劇場版2部作の第1部として、原作屈指の人気エピソード「烏野高校VS音駒高校」が描かれた本作は、興行収入115億を突破し大ヒットとなっている。3Dレイアウトを駆使しつくり込まれた白熱の試合は観るものを強く惹きつける。その作業をメインで担当したGEMBAに本制作について話を聞いた。
3DCGが貢献したレイアウトおよび、長尺の主観カット
大人気TVアニメ『ハイキュー!!』の続編として劇場公開される2部作。その第1部『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が今年2月に公開された。本作品では原作屈指の人気エピソードとなる「烏野高校VS音駒高校」が描かれ、ライバルとなる両校の死力を尽くした試合が熱く展開される。
その制作においては3DCGが多分に活用されているが、攻守の激しい入れ替わり、ローテションの変更など、リアルな試合展開を再現する必要があり、ここにおいて重要視されたのが3Dレイアウトであった。その作業をメインで担当したのがGEMBAの面々。
「昨今、アニメ制作において3DCGが用いられることは当たり前となっています。フルCG作品も多数ありますが、作画メインの作品においても同様です。本作ではキャラクターは作画によるものですが、スポーツをテーマとしており、ダイナミックな試合展開を描く上では立体的なカメラワークが求められ、3Dレイアウトは必須でした」とCGプロデューサーの工楽英樹氏。
その重要度はProduction I.Gからの依頼内容からも窺い知れる。「当初、レイアウト作業のみ依頼を受けましたが、700~800カットが想定されていました。その物量からもわかるように激しい試合展開を映像化する必要があったというわけです。激しく変化する動的なカメラワークが含まれるレイアウトが決まった上で、背景制作、そしてキャラクターの作画と作業が進められます。そのため、レイアウトが決まらないと制作が進められないため、2ヶ月ほどで行なってほしいという内容でした」(工楽氏)。
『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』(2023)において、Production I.Gとタッグを組み、3Dレイアウトを担当した実績からノウハウはあったが、短期間で効率的に作業を進めるために、本制作用のツール開発を行い対応したとのことだ。今回は本制作で活用されたツールと代表的なカットのメイキングを紹介していく。
3Dレイアウト
自社ツールで効率的に試合模様を再現
「レイアウトのノウハウはあるので、それをベースにもっと早く撮らなきゃいけないなというのが課題でした。そのため、まずテクニカルディレクターの水橋と相談し、ツールを開発し作業の効率化を図りました。その上でチェックの仕方も変更しました。以前は紙や図、タブレットなどに書き込んで指示を送っていましたが、リモートの画面共有をして、その場でチェックするといった感じで。とにかく時短で密度を上げて対応していきました」(3DCGディレクター・篠崎 亨氏)。
開発されたレイアウト用ツールはバレーボールというスポーツを素早く再現するためのものがメインとなった。「キャラクターに関して言うと、基本的に全て作画に化けるので、レイアウトの作業時には3ds Max上でBipedにポーズをとらせてシーンを構築していくことになります。
ただし、各担当者がイチからポーズをつくっていては時間的に厳しいものがあったので、アタックやレシーブのフォーム、手の動きなどバレーでとられるポーズをライブラリ化し、読み出せるようなしくみを構築しました」(テクニカルディレクター・水橋啓太氏)。これにより作業コストを大きく軽減させることにつながったが、それだけに留まらず、別途Production I.Gにより準備されていたローテーション図から自動的にキャラクターの配置を行うツールも開発され、試合のながれを再現できるように工夫がされた。なお、キャラクターには自動でネームプレートを発生させ、カメラに向かうようにしくみ化もされている。
「一見、単純に見えるツールと思われるかもしれませんが、実際に作業を行うと大きくコストを削減していることが実感できました。ネームプレートもいちいち手作業で対応していたらそれだけで時間がかかってしまいますし、キャラクター名自体の誤りも起こりがちです。ローテーションやポーズなども同様で、自動化、簡略化することで、本来の目的であるレイアウトを探る時間の確保につながります」(シニアアニメーター・蒲生拓海氏)。
3Dレイアウトで組まれたシーンの数々
1カットあたりの登場人物が多く、管理が大変であったという。試合のメンバーだけで12人。ベンチや控えメンバーまで映り込むと20人を超えることもあった。そうした細かい配置も含め原作プレイの前後のつながりをしっかり再現できていることが説得力のある試合展開を生み出している。なお、他コートの選手の配置は数パターンのローテーションを準備し適宜、選択された。下記画像郡の左がレイアウト、右が完パケ。
レイアウト作業を支えた自社ツール
(2)へ続く。
CGWORLD 2024年7月号 vol.311
特集:とことん深掘り! アニメの3Dレイアウト
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年6月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada