本作は現在TV放送中の『わんだふるぷりきゅあ!』の劇場版作品で、9月13日(金)より上映中。観客動員数が80万人を突破した人気作だ(※10月時点)。今回は宮原直樹監督と若手アニメーターとの対談から本作のCGパートの魅力を紹介していきたい。
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宮原監督×アニメーター対談
ビッグタイトルの舞台裏で活躍する新人アニメーターたち
「昨年の劇場版は20周年作品として、オールスターでスケールの大きなものでした。本作がまだ自分が監督するとは決まってないときに、『じゃあ次どうやるんだろうな』と楽しみにしていたんです。話が自分のところに来て、身近な話でまたイチからスタートという、再出発みたいな映画になれば良いなと思って作品に臨みました。題材もゲームということで、楽しく子供が見てて飽きない、原点に帰った作品になったと思います」(宮原氏)。
宮原直樹監督
その上で、ゲーム世界で動き回るキャラクターたちのアニメーションはとても重要な要素であった。CGカットは600ほどであったが、多くのアニメーターが様々なアイデアを組み込み、カットをより魅力的に仕上げてくれたという。
「バトルのないプリキュアというのは初の試みでした。その分、ゲーム世界で様々なステージに挑戦するこむぎたちの姿で魅せる必要があり、楽しませるアニメーションの作品がキモと言えます。多くのアニメーターが参加してそれぞれに努力して高いクオリティのアニメーションをつくってくれていましたが、特に今回新人アニメーターの活躍に驚かされました」(宮原氏)。
ここからは宮原監督と、和田めぐみ氏、三宮丈二氏、大井智明氏、梶谷 陸氏、濵田萌々氏の5名の新人アニメーターとの対談から、実際のシーンを例に挙げ、アニメーション制作の裏側を紹介していこう。
和田めぐみ氏担当カット
和田めぐみ氏/CGアニメーター
宮原氏(以下、宮原):まず、こむぎがタヌキの周りを回って、タヌキが目が回して転ぶというカット(S011_C005)は漫画のひとコマでしか成立しないような画でした。作画であればデフォルメを使って表現できますが、3DCGで成立するのか判断が難しいカットでした。
和田めぐみ氏(以下、和田氏):やはり足を動かすのが大変でした。滑るように見えたらいけないので、重心の移動を意識して動きを付けていきました。
宮原:素早い動きの中でもスピードの強弱も付けられ、綺麗に回っている画ができていましたね。本当にこれ以上速くなると目で追えなくなってしまうところ、望遠で距離を潰していたり、上手く対処してくれていました。
和田氏:レイアウトで地面との接地を見せない方向になったので、そこはとても助かりました。その分、動きの軌跡を先に詰めて、スピードに乗った足の動きの強弱とバランスを調整していきました。
宮原:次はポンタとポコタの2匹のタヌキの密着芸となるカット(S011_C010)。アニメーターさんには本当に申し訳ない難しい動き。2匹がずっとくっついているんですよね。普通にやるとどうしても平面的に見えてしまう内容です。
和田氏:まずはしっかりと押し合っている感じを上手く表現できればと思って作業に臨みました。まずは左のポンタの動きのベースを作成しました。そうして押し引きの相互的な動きを調整しつつ、干渉部分の身体の変形などを詰めていきました。
宮原:押し引きの体重のかかり具合が素晴らしく、フレーム外の下半身の動きまで想像できる仕上がりでしたね。足の動きも付けていますか?
和田氏:足も付けています。その上で体重がかかりあう密着面をブレンドシェイプで変形させて、カメラから見て隙間をなくすように調整していきました。見えない部分は嘘をついています。
宮原:最後、仕上げで顔の正面影で暗くしてちょっと脅かす雰囲気みたいなのをさらにつくってもらったんですが、わりともうアニメーションの中だけで成立していたので、仕上げさんの方も雰囲気が掴みやすかったんじゃないかな。
和田氏:気をつけたのは眉毛の形です。 形がちょっと変わったりすると、キャラクターが崩れてしまうので。絶対壊さないようにしながら表情を変えるのが難しかったのですが、目の周りの縁取りの中に大胆に位置を変えたりして強弱を付けていきました。
宮原:当初、ポンタとポコタに関しては、何を考えているかわからない無表情なキャラクターをイメージしていたのですが、アニメーターが動きを付けていく過程で可愛く魅力的なものに変化していき、それが想定外に良かったです。続いて、ムジナ(ゲーム世界のボスタヌキ)が勢いよくカメラに迫ってくるカット(S069_C047)。ムジナの慌て具合であったり、手前に迫ってくるスケール感、手前にいるポンタたちとの差であったり、えらいこっちゃっと逃げるタヌキたちのユーモラスな感じであったり、様々な要素をワンカットの中で表現してもらっています。
和田氏:まずキーとなるムジナの動きからつくっていきました。その際、重さが出るような動きを特に意識しています。手の返しや身体の浮き方、四足的な動きなど多くの要素がありましたが、ポーズtoポーズでながれをつくり、中間を詰めていきました。特にジャンプするところの重さは意識して、カーブを調整し良い塩梅を探りました。後は目線を動かさないことであったり、全体としてアシンメトリーなポーズを意識して、一様でない動きをつくっていきました。
宮原:ポンタとポコタのリアクションも良くとれてましたね。
和田氏:2匹の振り返る方向を逆にしています。モブの小タヌキたちは当初なるべくカメラに映らないようにということだったのですが、どうしても映ってしまうので、わちゃわちゃ逃げていく動きを付けました。
宮原:ムジナがジャングルジムのような塔を登っていくカット(S069_C048)は、本作のキラーカットのひとつでした。巨大な生き物が縦横無尽に、器用に手足を使ってアクションする姿はまさに見せ場でしたね。
和田氏:作業は難しかったですが、ジャンプしてぶら下がって動きの支点が手に変わるなどの基本を積み重ねながら、丁寧に動きを付けていきました。軌道が滑らかになるように調整しつつ、セカンダリーのマフラーの動きでスピード感を演出しています。そこも含めて映えるシルエットで動きの強弱や抑揚を表現できたかなと思います。また、本作のキャラクターにおいては関節をあまり意識させないように気を配りました。カクカクしていると可愛くなくなってしまったり、キャラクターのデザインが損なわれたり、このカットに限らず全体としてはデフォルメキャラクターを崩さずに動きを付けることは意識しました。
和田めぐみ氏担当カットの一例
三宮丈二氏担当カット
三宮丈二氏/CGアニメーター
宮原:キュアフレンディとキュアリリアンが囚われた部屋で大福の声がする扉の方に耳を傾けるカット(S048_C007)は、一見地味に見えますがすごくカットのながれの理解度が高いなと感じました。レンズシフトによる表現は3DCGを使うことの強みで、サスペンス的な前振りのようなカットで使っていましたが、ここは特に上手くいったカットでした。こういう意図はなかなか伝わず何度もやり取りするのが常でしたが、一発で画が出てきたのに驚きでした。
三宮丈二氏(以下、三宮氏):カメラが首を振りつつレンズも変えることになるので、 ドアの軌道がガタガタしたり、キャラクターの軌道も難しかったのですが、そのあたりを重点的に調整していきました。
宮原:細かい部分ですが、カメラの動きに合わせてフレンディのポーズ合わせをしっかりしていて、丁寧な作業が窺い知れました。このカットはカメラコントールがメインでキャラクターの動きはあまりありませんでしたが、一転してフレンディとリリアンが驚き喜ぶフェイシャル表現(S048_C012)のクオリティの高さに思わず声を上げました。この前のカットはぺたっと床に腰を付けていて、そこで起き上がるんですが、わりと段取りぽくなってしまう。感情のままにこう、ポンと立ち上がるっていうのがすごく上手く表現されているなと。
三宮氏:レイアウトも少し調整しましたが、一連の動きの中でしっかり表情をつくって魅せることに注力しました。驚きと喜びの入り混じった顔ってどういう顔だろうと悩みましたが、形状だけでは追いきれない部分もあるので、変化するタイミングなどを意識しています。フレンディとリリアンの2人の対比も考慮して表情を付けていますが、リリアンの方はクールで抑えめなため、目パチを足して変化を与えました。
宮原:フェイシャルでいうと、こむぎのフェイシャル(S075_C005)も素晴らしかったです。バグ空間に落ちて階段を上がり、脱出の光明が見えたときの顔です。アドリブで尻尾の動きが付いてたりと、こむぎの魅力を最大限出してもらえたカットでした。
三宮氏:こむぎのシルエットが可愛くなるよう、意識してポーズを付けました。顔自体は大きく変化させてはいないですが、同じ形にはならないように微妙に動かし、下向きから上向きへと変わるポーズやカメラアングルでポジティブに変わる心情を演出しました。希望が生まれた表情のポイントとしては、目のハイライトのサイズを大きくしたところです。
三宮丈二氏担当カットの一例
CGWORLD 2024年12月号 vol.316
特集:ガンダムCGの変遷と最前線
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年11月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada