今回紹介する劇場アニメ『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』は、ルイス・キャロル原作の小説『不思議の国のアリス』を日本で初めて劇場アニメーション化した作品だ。就活に悩む大学生・安曇野りせが、亡き祖母が設立したテーマパークで出会ったアリスと共にワンダーランドを旅する冒険がくり広げられる。今回は全3回にわたり、キャラクターから世界観まで、メイキングを紹介する。

記事の目次

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    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 327(2025年11月号)からの転載となります。

    Information

    劇場アニメ『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』
    2025年8月29日(金)より上映
    原作:『不思議の国のアリス』( ルイス・キャロル)/監督:篠原俊哉/脚本:柿原優子/アニメーション制作:P.A.WORKS
    sh-anime.shochiku.co.jp/alicemovie
    ©「不思議の国でアリスと」製作委員会

    ワンダーランドの不思議な住人や世界観を3DCGでも表現

    左より、3Dアニメーター・森重柚香氏、3D監督・鈴木晴輝氏、3Dモデラー・井上佑紀氏(以上、ピーエーワークス)
    www.pa-works.jp

    本作では作画を含めワークフローがかなり変則的で、3DCGに関連するカットもレイアウトマンが描いたレイアウトの清書コンテをそのまま背景原図や3D原図として使用するという特殊なワークフローで制作が進められた。レイアウトマンの星野円哉氏はBlenderをレイアウト作業に使用するため、3D部署で3DLOモデルを作成し、清書コンテ作業前に星野氏に提供。その結果、通常の作品制作よりもモデリング先行で制作が進み、原図もかなり早い段階で3D部署に回ってきたため、カット制作に関してはいつも以上に早くから取り組むことができたという。

    カット制作の手順は、あがってきた清書レイアウトを基にキャラクターや背景を配置してカメラワークやアニメーションを付けていくというながれ。カット制作では3DCGはあくまでも素材出力のツールとして使用し、画づくりの作業はAEメインで行われている。「個人的に作画アニメのルックに3DCGを寄せるには、3Dツール内でルックをつくり込むより、AE上で撮影的に処理をした方が、統一感がとれると思い、今回はこのようなワークフローを採用しました」(鈴木氏)。

    ドミノ倒しになるトランプ兵たち

    以下はトランプ兵がドミノ倒しになるカット。トランプ兵が登場する一連のカットは、レイアウトマンの星野氏がアニメーターとしても経験豊富なため、3D作業前にアニメーション案を作成し、3D作業後もアニメーション監修を行なっている。トランプ兵のアニメーション付けは3Dアニメーターの森重柚香氏が作業をしながら方向性を探り、監督チェックをくり返しながら固めていったという。

    このドミノ倒しのカットはトランプ兵のポーズが大きく変形するといった表現よりも、ドミノ倒しになっていく過程の動きが重要になっているため、トランプ兵ごとの芝居に様々なバリエーションのパターンを作成し、くり返し感が出ないように配慮されている。「アニメーション付けでは、星野氏に作成してもらった動画を基に、キャラクター設定で上がってきたトランプ兵のイメージから離れないように、なおかつひとりひとりのキャラ付けができたら良いなと思いながら作成していきました。とにかく物量が多かったので、そこが一番大変でした」(森重氏)。

    ▲物量が多いため、アニメーション作業はトランプ兵を個別に表示して行われた
    ▲全てのトランプ兵を表示した状態。なお、通常のアニメーション作業では全トランプ兵を表示することはなく、これは本記事用に特別に表示してもらったもの
    ▲完成したカット。仲間を助けようとして自分も倒れてしまうトランプ兵がいるなど、トランプ兵たちのキャラクター付けがよくわかる

    部屋いっぱいに膨らむ風船

    りせとアリスに迫ってくる風船のカット。このカットも星野氏が作成したレイアウトの指示に従い、3Dでアニメーションが作成されている。画面に登場する大小の風船や椅子、机は3Dアセットとしてモデリングされており、清書コンテの印象からズレないように大きな風船が椅子や机を呑み込んでいくような動きが調整されている。

    制作の手順は、まずレイアウトに合わせて質感設定がない状態でアニメーションを作成し、監督のチェックを受けながらテイクを重ね、OKが出た段階で美術から上がってきた質感設定を基にマテリアルを設定して、仕上げていくというながれだ。

    ▲星野氏が作成したレイアウト
    ▲レイアウトを基に3ds Maxでアニメーション付けが行われる
    ▲本番用のマテリアルが設定され完成したカット

    水彩画風の薔薇が咲く表現

    水彩画風のルックが印象的な開花する薔薇のカットは、花の部分を3DCGで作成し背景と合成している。また、開花のアニメーションも3DCGによるものだ。3ds Maxからのレンダリングだけでは、上手く水彩画風のルックが出力できなかったため、カラー素材やハイライト素材、ライン素材を出力しAEで水彩画風に加工されている。

    具体的には、レンダリングされたカラー素材をぼかして合成することで色が滲んだような効果を作成し、ハイライトは逆にしっかりと見えるように強調された。さらにノイズを乗せてざらっとした質感に調整した後、ラインを乗せている。また、花びらの部分に緑がかったグラデーション素材を合成することで水彩のような滲みが表現され、アナログで描かれたような色彩に仕上げられている。

    • ▲カラー素材
    • ▲カラーミックス素材
    • ▲ハイライト素材
    • ▲ハイライト素材のバリエーション
    • ▲ノイズ
    • ▲ライン素材
    • ▲グラデーション素材
    • ▲完成カット

    (3)に続く。

    CGWORLD 2025年11月号 vol.327

    特集:空間CG
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年10月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_大河原浩一 / Hirokazu Okawara
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada