「イマーシブドーム in 三井アウトレットパーク 岡崎 -ドームシアターの世界を体験せよ-」は、2025年11月4日(火)から2026年1月18日(日)まで出展中のイマーシブ体験作品である。三井不動産の大型商業施設のグランドオープンに合わせ、“買い物の合間に体験できる非日常”として、会場に幅14m×高さ8.2mの大型ドームテントを設営。ファミリー向けにアップデートした3種類の異なるコンテンツをドーム映像として投影し、ここでしか味わえない没入体験を提供している。本企画について、ティーアンドエス THINK AND SENSE部に話を聞いた。

記事の目次

    ・参考記事
    ドームテント内外のコンテンツを総合的にプロデュース「DIVE into RACING」

    Information

    イマーシブドーム in 三井アウトレットパーク 岡崎
    -ドームシアターの世界を体感せよ-
     
    開催期間:2025年11月4日(火)~2026年1月18日(日)
    営業時間:10:00~20:00(アウトレットパークの営業時間に準ずる)
    会場:三井アウトレットパーク 岡崎 P1駐車場内
    (〒444-3501 愛知県岡崎市舞木町 岡崎本宿山中土地区画整理事業6街区1画地)
    料金:大人 1,000円/中高生 500円/小学生以下 無料

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    実写素材×AIでラリーの野性味をドームへ

    ティーアンドエス THINK AND SENSE部は、大型ドームテントを活用したイマーシブ作品を数多く手がけてきた実績をもつ。「イマーシブドーム in 三井アウトレットパーク 岡崎」では、商業施設を訪れるファミリー層をターゲットに据え、新規コンテンツの制作に取り組んだ。
     
    代表取締役社長・エグゼクティブプロデューサーの稲葉繁樹氏は、「ラリー映像」「デジタルアート」「遊び体験」の3コンテンツを企画の柱に設定。子どもから大人まで幅広い年齢層が楽しめる内容を目指した。

    ティーアンドエス代表取締役社長/エグゼクティブプロデューサー・稲葉繁樹氏

    ラリー映像の「TOYOTA GAZOO Racing ラリーイマーシブ」は、前作の「DIVE into RACING」から表現手法を大きく転換した意欲作だ。前作はフル3DCGでサーキット走行を描いたのに対し、今回はオフロードを舞台とするラリー競技の「野性味」をいかに表現するのかがテーマとなった。

    クリエイティブディレクターの引田祐樹氏は、ラリーの醍醐味は「車両と自然のインタラクション」にあると語る。走行によって巻き上がる土煙や砂、舗装されていない路面を駆け抜けるアクロバティックな挙動。それらをドーム空間でどのように体感させるのかが課題だった。そこで今回は、ラリー大会の映像や写真の実写素材をベースに、ドーム投影用の映像を制作する方針を採用。必要な箇所に3DCGを加えることで、ラリー競技の本質をエンハンスするアプローチが採られた。

    クリエイティブディレクター・引田祐樹氏

    実写素材をメインに扱うという、THINK AND SENSE部にとって初の試みを支えたのがAI技術である。実写素材は一般的な16:9のフォーマットで、ドーム投影に必要な画角を満たしていなかった。そこでAIを用いて映像の上下左右を拡張し、2:1の超広角の映像を生成した。

    ▲AIで背景を拡張して広角にした例。左:元素材、右:拡張後

    具体的には、世界ラリー選手権(World Rally Championship)から提供された素材を使用し、背景部分をAIで拡張。出力後、車両は4Kのオリジナル素材に差し替えている。AIモデルはRunway Gen-3を採用。制作期間が約3週間と限られていたことから、即時性の高いツールであることが決め手となった。

    一方で課題も多かった。AI生成では、車体に貼られたロゴやスポンサー名を正確に再現しづらく、拡張後の解像度が最大1,280ピクセルに制限されるという問題も生じた。そこで、観客の視線が集中する車両部分のみ4Kのオリジナル素材に置き換え、周辺部は1,280ピクセルのまま使用。ドラマ性の高い演出を画面中央に集約させることで、画質の差が意識されにくい画づくりを実現した。

    さらに、AIが出力した2:1の超広角の映像に手を加え、最終的にはAfter EffectsのVR Converterを用いて、ドーム投影用の1:1のフォーマットに変換する。「本来の正しいフィッシュアイ(魚眼)ではなく広角を丸めただけなのですが、こういった車体の歪みもラリーの『野性味』として受け取られるように演出しました」(エクスペリエンスデザイナー・吉田開登氏)

    ▲After EffectsのVR Converter機能で、映像の縦横比を2:1から1:1に変換

    AIの本格導入自体も、THINK AND SENSE部では初めての経験だった。そのためトライ&エラーを重ねながら、ツールの特性を見極めていったという。吉田氏は「AIは緩急の“急”が苦手で、素早く動く物体は認識してくれないことがありました。その反面“緩”の表現は得意で、スローモーションを使った、ゆっくりと迫ってくる物はリアルに描画することができました」とふり返る。

    この特性を活かしたのが、砂埃のシーンだ。車両が巻き上げる土煙の広がりはAIが生成した背景素材で表現。観客に向かって飛んでくる砂利は、Unreal Engineでレンダリングした素材を合成し、VFXとしての迫力を吹かした。このように実写メインではありながら、ドーム映像らしい“飛び出す”演出を加えることで没入感を高めている。

    ▲AIで生成した背景素材
    ▲左:Unreal Engineで作成した砂利素材、右:After Effectsによる合成結果

    「TOYOTA GAZOO Racing ラリーイマーシブ」には、大量の写真を用いて自動車の魅力を伝えるギャラリーシーンも用意されている。当初の想定にはなかったが、世界ラリー選手権の写真素材がハイクオリティだったことから、「これを使わないのはもったいない」という判断で、写真を前面に押し出す構成に変更となった。

    ▲ラリー写真の加工前と加工後。写真の一部をトリミングし、Photoshopでグレーディングを施した。「ラリーの走行美は、ライオンなどの動物に喩えられることが多いんです。そこで参考にしたのは、実際の動物の写真です。車両の正面だけでなく、さまざまな角度から見せる切り取り方にこだわりました」(CGデザイナー・大澤 岳氏)

    ギャラリーシーンでの技術的なチャレンジは、線や文字といったグラフィック表現の導入である。ドーム映像では投影面が曲面になるため、とくに文字が歪みやすく、視認性を保つのが難しい。本作では、2D的なモーショングラフィックスをドーム空間で破綻させずに展開する手法が求められた。

    まず平面上で横方向に流れるアニメーションをAfter Effectsで制作。ただし2Dのまま使用すると平面的な印象が強く、球体に貼り付けると歪みが発生してしまう。そこで素材を複数の円柱に分割して貼り付け、同心円状にレイヤーとして配置。その中心にカメラを設置し、各円柱を異なる方向・速度で動かすことで、歪みを抑えつつ奥行き感を生み出すことに成功した。

    ▲After Effectsで制作した平面のモーショングラフィックスの素材
    ▲TouchDesignerでの作業風景(上)とドームでの見え方をシミュレーションしたもの(下)。素材を分割して円柱状に変形し、同心円状にレイヤー配置することで、ドーム空間でも歪みの少ないグラフィック表現を実現できた

    AI生成した自然物をHoudiniとTouchDesignerで制御

    デジタルアート「When the Light Blossoms」は、愛という抽象的な概念を、花や植物などの自然モチーフで表現したコンテンツだ。Houdiniで制作したモデルをTouchDesignerに取り込み、リアルタイムレンダリングとアニメーション、パーティクル表現を構築。最終的な編集はAfter Effectsで行なった。

    ▲HoudiniとTouchDesignerの作業風景。技術面のポイントは、HoudiniとTouchDesignerの連携にある。花びらや枝などのモデリングをHoudiniで行い、花の挙動はシミュレーションとして作成。その結果をVAT(Vertex Animation Texture)として書き出し、TouchDesignerに取り込んで大量に配置した

    本作では画像生成AIのMidjourneyを映像の一部に活用した。ビジュアルプログラマーの笹栗 峻氏は、自然物の再現性が高く、色味も鮮やかだった点をMidjourneyの採用理由に挙げる。

    ▲Midjourneyによって生成した自然物。リアルなだけでなく、どこか「愛」らしい質感を備えている点も導入を後押しした。「“愛”という抽象概念と、AIが出力する映像の抽象性は相性が良かったです。アンビエント・ミュージックを合わせた映像の、落ち着いたテンポ感とも噛み合っていました」(吉田氏)

    “さがし絵”をドームで体験! 出題パターンは無限大

    遊び体験の「さがして!イマーシブ くま吉編」は、体験型の“探しもの”コンテンツである。企画当初は映画館の4D上映のように、映像に付加演出を加えるオーダーだったと、テクニカルディレクターの原田 康氏は打ち明ける。ライブ用の照明やレーザー、香りの演出などを組み合わせる方向性も検討していたという。

    テクニカルディレクター・原田 康氏

    しかし環境演出用の装置を持ち込むと設営に時間がかかり、現地スタッフの負担も増えてしまう。ブレストを進める中、クリエイティブエンジニアの和泉 氏が「子ども向けDVDの映像特典に、アイテム探し系のミニゲームがあった」と話したことをきっかけに、アイデアが発展。絵本や児童書でお馴染みの「さがし絵」を、360度のドーム映像でやってみたら面白いのではないか、という案にまとまった。自由に意見を出し合えるTHINK AND SENSE部の社風が、突破口につながったかたちだ。

    ▲「さがして!イマーシブ くま吉編」では、大量に配置されたオブジェクトから「くま吉」を見つけることが目的だ。検証の結果、オブジェクトをランダムに散らすと、「子供が怖がってしまいそう」という印象をもった。とくに暗い背景にリアルなライティングの物体を配置すると圧迫感が生まれやすい
    ▲背景を青空に変更し、オブジェクトをトゥーン調に統一。玩具のような質感に寄せることで圧迫感を軽減するなど、アセットの選定・制作にも細心の注意を払った

    システムはUnityで制作。オブジェクトの個数/サイズ/向きなどを制御できる。ドーム投影用の映像へ変換した上で、NDI(Network Device Interface)出力にも対応し、会場での調節も可能だ。もし問題が難しすぎる場合は難度を下げ、逆に簡単すぎる場合は制限時間を短くするといった運用を想定している。ほかのコンテンツの尺に応じて、本パートの持ち時間を伸縮し、イベント全体のタイムテーブルを調整できる点も便利だという。

    ▲パラメータを変更すれば、出題パターンは無限に生成可能。「答え」のオブジェクトは、出題パターン生成後にランダム配置を行い、その後手作業で微調整しながら最終的な配置を決めていく
    ▲パラメータ変更例。オブジェクトの数が800から200に減り、オブジェクトのサイズも大きくなって難度が下がっている
    ▲Unityの作業画面。社内チェックはVRゴーグルを用いたそうだが、現地で観客の反応を見ながら難度を変える運用も視野に入れている

    和泉氏は「この遊び体験は今回限りでなく、別のドームコンテンツでも運用できます」と、シンプルな仕組みゆえの柔軟性が強みだとコメント。原田氏も同意し、「今回は『くま吉編』でしたが、他のIPのキャラクターを組み込むなど、展開の可能性は大きいと感じています。さまざまな企業とコラボレーションできたら面白そうですね」と、今後に向けた手応えを語った。

    左から、クリエイティブエンジニア・和泉 氏、CGデザイナー・大澤 岳氏、ビジュアルプログラマー・笹栗 峻氏、エクスペリエンスデザイナー:吉田開登氏、エグゼクティブプロデューサー・稲葉繁樹氏(以上、ティーアンドエス THINK AND SENSE部)

    TEXT_遠藤大礎/Hiroki Endo
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
    EDIT_藤井紀明/Noriaki Fujii(CGWORLD)