3月14日(土)・15日(日)に行われた一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)による「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2026 in TAAF」の中から、オー・エル・エム・デジタル(OLM Digital)による事例紹介セッション「SAKUGADO・SHIAGEDOの開発最新情報とANIMINSプロジェクトを通じたアニメ制作技術の将来」の模様をレポートする。

記事の目次

    イベント概要

    「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2025 in TAAF」
    開催日:2026年3月14日(土)、15日(日)
    場所:としま区民センター
    参加料:無料
    主催:東京アニメアワードフェスティバル2026実行委員会
    共催:一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA) ACTF事務局、株式会社ワコム、株式会社セルシス
    www.janica.jp/course/digital/actf2026inTAAF.html

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    インハウス作画ツール「SAKUGADO」とSAKUGADOのプラグインである仕上げ支援ツール「SHIAGEDO」

    事例紹介セッション「SAKUGADO・SHIAGEDOの開発最新情報とANIMINSプロジェクトを通じたアニメ制作技術の将来」には、OLM Digitalより研究開発部門(R&D)の四倉達夫氏(取締役/R&D Supervisor)と木下美紀氏(Head of Development)が登壇。

    まずは木下氏が、同社の作画ツール「SAKUGADO」と「SAKUGADO」のプラグインとして使用する仕上げ支援ツール「SHIAGEDO」について解説した。

    ▲SAKUGADOは、作画業務の効率化や利便性の向上を目的として開発が進められているツール。SAKUGADOは描きやすさ、使いやすさなど作画ツールに特化している一方で様々なツールとの連携(プラグイン化)が可能。後ほど紹介するSHIAGEDOや、将来パイプラインツール連携も視野に入れて、フルデジタル化によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現も視野に入れている

    SAKUGADOの開発は、仕上げ機能の実装から開始された。ただし、OLMでは仕上げ作業を行なっていないため、マレーシアのOLM Malaysia(※2026年6月1日(月)よりOLM Asiaから社名変更)と連携しながら検証が進められた。現在は、この仕上げ機能の運用が現場で始まっており、動画機能についてはRelease Candidate版を展開、6月に本格運用を予定している。さらに、原画機能については、2026年度中のリリースを目指して開発中だ。

    ▲OLM Malaysiaとのやり取りでは、日常的な連絡にGoogle Chatを用い、週1回のオンラインミーティングで進捗確認や課題共有を行なった。制作現場への導入時も大きなトラブルは発生せず、現地スタッフからのフィードバックに素早く対応できる社内開発のメリットが活かされた

    SAKUGADOの色指定機能

    アニメ制作の色指定表では、キャラクターの各部位に用いる通常色・影色・ハイライトなどが、カラーボックスと呼ばれる四角い色見本で示される。SAKUGADOではこのカラーボックスを識別し、使用色をカラーパレットへ自動登録できる

    ▲SAKUGADOの作業風景。ドラゴンの色指定表を読み込み、カラーパレットに自動登録する様子。色指定表のカラーボックスには様々なパターンがあるが、サンプルを大量に収集して、それぞれを識別できるようにした
    ▲自動登録に失敗した場合は、手動で色の追加・削除が可能。これらの操作は色指定表上で行い、変更はカラーパレットにも自動的に反映される
    • ▲色指定表そのものに変更があった場合は、再読み込みによってカラーパレットが自動で更新される
    • ▲すでに彩色をした部分は、新しい色に自動的に置き換えられる。画像の例では、ドラゴンの目が黄色から赤色に変わっている。シーンに応じて通常色から夜色へ変更する場合も、色指定表を再読み込みするだけで対応できる

    SAKUGADOには、さらに作業に便利な機能を複数備えている。そのひとつが、彩色した色の表示/非表示をカラーパレットやグループ単位で切り替えたり、色を一括で置き換えたりする機能だ。

    ▲ドラゴンの目の色のグループを表示非表示にした例。左画像の目の黄色が、右画像では見えなくなっている
    ▲カラーマッピング機能によって色の一括置換が可能。仮色から正式な色へ置き換える際などに活用できる。任意のフレームのみを対象とした置き換えにも対応している

    SAKUGADOの塗り漏れ防止機能

    SAKUGADOには、仕上げ時に発生する塗り漏れを防止する機能も搭載されている。

    ▲この画像には1ピクセルだけ塗り漏れがあるが、通常状態では見つけづらい
    ▲シングルモードに切り替えると、彩色済みの箇所が黒で表示されるため、塗り漏れを一目で判別できる
    • ▲シングルモードでは塗り漏れの位置は把握できるが、絵のどのパーツにあたるのかは判別しにくい。視認性を高めるため、コントラストモードやグラデーションモードを搭載している
    • ▲グラデーションモードに切り替えた例。シングルモードと異なり色の輪郭が表示されるため、目の塗り漏れであることが確認できる
    ▲いずれのモードでも、実際の色を取得してそのまま彩色でき、その場で修正が可能

    SAKUGADOの塗りつぶし機能とOLM Smoother

    塗りつぶし機能では、「含み塗り」を使うと黒以外で描かれた色トレスも含めて彩色できる。線で囲まれた閉じた領域などで塗り漏れが発生する場合は、「繋がり塗り」ONにすることで対応できる。

    ▲「含み塗り」や「繋がり塗り」は、線の状態によっては有効に作用しない場合もあるため、ユーザーが選択できるようオプションとした
    ▲範囲を塗りつぶす場合、「なげなわ塗り」や「ブラシ塗り」を状況に応じて使い分ける
    ▲なぞった範囲の線の色だけを部分的に変える機能も搭載
    ▲OLM Smootherは、二値化によって発生した線のジャギーを滑らかに補正するプラグインだ。After EffectsやPhotoshopなどでも使用可能。OLMのサイトからダウンロードできる

    現場スタッフによるSAKUGADOの評価

    SAKUGADOを実際に使用したスタッフの評価を受けた木下氏は、「業務の効率化につながっている」という反応に安堵した一方、UIなどの細部についてはまだ手がまわっていない部分があり、改善を進めていくと語った。

    ▲SAKUGADOを使用したOLM Malaysiaスタッフの評価

    SAKUGADO のプラグインとして:仕上げ支援ツール SHIAGEDO

    仕上げ工程を支援するSHIAGEDOは、AIを用いた彩色サポート機能を備えている。ただし、SHIAGEDOは、生成AI(CLIPやStable Diffusionなどの大規模データで事前学習された基盤モデル)は一切使用していない。

    Computational Visual Media Journal(CVMJ)に掲載された論文の技術をベースとしており、彩色対象カット内の彩色前後のデータのみを使用し、その場で彩色対象カット専用のモデルを学習する。彩色が完了したら学習されたモデル・データとも破棄している。CVMJの論文では継続的な学習の機能が記載されているが、権利問題に配慮しているため、実用においては使用は考えられていない。

    学習時間はGPUに「NVIDIA RTX 6000 Ada」を搭載した場合で30秒程度、処理時間も1枚あたり約10秒と短い。

    ▲SHIAGEDOの出力結果。作業者が手直ししやすいように、色トレスを残した修正用と「含み塗り」をした最終結果の2種類を出力する
    ▲作業で彩色されたデータを学習データとして使用するため、別のキャラクターなど、絵柄が変わっても彩色支援が可能。学習は1枚から可能だが、原画相当のフレームを全て手作業で塗ってからモデルを学習することで出力結果の精度を高めている
    ▲学習枚数が1枚(上)と4枚(下)の対比。枚数が多いほど精度が高くなっていることがわかる

    SHIAGEDOの正答率は細部も含めると現状では8割ほどだが、基礎研究のベンチマークでは9割ほどに上がっているとのことだ。

    SHIAGEDOは単独でも動作するが、SAKUGADOのプラグインとして連携可能。インポートやエクスポートはSAKUGADO内で実行でき、ほかのソフトやアップローダーなどを介す必要がない点は、スタッフから好評だった
    ▲SHIAGEDOを使用したOLM Malaysiaスタッフの評価。アクションカットなど動きの大きいカットの改善が課題となっている

    ANIMINS成果報告、ワークフローのデジタル変革に向けて

    セッションの後半ではANIMINS(アニミンズ)の成果について、四倉氏が報告した。ANIMINSは、経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が推進する生成AI開発支援プロジェクト「GENIACGenerative AI Accelerator Challenge)において、データ・生成AI利活用実証事業者のひとつとして採択された取り組みである。202412月より、アニメ制作におけるAIの利活用の調査プロジェクトとして、ANIMINSをスタートさせた。

    ▲【株式会社​オー・エル・エム・デジタル​】アニメクリエイター創出・制作支援のためのアニメ×生成AI の利活用に関する調査|GENIACコミュニティキックオフ(2024年10月10日(木)に開催)

    同プロジェクトでは、AIを「アニメ制作を全自動化する」目的で使うのではなく、各工程を支援するツールや制作者を補助するサポーターとして位置づけ、どのように活用できるかを調査した。

    プロジェクトの目標には「生成AIを活用したアニメ制作ワークフローのブレークスルー」を掲げ、技術テーマとして「原画・動画・仕上げの作業工程へのAI活用」「AIを活用したキャラクター描画支援」に取り組んだ。さらに研究開発用のツールを作成し、それらを用いたショートアニメを制作。実際の制作工程に近いかたちで、AI活用の有効性を検証した。

    ▲ANIMINSは、基礎研究・アニメ×AI調査・プロダクションユースの3つのコンポーネントで構成。セッションでは、プロダクションユースを中心に紹介された
    ▲ANIMINSの体制図。産学官連携のプロジェクトで、プロダクションユース検証にはアニメスタジオ24社が賛同した

    ANIMINSの成果の一例目として、ANIMINSメンバーであるAI Mage(エーアイメイジ)が開発した検索システム(Mage Search)・監修システム(Mage Review)が取り上げられた。

    AI Mage社は、アニメ作品の理解に特化した人工知能「Anime General Intelligence(AGI)」を利用し、参考カットの検索や、作品ライセンスに伴う監修作業の効率化を支援するサービスを提供している。

    ▲AI Mageの検索・監修システムは、OLMをはじめ複数のアニメスタジオとの契約を予定している

    このようなデータベースを構築する場合、ラベルを手入力することが多い。しかし、AI Mageは事前に映像データをアップロードすれば、AIがカットの検索に必要な前処理を自動で行うため、フルオートで登録できる点が特長だ。
     
    一般的なWeb検索と同じ感覚で利用でき、検索ボックスに探したいカットの特徴を入力すると、関連性の高いカットが表示される。音声処理によってセリフもメタ情報として保持されており、検索速度も非常に速いため、複数の作品を扱う上で役立つという。

    ▲ANIMINSの成果の2例目は、前半で紹介したSHIAGEDO

    ANIMINSを通じて体験した課題について、四倉氏は「生成AIの出力は100%の正解ではないが、商業アニメでは100%の完成度を求められる」と指摘する。すでに一定のスキルをもつプロに向けて、どのようなツールをつくれば良いかという難しさを改めて感じたとふり返った。

    • ▲3DCGアニメの制作現場では、普段使い慣れたDCCツールを土台にしてプラグインやアドオンを使用したり、素材を受け渡したりできる
    • ▲しかし、2Dアニメはそのようなツールが存在せず、作業環境も紙やデジタルが混在している
    ▲SAKUGADOが作画ツールの土台となれば、将来的に新しい技術を開発した際にも複数のソフトを行き来せず、気軽に試すことができる

    最後に四倉氏は、AIは技術としては発展途上にあるとしながらも、「AIはツール、3DCG技術と同じように考えてもよいと思います。アニメ制作で3DCGが馴染むのに20年ぐらいの時間がかかりましたが、AIはもう少し早いかなと思っています。私たちも研究開発を進めて、皆さんに情報提供できればと思っております」と述べた。

    ANIMINSも基礎研究を継続することを伝え、「基礎技術は1年でできるものではなく、3年、5年、もしかしたら10年かかるかもしれません。基礎の技術を蓄えて、将来的にクリエイティビティとテクノロジーの両輪で進むことによって、アニメ業界をより良くしていきたいです」と締めくくった。

    ▲「ANIMINS」は「ANIMINS 2.0」としてAIのみならず3DCGやHCIなどの基礎研究を続け、OLM Digitalは産学連携を継続する。その成果たちはSAKUGADOを基盤として技術評価・フィードバックを将来的に実現予定

    TEXT_遠藤大礎 / Hiroki Endo
    EDIT_海老原朱里 / Ebihara Akari(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada