3月21日(土)に「CGWORLD Live in 札幌」が開催された。同イベントでは映像業界からトランジスタ・スタジオが、遊技機業界からexsaが登壇し、各社のワークフローを語る2つのセミナーが行われた。本稿ではその中からexsaによる「遊技機映像制作のワークフローとプロセス」の内容を紹介していこう。
【左】:齋藤文仁氏(常務取締役 制作部部長)、【右】:小林隆志氏(札幌スタジオ所長)
exsa流の遊技機制作
exsaは遊技機向け映像制作を得意とするCGプロダクションだ。現在は東京本社のほか、名古屋、福岡、そして4月1日に新しく開設した札幌と、全国4拠点で約140名のスタッフが活躍している。映像制作会社としてはじまった同社は、現在では遊技機映像制作をメインとしているが、このほかにもゲームや実写合成、アニメ制作を手掛けるなど3DCGに関わる多種多様な仕事に携わっている。
そのexsaの制作体制でも特徴的なのが、拠点をまたいで構成されるチームの存在だ。exsaの制作部には「2D・映像演出」、「デザイン」、「モデリング」といった7つのチームがあるのだが、このチームは拠点ごとに存在するのではなくチーム内に複数拠点のスタッフが所属しており、これにより拠点間の交流が活性化されているという。
またこの制作部のほかにexsaには企画部が存在する。企画部は遊技機の企画やプログラミングを担う。一方、制作部はデザインと映像演出、絵コンテ制作からモデリング、モーション、エフェクト、コンポジット、オーサリングまでを行う。こうして企画から制作まで、社内で全ての仕事を完結できるワンストップスタイルも、同社の特徴の一つだ。
さて、こうした独自のチーム体制で制作される「遊技機映像」とは、どのようなものだろうか。齋藤氏はその特徴について次のように語る。「遊技機映像の中でも大きな特徴と言えるのが"ゲーム性がある"ということです。遊技機の内部で抽選された"当たり"か"はずれ"を映像で表現していくわけなので、いかに期待感を持たせていくかが重要です。その期待感の表現こそが、遊技機映像の肝になっているとも言えます」(齋藤氏)。
では実際にセミナーの中で紹介されたサンプルを見ながら、同社の遊技機映像の制作過程について、少しだけ紹介していこう。
3DCGとElement3Dによるハイブリッドなアニメーションロゴ制作
まずはコンポジットのワークフローを見ていこう。サンプルとして紹介されたのは、近未来的にデザインされた「exsa」と「BONUS」という文字のロゴアニメーション。遊技機映像の中では使用頻度の高いロゴアニメーションだが、同社ではAfter Effectsのプラグイン Element 3Dと、Maya、3ds Maxといった3DCGツールを組み合わせて使うことで、制作のスピードアップを図っているという。
おおまかな制作の流れは、以下の通り。
①コンセプトイメージの作成(2DCG)
②ロゴの台座/BGのモデリング(3DCG)
③パスの素材化(AfterEffects /Element3D)
④ロゴの質感設定(Element3D)
⑤モーション(AfterEffects)
⑥仕上げ(AfterEffects)
まずはスタッフ間で完成イメージを共有するために、コンセプトイメージを作成。その後、ロゴの台座や背景のモデリングは3DCGツールで制作し、ロゴ自体はAfter Effectsで描いてからElement 3Dで立体化するという方法がとられている。Element 3Dで表現できる部分はElement 3Dを使い、Element 3Dでは表現の難しい複雑な形状は3DCGで制作。このようにツールを使い分けることでクオリティの高い映像をより早く制作することが可能なのだとか。「このようにElement 3Dを使った方法は、キャラクターなどの複雑なモデルをメインで使用する映像には不向きです。しかしサンプルのようなロゴアニメーションの場合は、3DCGで書き出した素材をAfter Effectsでコンポジットするより、Element 3Dを使う方がAfter Effects内で完結できる工程が増えるため、かなり作業スピードを上げることができます」(齋藤氏)。
この後、台座と背景のデータをAfter Effectsに読み込み、質感はElement 3Dで調整。After Effects上でモーションをつけ、仕上げにエフェクトを追加し完成となる。
スピード&クオリティアップのための工夫
コンポジット以外の工程においてもスピードアップとクオリティの向上を目指し、同社独自の工夫がなされている。例えば2Dデザインの工程においては、Illustrator、Eye Candy(Photoshopプラグイン)、Element3D(After Effectsプラグイン)を、目的に応じて使い分けることで効率アップが目指されている。
Illustratorによるロゴの制作過程。画像上左から①ベースを制作、②グラデーションを制作、③光彩をパスで表現、④エフェクトやそのほかの要素を追加。Illustratorで制作するロゴは、多少のグラデーションは用いるものの、フラットなデザインが特徴だ
Eye Candyによって制作されたロゴ。Eye Candyを使用したロゴについては、Photoshopのスタイルで影や光彩、光沢感といったレイヤーを重ねていきベースデザインを決めた後、Eye Candyで質感が調整される。中でもよく使われるのは、奥行きをつける「浮き出し」と金属的な質感を加える「クロム」とのこと
Element 3Dによって制作されたロゴ
拠点をまたいでチームごとに行われる制作体制及び技術力向上の取り組み
exsaではこのように、Illustratorはフラット感をだすために、Eye Candyは質感を、Element 3Dは立体感をスピーディに表現するため、それぞれ使い分けが行われている。
またモデリングについてもベースリグを共通化&改良することにより、プロジェクトが変わってもベースとなるリグを使い回せるようにしたり、エフェクトに関してはチェックムービーの段階で3ds MaxのプラグインFROSTを使って仮エフェクトを作り、最終イメージを早い段階で固めるなど、効率アップのための工夫が各パートで行われている。
こうしたスピード&クオリティアップのための施策は、ツールやデータの効率化だけでなく、作業の進め方やスタッフへの教育についても行われている。今回、紹介された中では「アニメーション制作の作画監督制度」と「パダワン制度」がそれだ。
モーションディレクターの役割(作画監督)
・モーション仕様の決定(制作ルール)
・クオリティ設定/クオリティ統括
・スケジュール設定/管理
・アサイン調整
中堅スタッフの役割(原画担当)
・レイアウト/アニマティクス
・FIX作業(最後の仕上げ作業)
・クオリティコントロール(統一化)
・若手スタッフへの指導
若手スタッフの役割(動画担当)
・補完モーション
・セカンダリモーション(味付け/揺れ物)
・細かな修正対応
・中堅スタッフの技術を盗む
「アニメーション制作の作画監督制度」とは、モーション制作の工程において、2Dアニメーション制作の作画監督制度を導入し上記のように役割を明確化したもの。作画監督をモーションディレクター、原画担当を中堅スタッフ、動画担当を若手スタッフが担当し、作業を分担することで効率化するのが狙いだ。またexsaはここに、独自の「パダワン制度」というものを採り入れている。この「パダワン」とは映画『スター・ウォーズ』の中に登場する弟子を示す言葉で、「パダワン制度」は中堅スタッフと若手スタッフを二人一組とする師弟制度のようなもの。これを先ほどの「作画監督制度」と組み合わせることで、モーションディレクターの作業負荷の軽減、品質の安定、修正の削減など、様々な効果が得られているという。
ちなみに人材教育についてはこの「パダワン制度」以外にも、スキルアップのために技術強化チームが結成され、定期的に勉強会が行われているという。
拠点をまたいだ仕事をサポートする独自のシステム
これまで見てきた制作工程を拠点をまたいだ形で進めているexsaだが、拠点が多いからこその苦労ももちろんある。中でも大きいのはデータの共有化で、よく言う"データの先祖返り"などが問題になってくる。そこでexsaではこの問題を解決するために「ファイルver.管理ツール」を導入しており、例えば札幌で更新されたデータがあれば他3拠点のサーバーにも複製され、それが同じプロジェクトに携わっているメンバーに「通知」されるのだという。このツールにより、各サーバーに常に最新データが存在し、データの先祖返りなどのミスを防ぐことができるという。
「ファイルver.管理ツール」について
この他にもリスクを最小限に抑えるための「自動バックアップツール」やサーバの空き容量を確保するための「旧データ自動移動ツール」など、拠点をまたいだ仕事でもストレスなく作業が進められるようなシステムが多数採用されている。
「自動バックアップツール」について
「旧データ自動移動ツール」について
新拠点、札幌スタジオについて
最後に、札幌スタジオ所長の小林氏が語った新スタジオの今後の展望についてのコメントを紹介する。「11年目を迎える今年は4月1に札幌スタジオを開設し、exsaの新たなる飛躍の年と位置づけています。我々の強みである遊技機映像の制作を軸にしながらも、多彩なチャレンジを進めていきたいです。北海道という強力なブランド力を持ちながら道内から日本全国へ、また世界へ発信できるよなコンテンツをクリエイターの皆様と一緒につくりあげていきたいと思っています」(小林氏)。
札幌スタジオでは現在、スタッフを募集中とのことなので、気になる人はぜひチェックしてほしい。
TEXT_山田桃子
■求人情報
exsa 札幌スタジオは現在下記職種を募集中です。
①CGデザイナー
②CGディレクター
③2Dグラフィックディレクター
④映像演出
※東京・福岡・名古屋でも募集中
■待遇
年棒制
経験、スキル、年齢、前給を考慮し、当社規定により優遇
試用期間3ヶ月あり(待遇同)
勤務時間9:30~18:30(実働8h+休憩1h)
昇給・昇格制度あり
交通費支給
■雇用形態
正社員(希望により契約社員/業務委託/アルバイトも相談可)
■休日休暇
週休2日制(土・日)、祝日、有給休暇、慶弔休暇、その他特別休暇制度あり