アクションRPG『メガスマッシュ』PVは、通常のプリレンダーではなく、UnityによるリアルタイムCGベースで制作することで、非常に高いコストパフォーマンスを引き出したという。国内ではまだ事例の少ない、リアルタイムCGベースの映像制作の舞台裏を追った。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 237(2018年5月号)からの転載となります
TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
Information
アクションRPG『メガスマッシュ』
2018年春配信予定
対象OS:Android/iOS、ジャンル:爽快ぶっとばしアクションRPG、価格:基本プレイ無料(一部アプリ内課金あり)、iOS:iOS 9以上 / iPhone 5s以降、Android:Android4.4以上をインストールした端末 ※一部端末ではご利用いただけない場合がございます。
発売・開発:スタジオキング
mega-smash.jp
©studioking inc. All Rights Reserved.
リアルタイムCGの利点を最大限に引き出すために
今春リリース予定のアクションRPG『メガスマッシュ』(以下、メガスマ)のPVは、UnityによるリアルタイムCGベースで制作されている。CGアニメーション制作をリードしたのはVolca(ボルカ)。同社代表の加治佐興平氏は、前職のマーザ・アニメーションプラネット在籍時代に『Happy Forest』(2015)や『THE GIFT』(2016)など、一連のゲームエンジンによるリアルタイムTechデモプロジェクトのディレクターを務めてきた人物。そして、Volcaも「ゲームエンジンに特化したCGプロダクション」を標榜する。『メガスマ』PVがリアルタイムCGベースで制作された背景には、スケジュール的な事情も大きいそうだが、その恩恵は別のところにも。「一部のシークエンスは、ゲーム内イベントムービーと共有のリソースで制作しているんです。通常のプリレンダーだと2種類のレイアウトムービーを作成するには大きなコストが発生しますが、今回はゲームエンジンを利用しコンポも最低限にしていたため、必要最小限のコストで2種類のムービーを制作できました」(加治佐氏)。国内ではプリレンダー的なアプローチによるリアルタイムCGの事例はまだ少ない(受託案件ではなおさらだ)。そこで加治佐氏はプロジェクト当初にリアルタイムCGのメリット・デメリットについてクライアントに理解を深めてもらうべく、できるだけ丁寧な説明を心がけたという。「プリレンダーは、コストを問わなければいくらでもリッチな表現を追求できる技法です。一方、リアルタイムCGは現時点ではあくまでも近似法なので得手不得手があります。例えば、陰影表現には課題が多いでしょう。そうした注意点についてあらかじめしっかりとお話することに努めました」。とは言え、陰影やGI的なルックも「80点ラインまでは手早く確実にもっていける」と、加治佐氏。リアルタイムCGを導入する最大の利点は、従来型のプリレンダーでは不可能だったスピード感とコストパフォーマンスにあるのだと自信をみせる。本作で目指すのは"完全なハイエンドではなく、ゲームの方向性と合ったデフォルメタッチのルック"とし、ゲーム本体もUnityで開発していたことからクライアントであるスタジオキングもこれを快諾。こうしてリアルタイムCGベースのPV制作が実現した。
左から、張 中崢氏、加治佐興平氏(以上、Volca)。八木啓敬氏、高橋 聡氏、松成隆正氏(以上、マーザ・アニメーションプラネット)
www.volca.tokyo www.marza.com
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左から、内山知亜莉氏、田中賢一郎氏(以上、モンブラン・ピクチャーズ)。熊本周平氏(BIGFOOT代表)
mtblanc.jp www.bigfootinc.jp
Topic 1
プリプロダクション&アセット制作
黎明期である現在はエンジニアの存在が不可欠
実質1.5ヶ月で約1分半のハイクオリティなCGアニメーションを制作する必要があったことから、Volcaは外部パートナーの協力を求めた。プロジェクトに関わったのは、スタジオキングを含めて6社。そう聞くと多い印象を受けるが、映像制作の実作業は10名強という少数精鋭で完結させたという。スタジオキング側は絵コンテ等による演出プランを示しつつ、ゲーム用アセットを提供。それを基にVolcaが具体的な仕様策定やCGディレクションをリード。そして最終的なポストプロダクションも担当した(下図、「ワークフロー」を参照)。ゲーム用アセットのリファインを手がけたのは、加治佐氏と交流の深いマーザ・アニメーションプラネット(以下、マーザ)の高橋 聡氏、松成隆正氏、八木啓敬氏の3名。アニメーションと3DCGエフェクトは、福岡のモンブラン・ピクチャーズ(以下、モンブラン)とBIGFOOTを中心に、一部アニメーションは中国のDancing CG Studioが担当している。各社間のコミュニケーションはSlack、一般的なデータ管理はGoogle Driveを用いており、Unity上での実作業を担当するVolcaとマーザではSVN(Subversion)による作業データのバージョン管理を行うことで、両拠点で同時並行で分業しながらデータを完全に同期させるようにしたという。
キャラクターモデルのリファインについては、元モデルがモバイルゲーム用であることからアニメーション用途としてはエッジが目立ったため、高橋氏によってPV内に登場する全5種類のキャラクター全てに対しスムージングを行うためのリトポロジーが施された。さらにプリレンダーのモデルに即したような"人の表情筋を意識する割り方"で丁寧な作業が行われたほか、ゲーム内ではテクスチャで描かれていた衣装を立体で起こしたり、あえてスペキュラを使わずカラーテクスチャに陰影を入れるかたちでマットな質感を再現することで、ゲーム内のイメージに相違のないムービー用のモデルが完成した。背景に関しても同様に、草原・洞窟・城の3種類のシーンが八木氏によってブラッシュアップされている。
そして、デザイナーだけでは解決の難しいトラブルが発生した際、修正作業や調査を行なったのがプロダクションエンジニアの松成氏だ。例えば「モデルがカメラの外に出ると、動作を軽量化するため自動的に非表示になる」というUnityのデフォルトの設定はゲーム開発現場では当然のように用いられるが、プリレンダーの映像制作現場のアーティストにとっては"モデルが突然消える不可解な挙動"となってしまう。こうしたリアルタイムCGとプリレンダー間のギャップを埋める要として、当面はエンジニアによるサポートが不可欠だとVolcaとマーザの面々は口を揃える。
ワークフロー
キャラクターモデルのリファイン
ベースとなったゲーム用モデル
映像用にリファインしたハイモデル
ハイモデルをUnityに読み込んだ状態
背景セットのリファイン
ベースとなったゲーム用背景モデル(メッシュ表示とシェーディング表示)
リファインされた背景モデル。元モデルのスムージング、平面プロップのモデル化、そしてテクスチャの高解像度化を実施。さらに、レイアウトに合わせてゲームモデルから足場を伸ばす等の対応が行われた
背景用テクスチャ(土の床面)のリファイン例。左上から時計回りで、元のテクスチャ、リファインされたディフューズ、同ノーマル、同スペキュラ素材。「512×512サイズだったものを2,048×2,048サイズへ高解像度化させています。そして、ゲーム用テクスチャはディフューズのみだったので、スペキュラとノーマルは各テクスチャごとに新規で作成しました」(八木氏)
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Topic 2 アニメーション&Unityワーク
Topic 2
アニメーション&Unityワーク
さらなる事例を重ねてノウハウの共有を加速させる
キャラクターアニメーションとCGエフェクト制作を担当したモンブランとBIGFOOTにも話を聞いた。両社はUnityやUE4自体の使用経験はあるものの、「今回のようなアウトプットは初めてだったため、データの受け渡しや作業制限があるのでは」という懸念があったという。しかし、実際はVolca側の豊富な経験も手伝って通常のプリレンダーによる映像制作と相違なく作業を行えたそうだ(実質の作業期間は約3週間とのこと)。
ただし、カメラの設定については不測の事態もあった。「Mayaや3ds Maxなどの(プリレンダーを前提とした)3DCGソフトウェアではカメラは水平画角で計算する仕様ですが、UnityなどのリアルタイムCGツールでは垂直画角で計算する仕様になっていることに制作途中で気づいたのです(苦笑)。Mayaから書き出したカメラデータを単純に読み込んだのでは見た目が変わってしまうため、モンブランさんたちにはUnityへ読み込んだ後のカメラの再設定(垂直画角での付け直し)まで対応していただきました」(加治佐氏)。そのほかにも、3DCGツールでは1頂点のスキンウェイトに影響できるボーンの数に制限はないが、Unityではボーン数は4本が上限となる(ちなみにUE4は8本とのこと)といった仕様のちがいから、Maya上では問題ないデータもUnityに読み込むとエラーが起こるといった不具合も発生。「ボーンやセットアップの命名規則にも苦労しました。あらかじめ仕様をまとめていたのですが、制作が進む中で作業担当者が変わった際などに反映されないこともあったので、正しいPrefixが付けられているのか手作業で確認する必要もありました」とは、Volcaの張 中崢氏。このような細かなトラブルについても松成氏が不明な挙動の箇所のパスを調べることで早期解決することができたという。「終盤に近づくにつれて張さんからの相談も増えました(笑)。ですが、こちらでも作業データを逐次確認できていたのでスムーズに解決できました」(松成氏)。いずれは自動化できる部分のツール化を行い、外部パートナーも全てUnityベースで確認ができる域まで到達するのが理想だと語ってくれた。
プラットフォーム側からの追い風を受け、リアルタイムCGの裾野は今後さらに広がっていくことは確実だ。「今回、エフェクト表現はプリレンダーで作成したため、Unityに読み込んだ後に再レンダリングする必要がありました。エフェクトもリアルタイムCGベースで作成すればさらに効率良く制作できるはずなので機会あればぜひチャレンジしたいです。今後もプリレンダーでは不可能なスピード感で、クライアントのニーズにしっかりと応えつつ、自社IPも積極的につくっていきたいです」(加治佐氏)。
キャラクターアニメーション
スタジオキングから提供されたゲーム用のボディリグとコントローラ。もともと、ゲームのモーション開発用のリグだったため、その場でモーションを付ける用途に限定されている、複数キャラクターの切り替えに対応できないといった課題があったそうだが、前者はスタジオキングのリガーが、後者はマーザのエンジニアが各々を改良することでコストを抑えつつ映像用のリグとして活用された
BIGFOOT担当カットのアニメーション作業例
CGエフェクト
エフェクト作業の管理シート(Googleスプレッドシートを利用)
エフェクト表現の方向性をすり合わせるための資料。ゲーム用エフェクト制作とタイムスケジュールが合わず、リファレンスが存在しないものも存在したそうだが、Volcaの方で補足資料を作成し、ゲームと映像で見た目の印象に差異が生じないようにすることを心がけたという
リアルタイムCG特有のデータ管理
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Unity上でのSVN(Subversion)によるバージョン管理の例。主に、Volcaとマーザ間での作業時に活用された
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Volcaが外部パートナー向けに作成した仕様書の例。ゲームエンジンを使ったことがないパートナーと共同作業を行うにあたり、あらかじめ注意点をまとめた仕様書が共有ドキュメントとして用意された
本文でもふれたオブジェクト名のPrefix(接頭語)を表示させたUI。「今回はキャラクターのインポート設定にジェネリックタイプを使用していたため、オブジェクトのネームを統一するために何かと苦労しました。特に同種のキャラが複数出る場合は、chRezentonA、同B、同Cと命名されているものを全てchRezentonに改めるといった具合にMaya上で入っているPrefixを削ってUnityに読み込むという作業を半手動で行なっていました(ジェネリックタイプだと、オブジェクトや骨の名前が一致しないとアニメーションがUnity上で正しく再生されないため)。ですが、プロジェクト完了後にジェネリックではなくヒューマノイドタイプを利用すれば、名前が正しくなくても正常に動作することに気づきショックを受けました(苦笑)」(加治佐氏)。リアルタイムCGベースの映像制作が黎明期ならではのエピソードだ
ライティング&映像出力
Unity上のライティング設定例。1.キャラ、ライト、そしてカメラ用のシーン、2.背景用のシーン、3.マットペイント用のシーンという3シーンに分けられており、これらを同時に開き、キャプチャすることで最終的なルックの映像を書き出すことが可能となる(Mayaにおけるリファレンスの状態に近い)。実際のシーンでは、キャラとカメラの周辺にReflection ProbeとLight Probeが設定されており、環境光や反射を表現している
「Unity上のライティング設定例」(1つ上の画像)から背景とマットペイントのシーンを無効にした状態。バックグラウンドのHDRIによってライティングが施されていることがわかる。「現状、リアルタイムCGは影の表現に課題が多いのですが、間接光(GI)に関しては、LightProbe(近似法)でかなり近い印象を表現することが可能です」(加治佐氏)
Recorderによる動画キャプチャ作業。Recoderは、タイムラインから簡単にキャプチャするためのツールであり、OpenEXRやMP4など主立った形式にひととおり対応している(アセットストアから無償でダウンロード可能)