ロボットに変形する家で暮らす人々の姿をコミカルに描いた、中国電力株式会社の会員制Webサイト「ぐっとずっと。クラブ」WebCM。街を活歩する家ロボットや家庭にあるアイテムで家ロボットを操縦する住人の姿がVFXを用いて表現された。本CMの企画から制作までを詳しく紹介しよう。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 319(2025年3月号)からの転載となります。

    日常に馴染んだ家ロボットを描く

    2024年11月15日( 金)より配信されたWebCM『自宅がロボットだと電気代が気になる話』。中国電力が運営する会員制Webサイト「ぐっとずっと。クラブ」のプロモーション企画で、ロボットに変形する家で暮らす人々が「ぐっとずっと。クラブ」を暮らしに活かしている姿がコミカルに描かれている。

    「認知と加入者促進のための施作として提案させていただいた企画です。電気代が気になるシチュエーションをエンタメとして描く、その大きな要素として自宅がロボットというアイデアを組み込みました」(クリエイティブディレクター・小堀友樹氏)。

    広告主名:中国電力株式会社
    タイトル:「自宅がロボットだと電気代が気になる話」
    配信日:2024年11月15日(金)
    配信媒体:YouTube、X、Instagram、TikTok
    特設サイト:www.energia-support.com/gzc_lp
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    企画承認後、制作体制を整え、準備が進められた。「公開された作品の内容は企画内容とほぼ同じですが、準備を進めながらディテールを詰めていきました。制作パートは大きく分けて、撮影、VFX、HUDホログラム、操縦プログラムの4つ。当初、AIを活用してコンセプトビジュアルをつくっていましたが、制作スタッフを固め、各パートのプリプロを経て実制作へと進んでいきました」(アートディレクター・茗荷恭平氏)。

    • ▲クリエイティブディレクター・小堀友樹氏
    • ▲アートディレクター・茗荷恭平氏(以上、電通Creative KANSAI)

    作品でなにより大切にされたのが日常感を演出すること。「自宅がロボットという設定ですが、『パシフィック・リム』(2013)のような壮大なSFではなく、日常の中にずっと家ロボットがいるような雰囲気をいかに出せるか、またいかにエンタメに仕上げるかが重要でした」(ディレクター・山本ヨシヒコ氏)。

    制作においては、撮影、VFX、編集の密なコミュニケーションが求められ、全員でアイデアを出しあったという。「今回、セットは組まずロケ撮影となりました。そのため、各ロケで制限のある中で撮影が行われたこともあり、VFXとの整合性を保つ必要もあったので、双方向でのコミュニケーションが大切でした」(小堀氏)。

    • ▲ディレクター・山本ヨシヒコ氏
    • ▲エディター・ごとうこうじ(GoTo)

    3DCGを担当した福田泰崇氏がCGガイドとなるデータを事前に準備し、現場で仮合成確認をしながら撮影が進められたという。VFXを駆使しつつも、コミカルなCMをぜひチェックしてみてほしい。

    • ▲CG・福田泰崇氏(FUKUPOLY)

    企画から撮影まで

    役者の会話、演技を最大限に活かす詳細な設定

    作品は当初、全6話を予定していたが、その後に「0話」と「7話」が追加され、合計8話が制作された。「1話あたり1分程度で、それが8話分となり、物量もかなりのものとなりました。今回参加していただいたスタッフ陣がロボットものを好きなメンバーだったこともあり、高い熱量をもった中で制作を進めることができました」と小堀氏は語る。

    本編においては登場する親子や夫婦間での日常会話、掛け合いが行われる中で、家ロボットをいかに操縦するかがエンタメとしての見せどころであった。「実は、企画当初はコックピットブースをつくるというアイデアもありました。ですが、それでは日常感が損なわれてしまうということもあり、家にあるアイテムを使って操縦する方向にシフトしました」(茗荷氏)。

    操縦する演技をグラフィックで演出することで未来的な操作感を強調し、芝居やセリフに出現するタイポエフェクトと合わさり、ロボットをテーマとした未来的な要素を組み込んだエンタメを実現することに決まった。

    「HUDに関しても、顔が隠れるガジェット感のあるものも考えましたが、主題となるのは役者の芝居であったので、顔が隠れないものへ変更しました。コックピットを不採用にした理由にもつながりますが、HUDを被って固定された操縦機器を操作するのはアクションとしては一様なもので地味になってしまうということもあり、顔芝居、動作を活かす方向でまとめていきました」(小堀氏)。

    芝居を活かす反面で、後工程でのグラフィックエフェクト制作の難度は高くなる。そのため後工程を鑑み、事前計画は特に重要だったという。家ロボットの操縦は、キッチンでの餃子づくりや、玄関での掃除、ベランダでの洗濯物干しなど、そこで使われる家事アイテムが用いられた。

    日常生活の動作を見映えのする操縦アクションにするため、どういった動作が好ましいか、様々なアイデアを出し、グラフィックエフェクトとの兼ね合いもあり、何度となく意見交換して決められていった。「動作に合わせて様々なグラフィック要素を出現させるので、編集合成の作業量としても膨大になりました。皆さんのアイデアがどんどん追加され作業に追われながらも、日常の中でギャップのある未来的なエフェクトを丁寧に馴染ませること意識して作業に臨みました」(エディター・ごとうこうじ氏)。

    住人の日常とロボットの融合を目指した絵コンテ

    作品としては日常感を損なうことなく、自宅がロボットという設定を組み込むことがテーマだった。掃除道具や調理道具など、日常アイテムを用いて家ロボットを操縦しながら進む、ごくごく日常的な会話劇。大枠は絵コンテ通りの内容だが、芝居のディテールなどは別途資料を用いて制作に役立てられたという。

    • 絵コンテの一例

    HUDに代表される各種設定の検討

    本作では家ロボット操縦をいかに日常的に行わせるかが肝になった。HUDは当初、未来的なガジェット感のあるものも候補とされたが、顔が隠れてしまうことで日常演技の邪魔になるためオミットされ、コックピットもなく、家に置かれたあらゆるアイテムが操縦桿になるように設定が変更された。さらに、家ロボットのデザインも田舎の光景に馴染むものが目指された。

    ▲コックピットのアイデア
    • ▲HUDの仕様検討資料
    • ▲左画像赤枠内の拡大
    ▲完成カットの一例。日常に馴染む家ロボットがデザインされた

    家のあらゆる場所がコックピットに

    家のあらゆる場所がコックピットとなり、家事アイテムが操縦桿となる。企画の段階から様々なアイデアが出され、グラフィックの加工との兼ね合いも含め、より見映えのする動きが検討された。撮影にあたっては、演技用資料動画が準備され、役者に共有された。

    • ▲「#1 僕がビームを放つ理由」篇の動作案
    • ▲小堀氏をはじめとするスタッフが自ら演技した様子を撮影した演技用資料
    ▲完成カット
    • ▲同じく、「#3 思春機」篇の動作案
    • ▲演技用資料
    ▲完成カット
    • ▲同じく、「#4 蚊を防ぎ、芋を焼く」篇の動作案
    • ▲演技用資料
    ▲完成カット

    スケールを考慮した撮影

    家ロボットが巨大なため、スケール感を考慮した撮影が求められた。特に屋外撮影では巨大な家ロボットが後で合成されるため、福田氏によりガイドとなるモデルデータが準備され、現場で仮合成しながらカメラの画角や位置を調整して撮影が進められた。

    • ▲撮影の様子
    • ▲撮影の様子
    ▲仮合成画像

    後篇に続く。

    CGWORLD 2025年3月号 vol.319

    特集:CGクリエイター新潮流
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年2月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada