ピクシブが公開した『BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2024』によれば、創作でつながるクリエイターズマーケットBOOTH」における3Dモデルカテゴリの取引データは、2023年に約31億円の取扱高を記録し、注文件数と注文者数も5年連続で増加。

このデータは3DCGクリエイターにとって、市場のトレンドと需要を理解する貴重な指標となっている。BOOTHプラットフォームの利用がどのようにクリエイターの作品展開や収益化に貢献しているのか。

白書を書き上げたピクシブのBOOTH部・3Dビジネス室 土肥涼介氏(watasuke)と3Dビジネス室マネージャー岩田慎吾氏(pink)の2人に、自らもBOOTHでの収益をあげるCGWORLDリサーチャー「ますく」氏とともに、掘り下げる。

記事の目次

    CGWORLD(以下、CGW):「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2024」によると、個人の取引額が31億円まで来ているということで衝撃を受けまして、今回はBOOTHにおける取引額が右肩上がりの成長を遂げている要因や、BOOTHにおける取引トレンドなどについて、ピクシブ様に直撃取材をさせていただくことになりました。

    ピクシブ watasuke氏(以下、watasuke:よろしくお願いします。

    ピクシブ pink氏(以下、pink):よろしくお願いします。

    CGW:また、ご自身でもBOOTHに作品を出品されているCGクリエイターのますく氏にも同席いただいて、クリエイターならではの視点からお話をしていただきたいと思います。 

    ますく:僕は作り手としてBOOTHにはお世話になってきたので、そういう目線でもお話を伺えればと思います。

    ますく氏

    CGアーティスト/リサーチャー

    1991年生まれ、多摩美術大学卒。原型・ゲームモデリングの専門会社で修行を積み、大手ゲーム会社 R&D部門にてAIを活用したアバター生成技術の特許を取得したのち独立。
    アプリケーションやゲームなどリアルタイム分野のモデリングに特化したCGスタジオ「KATASHIRO+」を設立。3Dモデリングやゲームエンジン、CG原型、3Dスキャンなどの指導を教育機関・個人へ行っている。

    Webサイト https://mask3dcg.com/
    X https://twitter.com/mask_3dcg

    CGW:それではまず、市場成長の背景について伺います。「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2024」によれば3Dモデルの取引高や注文件数が5年連続で増加しているとのことですが、その要因についてはどのようにお考えでしょうか?

    watasuke:やはり、VRSNSの成長による牽引が成長の要因として最も大きいと思います。他の創作ジャンルと比較すると、3Dモデル界隈では「クリエイター同士がお互いの作品を更に改良したり、インスパイアされて次の作品を作る」という流れが強い点も寄与していそうです。

    完成品だけではなく、ギミックと呼ばれるツールを配布する人達の存在もありますし、アバターの可愛さを別視点でさらに拡張させるアバター対応ファッションの文化もあります。そういったユーザー間の相互刺激と交流が、さらに3Dモデルの創作界隈を盛り上げていったという効果はありそうです。

    watasuke:あるアバターが人気になったとして、そのアバターに合わせた衣装を作ろうという動きが盛り上がったりとか、そういうお互いの作品からまさに改良、発展していく動きは大きかったと思います。

    BOOTHとしても、VRSNSで使用するアバターや衣装等を販売・購入しやすく努めてきましたので、そういった施策の効果があった面もあると思います。

    特にVRChatに関しては、22年11月に提携を行い、BOOTH内のVRChatタグがついたアイテムにバッジを付けるように対応したり、VRChat内にBOOTHのワールドを作るといったコラボレーションをしています。

    CGW:VRSNSの成長に伴うユーザー数の増加と、ユーザーが相互に刺激を受けながら作品作りを発展させていく土壌があることが相乗効果を生んだということですね。そして、BOOTH独自の施策がさらに成長を後押ししたと。VRSNSについては、もうすでにひとつのカルチャーとして定着したとお考えですか?
     
    watasuke:そうですね、ユーザー数の推移はある程度把握していますが、やはりその世界観に魅力を感じていらっしゃるユーザーが定着していると感じます。
     
    CGW:では次の質問です。BOOTHの「3Dキャラクター」カテゴリにおいて、5,000~6,999円の価格帯がボリュームゾーンとなっている理由は何ですか?また、7000円以上の価格帯が増加している背景にはどのようなものがありますか?

    watasuke:まず前提として、3Dモデル制作にはかなり高度な技術や時間がかかるものだと認識しています。

    VR技術が勃興しはじめた2018年ごろはもう少し安くて、4000円前後の価格帯のものも沢山あったのですが、やがて需要の高まりや、そこにかかっている労力に対しての正当な評価ということで、現在の価格帯までじわじわと引き上げられてきたと考えています。

    アバター制作にかかる労力を考えると、1点数千円で購入できるのは、実は非常に安価なんです。実際に、多くのVRSNSユーザーが、その価値を感じて3Dアバターやアイテムを購入するようになりました。

    現在の価格に対して妥当だと感じるユーザーは着実に増えているし、そういうユーザーのために新しいアバターを作るクリエイターも増えて来ているという、良い循環があると考えています。また、ギミックなどを搭載したリッチなアバターが増えたのも価格帯上昇の一つの要因だと思います。

    ますく:確かに、アバター一体の制作難度が上がってきているということは感じます。ユーザーさんの要求レベルも上がってきていると思いますね。

    CGW:ユーザーが作品に価値を感じて、クリエイターが払った労力に対してちゃんと正当な金額を支払おうという循環が自然に出来上がってたきたということですね。では市場のトレンドに応じて、クリエイターは作品の提供方法や価格設定について、どのような調整をしているんでしょうか?

    watasuke:例えばどのアバターに対応させる衣装を作るかや、アバター販売前に一部の衣装クリエイターに協力してもらって販売と同時に対応衣装を展開したりなど、クリエイター様同士で影響しあって販売方法を模索、開拓しているという印象があります。

    漫画などのジャンルは作り手と受け手が比較的はっきりと別れていますが、3Dモデル界隈は、売る人も買う人もVRSNSのユーザーであり、一緒に作品を作っていく「共創文化」があるように思います。

    また、アバターや3Dアイテムの販売価格が一定の範囲に収まっていることから、「相対的な販売価格に敏感」なクリエイター心理が、価格設定に影響を与えていそうです。

    CGW:高額商品に対する需要が増加している背景と、年間支出額が高額帯のユーザー数が増加している理由についてはどうお考えでしょうか?

    watasuke:ユーザーにとっては、多少の価格差を気にするよりも、満足できるものが欲しい、それをまとってよりかわいくなりたいとか自分らしくありたいといった気持ちがあり、それが高額商品であっても売れているという状況に繋がっているのではないでしょうか。

    年間支出額が高額帯のユーザー数が増加しているのも、それだけVRSNSが日常化してお金をかける価値があると認識されていったからではないかと思います。
     
    pink:アメリカに住む友人に聞いた話なんですが、10代の娘さんが、服を買う20ドルを我慢するから、そのぶんRobloxのアイテムを買って欲しいと言ったそうなんです。実際に自分が着る服よりも、Robloxのアイテムの方が人が褒めてくれるから、という理由だったそうです。

    α世代(2010年代序盤から2020年代中盤にかけて生まれた世代)の価値観はそういうものなんだなあと思いました。

    CGW:現実空間で自分が着る服よりも、VR空間でアバターが着る服のほうに価値を感じているということですね。新しい世代の価値観を象徴するような興味深い話です。それでは続いての質問です。BOOTHは3DCGクリエイターの作品展開や収益化に、どのように貢献していると考えますか?
     
    watasuke:ありがたいことに、BOOTHは3Dモデルを売買するプラットフォームとしてはトップクラスの規模になっていると思います。

    かねてからBOOTHは創作という広いジャンルのマーケットとして運営してきたため、かつてVRSNS向けの作品を展示して販売しようと思った人たちが現れ始めた際に、まだ明確な市場・置き場がなかったためにBOOTHを選んでいただけたという背景があると思います。

    作品を気軽に出品・購入できること、2014年3月から3Dモデルカテゴリがあったことなどが起因して、多くの3Dクリエイターに使っていただけたのではないかと思っています。

    watasuke:現在、VRSNSの1つであるVRChat内に、BOOTHを知ってもらうためのワールドを現在2つ公開しているのですが、そちらは「海外のVRChatユーザーにBOOTH自身や、BOOTHで活躍しているクリエイターさんを知ってもらいたい」という思いから始めたプロジェクトになります。
     
    ますく:他のサイトさんの販売手数料が30%くらいだったときに、BOOTHさんは3.6%だったんですよ。純粋にクリエイターのための場所を作ってくれたという感じがありました。
     
    watasuke:もちろん我々も慈善事業でやっていたわけではないんですが、3Dモデルに限らず、創作物全般を気軽に出品・購入できるプラットフォームとして作ってきました。

    BOOTHが誕生して間もない2014年3月からカテゴリーとして3Dモデルはあったんですが、正直、当時は売上の少ないカテゴリーでした。それが2018年ごろから少しずつ盛り上がってきて、カテゴリーも整理されていったんです。
     
    pink:2020年ごろにははっきりと数字の伸びを感じることができて、それを踏まえて22年の7月には3Dビジネス室が起ち上げられました。もっと売上を増やして3Dクリエイターさんに還元していきたい、3Dクリエイターさんをもっと増やしたい、という思いから作られたチームです。

    ますく:自分の個人的な話なんですが、僕は前に勤めていた会社を辞めた時に三ヶ月くらい入院していたんです。

    入院費用を稼がないといけないのに、仕事も収入もなくなっちゃって、だけど病院のベッドから動けない、そんな時に病院のベッドの上からBOOTHとFANBOXで自分の作品を売ったお金で入院費用をまかなえたんです。そういうことが可能な状況を作っていただけたのは本当にありがたかったですね。
     
    watasuke:そういうお話を伺えると、色んな方の生活を支えてるんだなと実感できて、嬉しくもあり、身が引き締まる感じもしますね
     
    CGW:2022年12月にリリースされたギフト機能は、クリエイターやユーザーにどのような新たな価値をもたらしましたか?
     
    watasuke22年12月リリースのギフト機能、23年12月リリースの公開スキリストの合せ技で、欲しいものリスト的に利用いただいていることもあり、ギフト取扱高は着実に増加し、3Dモデルのギフト割合も増加しています。

    BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2024でも触れたように、2023年12月には3Dモデルカテゴリのギフト注文割合は10%を超えました。

    watasukeもともとVRSNSはコミュニケーション自体に大きな価値があるものだと思いますが、そこに現実のようにギフトという手段を提供したことで、ギフトを贈り贈られてのコミュニケーションが一つの文化として定着したように思います。

    画期的なものを発明したというよりは、求められていたものを提供できて、しっかり使っていただけているという感じだと思います。

    ますく:自分で普段買わないものでも、お世話になった人にだったら買って送ってもいいかなという気持ちはありますよね。

    watasuke:VRSNSは一人で楽しむものというより、コミュニケーションありきで楽しむものだと思うので、そういったところがギフト機能と相性が良かったということはあるかもしれないですね。

    CGW:ギフト機能もそうですが、BOOTHはユーザーの体験価値向上のためにこれまでにも数々の施策をされてきました。直近の施策として、VRoidとの連携機能や、VRMAフォーマットによるキャラクターモーション販売対応などについて、その意図や反応についてお聞かせください。
     
    watasuke:今後BOOTHとVRoid Studioの連携はより強化していきたいと思っています。例えば、BOOTHで購入した3DモデルをVRoid Studioで扱いやすくするなどについて予定しています。BOOTHはこれからも機能改善などを加えながら、3Dをより多くの人に楽しんでいたけるよう努めていきます。3Dモデルカテゴリの成長はもちろん、まだ見ぬ新しい種類の作品・クリエイターさんにも選んでいただけるようBOOTHの運営をがんばっていきます
     
    CGW:今後、VRSNSの発展にしたがって、ますますBOOTHの果たす役割は大きくなっていきそうですね。今回はありがとうございました。
     

    ☆お知らせ☆

    Boothのクリエイターがたくさん登場する記事は CGWORLD vol.310(2024年5月10日(金)発売)に掲載!
    https://cgworld.jp/flashnews/cgw310-pr.html

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