先日開催された「オタワ国際アニメーション映画祭2015」において、子ども向け短編アニメーションのコンペ部門で準グランプリに輝いた本作。OXYBOTでCGディレクターとして活躍する長崎悠氏を中心としたZENTOYのメンバーたちが実践する自主製作活動を紹介しよう。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 207(2015年11月号)からの転載記事になります

マイペースで、されど着実に自主製作活動を進めていく

ZENTOYは高校時代からの友人である、長崎悠氏、野田博史氏、蓑田裕久氏、そして永野やよい氏の4人から成るオリジナルコンテンツの創作チームである。DMLやオムニバス・ジャパンを経て、現在はOXYBOTでCGディレクターとして活躍中の長崎氏が監督ならびにアニメーション制作をリード、野田氏と蓑田氏がストーリーを担当、そして永野氏が3DCGワークに加え、デザインやアートディレクションの面でも長崎氏をサポートするかたちで活動を続けているとのこと。

獅子として生きる - a Lion Life -

1作目の『SAMURAI NOW』は、長崎氏と野田氏のささいなメールのやりとりから誕生したという意味では私的な面をもった作品。2作目『SUMO ROLL』は1篇あたり20秒前後のギャグアニメーションシリーズであった。

それに対して、今回紹介する『獅子として生きる』は全メンバーで企画を出し合い、そこから厳密な選考を経たという。さらに音響面のプロデュースではOXYBOT取締役の曽利文彦氏のサポートを得たほか、第一線で活躍するデジタルアーティストたちが様々なかたちで制作を支えたそうだ。

仕事の合間をぬって少しずつ制作せざるをえないという自主製作の都合もあるとはいえ、企画から完成まで約7年(2009年に企画、完成は2015年1月末)を費やした力作は、オタワ国際アニメーション映画祭2015の子ども向け短編アニメーション・コンペ部門で準グランプリを獲得するなど、国内外で反響を呼んでいるそうだ。

  • 左から、長崎 悠氏、永野やよい氏、蓑田裕久氏。以上、ZENTOY

  • 野田博史氏(ZENTOY) ※「オタワ国際アニメーション映画祭 2015」におけるイベント参加時の様子

「今回のオタワ国際アニメーション映画祭で選出されたことがきっかけとなり、また別の海外の映画祭実行委員会の方から連絡をいただいたりと、より多くの人たちに作品を観ていただける機会が増えてきました。実は、本作は第13話のシリーズ作品として企画したもので、今回の短編は第1話にあたります。全話のシナリオはすでに出来上がっているので、ぜひ、シリーズ化を実現させたいですね」(長崎氏)。ZENTOYのさらなる展開にも注目したい。

[Topic 1]プリプロダクション
作家性を押し出すのではなく誰もが楽しめるコンテンツを

ZENTOYという名前の由来は「禅とトイ」。禅宗の根幹である、特定の物事や場所、概念に囚われずに子どもたちに楽しんでもらえるコンテンツ(=トイ)をつくろうという意味が込められているとのことだ。

自主製作というと、作家性が前面に出た作品が多くなりがちだが、「そうした思いはありません。メンバーと自由にアイデアを出し合い、誰もが楽しめるアニメーションなどのコンテンツをどんどんつくっていくことで世の中を明るくできればと思っているんです」と、長崎氏は語る。

ZENTOYの活動には明確なスケジュールや目標が定められておらず、1作目の『SAMURAINOW』は2008年に、『SUMO ROLL』と『獅子として生きる』は2009年に企画が生まれ、同時並行で制作してきたとのこと(『SUMO ROLL』の方が作品の内容的に手早く公開できたということにすぎないのだろう)。まだ発表していない企画も複数ストックしているというが、画づくり担当の長崎氏と永野氏、そしてストーリー担当の野田氏と蓑田氏がパラレルで活動している利点と言えそうだ。

「僕は映像制作の実務には携わらないので、各作品の進捗は把握していません。長崎が『出来上がったから観てよ』などと連絡をくれるまで、忘れてしまっているとも言えます(笑)。僕と野田は別途企画やシナリオをどんどん考えていたりもするので、そうした意味でも作品が完成するタイミングは長崎にまかせています」(蓑田氏)。

『獅子として生きる』は2009年に企画出しの合宿を行なった際に生まれた『牛として生きる』が原案となっているとのこと。「これは食肉用に飼育されていた豚が、自分の宿命から逃れようと同じ牧場にいた乳牛の姿を真似ることで生き残りを図るといった内容でした。ですが、曽利さんに意見を求めたところ『牛も食用じゃん』という指摘をいただきまして......」(長崎氏)。

そこで、メンバー内で企画の練り直しをした結果、『獅子として生きる』が誕生したのであった。そこからプリプロダクションが進められていくのだが、長崎氏独自のユニークな手法としてイメージボードを兼ねたデスクトップPCの壁紙制作が挙げられる。「出来上がったらOXTBOT内で配布するのですが、月替わりの壁紙とすることで『今月の壁紙はないの?』といった催促が良いプレッシャーにもなります(笑)」(長崎氏)。

企画の原案

▲A B:合宿後に長崎氏が作成した企画コンテ的なもの。本文で述べたように、牛と豚では広義には同じ家畜であり、インパクトが足りないという曽利氏のアドバイスを下に企画が練り直された/ C:企画を修正する際に長崎氏が描いた虎とライオンの着ぐるみをまとったスケッチ。最終的にライオンが選ばれ、舞台もサバンナに決まった

絵コンテ&ビデオコンテ

▲A:長崎氏が作成した絵コンテ(抜粋)/B~E:ビデオコンテの例。カットによってはアニマティクスを兼ねている /F:2011年4月に作成されたデスクトップ壁紙。「川のカットのテストがてら壁紙を作ります。これをやりながら、コンセプトアート代わりに、全体のテイスト(どのくらいミニチュア風にするのか、色味はどうするのか?キャラはどう動くのか)を探っていきます。このワニに食べられるカットなど、アセットが仕上がっているカットは先に壁紙として(一枚画として)作成していたので手早く作業が行えました」(長崎氏)

コンセプトアートを兼ねたマット画

▲A:マットペインターの宮部一実氏が描いたファーストテイク。コンセプトアートを兼ねている /B:スケール感を修正してもらい、草はCGで生やすことにして修正された最終的なマット画 /C:デイシーンのコンセプトアートをレタッチするかたちで永野氏が作成した夕景シーンのコンセプトアート

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[Topic 2]アセット制作
ツボを押さえたシンプルな画づくり

メインの使用ツールは3ds Max 2012~2014とV-Ray2.4~3.0、それらに加えてAdobe CS5を使用したという。「空いているときは会社のサーバでレンダリングさせてもらうといった面でも、曽利さんにはサポートしていただいています。

ただ、会社のライセンスと個人所有のライセンスでソフトウェアのバージョンが変わってしまったときの対応が悩ましいですね。特に『獅子として生きる』は何年にもわたるプロジェクトになってしまったので、シーンファイルの互換性の面では非常に苦労しました(苦笑)」と、長崎氏。

アセット制作も長崎氏自身がリードしたが、象は当時OXYBOTに在籍していた田島光二氏が、ハエのモデリングはCGWORLDの表紙グラフィックを手がけたこともある川岡七郎氏が協力している。

「キャラクターデザインについては、自分が子どもの頃から『ひょっこりひょうたん島』などの人形劇作品が好きなこともあってシンプルなデザインを心がけています」(長崎氏)。シンプルな形状に仕上げることによってアニメーションの作業負荷も軽減できるというメリットもあるそうだ。

ルックデヴについて、当初は通常の商業制作とは異なる画づくりを目指したいという思いから、あえてテクスチャなしのルックを志向していた。しかし、永野氏から「テクスチャは入れた方が良いのでは?」という提案を受け、主人公ベンジャミンの着ぐるみライオンのたてがみ部分には毛糸の網目のような質感が施された。またリギングは当初、CATを使用していたそうだが、四足ポーズから座らせたり二足での立ちポーズへの切り替えといった変則的な表現を行う上で不都合だったという。

「関節を外してのアニメーションも作りやすいといったことから、シンプルにオブジェクトをボーンとして用いるかたちで独自にリグを組みました」(長崎氏)。一連のアセットおよびショット制作は、プリプロと並行して(クロスフェードするかたちで)進められていくそうだが、3DCG制作実務を長崎氏と永野氏の2人に集約できているからこそ成せる技とも言えよう。

モデリング

▲ベンジャミンのモデリング過程を図示したもの。 A:ボックスで身体と頭のバランスをとった後、顔を作りはじめる。「実際の背景セットに置いたときの主役としての目立ち方を確認するために、作品全体の主要なトーンカラーとなる空の青と草の緑を背景に敷いてモデリングしていきます」(長崎氏)/ B:身体とたてがみの色を入れ替える。足を作って全体のバランスをみる/ C:たてがみのテクスチャと全体に饅頭のような質感を加えて完成。たてがみ以外のテクスチャは未反映のため、ここからさらにルックを詰めていく

ルックデヴ

▲ベンジャミンのテクスチャ素材。 A:目のカラー。ハイライトも描き込まれている/ B:顔のカラー/ C:鼻のカラー/ D:ライオンのマスクのカラー

▲E:ルックの完成形/ F:鼻のプルンとした質感が印象的だ/ G:ゼブラねえさんの完成モデル(シェーディングOFF)/ H レンダリングイメージ/I:カラーテクスチャ。トランスルーセントテクスチャに対して3ds Max上で色変えするかたちで作成している

リギング

▲A:アニメーション用のボーン構造。オブジェクトを組み合わせてボーンに仕立てている。「レンダリング用モデルをベースに分割して作ってあるので、テクスチャも貼られています。最終イメージと見た目が近い状態でアニメーション作業が可能です」(長崎氏)/ B:レンダリング用モデル/ C:鼻のモーションはStretchモディファイヤで変形させている

▲D:ゼブラねえさんのHairシミュレーション設定。3ds Max標準のHair&FurをV-Rayでメッシュ化してレンダリングしている。「この手法なら、プレビュー段階(E)である程度の動きが確認できるので便利です」(長崎氏)/ F:完成ビジュアルの例

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[Topic 3]ショットワーク
プロの映像制作者こそオリジナル作品に挑んでほしい

アセットと同様、ショットワークについてもポイントを適確に押さえつつ、できるだけシンプルに効率良くつくることが徹底されたというが、前述の通り本プロジェクトは2009年に企画が誕生後、1年ほどでシナリオが完成。

そして、その後の約1年間で、全体としての映像は一定クオリティまで仕上がっていたそうだ。つまり、残りの期間はブラッシュアップがくり返されていたというわけだが、その中にはシーンや構成の大胆な見直しも含まれたという。「ひとまず完成したバージョンは約7分と、最終形よりも2分ほど長かったのですが、それを曽利さんに観てもらったところ『テンポが悪い!』とダメ出しされてしまいました(苦笑)」(長崎氏)。

元のバージョンでは、ベンジャミンが裕福な家庭で幸せに暮らしていた様を描いた過去シーンがあったそうだが、それがかえってテンポを悪くしてしまっていたのだとか。そこで過去シーンを全てオミットし、ベンジャミンがサバンナで生きていくことになった経緯についてはOPを兼ねた2Dアニメーションで描くかたちに改良された。

そんな冒頭の2Dアニメーションは、永野氏が担当。「落書きみたいなものです」と謙遜するが、その表現も実に魅力的だ。通常の業務ではフリーランスのゼネラリストとして活動する永野氏のマルチな才能が窺える。そして完成後は、蓑田氏が国内外の映画祭へのエントリーを担当。先述のオタワ国際アニメーション映画祭事務局からの招待メールを受け取ったときには「それがどれくらい栄誉あることなのかわからなかったのですが、長崎が興奮していたのですごいことなんだろうなあと(笑)」。

映像マニアではない蓑田氏(と野田氏)の存在が、ZENTOY作品に良い意味で一般受けするエンターテインメント性をもたらしているのかもしれない。長崎氏は、商業ベースの映像制作に携わっている人にはぜひオリジナル作品を監督することを勧めたいと語る。

実作業を担うアーティストの視点では見落としがちな、作品を俯瞰する、全体としてクオリティを高めていくということを実体験することで、業務における監督やクライアントの意向をより適確に理解できるようになるそうだ。「現在は、会話劇のアニメーションを試作中なのですが、Unityとゲームパッドを利用してリアルタイムでアニメーションを付けられないか試していたりします。これからも様々な作品づくりに取り組んでいきたいですね」。

背景セット

▲A:冒頭のサバンナが初めて映るカットの3ds Max のシーンファイル。バウンディングボックスは、MultiScatterで生成した草/ B:完成イメージ

▲C:MultiScatterのシーンUI

▲D:白いスプラインで囲まれているところに草を生成している。なお、草のモデルは「iFlowers」(rendering.ru/ru_en/models/ifowers.html)を購入したとのこと/ E:V-Rayプロキシファイルをスキャッタできるので、草などハイメッシュモデルやアニメーションしたモデルもレンダリングが可能/ F:ビューワ上では、バウンディングボックス表示のほかにポイントクラウド表示もできるので確認がしやすいという

▲G:レンダリングは、V-RayのGIをON。キャラクターのレンダリングは柔らかさを出すため、vraylightを使用

コンポジットワーク

▲A:地面用の草テクスチャ/ B:AE上でコーナーピンによって地面のパースに沿って歪ませる

▲C:完成形。非常にシンプルな手法だが、その効果は絶大だという。「自分でもどうしてリアルに見えるのかわかりませんけど(笑)、オススメします」(長崎氏)/ショットブレイクの例。

▲D:マットペイント/ E:背景用3DCG素材を配置/ F:キャラクターを配置/ G:近景用の背景素材を手前に加え、空気感(フィルタ処理)やカラコレを施した完成形

TEXT_須知信行(寿像
PHOTO_弘田 充

  • 『獅子として生きる』
    監督:長崎 悠
    製作:ZENTOY
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    zentoy.jp/alionlife