのような微妙なニュアンスを再現

    実物を忠実に再現したバディ

    • ▲バディの陶芸作品
    • ▲Rhinocerosでの作業画面。陶芸作品の写真を下に敷いて、形状を合わせていく。なお、柄の元絵は細かすぎて再現不可能だったため、宮下氏に新規イラストを描いてもらい、デカールシールを基に工場でタンポ印刷(※)をしてもらうことで再現している
      ※曲面や凹凸のある製品にも印刷できる技術
    ▲同じく、ZBrushで細かなニュアンスを再現

    原画から起こされたモルン

    • ▲モルンの原画
    • ▲Fusion 360で壺のベースを起こす
    ▲ZBrushでキャラクター部分を作成。なお、このモルンのみ原型師の本広英二氏が担当

    3Dプリントとフィニッシュワーク

    • ▲ケンエレファント社内のPhrozen製3Dプリンタ
    • ▲制作したデカールの一例
    ▲フィニッシュワークの様子

    Point:ペイントマスターとは?

    ペイントマスターとは、版元監修や工場での量産時に見本となる、色味などのマスターサンプルのこと。ケンエレファントでは必ず「2セット」制作する。1セット目は量産時のクオリティ維持の最終見本として生産工場へ送られ、そのまま工場に保管されるため、基本的に手元には戻らない。また、2セット目は、注文書や案内用の写真撮影、工場から届くファーストサンプル、セカンドサンプルとの照合を行う「基準サンプル」として社内に残される。

    ちなみに、店頭ショーケースの見本はペイントマスターではなく量産品だ。「購入してみたら、飾ってあるサンプルとちがう」という落差を防ぐための配慮である。なお、写真は筆で細部を彩色している様子。

    No.3に続く。

    CGWORLD 2026年10月号 vol.338

    特集:アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:118
    発売日:2026年9月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_坂本ますく / Masuku Sakamoto
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada