本作は現在TV放送中の『わんだふるぷりきゅあ!』の劇場版作品で、9月13日(金)より上映中。観客動員数が80万人を突破した人気作だ(※10月時点)。今回は引き続き、宮原直樹監督と若手アニメーターとの対談から本作のCGパートの魅力を紹介していきたい。
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大井智明氏担当カット
宮原直樹監督
宮原氏(以下、宮原):バグ空間に落ちてこむぎが目を開き、状況を把握する一連のカット(S075_001~002)。カットとしてはこれまでの明るい舞台から、暗いアンダーな展開へと変わる大事なカットでしたが、不安げなこむぎの表情と次カットへのつなぎがとても良かったですね。
大井智明氏(以下、大井氏):こむぎの顔って可愛くて笑顔っぽくなりがちなので、どういう風に不安な表情をつくるか頭を悩ませました。瞑った目のニュアンスなど、試しながらつくっていきましたが、この目はフリーラインツールは用いず、もともとあるパーツの変形と組み合わせで作成しました。
大井智明氏/CGアニメーター
宮原:そのこむぎの表情から立ち上がるカットにつながりますが、大きな頭を持ち上げる感じで、ちゃんと片肘をついてるんですね。普通だったら、ポンって起き上がりの動きを付けそうなところを、少しこう傾きながら立ち上がるっていう。前カットからのつながりがすごく自然でした。
大井氏:カットでは足が見切れていますが、実際には足の動きも付けて、重心移動を意識した動きにしています。起き上がったときの余韻をつくりつつ、こむぎの小さい身体のシルエットも見せるようにしてあります。
宮原:それから、大井さんにはCGパートの最後となる脱出劇のフィナーレのカット(S082_C020)も担当してもらいましたが、解放感を感じられる素晴らしい出来でした。表情もそんなに細かく自分の方からは指示しなかったんですが、ちゃんとセリフを聞いていただいて、それに合った的確な表情を付けてもらえましたね。
大井氏:一瞬ではありますが、顔がドアップになります。そこの画はしっかりと決めたいという思いでした。後は揺れものですね。みんな髪が長いので、しっかり揺らすことは意識しましたが、一瞬の動きなので記号的に伝わるシルエットを意識して調整していきました。
宮原:飛んでいるポーズも良かったです。自分の力で飛んでいるのではなく、吸い上げられているのが一発でわかるアニメーションになっていました。実際、このカットはフィナーレとして重要であったため、僕の方からもいくつかの演出案があり決め切れずにいました。やり取りと試行錯誤とをくり返し、最終形までつくり上げてもらえたことに感謝ですね。
大井智明氏担当カットの一例
梶谷 陸氏担当カット
梶谷 陸氏/CGアニメーター
宮原:リズムゲームで苦戦するこむぎ。そこに満を時して助けに入るユキの登場カット(S018_C039~C040)ですが、『ユキが来たー!』と、拍手が取れる仕上がりでした。こむぎと対照的にスマートでクールなユキが助っ人に入ってくるカットの驚きと期待感を上手く演出してくれたなと思います。
梶谷 陸氏(以下、梶谷氏):ユキがゲーム世界で初登場するシーンなので、良く見せたいというのがありました。造形的にも細かく調整しています。肩周りから綺麗に伸びる腕や、お腹から足までのシルエットラインなど、カメラから見てユキの美しい立ち姿を詰めていきました。中でも足のラインを綺麗につくることが一番難しかったです。それを実現するために嘘も多くついています。右足は短く、左足は伸ばしていたりと。
宮原:身体のプロポーションを最大限に活かしたポーズだったり、じわっと尻尾が動いてたりとか、すごく芸が細かいなって思いました。それと、梶谷さんの担当カットでダンシング玉入れのカット(S031_C032)ではフェイシャルの上手さも見せていただきましたね。
梶谷氏:絵コンテを見て可愛いシーンだと思ったので、 『楽しいね』っていうセリフに合わせて、一番可愛い顔をつくることをとっかかりにしてつくっていきました。カメラに1番近づいた画をまずイメージして固めて、そこから組み合わせて、前後の表情をつないで仕上げていきました。
宮原:風船割りの剣が出てきたときのキュアワンダフルの一人芝居(S054_C014)も素晴らしかったですね。ワンダフルは元は犬なので、風船やスポンジの剣が出てきたときにどう反応するだろうっていうところで、一人芝居としてつくっていただいたカットです。柔らかいスポンジ剣を説明するカットでもあります。
梶谷氏:作打ちの際に、カメラはフレキシブルで結構自由なカットだったので、どこまで膨らませていけるかが課題でした。剣を自分で買って振り回しながらイメージを固めていきました。結構動きを盛りすぎてしまって削る部分もありましたが、ポイントとしては剣が出るタイミングとカメラの引くタイミングをずらすことでわざとらしさが消え、無邪気なワンダフルを演出することにつながりました。
宮原:相手側のムジナサイドのアニメーション(S054_016)は逆に僕が盛りすぎていたところを、上手く引き算してまとめてくれましたね。当初、要素が多すぎてカットとしてまとまらなかったのを、上手く着地させてもらいました。
梶谷氏:ムジナに焦点を当てて、一連のながれを見せる演出を目指しました。ムジナの意地悪そうな顔をしっかり見せて、ボス感を出すように調整していきました。
梶谷 陸氏担当カットの一例
濵田萌々氏担当カット
濵田萌々氏/CGアニメーター
宮原:濵田さんには本作ベストと言えるカットを担当してもらいましたね。ダンスが始まる前のワンダフル(S031_C018)とキュアニャミー(S031_C019)のカットですが、キャラクターの可愛さとポーズの綺麗さを表現し、的確なカメラワークを選択していたと思います。
濵田萌々氏(以下、濵田氏):特に意識したのは決めポーズです。結構顔がアップだったので、フルコマに近い感じで枚数を使って細かい表情変化が見えるようにしました。フェイシャルではいかに可愛くできるかを考え、ワンダフルのもきゅっとした口や、大きく口を開けたりして表現しています。カメラは煽りすぎると顎が綺麗に出ないので、その具合も調整しました。
宮原:濵田さんの担当したダンスのカット(S031_C020)は、キャプチャベースでつくってもらっていますが、キャプチャの弱点である嫌なブレや揺れみたいなものはまったく感じませんでした。ちゃんとキャラクターとして成立させてもらっている。
濵田氏:軌道を綺麗に見せるのは当然のこととして、ワンダフルとニャミーでちがいを出すことを意識しました。ワンダフルの方が少し大げさに動いている感じです。足の踏み出しに強さを与えるなど、細かい部分で積み上げて差をつくっています。あと、ダンスなんですが、リミテッドの2コマ落としでしたが、ただコマを落とすだけだと滑らかに見えなくて。タメツメをつけて滑らかなアニメっぽさを出すのに苦労しました。
宮原:それから、最終ステージに4人のプリキュアが上がっていくカット(S054_C002~C003)。これから何が起こるか不安の中にも、しっかりがんばるぞって表情を含めたキャラクター4人4様のアニメーションが秀逸でした。ちゃんと動きに差があったり、立ち姿、立ち角度、表情の付け方っていうのが、4人のキャラクターをしっかり理解した上で付けてくれているので、もう何も言うことはないですね。
濵田氏:ここはワンダフルだけまだこの深刻な状況がわかっていない感じ。ワンダフルだけがすごく元気な様子を出したくて、アドリブでジャンプを加えました。そこをアクセントに、ニャミーはもう真剣な感じで周りをクールに見ている。それを微笑んで見てるフレンディとリリアン。そういったキャラクター性の対比をつくることを意識しました。
宮原:こうして横並びで見ると、アニメーターさんそれぞれのバックボーンや経験から生まれてくるアニメーションがあるんだなと改めて実感しました。演出とアニメーターの間では多くのやりとりがありますが、アニメーター側の提案やアレンジで作品のクオリティは格段に上がったと思います。子供が見て楽しめる原点に返った劇場版作品をぜひ皆様にご覧いただきたいですね!
濵田萌々氏担当カットの一例
CGWORLD 2024年12月号 vol.316
特集:ガンダムCGの変遷と最前線
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年11月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada