2025年9月20日(土)、アニメ制作技術の総合イベント「あにつく2025」が秋葉原のUDX GALLERY NEXT/UDX GALLERYにて開催された。今回で11回目となるイベントでは全15本のメインセッションを行い、最新技術を体験できる展示コーナーや、登壇者・参加者の交流を深めるアフターパーティなども盛り上がりを見せた。
本記事では株式会社グラフィニカのセッション「TVアニメ『ロックは淑女の嗜みでして』CGメイキング~B面~」の模様をレポートする。なおCGWORLD.jpでは本作のCGメイキングも掲載中。セッションで言及された箇所についての深掘りもあるため、興味のある人はぜひ確認してほしい。
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イベント概要
「あにつく2025」
主催:株式会社Too
日時:2025年9月20日(土)
会場:UDX GALLERY NEXT/UDX GALLERY
参加料金:無料
www.too.com/atsuc/y2025
■インストバンドの熱量を3DCGで表現
2025年4〜6月、TBS系28局にて放送
ABEMA、dアニメストアほか、各配信サービスにて配信中
原作:福田 宏(白泉社「ヤングアニマル」連載)/監督:綿田慎也/アニメーション制作:BN Pictures
rocklady.rocks
Ⓒ福田宏・白泉社/「ロックは淑女の嗜みでして」製作委員会
「あにつく2025」のセッションには、3DCGディレクターの坂口遥佳氏、モデリングディレクターの樋口博和氏、セットアップディレクターの大島渓太郎氏、撮影監督の野澤圭輔氏、CGプロデューサーの池上由佳氏が登壇。2025年4月から6月にかけて放送された『ロックは淑女の嗜みでして』のメイキングについて、第13話の演奏シーンをふり返りながら紹介された。
本作では「演奏パートに3DCGを使用したい」というクライアントからのオーダーを受け、ガールズロックバンド・BAND-MAIDがモーションキャプチャのアクターを担当。メンバーの動きをキャラクターに反映させることで、原作の迫力を再現する方針を立てた。
モデリング
まずモデリングでは、手描きの三面図を元に、キャラクターを左右対称に修正した新しい設定画が、樋口氏によって用意された。少しでもバランスが崩れるとキャラクターの印象がちがって見えるため、完全に左右対称になるようにピクセル単位で修正を重ねたという。
この左右対称の設定画を仮の3DCGモデルの上に投影し、シルエットや比率のズレを細かく確認しながらモデリングが行われた。この手法によって、作業者の熟練度に左右されずに、造形のブレを抑えながらクオリティをコントロールできるようになったという。
セットアップ
リグは全キャラクターで共通フォーマットを採用し、キャラクターごとに操作感が変わらない環境が構築された。
本作ではフェイシャル用のブレンドシェイプが豊富な点が特長で、瞳のバリエーションだけでも4種類ある。それらをベースに加工も施されており、演奏シーンでは瞳孔も含む目元の変化が細やかに表現されている。
髪の毛は周期関数によって揺れが自動生成されるように設定された。パラメータを入力すれば一定サイクルで髪が動き続けるため、作業負担を軽減することができたという。
プリーツスカートはプリーツ(ひだ)のひとつひとつにボーンが仕込まれた。プリーツごとのシルエットや影に変化が生じるよう、細部までこだわりつくり込まれている。大島氏は「プリーツの動きは人力による簡易的な表現ではあるのですが、映像としてのクオリティは大きく上げられたと考えています」と語った。
アニメーション
モーションキャプチャの収録では、アクターによるバンド演奏が行われた。しかし、アクターには演奏に集中してもらったため、コミックスのポーズをそのまま再現することは難しかったという。そこでキャプチャしたデータをベースにしつつ、アニメーターがセリフや感情に合わせて芝居を加えることで、原作に近付けていくことにした。
この芝居付けの際に、カット担当者から動きについてアイデアが出ることもあった。例えば、キャラクターが「思いっきり叩きのめしてあげる!!」と叫ぶカットでは、「カメラに向かってパンチを繰り出す動作を入れたい」という提案が挙がり、採用されたという。こうしてアニメーターの発想を取り入れながらも、演奏フォームは破綻しないよう注意を払い、原作の勢いが表現できるよう、動きを整えられていった。坂口氏が「演奏シーンはアクションカットのように作成していましたね」と話した通り、ダイナミックな映像に仕上がっている。
原作を意識した表情づけ
フェイシャルも原作のニュアンスを再現する方向で動きを詰めていった。特に顔がクローズアップされるカットでは、各作業者がAfter Effects(以下、AE)で顔にレタッチを加え、素材の上から影を足したり、目や髪のハイライトを描いたりすることで密度をプラスした。
また、演奏中のセリフが心の声となる点も、表情付けでは有利に働いた。坂口氏は「もし、セリフに合わせて口パクしなければいけなかったら、ここまで大胆な表情づけをするのは難しかったと思います」とコメントする。
こうした細かな作業で原作のニュアンスを映像に落とし込んでいったのだが、この「原作を再現する力」について、坂口氏は次のように語る。「CGアニメーターであっても原作を観察しながら絵をつくっていくので、デッサン力があるとキャラクターもののタイトルでは強みになると思います」と、業界志望者へ向けてメッセージを送った。
■派手な演奏を支える地道な作業
素材の使い分け
樋口氏によると、本作の3DCG制作では後工程の負担を軽くするために、あらかじめ大量の素材を用意していたという。例えば、マスクは目のチークやハイライトをそれぞれ準備。髪の毛のグラデーションは「長さを後工程で調節できるようにしたい」という監督の要望を反映し、個別で出力し、AEでコントロールできるようにされている。
シェーダの影は、完成時に汚く見えてしまうというトラブルが起こりやすい。前述の通り、本作では顔にレタッチを加え素材の上から影を足すため、消したい素材のみ消せるような構成を目指した。
この素材分けについて、坂口氏は「基本的に影のみで統一されているので、色ごとに調整する必要がないのがメリットでした」と、レタッチ時の利点をコメントする。顔や髪を影にしたい場合も、ひとつのマスクで処理できる点が便利だったという。その発言を受けて、樋口氏は「正直、使えなかったらどうしようと思っていたので、ポジティブな意見をいただけて良かったです」と安堵した様子を見せた。
楽器の表現
楽器は「動く部分は動かせるようにする」という方針で制作された。ただし、リアルさを追求するあまりコントローラを増やしすぎると、アニメーターにとっては煩雑になってしまう。そのため最小限のハンドルで必要な動きを実現できるように考慮した。
楽器の動きもモーションキャプチャで収録しており、シンバルやギターなど、演奏に関わる要素が記録された。さらにアクターの全身を収録した後、手元にフォーカスした映像を各楽器で複数アングル撮影し、アニメーション制作時のリファレンスとして活用。ここで得たキャプチャデータや映像を確認しながら、アニメーターが1フレームずつブラッシュアップし、演奏シーンをつくり上げていった。
楽器の表現の中で最も大変だったと坂口氏が話すのが、ハイハットシンバルだ。これは2枚のシンバルを上下に組み合わせたもので、閉じた状態をクローズ、開いた状態をオープンと呼ぶが、その中間のハーフオープンはリファレンス映像だけでは判別が難しかった。そのため演奏音を手がかりにして、シンバルの状態を判断する必要があったという。
ドラムスティックの表現については、監督からの依頼で、第9話以降、叩いたときのブラーを強めることになった。これは演奏の激しさを強調するねらいからで、作画に寄せたドラムブラーが作成された。エフェクト面でも、作画スタッフから提供された稲妻の素材を配置したり、3DCGでも追加エフェクトを組み込んだりと、とにかく派手になるように手を加えたという。
アニメ版オリジナルカットの制作
13話の演奏のクライマックスを飾る宇宙空間のイメージ映像は、原作にはないオリジナルのカットである。各キャラクターのモチーフとなる花びらを散らす演出は、3DCGスタッフが提案したアイデアだ。宙を舞う各キャラクターの足元に設置された「土台」についても、3DCG側からモチーフを発注し、デザインを依頼した。
このように本作では、各工程で多くのスタッフが手を加えているため、最終工程の撮影は、フォローアップとして重要な役割を担った。例えば、クライマックスに登場する「土台」は、ビットマップ素材を3DCGでオブジェクト化していたが、寄りの画面になった際の解像度が不足し、ガタついて見えるトラブルが発生した。そこで野澤氏は3DCGのカメラワークに合わせ、AEで土台を全フレームで配置し直すなど、地道な調整を積み重ねた。
セッションの最後に野澤氏は「僕らは皆さんが意識しないところでも、自然な映像を届けるために作業しています。地味な仕事が9割で、ちょっと派手な仕事が1割なんですよ」とコメント。「でもこうしてふり返ると思い出深いですし、良いカットになったと思います。美しい記憶として語り継いでいきたいですね」と笑顔を見せた。
TEXT_遠藤大礎 / Hiroki Endo
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada