今年4~6月に1クール目が放送されたアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』。原作は週刊ヤングジャンプ(集英社)にて連載中のウマ娘・オグリキャップを主人公にした漫画だ。芦毛のウマ娘・オグリキャップがその才能を開花させ、地方レースから中央へと駆け上がる波乱万丈のドラマティックなストーリーが多くのファンの心を掴んでいる。今回は4回にわたり、メイキングを解説していく。

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    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 324(2025年8月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。

    Information

    アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』
    2025年4~6月にかけて、TBS系全国28局ネットにて第1クール放送、ABEMA、Netflixほか、各種配信サイトにて配信中
    2025年10月第2クール放送開始!

    原作:Cygames/漫画:久住太陽/脚本:杉浦理史/漫画企画構成:伊藤隼之介(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)/監督:伊藤祐毅、みうらたけひろ/アニメーション制作:CygamesPictures
    anime-cinderellagray.com
    Ⓒ久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会
    Ⓒ Cygames, Inc.

    影から表情、カメラワークまで、こだわりが詰まったカット制作

    ここではオープニング映像を中心に制作を解説していく。まずはVコンテを参考に、3DCGでTake1をつくることから始まる。絵コンテの指示は「顔のアップ」や「回り込み」程度の簡潔なもので3DCGへの「おまかせ」的な要素も多く、制作したTake1をたたき台にして監督とオープニング演出が話し合いを重ね、「いざ撮ってみるとアップが長く感じる」「回り込み感をもっと強くしたいので、カメラを引いて大きく回り込みたい」など、具体的な修正が加えられていく。

    作画と3DCGの使い分けも重要で、前面にいるキャラクターは作画で描かれ、それ以外は3DCGで仕上げるが、作画されるキャラクターのガイドとして走っているウマ娘たちのCG連番も作画チームに提供されている。

    なお、本編レース時の作画ガイド用レイアウトも3DCGでつくられているが、その際、CGキャラクターの表情付けにはこだわっているという。「最終的に使われない画でも、作画スタッフに渡す状態でのクオリティが最終的な画面のクオリティにつながるのだと思っています」と神谷氏。レイアウト時点で想いを伝えることが大切とのことだ。

    ギザギザとした疾走感のある落ち影

    前作の劇場版ではシンプルな形状だった落ち影を、本作では人型にブラッシュアップさせている。この点は特に阿達氏が取り組んだ工夫のひとつだという。

    • ▲落ち影素材。落影の素材はリグの入った人型のモデルを平面に潰して、シルエットがギザギザになるようにノイズをかけたもの
    • ▲影を伸ばした状態。影自体に伸縮用のリグが組まれているので、本体のキャラクターとは関係なく変形させることができ、長い影をつくることも可能
    ▲ギザギザの方向はコントローラを回転することで調整できる
    • ▲キャラクターの接地は……
    • ▲芝の形でマスクをしている
    ▲実際に落ち影の素材を使った例。前述のようにキャラクターの接地は芝の形でマスクをしており、見ての通り効果は絶大だ。自由に変形できるため細かい演出にも対応できる
    ▲モディファイアの設定画面。[Armature]でキャラクターモデルと同じモーションを読み込んだメッシュに[Lattice]をかけて潰し、[Subdivision]で面を分割して、[GeometryNodes]でノイズを加えている

    オープニング映像の制作のながれ

    オープニングカットの一例で、オグリキャップがスパートをかける場面。

    ▲オープニングの絵コンテの一例
    ▲コンテ撮・CT用ムービー。打合せ時にCGディレクターがメモを記入した赤コンテを作成し、作業者に共有。これをベースにカット制作を開始する
    ▲レイアウトのTake1。絵コンテには要所での指示が記載されるが、それ以外の部分は3DCG側におまかせで制作。それに対して「カメラを引いて回り込み感をもっと大きくしたい」「カメラは少し追い越してから収まりを整えたい」、というようなリテイクが演出から入った
    ▲レイアウトTake2。OKテイクとなった
    ▲BG、奥のウマ娘を3Dフィニッシュしたもの。この状態で撮影に素材を渡す
    ▲作画スタッフによる原画データ
    ▲作画を乗せた本撮カット
    ▲『ウマ娘 プリティーダービー』公式にて公開されている第1クールOP

    アドオン「Animation Layers」によるポーズの修正

    本作のアニメーションにはBlenderに高度なアニメーションレイヤー機能を追加する有料アドオン「Animation Layers」が使われている。アニメーションをレイヤーごとに分けて編集できるツールで、各レイヤーに対してブレンドモードや影響値を設定することもできる便利なアドオンだ。3ds MaxのCATのような機能がBlenderでも可能になるので、チン氏によると3ds Maxの操作に慣れている人にオススメとのこと。

    なお、本作での主な使用場面は基のテンプレートアニメーションを崩さない前提で、レイアウトに合わせてキャラクター汎用モーションのアングルを調整したいときや、レース中のキャラクターに追加の演技とアニメーションを足したいとき、表情の変化を安全に追加したいときなど。

    ▲実際にAnimation Layersが使われたカットの絵コンテ

    上記絵コンテのカットのレイアウトについて、「メジロアルダンのポーズをコンテの絵より前カットの絵のポン寄りにしたい」という指示が出た。その場合、汎用走りモーションをベースに、メジロアルダンが前を走るサクラチヨノオーをマークしているレイアウトになるように、コマごとの調整作業が必要になる。

    そこでAnimation Layersのレイヤー機能を使用し、最初のフレームにキーを打って調整することにより基のモーションを崩さずに微調整をすることができた。この機能により大幅な効率アップにつながったという。

    • ▲Animation Layersの操作OFFの状態
    • ▲同じくONの状態。メジロアルダンのアングルが変わったことがわかる
    ▲Animation LayersをOFF/ONの状態でレンダリングした動画

    ダイナムヒロインの走りと表情

    ダイナムヒロインが走るカットのCGガイド。ここでは走りのアニメーションはもちろん、ダイナムヒロインの表情にも力が入れられた。

     ▲本カットの絵コンテ
    • ▲初めにBlenderの下絵機能を使って、3D作業画面と絵コンテを重ねて表示しながら作業を開始。絵コンテを下に敷いて、絵コンテの収まりからリアルで撮った場合、どのように映るかを検討しつつ、雰囲気を合わせてレイアウトしている
    • ▲書き出した連番を下に置いて、前のテイクとのちがいを確認しながらリテイクを重ねる。手は画角的な嘘をついている。シルエットを調整して、作画アニメーターが描いた場合を想像し、それに近い印象になるようにレイアウトを出していく。レイアウト作業では「ここまでやったら問題ない」というところまで詰めていくという
    ▲Blenderの下絵機能のメリットは複数の画像を重ねられることだ。「Blenderは手軽に画像を2枚重ねられるのが良いですね。ディレクターからのリテイクに対応したらどのように絵が変わるのか、不透明度を調整すれば基の絵がわかるのは、アニメーターとして非常に便利です」(チン氏)。このカットではできるだけ手が顔にかからないように修正された
    ▲表情のリグ。ガイドであっても表情のクオリティは意識しているという。「作画さんに渡す状態でのガイドのクオリティが最終的な絵のクオリティにつながると思っています。作画さんにも3DCG側の気概は伝わるのではないかと思います」(神谷氏)
    • ▲ダイナムヒロインを正面から見た状態。カメラアングルに合わせて口を歪ませていることがわかる。手の位置もあくまでカメラからのレイアウト重視でポーズを付けている
    • ▲同じく、シェーディング画面
    • ▲腕の調整前
    • ▲腕の調整後。腕が顔にかからないように右手の位置が調整された
    • ▲腕の調整前
    • ▲腕の調整後。同様に腕が顔にかからないように左手を調整。このアングルの場合、下からのアオリでダイナムヒロインをいかに格好良く、可愛く表現できるかをさぐりながらレイアウトしている
    • ▲正面から見た腕の調整前
    • ▲同じく、腕の調整後。ラストスパートなのでダイナミックに表現するため、実際の走りより腕を前に出している
    ▲完成したCGガイド

    アニメーターによるアドリブカット

    以下のカットでは絵コンテにアニメーターがアドリブを加えて、よりダイナミックで印象的になるように仕上げられている。「3DCGのみで素材が完成するカットだったので、アニメーターのこだわりとして、できるだけインパクトを出したいと思い、アドリブを入れさせてもらいました」(チン氏)。

    ▲本カットの絵コンテ。先行して走るウマ娘たちの後ろをカメラが追うカットだ。このカットは3DCGだけで完結するため、アドリブを入れやすかったという
    ▲絵コンテ通りにつくられたバージョン。アドリブを入れたものと一緒に、コンテ通りにつくられたものも提出する
    ▲アドリブバージョンは提案というかたちで、上記のコンテ通りのものにプラスして提出。カメラの動きがダイナミックになったので、オグリキャップが他のウマ娘たちを追い抜くアニメーションがよりドラマチックに見える。苦労の甲斐があって、こちらが採用された。アドリブを入れる判断は「作業者にやる気があるなら、やってもらいます。もちろんクオリティも求めますが、このカットはかなり良くなったと思います」(神谷氏)とのことだ

    CGWORLD 2025年8月号 vol.324

    特集:オレンジの挑戦と進化『リヴァイアサン』と『BEASTARS』で描く未来
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2025年7月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_石井勇夫(ねぎデ) / Isao Ishii
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里(CGWORLD) / Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada