グラフィックデザイナーからイラストレーターへ転身された、しまざきジョゼさん。
Side-Bでは、の転機となったオリジナル作品『約束は11時』のメイキングをご紹介！

※本記事はCGWORLD280号（2021年12月号）の記事を一部再編集したものです

自分の色を出して良いんだ！ターニングポイントになった作品

しまざき氏のキャリアにおける転機となったイラストのひとつ。

当時、すでにイラストレーターとして活動していたしまざき氏は「装丁にも馴染み、SNSでも見られて、仕事にもつながり、かつその仕事も納得できる作風」を模索していた。

つまり「他人に愛される絵」を目指していたのだが、一度それを全て放り投げて、「自分が好きな絵はこれだ！」というイラストを4連作でSNSに公開した。そのひとつが本作である。

それまでは強い感情を想起させるような作風だったが、この連作ではニュートラルな感情で印象的な構図のイラストレーションとなっている。その4連作は結果的にSNSで大きな反響を呼び、しまざき氏自身も「自分の好きな絵を描いて良いんだ、自分の色を出して良いんだ」と考えを変える大きなきっかけとなった。

描かれているのは、11時に約束をした相手が来ず、待ちぼうけになりふてくされている女の子と、そんなことをつゆ知らず遊んでもらいたがっている猫。影の使い方など、しまざき氏が強く影響を受けた印象派の絵画のタッチが活かされている。

「階段と植木鉢」から始まった画づくり　印象的なコントラストの理由

最初にあった構想は「階段と植木鉢を描きたい」というものだった。しまざき氏が構想を練る際は、まず背景を考え、登場人物は後から加えていくという。

女の子は『魔女の宅急便』からインスパイアされており、退屈している女の子の様子を取り込みたいという思いからモチーフに加えた。女の子が退屈している理由は「待ちぼうけ」。『魔女の宅急便』に猫が出てくることから、猫を入れることで全てのモチーフが揃い、描き始めていった。

当初はモチーフをクローズアップしていたが、装丁の仕事では帯を入れることが多いため、自主作品だが本作品では下部を大きく空けて全体的なコントラストを付けている。

街角の風景から得たインスピレーション

インスピレーション元となった、しまざき氏が街を歩いていて撮影したスナップ写真。この光景を見てから「階段と植木鉢を描きたい」という思いがずっと心の中にあったという。

イラストを描く際はレンズの画角を意識しており、メインモチーフは望遠レンズで撮影している想定のため、階段の段の面が圧縮されている。そこから画面下にいくにつれて地面の見え方がどんどん広角のレンズに切り替わっていく。この切り替えを行うことでイラストの中に空間を感じるものになっている

学生時代のジェッソの テクスチャを使った独特の手触り

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木漏れ日と影の使い方が強い印象を残す本作品。

影には学生時代に作成したジェッソのテクスチャが使われている。はじめは夏らしく涼しげな青系でまとめる予定だったが、暖色系でまとめた方がストーリーとマッチしていると判断し、テクスチャを赤茶系に色変換してオーバーレイで乗せている。

「例えば紙そのものや、紙に絵の具で描いたもの、道端のコンクリートをテクスチャに使います。錆びた金属とか質感が出そうなものだったり。貼ってみると自分では予想してなかった表情が出ることもあるので、そういうときにやっぱり面白さがありますね。デジタルだけど予測できない表現になるんです」