劇場版2部作の第1部として、原作屈指の人気エピソード「烏野高校VS音駒高校」が描かれた本作は、興行収入100億を突破し大ヒットとなっている。3Dレイアウトを駆使しつくり込まれた白熱の試合は観るものを強く惹きつける。その作業をメインで担当したGEMBAに本制作について話を聞いた。

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    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 311(2024年7月号)からの転載となります。

    Inrofmation

    『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』大ヒット上映中!
    原作:「ハイキュー!!」古舘春一(集英社 ジャンプ コミックス刊)/監督・脚本:満仲 勧/キャラクターデザイン:岸田隆宏/総作画監督:千葉崇洋/アニメーション制作:Production I.G/配給:東宝
    haikyu.jp/movie
    © 2024「ハイキュー!!」製作委員会 ©古舘春一/集英社

    孤爪研磨の主観カット

    息遣いをも感じさせるカメラワーク

    クライマックスのカットのひとつとなるのが、試合の最終ラリーを音駒高校セッター・孤爪研磨の主観で描くカット。ここではレイアウトの作成から背景制作までのメイキングを紹介していく。「通常のカットだと1~2枚の作画、美術ガイドを出すのですが、このカットは総尺分で2,731枚となりました。2分弱の1プレーを主観1カットで表現するというカットとなったため、とても難度の高いカットでした」(チーフアニメーター・木野直人氏)。

    上段左から、CG プロデューサー 工楽英樹氏、CGディレクター 篠崎 亨氏、テクニカルディレクター 水橋啓太氏。下段左から、プロダクションマネージャー 山口駿基氏、シニアアニメーター 蒲生拓海氏、チーフアニメーター 木野直人氏
    gemba.co.jp

    ほかのカットと同様にBipedを配置してレイアウトを決めるながれではあったが、キャラクターアニメーションを施しつつ、ひとつなぎのカメラワークとして詰めていく必要があった。その際、以下5点を注意してアニメーション作業がされたという。

    ①カメラはリアルな目線よりも暴れないようにする。移動時や息づかいのようなブレはAfter Effects(以下、AE)での撮処理で行う

    ②キャラクターがボールに関与するとき、時間を誇張し何をしているかがわかるようにする(リアル時間では何をしているかわかりにくかった)

    ③カメラに映っている間のボールの軌道やキャラクターの位置はウソをつかない(カメラに映っていない間の位置の移動のウソはOK/キャラクターのスパイクやブロックのジャンプの高さのウソはOK)

    ④ジャンプ前などアクションの予備動作を入れる

    ⑤ボールが上がったときは間をつくる

    レイアウトが完成した後、3DCGによる背景制作が行われた。LOモデルからつくり込んでいる時間や、そもそも設定がなかったため、カメラマップを基本とし、描かれた美術に合わせてモデルを調整することとなった。

    「美術画像やモブの貼り込み量が膨大だったので、素材の整理が難しかったですね。投影用カメラに関しても配置に頭を悩ませました。映っている場所に合わせて配置することにしていたのですが、結局、体育館内が全部映っていました。そこで万遍なく投影できるように設置することになりました」(篠崎氏)。

    マップ用のカメラを設置する際、南側と北側で描いてもらう素材がある場合、左右反転して使えるように配置するなど、美術素材を描く手間を軽減するよう工夫も施された。

    レイアウトアニメーション

    非常に長いカットであったため、クライアントによるチェックのリスクとレスポンスを考慮して3つの区間に分けて制作された。画像はそれぞれ左上がレイアウト初期、右上がレイアウトFIX、左下がコンテ撮、右下が完パケ。同フレームでの比較画像となっているが、変更の過程が窺える。研磨の動き、心情を感じさせるカメラワークを施した上で、視聴者が状況に追いついていける適切な間の調整が施されている。

    BG制作とカメラマップ

    12個のカメラから投影され、各カメラのマップ画像との境は隅をぼかしたマスクを作成して、馴染ませる方法が採られた。一部のパーツは、画像を切り貼りして通常のUVで貼られている。投影するカメラやキャラクターを挟み込むためのBook分けなど、複雑で多数のレンダリング素材が必要とされた。投影カメラの境用のマスクは、グラデーションランプで作成。RGBでグラデーションの幅を変え、コンポジット時に馴染みが良いチャンネルでマスキングされた。

    ▲マップ用のカメラ
    ▲カメラマップ用の素材
    ▲投影カメラの境用のマスク
    • ▲マスクを投影した画像……
    • ▲各カメラごとに別素材でレンダリング
    ▲UVに貼られたネットやフロア

    ネット、フロアのディテール

    ネットは白帯部分と網の部分が別レイヤーで描かれている。モデルは白帯部分のポリゴンをU字型にし、開いた部分に網のポリゴンを挟みこむことで不自然さが出ないように調整された。網は透明マップで抜いているが、ただ抜いただけでは斜め方向から見たときに厚みがなくなってしまうため、ディスプレイスメントマップを使用して厚みが付けられた。

    ▲ネットのモデル
    • ▲ディスプレイスメントマップなし
    • ▲同・あり

    床のテクスチャはコート内とフリーゾーン(青い床)をまとめて8Kで描かれており、カメラが床に近づいたときには、解像度不足が予想された。その対策として、あらかじめ寄ったときのためのテクスチャも準備。カメラが低くなったときにはデプスを使って切り替わるようコンポジットされた。

    ▲床のテクスチャの作成に関する依頼書
    • ▲通常サイズのテクスチャ
    • ▲寄り用テクスチャ

    セルアニメの場合、床にリアルな映り込みをさせるとキャラクターの映り込み作画を行う必要があり、作画作業が膨大になってしまう。そのため、本作では美術で描く場合は床への照り返しをブラシで噴いて疑似的に反射っぽく見せている。これをカメラの動くカットで再現するには、ブラシ素材を映り込ませる必要があった。カメラマップの素材の発注時に、それぞれのカメラで美術側にサンプルを描いてもらい、それを参考にGEMBA側でブラシ素材の床へ映り込みテクスチャを作成して対応している。

    ▲参考として作成された美術素材
    • ▲床へブラシを映り込ませるためのシーン
    • ▲ブラシを床に映り込ませたレンダリング素材
    ▲床の素材にブラシ素材を合成したもの

    CGWORLD 2024年7月号 vol.311

    特集:とことん深掘り! アニメの3Dレイアウト
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年6月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada