Netflix週間TOP10でグローバル(非英語シリーズ)、日本、それぞれにおいて1位を獲得し、大ヒット中のNetflixシリーズ「イクサガミ」。VFXのメインベンダーを務めたのはIMAGICAエンタテインメントメディアサービス(Imagica EMS)だ。
生身のアクションをVFXが支えた本作について、東京・大阪の両チームが担ったこだわりの仕事に迫る。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 330(2026年2月号)からの一部転載となります。
Infomation
Netflixシリーズ「イクサガミ」
Netflixにて世界独占配信中
監督:藤井道人、山口健人、山本 透
VFXスーパーバイザー:横石 淳
VFXプロデューサー:髙玉 亮
VFXプロダクション:IMAGICAエンタテインメントメディアサービス、Eyeline Studiosほか
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
企画/製作:Netflix
膨大なVFXボリュームを緻密な管理体制で最適化
Netflixで2025年11月から配信開始されたドラマ「イクサガミ」は、今村翔吾の小説『イクサガミ』を原作とする実写ドラマで現在6話からなる第一章が完結している。本作は明治11年、廃刀令によって武士たちが職を失う中、京都天龍寺において大金をかけた武術大会が開催される旨を知らせる新聞広告を見た元武士たちが集まり、「蠱毒(こどく)」と呼ばれる、殺し合いをしながら東京を目指す競争に参加させられる物語だ。
主演の岡田准一氏がプロデューサー兼アクションプランナーとして参加しており、スピーディーでキレのある剣術アクションが見どころだ。特に1話の天龍寺境内における300人による斬り合いは、全体を通してみても非常に見応えのあるシーンとなっている。
本作はオフィス・シロウズが制作、VFXのメインベンダーはImagica EMSが担当している。「本作のVFXスーパーバイザーの横石 淳氏、プロデューサーの髙玉 亮氏は旧知の間柄で、またImagica EMSの大阪プロダクションセンターは時代劇のVFXをよく手がけていることもあり、『イクサガミ』という作品の時代背景と内容を含めこれまでの知見を発揮してほしいということで、直接私の方に依頼いただきました」とVFXスーパーバイザー齋藤大輔氏は、メインベンダーとして参加することになった経緯について語る。
Imagica EMSは全編における撮影帯同、全てのプレートのイン・アウト管理、およびQC(クオリティチェック)を担当し、トータル2,000ショットのうち700ショットのVFXショットの制作を任されたという。各ショットはNetflixの技術要件であるACESワークフローで管理され、4K/HDRで納品するという高度な品質管理の下で制作が行えるように体制が組まれている。
VFX制作体制の中で今回特筆すべき点は、「VFXエディター」と呼ばれる新しい専門職が導入されている点だ。VFXエディターは編集作業に関する知見をもつスタッフが起用され、今作では最終的に納品されるデータにエラーや問題点がないかを確認するテックチェックも担った。このクオリティ管理ではDaVinci Resolveをベースとした内製ツールを使用して、ピクセル欠損やグレイン停止、エラーなど一括したチェックを行なっている。このツールによってクライアントからの修正戻しを極小化し、納品精度を飛躍的に向上させることができたという。
「当社の制作現場ではこれまで膨大なショット数をPMが管理することが多く、PMの本来の仕事に支障が出る場合もあり、課題だと感じていました。本作では、プレートおよびVFXカットを管理する専門職を配置することで、VFX作業におけるインアウト工程のながれを体系化し、効率の良いショット管理を実現することができました」とVFXエディターの丸山友生氏は語る。
VFX作業は東京と大阪の2拠点で行われており、竹芝メディアスタジオのサーバを拠点に、東京・大阪・京都を10Gbpsの回線で結び、リモートでの作業体制が確立されている。制作管理にはFlow Production Trackingをカスタマイズし、クライアントであるオフィス・シロウズとも共有。制作進行の効率化も図られている。Netflix作品では作業環境におけるセキュリティ要件も非常に厳しいため、世界基準のセキュリティ環境が構築された。
時代劇アクションにおけるVFXサイドの備え
VFX制作のクリエイティブ面では、「フォトリアル」かつ「インビジブルエフェクト」をコンセプトとして制作が進められた。デジタルダブルを使わず全て役者を使って撮影するという岡田氏の意向を最大限尊重し、撮影現場での自由なカメラワークを保証するため、ほぼ全てのロケーションでLiDARスキャンによる3Dスキャニングを敢行。これにより各ロケーションごとに詳細な3Dモデルが用意され、マーカーが設置できないような場所やカメラワークでも高精度なトラッキングが可能になったという。
このトラッキングデータを使用することで、天龍寺のような現場を汚すことができない重要文化財での撮影であっても、血飛沫や地面の汚れなどをVFXで合成することが可能になっている。また、宿場町の街並みの多くは実写素材に対してフルCGによるセットエクステンションが施されており、リアルな明治時代の景観が再現されている。
本作の制作を通じて齋藤氏は「VFX制作において取り組めている部分と、体制やクオリティの両面でこれから強化しなくてはいけない課題が明確になってきた」と言う。「その上で、Imagica EMSとしてVFXチームが制作工程を横断するハブとなり、演出意図や仕上がりの方向性を制作の早い段階から共有して、完成形を意識したVFX制作をより当たり前のものにしてきたいと考えています。ポストプロダクションの各工程の部署を社内にもつ強みを背景に、各工程のつながりを意識したVFX設計を行うことで、『VFX単体の最適化』ではなく、『作品全体としての完成度向上』に貢献できるチームであることが次のチャレンジです」と語る。
広域3Dスキャンの活用
ほぼ全ロケ地でドローンやLiDARスキャンによる3Dスキャンを実施。機材は地上広域スキャン:Leica RT360、空撮:Matrice 350 RTK 、地上細部:FARO Orbis Mobile Laser Scanner、α7 R Ⅳ、自作リグGoPro、人物小物等:Handy Scan「Artec Leo」など。
血飛沫アセットのライブラリ化
天龍寺のシーンでは、大量の血飛沫エフェクトが必要となるため、様々な血飛沫のアセットをライブラリ化し効率良く作業ができるように工夫されている。血飛沫の表現に関しては監督の「戦いはラブシーンである」という美学に基づいて、グロテスクな血飛沫表現ではなくミスティで美しく見える血飛沫のアセットが開発された。
作品の内容と品質を象徴する「天龍寺」シーン
ロケーション上の制約をVFXでカバーする
序盤の天龍寺のシーンでは、300人が一斉に斬り合いを始めるという非常に派手で迫力のある乱戦が展開される。300人全てが生身の役者であるため、VFX制作ではその役者たちのアクションを邪魔しないフォトリアルなインビジブルエフェクトが徹底された。一連のシーンにはかなりの流血表現があり、壁や床、役者の衣装が血や泥で汚れている様子が随所に見られる。天龍寺ではそのようなロケーションに手を加えるような行為は全域にわたって禁止されていることもあり、全て合成処理で表現された。
また、夜のシーンであることから映像上では多くの松明が焚かれているが、実際の撮影現場では大きな火の扱いが禁止されているため、4つの大きな櫓の炎は全てVFXによって合成されている。こういった場所の制約に加え、大人数の役者が交錯し、なおかつ長回しをはじめとした複雑なカメラワークが絡む。そこでVFXチームは現場に常駐し、カメラのメタデータや各種ディスクリプションなど、現場での撮影状況の記録管理を徹底することによって、高い品質を保ったVFXショットを可能にしている。
「本作では撮影された元のキープレートを活かして、VFXでプラスアルファしながら、自然だけれども映えるショットを作成するというのが、VFX制作のキーポイントだったと思います。現場で撮影をする前に、やるべきことを明確にしてVFXのプランニングをしていますが、この組では現場でどんどんアイデアを出してショットをつくっていくことが多いので、現場での判断など、VFXチームの瞬発力がすごく大事な現場でした」(コンポジティングスーパーバイザー・菅原ふみ氏)。
櫓倒れカットのブレイクダウン
櫓が倒れて2人が池の中に落ちるカット。役者2人は櫓の美術セットに乗って演技し、ワイヤーアクションで池の中に落ちるように撮影。倒れる櫓は、破壊シミュレーションを施したCGに置き換え、飛び散る手すりなどが合成される。そのため、3Dスキャンしたデータを利用してプレートに対して高精度のトラッキングを施していく。また天龍寺のシーンでは多くの撮影や照明機材があり、それらのバレ消しのため大量の人物マスクが作成されている。合成時にはアクションのスピード感やメリハリを表現するため、部分的にリタイムして速度調整を行なっているショットもあるという。
tyFlowによる破壊とEmberGenによる炎
崩壊する櫓は、3ds MaxのtyFlowを使って作成されている。役者2人は撮影時に手すりがない状態で投げ出されていることもあり、櫓が崩壊する様子を自然に見せるのは難度が高かった。そのため、壊れた脚部が飛び散り方に見えるよう、完成まで10バージョンほど何度も試行錯誤が重ねられた。また、櫓の炎や境内にある松明の炎は主にEmberGenを使って作成されている。
Nukeで泡を追加した水中のリアリティ
役者が池に落ちた後は、水中にある別カメラにシームレスに切り替えられている。この水中で発生する泡はNukeのパーティクルシステムで作成されたもので、この仕上がりが一連のシーンのクオリティに直結したという。
水面に上がったカットのブレイクダウン
2人が池の中から上がった後のカットは、コンポジット作業の中でも最難関だったという。レンズの水滴越しや水面に映り込むハイライダーなどをリムーブする作業をはじめ、フォグを追加して前後関係を明確にする際など、予想外に膨大なマスク処理が必要になった。
全篇にわたって施される血汚れ処理
時間経過に応じて血や足跡が増えていく地面の汚しは、全てエフェクトによるもの。汚れのない実写プレートに対して、まず3Dスキャンのデータを利用してトラッキングを行い、地面のパースに合わせて汚し素材を合成していく。汚し用の基となるシーンデータは大阪チームで作成し、東西の各ショット担当に共有された。
ドローンによる印象的なオービットアウト
天龍寺境内で行われている戦いを真俯瞰から捉え、旋回しながらカメラが引いていく印象的なシーン。予告映像にも用いられているこのシーンでは、主要キャラクターの武骨が中心におり、その斬り合いの激しさが同心円状に広がっていく様が表現されている。高精度なトラッキングデータによって、ぶつかり合う刀の輝きをはじめ、地面の汚れや松明の炎が綺麗に合成されている。
飛び交う火矢の制御
逃げる2人をハンディで追っていくシーンは長回しのカメラワークになっており、その間に火矢が刺さる者や斬られる者が次々と出てくるという、大阪チームが手がけた最高難度のVFXショットとなっている。このシーンでも3Dスキャンによって作成されたデータを基にトラッキングデータが作成され、実写プレートに合わせた火矢の軌跡や炎が合成されていく。
火矢のロトメーション
宿場町のセットエクステンション
明治期の景観や街並みをCGを活用して再現
蠱毒の参加者は宿場町を経由しながら東京へ向かうという設定であるため、明治期の各宿場町を再現しなければならない。各宿場町のシーン冒頭でインサートされる空撮ショットは基本的にフルCGで作成されており、ショットによってはドローンで撮影したプレートにフルCGを合成して構成されている。京都、関宿などのフルCGショットは主に3ds MaxとV-Rayで制作されており、樹木はForest Pack、街並みはRailCloneでプロシージャルにバリエーションを作成し、大規模なシーンだが短時間で修正に対応できるように制作された。
リファレンスから最終ルックを探った京都空撮
京都の空撮は、山並みをフライスルーする部分はドローン撮影、街並はフルCGで作成。ルックは京都にある大文字山の山頂から見た嵐山方向の情景をリファレンス撮影し、ACESカラースペースに撮影素材を読み込みLUTをあて、CG側の色味も調整されている。
オープンセットを拡張してつくる京都の街並み
京都の街中はオープンセットの抜け部分に大きなグリーンバックを配置して撮影し、CGで置き換えられている。
クオリティと軽量化を両立した関宿
関宿は自然物が多く、データ量をいかに軽量化するかがポイントになったという。そこでV-Ray Decalを使って写真素材を地面に貼り付け、その上に樹木を生やすなどして軽量化が図られた。
ハブとなる職種の活躍
専門領域の間を取り持つ全体効率アップの立役者
大規模でショット数も多くVFXのクオリティが求められた本作では、アーティスト以外にも様々な職種のスタッフが活躍している。前述のVFXエディターは編集部とVFXチームとのハブとなり、膨大なショットデータの整合性を担保することで、制作効率と信頼性の向上に寄与した。撮影現場ではVFX作業の正確性を担保するためにPMが現場に帯同し、VFXカットか否かに関わらず、全テイクのレンズ情報やカメラ情報、カメラワークを記録。詳細に現場のデータを記録することによって、ポスプロでの素材検索の効率化や予算管理が大幅に効率化されたという。
VFXエディター登用によるクオリティ管理
本作ではショットの品質チェックのために、Tech-Checkツールが開発されている。このツールを運用してクオリティを担保したのがVFXエディターの丸山氏だ。ツール自体はDaVinci Resolveをベースにしたチェックシステムで、画面左上がグレインの確認、右上が最終コンポジット確認、左下がRGB値の異常検知、右下がピクセル欠損やフォーマット、解像度エラーの確認ができるようになっている。このツールを使うことにより、Netflix側への納品後にテックチェックによる差し戻しがほぼ発生しない納品精度が実現できたという。
全ショットの各種データをまとめたPM
本作ではPMが全カットの撮影帯同を行い、各ショットの詳細なデータが記録されている。
TEXT_大河原浩一/Koichi Okawara(ビットプランクス)
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
EDIT_藤井紀明/Noriaki Fujii(CGWORLD)