日本時間の2023年3月29日(水)、Mayaの最新バージョン「Maya 2024」、3ds Maxの最新バージョン「3ds Max 2024」がリリースされた。

Maya2024では、LookdevXをはじめとしたUSDワークフローを構築するための様々な機能追加・強化が行われ、3ds Max 2024では、BooleanやArray モディファイヤの機能強化が図られた他、USDにもはじめて対応した。加えて、AI機能を搭載した「Maya Assist」がプライベートベータ版として発表されるなど、今後のワークフローが大きく変革するようなアップデートが多数なされた。

こうした大きなジャンプアップを行った背景には何があったのか?

3月末に来日した、オートデスクのM&E部門VP(Vice President)を務めるモーリス・パテル氏(Maurice Patel)に、コロナ禍におけるグローバルのユーザー動向や最新のオートデスクの開発事情について伺った。

記事の目次

    グローバル規模で、"リモート"を軸に制作プロセスや仕事の仕方が再定義された

    モーリス・パテル

    1996年以来、メディア&エンターテインメント業界のクリエイティブ プロフェショナル向けにソフトウェア開発を支援。オートデスクでは、3ds Max、Maya、Motion Builderなどのプロダクトマーケティング管理やメディア&エンターテインメントにおけるビジネス戦略やマーケティング部門を統括。現在、バイスプレジデントとして、メディア&エンターテインメント ソリューション グループの戦略推進を支援。

    モーリス・パテル(以下、パテル):私はデジタルコンポジティングのトレーナーからキャリアをスタートして、M&E業界で35年、オートデスクにジョインしてからは23年になります。現在はオートデスクのM&E部門の戦略責任者という立場です。

    ▲オートデスク メディア&エンターテインメント(M&E)の最新ショーリール

    CGW:グローバルではこの数年、Mayaや3ds Maxなどを使用している顧客にどういう変化がありましたか。

    パテル:コロナ渦においては、エンターテインメント業界でも急激な変化に対応できる「柔軟性」と「レジリエンシー(Resiliency:問題からの復旧能力)」が必要でした

    世界的にリモートワークが普及し、制作プロセスや仕事の仕方が再定義されましたね。特に映画業界や広告業界には大きな影響が出て、俳優やスタッフが集まって撮影を行うような、従来型の制作プロセスでコンテンツを制作していたスタジオはコロナに対応するための制作プロセスの移行に時間がかかりました。

    今回、そのような移行に素早く対応できない企業ではレイオフが起こり、シュリンクした事業もありました。ただ、業界全体として見てみると、巣ごもり消費のお陰でアニメやゲームなどのエンターテインメントの需要が増えました。そして近年では、コンテンツに対する需要は「量より質」に変化しているように感じます。

    それと、コロナとは関係のない部分で、想定していなかった大きな変化もありました。いわゆる「ブレグジット」でヨーロッパの人材の多くがイギリスを離れ、母国に帰ることになったことです。しかしここでも、レジリエンシーの高い企業はすでにフルリモートの制作体制を構築していたため、影響が少なくて済みました。

    こうした急激な市場の変化への対応をいつも意識しながら、お客様のサポートができるようオートデスクM&Eでは戦略的に次の3つの柱に現在投資をしております。

    1つめは最も重要な柱で、コアとなるデスクトップ製品のMaya3ds Maxなど継続的に投資を続け、ベストなコンテンツ制作ツールを提供し続けることです。

    2つめは顧客がシームレスにアセットやテクノロジーを共有できる制作ワークフローのプラットフォーム構築のための投資です。

    そして、3つめは3Dに関連するAIへの投資です。

    最近のMayaや3ds Maxの開発状況は?

    CGW:ではまず1つめの、Maya3ds Maxなどのコンテンツ制作ツールについてうかがいます。ユーザーからはMayaや3ds Maxのアップデートに際して、新しいテクノロジーが少ないのではないかという声もあります。現在どのような開発の方向性を考えているのでしょうか?

    パテルMayaや3ds Maxといった主力デスクトップ製品はすでに成熟しており、機能を一式備えています。Bifrostを筆頭として、新機能、新技術の開発と実装にも力を入れていますが、直近のアップデートで新鮮味を感じてもらいにくくなっているとのご意見をお客様からいただくことがあります。

    お客様からそうした声が寄せられる理由は、私たちが現在開発でアップデートしていることの多くが裏方的な機能だからです。

    例えば、制作パイプラインの中で上手く使ってもらえるような調整は、地味ですが大規模な制作においては欠かせないものです。また、下位バージョンの互換性の維持も大切で、新機能に変更を加える場合には、お客様のパイプラインが正常に機能し続けるよう、旧バージョンのシーンファイルも安定して扱える必要があります。

    また、ACESやUSD(Universal Scene Description: オープンソースで公開されているPixarの汎用シーンフォーマット)などのようなオープンスタンダードなフォーマットの標準化の策定と実装も、地味に思われるかもしれませんが、制作パイプラインを強固にし、使いやすくするために欠かせないことです。映画業界における標準化はオートデスクが牽引役となり実現してきました。

    きらびやかな機能追加だけがアップデートではなく、お客様に対して安定した効率的な制作環境を提供することも大切だということを理解してもらえると嬉しいです。

    CGW:次のアップデートに向けて、今は何に取り組んでいますか?

    パテル:いくつもあります。3ds Maxではモデリングシステムのオーバーホールを行っていますし、USDのワークフローを3ds Maxに実装する取り組みも行っています。Mayaでは現在、アニメーション機能のオーバーホールを行っていて、パフォーマンスを上げるように尽力しています。

    またM&E業界としては、アニメーションとリギングの標準化が足りていないため、こちらもより皆さんのワークフローに適用できるような標準化に向けて現在取り組んでいます。

    私たちはアーティストが求める創造性と、エンタープライズが求める効率性、この両方のバランスを取ってアップデートできるように取り組んでいます。現在、エンターテインメント業界の大きな課題はやはり効率のほうにあるので、全般的には効率化につながる投資を重視しています。オートデスクとしてはその課題を早く解決したいと考えております。

    CGWワークフローの効率化という観点でいうと、最近のオートデスク製品はUSDを筆頭に、LookdevXMaterialX、Hydraなどのオープンソースプロジェクトを推進しています

    パテル:それはオープンソースがデータ交換と標準化の一番の近道だからです。歴史的に見ても、映画などの作品制作のプロセスを1つのツールだけでやりきることはできません。どうしても複数のツールでデータを交換しながらつくり上げていくことになります。

    そういうときにUSDなどのオープンソースの存在が際立ちますし、これによって我々のお客様がより効率的に制作できるようになることを確信しております。

    それでも、全てが一気に解決するわけではありません。USDでは3Dシーンの共有はできても、シェーダネットワークといった詳細なマテリアル情報の共有は困難です。

    そこで今度はマテリアルの標準化が必要になり、MaterialXのようなオープンソースプロジェクトをAdobeやEpic Gamesなどのパートナーとのコラボレーションで活用する。その循環で少しずつ標準化を進めています。

    ■Autodesk オープンソースプロジェクトに対する取り組みについて

    オートデスクによるUSD、LookdevX、MaterialX、Hydraのデモ動画

    CGW:2020年のMaya Indie、そして昨年のMaya Creativeと、Mayaのライセンスが多様化していますね。

    パテルそうですね。Maya Indieと3ds Max Indieは低価格ではありますが、フル機能を使用でき、金銭的に余裕がない社会人の方向けのライセンスで、学校を卒業したばかりの個人の方やスタートアップの企業向けに用意しました。

    また、自身がパイプライン側(TA:テクニカルアーティストなど)なのか、それともアーティスト側なのか、方向性が定まっていないユーザーも対象になるのではないかと考えてます。

    一方で、Maya Creativeのほうは、プラグインが使えないなどパイプライン関連の機能は入っていないライセンスになりますライセンス形式も通常のサブスクリプションではなく、従量課金制Autodesk Flexという1日単位でトークンを消費していく新しいライセンス形式となっていて、新規にMayaをトライしてみたかったり、普段は別のDCCツールを使っている方にも利用いただけるライセンスになっております。

    価格は1日3米ドル相当で、ソフトの使用頻度に応じて必要なトークンを選択頂けるので、Mayaを気軽に導入いただけるのではないかと考えております。

    ■Maya Creative

    アセットなどをシームレスに移行できる、クラウドプラットフォームの構想とは?

    CGW:では次に、2つめのプラットフォーム構築について具体的に教えてください。

    パテル:これは昨年アメリカで開催したカンファレンス「Autodesk University 2022」で発表した、M&E向けのクラウドプラットフォーム、Autodesk Flowに関することです。

    パテル:現在クラウド製品としてShotGridMoxionがありますが、これらはまだFlowのプラットフォームには乗っていません。また、Mayaや3ds MaxなどのDCC製品も当然デスクトップ製品なので、単独に動作しているのが現状です。サードパーティーツールを含め、これらのツールをAutodesk Flow上で接続し統合していくことで、アセットなどをシームレスに移行ができるプラットフォームを構築していく予定です。

    その結果、例えばMayaを使っているデザイナーも、ShotGridを使っているプロジェクトマネージャーも、同じFlowのプラットフォームにアクセスして統合環境の中で仕事ができるようになります。ただし実際は簡単なことではないことは理解してますし、時間もかかることなので、何年か継続的に開発していくことになるでしょう。

    我々がやろうとしているのは、顧客のデータそのものをクラウドに置くことではなく、メディアインフォメーションのレイヤー、そしてその上のアセットマネジメントのレイヤートラッキングしていくことです。

    このアセットマネジメントのレイヤーが私たちのプラットフォームの根幹で、その先にはデスクトップ製品との統合もあります。Mayaなどの自社製品はもちろん、サードパーティのツールも統合できるように、オープンにしていきたいと考えています。

    CGWなるほど、Mayaや3ds Maxがクラウド製品になるという意味ではないんですね?

    パテルはい、その通りです。Mayaや3ds Maxのようなデスクトップ製品がクラウド上のFlowプラットフォームに接続することで、クラウドネイティブな機能とデスクトップネイティブな機能をシームレスに行き来して、効率良く利用できるようになる、ということを目指しています

    演算負荷が高いものはクラウドベースになり、インタラクティブパフォーマンスが求められるものはデスクトップベースになるでしょう。例えばBifrost(ノードベースでエフェクトを構築できるMaya用プラグイン)は現在デスクトップ上で動作しますが、ゆくゆくは、演算負荷の高さからクラウドネイティブなケイパビリティを持つ可能性もあるかもしれません。

    ■Bifrost説明動画

    パテル:将来的には、制作ツール側がクラウドで処理をするか、デスクトップで処理をするかを自動で選択するようになるかもしれませんね。

    M&A・投資・協業によるAIストラテジー

    CGW:M&Aによる事業拡大として、昨年はMoxionの買収がありましたが、その目的を教えてください。

    パテル:Moxionは、撮影現場でのオンセットのプロダクションとして、そこに誰でも参加してコラボレーションできるというクラウドプラットフォームです。私たちは「Camera To Cloud」と呼んでいます。Moxionを通じてお客様の仕事をより広くサポートできるようになり、Flowプラットフォームにとってもシナジー効果が期待できることでしょう。

    Moxionは「Digital Daily」、「Digital Immediate」、「Rooms」という3つのコンポーネントで構成されています。DailyとImmediateはワークフローの速度の違いで、Immediateのほうがリアルタイム向けです。Roomsはビデオ会議のZoomのようなものですが、通信は高度に暗号化されるため、セキュリティ基準においてコンプライアンスの確保が可能です。

    ■Moxion Rooms

    Moxion Roomsの紹介動画

    パテル:ここで重要なのは今まではオンセットでの多数の情報がポスプロ工程では失われてしまうというこでした。そうした情報のロスをなくすことが効率的に制作する際には必要なのですが、以前はMoxionのデータとShotGridのデータは自動で同期できず、情報の移行は手作業で行っていました。これが一緒になってからは徐々に解決し始めています。

    CGW:Moxionのほかに最近M&Aや投資を行っている企業はありますか?

    パテル:ボリュメトリック映像のストリーム技術を持つArcturus社、AIを活用したモーションキャプチャ技術を持つRADiCAL社の2社に投資をしています。これらは私たちの3つ目のAI戦略に関連して投資を行いました。

    私たちはすでに10年ほどAIへの投資を行ってきています。AIでは、自然言語処理、自動化、ジェネレーティブメソッドという3つの重要な領域があります。1つめの自然言語処理については、先日のGDC(3月20〜24日に開催されたGame Developers Conference 2023)でベータ版を発表した、マイクロソフトの自然言語処理技術ChatGPTを使ったMaya Assist新機能のように、すでに上手くいっている他社の技術と連携して統合していきます。

    2つめの自動化については、例えばFlameにおける、機械学習による顔や空のキーイングやカラーコレクションなど、すでに実装されている機能が多数あります。

    3つめのジェネレーティブメソッドは最も複雑で、現在も研究を続けている分野です。2D静止画のジェネレーティブ技術は「DALL·E 2」や「Midjourney」など多数あるのですが、3Dのものはまだほとんどありません。我々はこの分野にも投資をしていますし、また現在他にもパートナーとの提携に強い意欲を持っています。

    CGWM&E製品ではありませんが、貴社の製造業向けのツールではすでにジェネレーティブメソッドを使ったモデリングが搭載されていますよね?

    パテルその通りです。オートデスクで現在最も高度にジェネレーティブメソッドを活用しているのはFusion 360です。ジェネレーティブデザインプロセスでは、コストや材料、さまざまな製造技術に最適化された、制作工程の早い段階で製造可能な成果を探索するため、お客様は製品をより早く市場に出すことができます。これが実現できたのは、学習データが多数集まり、AIのトレーニングが行えているからです。

    CGW:M&Eでも、クラウドのAutodesk Flowプラットフォームを使えば学習データを収集できるのでは?

    パテル:M&Eの場合、権利上の理由もあって機密性が高いお客様が多いため、Flowに乗せたからといってトレーニング用にデータが集まるとは限りません。やはり個別にデータを共有してくれるパートナーを探す必要があります。

    CGW:先ほどMaya Assistを挙げていましたが、ほかには他社との協業について動きがありますか。

    パテルEpic Gamesとは、Unreal Live Linkを使ったMayaとUnreal Engine間でのアニメーションの同期やUSDの協業など、すでにパートナー関係にあります。最近、Epic Gamesとのパートナーシップを拡大し、メタバースの標準化を定義しようとするなど、いくつかの領域でコラボレーションを進めています。

    その他にも今後も他のメーカーと協業していく可能性について常にオープンです。というのも現在お客様がゲームエンジンとDCCツールとの技術の使いどころや使い分けを理解し始めたためです。

    オートデスク製品でなら世界中で働ける

    CGW:読者、特に学生にとって、オートデスク製品はどういう点に優位性がありますか。

    パテルオートデスクはありとあらゆるデザインとものづくりにおけるリーディングカンパニーで、オートデスク製品はプロ仕様の製品です。キャリア形成に有利ですし、小さな規模から大規模まで、あらゆるプロジェクトをカバーできるという懐の広さが優位性となります。

    また、学習に関しても学生版は無償ですし、卒業しても低価格で導入できるMaya Indieや3ds Max Indieがあります。機能としては製品版と同じなので、Indieを使用しておけばパイプラインの全体を理解しながら制作が行えますし、様々なキャリアのチャンスになります。

    もちろん学習に関しては他の無償のDCCツールでも良いと思いますが、キャリアを進めていったときに、より複雑に管理する必要があり、より強固なパイプラインに対応しなくてはならないタイミングが訪れます。さらに高品質な画づくりとパイプライン上の理由から、Maya やHoudiniのようなツールに切り替える必要が出てくるでしょう。そのため、当社製品のトレーニングを受けている方が有利になります。

    CGW:3DCGアーティストは日本では人材不足ですが、アメリカも同様ですか?

    パテル:そうですね。現在アメリカではハイテク企業でのレイオフが続いていますが、デジタルアーティストの需要は引く手あまたです。その理由は、M&Eの場合、テクノロジーへの対応力だけでなくアーティストとしての感覚が同時に求められるからです。そういう意味でも、最初からオートデスク製品でやっていけば、世界中で仕事が選ぶことができるんじゃないかと思います

    CGW:最後に、これからのM&E業界を見据えてひと言お願いします。

    パテル日本を含む世界中で、どこでも誰でも素晴らしいコンテンツを、思うがままに簡単にデザインし、創造できることをお手伝いする、それが私たちのビジネスの目的です。オートデスクとしてもアメリカに次ぐ第2位の市場である日本には、多くの期待があります。国際的なコンテンツや素晴らしいゲームなどが多数あり、AIやメタバースといったテクノロジーが国境を越えていきます。

    私もジブリのようなスタジオが大好きで、ハウルの動く城や千と千尋の神隠しなどのアニメーション映画は芸術作品だと思います。これからの日本の5年間は特に注目していますし、さらに世界を感動させる作品を生み続けて欲しいですね。そして、その作品にオートデスク製品を使っていただければ、これほど嬉しいことはないですね。

    CGW:ありがとうございました。

    TEXT__kagaya(ハリんち
    PHOTO_弘田 充