3DCGを活かしたイラストやグラフィック、キャラクターデザインの制作現場を取材し、実際にビジュアルを仕上げるまでのメイキングを解説。ゲームや映像とはひと味ちがう、それでいて3DCGの表現力を最大限に活かした事例とそのテクニック紹介する。本記事では、ゲームのキャラクターデザイナーを経て、現在はフリーランスのイラストレーターとして活躍している斉藤幸延氏のテクニックを紹介。3Dと2Dを自在に使いこなす斉藤氏の作品メイキングを解説する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 232(2017年12月号)からの転載となります

TEXT_岸本ひろゆき / Hiroyuki Kishimoto
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

3DCGやフォトバッシュなど多彩な手段でイラスト制作

量感に満ちた体躯や巧みな陰影に彩られたイラストを生み出し続ける斉藤幸延氏は、神戸にアトリエを構えながらSNSを最大限に活用してアートワークを展開している。ユーモアあふれるイラストTIPSツイートを目にしたことがある人も多いのではないだろうか。「就職の際、所属することになったコナミのアーケード開発部署が神戸にあったために引っ越してきました。2004年に独立してからも、ずっと神戸で活動しています」と斉藤氏。

大学時代はグラフィックデザインを学んでいたこともあり、独立当初はそうした仕事を主軸にしていたが、徐々にイラストの比重が高まり、現在ではほぼイラストの案件が占めているという。「大学ではグラフィックデザインを専攻して、イラストも制作していました。その当時に学んだコンセプトメイキングが、ゲーム業界でキャラクターデザインをしていたときにも会議で説得力のある案を出せるなど、おおいに役に立ちました」。イラストをコンセプトメイキングで補強するのと同様、主軸のほかに軸足を用意しながら取り組むスタイルは斉藤氏の制作そのものに通底し、3DCGを使ったポージング・レイアウトやエフェクト制作、フォトバッシュなど、多彩な手段をミックスして最短で最良の結果を得る手腕は鮮やかそのものだ。今回は斉藤氏のオリジナルイラスト2作品を例に、その創作手法の一端を紹介したい。

『決戦の刻』


©Yoshinobu Saito

(1)3Dモデルと構図

ロボット騎士を描いた『決戦の刻』のモデル。「アニメーションを付けるわけではないので、ベーシックなジョイントに直接親子付するなどスピード重視なセットアップにしています」



  • ポージングし、背景モデルも用意して構図をとる。仕上げ工程でのディテールアップを前提に、3DCG工程ではそれほど品質を追求せずにレンダリングを行うとのこと



  • レイアウト用のカメラとは異なるアングルから見た3DCGシーン。黒い敵機の武器が主役機の腕に干渉していることがわかる。「イラストが完成形なので、3DCG上では見えない位置でめり込んでいても気にしません。また同様に、同じ水平面上に接地していないこともありますし、必要であれば望遠・広角をキャラごとに切り替え別々にレンダリングすることもあります」(斉藤氏)

(2)クロスシミュレーションの活用


マントにはクロスシミュレーションを適用するなど、斉藤氏の作品ではエフェクト面でも3DCGが効率的に活用されている。「布のはためきのほか、ICEのパーティクルでオブジェクトを配置したり、炎や爆発、煙、火の粉など3DCGが活用できそうな場面では積極的に使っています。クロスシミュレーションに関してはICEにSyflexが搭載されて非常に高速になったのでそれを使っていますが、SoftimageMayaなど自分の使いやすいツールを適宜使い分けています」(斉藤氏)。何度かトライして、ねらいの布感を得ることが難しそうなら手動のスカルプトに切り替えているという割り切りのよさ、コストと品質のバランス感覚は、様々な技術探訪をくり返している斉藤氏の強みだろう

(3)フォトバッシュ

下絵工程での3DCG活用と共に、描き込みの段階ではフォトバッシュを積極的に行う斉藤氏。本作でも随所に写真素材が活躍しているが、多くはアイデア出しの段階から「こういう素材がいるだろう」と見積もりつつ、すでに撮影済みの素材のほか、必要に応じて随時写真を撮りに出かけるという

戦場に降り注ぐビームの描写。実はカメラを上下に回しながらシャッターを切って撮影した写真を素材にしている

布の陰影にはビニールシートの写真を活用。「このイラストを描いていた当時、近所の工事現場にかかっていたシートが非常にいい雰囲気のシワの入り方で、これはしめたと撮りに出かけました」(斉藤氏)

(4)仕上げ



  • 描き込む前の背景。おおまかな建物や高架の様子と空模様、地面には写真素材が貼り込まれている



  • 背景を描き込んだ状態。建物もキャラクターと同様にモデルを起こし、それをベースに描き込みを進めている。タワー主要部に並ぶ窓は、斉藤氏の住まう神戸市街のタワーマンションを撮影し素材にしている。「神戸の街は観光地としての街並みや港、海・山も近く、かつ適度に都会。これらがコンパクトにまとまっていて、自分の創作にとても合った土地だと感じています」(斉藤氏)



  • 背景に描き込み前のキャラクターを重ねたもの。3DCG上でシンプルにライティングを施し、それをレンダリングして描き込んでいく



  • 完成作品。キャラクターのディテールが大幅に足されているほか、背景にも煙、投光器の照明、爆発などが描き足されている。装甲のオイル垂れも写真素材を貼り込んだものだ。主役機に足されたマントによって画面構成上暗い部分をつくりつつ、機体にかかる間接光はマントに遮られている箇所であっても大胆に描き込むことで陰影を強調している

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金太郎

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金太郎


©Yoshinobu Saito

(1)モデルの作成

金太郎が酒呑童子と戦う姿をSF風に描いた作品。2体のモデルはZBrushで造形されている。金太郎は筋肉質なベースモデルにスーツを着せる要領で造形。また、背景の酒呑童子は浮世絵の妖怪などの描写を参考にしつつ、鬼瓦の造形からも着想を得た。また、肌についてはアイデア段階で想定した質感を早く得られるという判断からMudboxでテクスチャが描かれている。「Mudboxはステンシルの使いやすさや充実したレイヤー機能があり、Photoshop的な感覚で使えます。今回、ねらった質感は、Mudboxでテクスチャを描いてしまえば終わりかなと算段できたので選択しました」(斉藤氏)

(2)シーンの作成

Softimage上でのレイアウト作業の様子。スカルプトを終えたモデルはZRemesherでポリゴン数を低減してSoftimageにインポート、ポージング用にセットアップしている。「ポージングは思いついたポーズを30フレームおきにキーを打って検討しています。カメラで様々な角度で眺めているうちに、まったく思いがけていなかったカッコいいアングルを見つけることもあり、自分の頭の中や手で描くラフだけでは絶対得られなかったレイアウトにたどり着けるのは、3DCGを活用する利点のひとつです。アングルだけでなくポーズの比較検討も素早く行えるのがいいですね」(斉藤氏)



  • 金太郎がカメラの方を向いている例



  • 構図奥の酒呑童子を睨んでいる例。キャラクターの顔がこちらに見えないのも、完全に酒呑童子に背を向ける状態になるのも違和感があり、首の角度は様々に検討された上で決着している

(3)レンダリング素材



『決戦の刻』の頃とは異なり、『金太郎』ではいくつかの素材をレンダリングし、Photoshop上で重ねている。例えば、金太郎のボディは金・銀・赤の塗りを2パターン出力し、塗り分けはPhotoshopでの仕上げ工程の中で決定。反射やリムライトなどは必要に応じて別にレンダリングしている。下段の画像は酒呑童子の吐き出す呼気を表現するための渦。描いたカーブに沿ってパーティクルを複数種類エミットすることで作成している。これを組み合わせておどろおどろしい雰囲気を描き出した

(4)補助ライトなどをレタッチで描き込む

レタッチ作業の様子。背景は金太郎にちなむ藤の花を県内の著名な藤棚で撮影。さらに、その近くで撮影したという神社の提灯も加えて空間を演出している


レンダリング後の描き込みを開始する前の状態



  • 赤い照明による照り返しを追加



  • そこからさらにアンビエントオクルージョン素材の追加、金太郎のスーツの塗り分けなどの手が加わる。Photoshop上でコンポジットしているといった趣である


【画像2】で用いた照り返し素材

(5)仕上げ

描き込みを加えていく様子

前述の金太郎のスーツ塗り分けのほか、酒呑童子の瞳孔の加筆、腰巻の色味の変更が行われている



  • 酒呑童子の周囲や地面のフォグが追加され、空気感が強調されている。また、金太郎のボディへの傷の加筆や照り返し素材の追加もこの段階だ



  • さらに舞い散る桜吹雪、斧の炎などをはじめとするディテール追加が行われて完成。また、細かいところではあるが酒呑童子の眉根の形状も、より丸みを帯びたものに補正されている

Tips

板ポリゴンを使ったエフェクト~「疾風迅雷」より

『疾風迅雷』は『金太郎』と通底するテーマで描かれているSF童話シリーズの作品で、「桃太郎」を題材にした作品だ。これまで紹介してきた事例同様、3DCGが表現向上に効果的に働いている。「斬撃のエフェクトは、テクスチャを貼った板ポリを曲げて配置したものをレンダリングして使っています。円弧状の軌跡を、構図奥の敵にちゃんと当たって見えるように描き込むのは、精度を出そうと思ったらそれなりに気を遣わねばなりません。3DCG上で組んだものを素材にすることで、そうした負荷を軽減しクオリティアップに注力できます」(斉藤氏)。一方で、ダイナミックに翻るマントはクロスシミュレーションを何度か試行したが、ねらったような結果にはならず、スカルプトに切り替えて造形。また、文様は陰影に合わせて2D的に貼り込んでいる。

唐揚げ万能説!? ~爆発をつくる

SNS上では作品だけでなく、イラスト制作時のテクニックも投稿し人気を博している斉藤氏。特に写真を加工してまったく別のものに転用するメイキングは多くの支持を得ている。今回はその中から「唐揚げ」を使用した例を紹介したい。



  • 美味しそうな唐揚げを用意し、写真を撮影



  • 形のいいものを切り抜く



  • 明るさ・コントラストを調整し、グラデーションマップで白・橙・黒などをマッピングして爆発のようなトーンに



  • グローさせれば爆発素材の完成


同様のテクニックを用いて、爆発だけでなく煙、キャラクターも唐揚げで作成した例


グラデーションマップの応用範囲は広く、横断歩道のヒビ割れに青系のグラデーションをマッピングすることで電撃・ビームなどのエフェクトに応用可能



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.232(2017年12月号)
    第1特集:Houdiniイズム
    第2特集:3DCGポートレート 2017

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2017年11月10日
    ASIN:B076KVMCC1