劇場版2部作の第1部として、原作屈指の人気エピソード「烏野高校VS音駒高校」が描かれた本作は、興行収入115億を突破し大ヒットとなっている。3Dレイアウトを駆使しつくり込まれた白熱の試合は観るものを強く惹きつける。その作業をメインで担当したGEMBAに本制作について話を聞いた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 311(2024年7月号)からの転載となります。

    3DCGが貢献したレイアウトおよび、長尺の主観カット

    大人気TVアニメ『ハイキュー!!』の続編として劇場公開される2部作。その第1部『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が今年2月に公開された。本作品では原作屈指の人気エピソードとなる「烏野高校VS音駒高校」が描かれ、ライバルとなる両校の死力を尽くした試合が熱く展開される。

    『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』大ヒット上映中!
    原作:「ハイキュー!!」古舘春一(集英社 ジャンプ コミックス刊)/監督・脚本:満仲 勧/キャラクターデザイン:岸田隆宏/総作画監督:千葉崇洋/アニメーション制作:Production I.G/配給:東宝
    haikyu.jp/movie
    © 2024「ハイキュー!!」製作委員会 ©古舘春一/集英社

    その制作においては3DCGが多分に活用されているが、攻守の激しい入れ替わり、ローテションの変更など、リアルな試合展開を再現する必要があり、ここにおいて重要視されたのが3Dレイアウトであった。その作業をメインで担当したのがGEMBAの面々。

    「昨今、アニメ制作において3DCGが用いられることは当たり前となっています。フルCG作品も多数ありますが、作画メインの作品においても同様です。本作ではキャラクターは作画によるものですが、スポーツをテーマとしており、ダイナミックな試合展開を描く上では立体的なカメラワークが求められ、3Dレイアウトは必須でした」とCGプロデューサーの工楽英樹氏。

    上段左から、CG プロデューサー 工楽英樹氏、CGディレクター 篠崎 亨氏、テクニカルディレクター 水橋啓太氏。下段左から、プロダクションマネージャー 山口駿基氏、シニアアニメーター 蒲生拓海氏、チーフアニメーター 木野直人氏
    gemba.co.jp

    その重要度はProduction I.Gからの依頼内容からも窺い知れる。「当初、レイアウト作業のみ依頼を受けましたが、700~800カットが想定されていました。その物量からもわかるように激しい試合展開を映像化する必要があったというわけです。激しく変化する動的なカメラワークが含まれるレイアウトが決まった上で、背景制作、そしてキャラクターの作画と作業が進められます。そのため、レイアウトが決まらないと制作が進められないため、2ヶ月ほどで行なってほしいという内容でした」(工楽氏)。

    『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』(2023)において、Production I.Gとタッグを組み、3Dレイアウトを担当した実績からノウハウはあったが、短期間で効率的に作業を進めるために、本制作用のツール開発を行い対応したとのことだ。今回は本制作で活用されたツールと代表的なカットのメイキングを紹介していく。

    3Dレイアウト

    自社ツールで効率的に試合模様を再現

    「レイアウトのノウハウはあるので、それをベースにもっと早く撮らなきゃいけないなというのが課題でした。そのため、まずテクニカルディレクターの水橋と相談し、ツールを開発し作業の効率化を図りました。その上でチェックの仕方も変更しました。以前は紙や図、タブレットなどに書き込んで指示を送っていましたが、リモートの画面共有をして、その場でチェックするといった感じで。とにかく時短で密度を上げて対応していきました」(3DCGディレクター・篠崎 亨氏)。

    開発されたレイアウト用ツールはバレーボールというスポーツを素早く再現するためのものがメインとなった。「キャラクターに関して言うと、基本的に全て作画に化けるので、レイアウトの作業時には3ds Max上でBipedにポーズをとらせてシーンを構築していくことになります。

    ただし、各担当者がイチからポーズをつくっていては時間的に厳しいものがあったので、アタックやレシーブのフォーム、手の動きなどバレーでとられるポーズをライブラリ化し、読み出せるようなしくみを構築しました」(テクニカルディレクター・水橋啓太氏)。これにより作業コストを大きく軽減させることにつながったが、それだけに留まらず、別途Production I.Gにより準備されていたローテーション図から自動的にキャラクターの配置を行うツールも開発され、試合のながれを再現できるように工夫がされた。なお、キャラクターには自動でネームプレートを発生させ、カメラに向かうようにしくみ化もされている。

    「一見、単純に見えるツールと思われるかもしれませんが、実際に作業を行うと大きくコストを削減していることが実感できました。ネームプレートもいちいち手作業で対応していたらそれだけで時間がかかってしまいますし、キャラクター名自体の誤りも起こりがちです。ローテーションやポーズなども同様で、自動化、簡略化することで、本来の目的であるレイアウトを探る時間の確保につながります」(シニアアニメーター・蒲生拓海氏)。

    3Dレイアウトで組まれたシーンの数々

    1カットあたりの登場人物が多く、管理が大変であったという。試合のメンバーだけで12人。ベンチや控えメンバーまで映り込むと20人を超えることもあった。そうした細かい配置も含め原作プレイの前後のつながりをしっかり再現できていることが説得力のある試合展開を生み出している。なお、他コートの選手の配置は数パターンのローテーションを準備し適宜、選択された。下記画像郡の左がレイアウト、右が完パケ。

    • ▲レイアウト
    • ▲完パケ

    レイアウト作業を支えた自社ツール

    ▲Bipedのポーズ、XAFアニメーション、カメラをライブラリ化して登録&適用できるツール「LibBox」。Bipedのポーズは反転する機能が付いている。その場で画面を切り取ってサムネ化されて視覚的に選択しやすくなっている
    ▲「LookAtNameplate」。ネームプレートをルックアットさせているヘルパーをカメラの使用範囲を判別して自動でコンストレイン可能
    • ▲「LayoutRotation」。Production I.Gから提供されたバレーボールのローテーション表をスクリプトに変換……
    • ▲スクリプトを実行するとシーン上のBipedの選手らがローテ表通りに移動する。画像下がローテ表。画像上がスクリプトにて自動配置したもの
    ▲「ActiveCamEyeLevel」。アクティブビューポートのカメラから水平線の情報をクリップボードにコピーできる
    ▲AEのテキストレイヤーにペーストするとエクスプレッションで水平線の位置調整が行える
    ▲「CameraManager」。シーン上のカメラをリストアップしてカスタムアトリビュートの変更・適用やビューポートに反映。一括でプレビューの出力も可能
    ▲「CameraLO」。カメラの操作にアクセスするツール。カメラの作成、基本的なカメラワーク、2Dパン、Bipedのバスト・ウェスト・フルショットを1クリックで位置合わせする機能などを有している

    (2)へ続く。

    CGWORLD 2024年7月号 vol.311

    特集:とことん深掘り! アニメの3Dレイアウト
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年6月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada