Cygames企画によるオリジナルロボットアニメ『勇気爆発バーンブレイバーン』。監督の大張正己氏が得意とするロボットアニメらしいアクションと熱血なストーリーで大好評を博している。今回はアニメーション制作を担当しているCygamesPicturesのCG部に取材した。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 311(2024年7月号)からの転載となります。

    本作ではブレイバーンをはじめ、登場するロボットが3DCGで表現されているが、これらを制作したCG部は、3DCG歴3年未満の若手タッフが中心のチームだった。そんなスタッフたちが活躍できる環境やしくみを整えたのがCygamesPicturesのCG部のマネージャーでもある、3DCGディレクターの中野祥典氏だ。

    『勇気爆発バーンブレイバーン』
    2024年1~3月まで、TBS系28局にて放送
    U-NEXT、ABEMAほか、各種配信サービスにて配信中
    企画:Cygames/ 監督・ブレイバーンデザイン・音響監督:大張正己/ アニメーション制作:CygamesPictures
    bangbravern.com

    若手中心のチームで制作、監督へのリスペクトが制作の重要なポイントに

    もともと大張監督の大ファンでもあった中野氏は、若手スタッフの中には大張監督を詳しく知らないメンバーがいることに最初は戸惑いもあったという。「けれど、若手メンバーのために過去の大張監督の作画やポージングのリファレンスを集めて共有しました。逆に若手だからこそ、監督には新しい提案ができたと思います」と、若手スタッフが多かったことを前向きに捉えている。

    さらに、制作開始当初から大張監督をはじめ、作画、美術、撮影などの他部署と打ち合わせをして連携できたのも大きかったという。「普通、アニメは制作の途中で、ここはこの部署でやらなきゃいけないというイレギュラーな場面が出てきますが、今回はそれがなくてディレクションもしやすかったです」と中野氏。

    ▲右より、3DCGディレクター・中野祥典氏、3DCGモデラー・阿達里紗氏、3DCGリードアニメーター・岩垣澄快氏、3DCGアニメーター・Qin Ziao/チン ザオ氏(以上、CygamesPictures)
    cygamespictures.co.jp

    特に大張監督とのやり取りは密に行なわれ、なんと主役のブレイバーンのモデリングは本格的な打ち合わせをする前に自主的につくり、大張監督の意見を聞くところからスタート。それ以降も「大張監督だったこうするだろう」というリスペクトを込めて仕事が進められた。

    大張監督からのモデリングのフィードバックは画像としての赤入れはほとんどなく、口頭で話し合いながら進められたというのも珍しい。「モデラーと僕とで大張監督にどんどん提案していける、楽しい現場でした」と中野氏はふり返った。

    シンプルなワークフローを構築し他部署とも密に連携をとる制作体制

    本作の3DCGでは、作画と同じように「塗と線」でデータを納品することをコンセプトに仕様を設計し、撮影が後から処理を乗せやすいような体制を目指したという。こうすることで3DCG素材と作画がひとつの画面に混ざっても違和感のない仕上がりになる。

    さらに、CGスタッフは塗りと線のみに集中できるため、若手にも理解しやすいワークフローになっている。マテリアルもペンシルマテリアルのみを使用し、一部の汚しがあるもの以外はテクスチャを使わないなど、非常にシンプルな仕様が決められた。

    こうした仕様はAfter Effects(以下、AE)での取り回しもしやすいため、フィードバックやリテイクもスムーズに行うことができた。ブレイバーン以外のメカも同じ設計にして、キャラクター特有の処理も基本的にはつくらない方針が採られた。

    また、事前に他部署とも連携し、特に色彩設計とは、全キャラクターが再レンダリングしないで済むようなフローを相談しながら構築した。同様に美術用のガイドも、テクスチャを入れずに線情報と光の方向程度の情報でやり取りすることに決めたため、レイアウト担当の負担を大きく減らせたとのことだ。

    3DCG側で用意したブレイバーンの素材

    • カラー素材。全て光受色+固定影色状態
    • カラー素材。全て影色状態
    • アウトライン素材
    • 拡大画像
    • ディテール用ライン素材。距離によって調整するために使用する
    • 拡大画像
    • カット作業用の光物マスク素材の一例
    • 拡大画像
    • 白黒の影情報素材。上記のカラー素材【全て光受色+固定影色状態】と【全て影色状態】を合成するために使用する。白黒のマスクによる影付けを採用することで「影にしたいところは黒くすればいい」と、まちがいのない情報を伝えることができる
    • 拡大画像
    • 撮影処理用ノーマル素材。V-Rayでレンダリングしたもの
    • 撮影処理用ライティング素材。こちらもV-Rayでレンダリング
    AE作業画面。キャラクターのベースとなるコンポジット画面
    実際の影付け作業の様子。シェイプで影面を修正している

    オブジェクトによるハイライトの制御

    ディテール過多などの際はカット単位でオブジェクトの表示、非表示、変形で情報量を整理できるように設定されている。テクスチャでは想像して描く力が必要になるため、プレビュー画面で確認しながら調整できるように、オブジェクトベースでの仕様が設計された。経験の浅い若手にとってテクスチャワークはやや難度が高いが、オブジェクトベースであれば修正もしやすい。

    • 元のディテール
    • 額のハイライトを一部非表示にしてすっきりさせた状態
    レイヤーで管理できるのでわかりやすい

    色彩設計との連携:CGカラーモデルの制作

    CG部が色彩設計と早くから打ち合わせをすることで、モデリング時のシェーダ設計を早いタイミングで行うことができた。図のカラーモデルは本番用のものだが、ほぼこちらの色と変わらないところからモデリングに着手できたため、効率良く作業を進めることができたという。また、2号影などにも対応できるようカラーボックスの上下にBoxの余裕が設けてある。

    美術との連携:巨大なスカイドーム

    スカイドームのテクスチャ素材。3Dのスカイドーム素材の作成の際、描き込みやくり返しの印象を減らすために高解像度の素材が用意された。テクスチャサイズは18,720x3,584という巨大なもので、かなり寄っても解像度のバレが出ずに使えるようにつくられている、「ふたを開けてみたら意外と採用カットは少なかったのですが、美術監督のこだわりを見せていただき、とてもうれしく思いました」(中野氏)
    実際の作業画面スクリーンショット。解像度が高いため、カットでそのまま使えるのがわかる

    撮影との連携:メカの撮影処理

    撮影とも連携して、あらかじめ作画と3DCGで同じ撮影処理ができるようなフローも構築された。撮影処理を統一することで、作品中でCG素材と作画の仕上がりが同じになり、違和感が出なくなる。なお、作中のブレイバーンは約8割が3DCGで表現されている。当初、アップは作画になる予定だったが、3DCGの出来が良かったため、アップでも3DCGが多用されることになった。

    • 作画:撮影処理なし
    • 作画:撮影処理あり
    • 3DCG:撮影処理なし
    • 3DCG:撮影処理あり。作画と3DCGとで違和感のない仕上がりになっていることがわかる

    大張監督とブラッシュアップを重ねたブレイバーンのモデリング

    ブレイバーンのモデリングは、大張監督との打ち合わせをする前にCG部が自主的にモデリングを行い、それに意見を貰うかたちでスタートした。設定画と三面図の資料が用意され、通常は設定画をメインにすることが多いが、今回は三面図に準拠して小顔でモデリングして、実際のカットでカメラを置いた際に、画が決め込みやすいようにしている。一方でカメラが引いたときは設定画に寄るようにも考慮された。モデルの詳細はCG側から大張監督のらしさを出すような提案をして、ブラッシュアップを重ねていった。なお、ブレイバーンのモデリングを担当したのは中野氏の元同僚で、オレンジ所属の長川 準氏である。

    • ブレイバーン設定画(全身)
    • モデリングを進める途中で追加されたブレイバーン設定画(詳細部)
    • プロポーションのチェックモデル
    • ディテールを入れたチェックモデル

    大胆なポーズがとれるように施されたブレイバーンのセットアップ

    ブレイバーンのリグは、パーツごとの連携可動をあえて外して、アニメーターが大胆なポーズをとれるようなリグの構成をしている。

    • リグの設定画面。CATを使用してリギングされている
    • 膝の二重関節。監督がこだわった部分
    1話で登場する必殺技ブレイブ斬の振り被りのパーツコントロール画面。「X」のシルエットをつくるために肩アーマーを移動回転して、普通では配置されない位置に移動している
    あぐらポーズをとっているブレイバーン。パーツを柔軟に動かせるので、自然なポーズであぐらをかくことも可能だ

    ブレイバーンのフェイシャル

    フェイシャルのコントロール。Morpherを顔の前にあるコントローラにパラメータワイヤリングで紐づけてあり、作業者はビューポート上で見えるコントローラで作業ができるようになっている。もともとは目の明滅で会話や感情を表現する案もあったが、口での表現に変更された
    フェイシャルのモーフパターン。仕込まれているモーフのパターンはロボットなので口周りがメインとなっている。担当モデラーの粋な計らいでほほや歯、舌も調整可能になっていて、作中では想定以上に表情豊かな表現がなされた

    空母やティタノストライドなどそのほかのメカたち

    ブレイバーン以外のメカも3DCGで制作されている。いくつかの例を紹介しよう。

    空母。空母はテクスチャで汚しを入れてつくられている。テクスチャ制作にはSubstance 3D Painterを使用。V-Rayでレンダリングされた。V-Ray用のアセットは担当が作業しやすいような仕様に落とし込まれている。V-Rayのマテリアル設定を担当した3DCGモデラーの阿達里紗氏は「マテリアルをあてるだけで、その質感が出るように設定をしてまとめました。ただ、レンダリング時間が増えてしまったのが大変でした」とのこと
    自衛隊のティタノストライド
    米軍のティタノストライド

    (2)につづく。

    CGWORLD 2024年7月号 vol.311

    特集:とことん深掘り! アニメの3Dレイアウト
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年6月10日
    価格:1,540 円(税込)

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原 朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada