憧れのアイドルが自分の目の前に登場する夢のステージ「CG STAR LIVE」。7月の公開ゲネプロレポートに続き、今回は制作者インタビューをお送りする。このステージでは、参加者が「アイドルに会えた!」という実感をもてることを目指している。それを実現するために、制作者はどのような工夫をしているのだろうか。「CG STAR LIVE」プロデューサーの福田未和氏(バンダイナムコアミューズメント)と、舞台監督の山添 武氏(CGCGスタジオ)に伺ってみた。
TEXT_渡辺 由美子 / Yumiko Watanabe(@watanabe_yumiko)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲7月から始まった「CG STAR LIVE」第二弾公演は「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS new generations★Brilliant Party!」。登場するのは『アイドルマスター シンデレラガールズ』内ユニット「new generations(ニュージェネレーションズ)」の渋谷 凛(ステージに向かって左)、島村卯月(同じく中央)、本田未央(同じく右)。公演の内容は公開ゲネプロレポートをご覧いただきたい
憧れのアイドルがわれわれの世界に「降臨」する夢のステージ
CGWORLD(以下、C):「CG STAR LIVE」は、どのようなコンセプトでつくられたのでしょうか。お2人の役割と合わせてお聞かせください。
福田未和氏(以下、福田):「CG STAR LIVE」のキャッチコピーである"「会いたい」が叶う場所"が示す通り、憧れのアイドルに「会える」ことが特徴です! 私はこのコンテンツのプロデューサーを務めています。
山添 武氏(以下、山添):「CG STAR LIVE」では、これまで次元の壁に阻まれてわれわれの世界と隔絶されてきた憧れのアイドルが、現し身(うつしみ)を得て僕たちの世界に「降臨」してくださっています。CGCGスタジオはバンダイナムコアミューズメントさんのご依頼を受けてそのお手伝いをしており、僕自身は舞台監督としてステージの構成・演出などを担当しています。
▲【左】福田未和氏(バンダイナムコアミューズメント)/【右】山添 武氏(CGCGスタジオ)
C:なるほど! 今回は、私たちとは異なる次元にいるアイドルが私たちの前でパフォーマンスをする際の工夫や、参加者との交流をどのように実現しているかについて伺っていきたいと思います。
ゴリゴリのダンスを踊るアイドルと、それを輝かせる衣装
C:先日参加した「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS new generations★Brilliant Party!」の公開ゲネプロでは、「new generations」の3人が目の前で歌って踊ってくれて、その臨場感に驚きました。
福田:ダンスも含めて、最初から最後まで、「CG STAR LIVE」のために用意しています。新曲の「Stage Bye Stage」はもちろん、おなじみの名曲のダンスも「CG STAR LIVE」のステージで披露するためのアレンジを加えています。
▲新曲の「Stage Bye Stage」を披露する「new generations」
▲新曲「Stage Bye Stage」のリハーサル映像
C:新曲のダンスは、特に動きが激しいですね。
福田:ゴリッゴリのダンスを踊ってもらっています。彼女たちが成長した姿を「プロデューサー」(※)の皆様に見ていただきたいと思い、今までよりも少し背伸びしたダンスにチャレンジしてもらいました。
※ 『アイドルマスター』シリーズにおけるゲームプレイヤーの職業、およびファンの通称。
山添:これまでレッスンを積み重ねてきた彼女たちが、次の段階へとステップアップしたことで、「Stage Bye Stage」の歌とダンスが実現しました。ステージに立つ3人と対面したときのインパクトもポイントだと思います。彼女たちが等身大の姿で目の前に立ってくれるので、「会えた!」という実感をもてると思います。
▲「CG STAR LIVE」ではアイドルたちが1/1スケールの姿でステージに立つため、等身大の身長を実感できる。本公演特製のステージ衣装は腰のリボンが透明素材で、ライトが当たると光を反射する。布が二重三重に重なった場合の色の変化も見どころだ
C:新作衣装は腰のリボンが透明素材で、発光して揺れるところに驚きました。
福田:リボンにライトが当たると発光して、動くたびにふわふわ揺れてかわいいですよね。リボンに加え、靴にもキラキラしたラメを入れました。ステージに立つ彼女たちをより輝かせるため、ライトが当たると光るようにしたいという希望を衣装デザイナーさんに伝え、今のデザインを仕上げていただきました。その衣装デザインを山添さんとCGCGスタジオのスタッフさんたちに見せて「ここがキラキラ光って!」「透明感も!」とお願いしたのですが、最初は「透明素材は負荷が高いから、止めてほしいです......」と言われていましたね(笑)。でもそこは妥協したくなかったので「(透明リボンは)これで決定」と無茶をお願いしました。
山添:自然な布の透け感を表現するのは、技術的に大変なんです......! でも、どうすれば彼女たちがステージ上で映えるか、さらにかわいく見えるかに直結する要素だからこそ、福田さんがこだわっていることは理解できたので、僕たちもこだわってつくりました。暗いステージの上でリボンと靴が効果的に光るように、靴だけにピンスポットを当てるなどして、ライトの当て方も工夫しています。
C:途中で3人のフォーメーションが変わり、ステージのいろんな位置に来てくれる点も嬉しいですね。
山添:基本の立ち位置による偏りは少しあるかもしれませんが、上手(かみて)から下手(しもて)まで、3人が万遍なく足を運ぶ構成にしました。参加者がどこにいても推しのアイドルが見えるように、3人にはできるだけ均等にアピールしてもらっています。ステージは横が12m、奥行きが3∼4mあり、奥行きが若干狭いので、3人が前後に重なることで見えにくくならないようにフォーメーションを工夫したりもしています。
▲基本の立ち位置は左から凛、卯月、未央だが、途中で何度もフォーメーションが変化する
C:特に未央はステージ上を元気に駆け回っていましたね。
山添:そういったアイドルごとの動き方のちがいにも注目してもらえたらと思います。
▲未央がステージ上を元気に駆け回るパート。その動きを未央専用の黄色のスポットライトが追従し続ける演出にも注目してほしい
福田:2018年2月∼5月に行なった第一弾公演「IDOLiSH7 PRISM NIGHT(アイドリッシュセブン プリズムナイト)」では、ちょっと背の低い和泉三月が後ろの参加者にも見てもらえるように、頻繁にジャンプしていました。歌もMCも「ああ、このアイドルはこうだよね」と参加者に感じてもらえるように、アイドルごとの「らしさ」を大切にしています。
普通のライブを超える、自由なカメラワークと照明
C:「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS new generations★Brilliant Party!」では、3人を様々な角度から撮影した映像がバックスクリーンに映りましたね。何台くらいのカメラで撮影しているのでしょうか?
山添:普通のライブであれば、あの規模のハコならカメラは3台が限界です。でも「CG STAR LIVE」はとても柔軟性が高いので、6∼8台くらいのカメラを使っています。3人それぞれをピンで追いかけるカメラがあり、引きで映す固定カメラもあります。ステージのはるか遠くから、超望遠レンズで撮っているカメラもあります。柔軟なカメラワークも「CG STAR LIVE」の特徴のひとつですが、アイドルに「会えた!」と参加者に実感していただくことがゴールなので、あまり自由にしすぎず、どの位置からどのように撮っているかが想像できるような自然なカメラワークを意識しています。
▲バックスクリーンには、クロースアップショットやロングショットなど、様々なカメラワークで撮影した3人の姿が映される
C:普通のライブを超えるカメラワークでありつつも、法則性があるのですね。照明はいかがでしょうか。
山添:ライトの数も、ハコのサイズに比べるとかなり多いです。ステージの天井には12灯設置してあり、アンコールではチカチカ点灯します。アイドルごとに専用の色のライトがあって、各々の見せ場では専属の「照明係」がその動きを追っています。ピンスポットも20灯くらいあり、先ほどお話したように、衣装の靴に当てるといった使い方もしています。
▲アンコールでは天井に設置した12灯のライトがチカチカと点灯し、ステージを盛り上げる
C:パーティクルが降ってくる演出も印象的でしたね。
福田:キラキラした魔法を彷彿とさせるような素敵な何かが降ってくるイメージで、CGCGスタジオさんにお願いしました。
山添:アイドルたちと干渉するものを降らせるとステージが見えにくくなってしまうので、ライトを使った演出にしました。客席後方に設置したミラーボールを経由してステージにライトを当てたりもしています。
▲パーティクルが降ってくる演出も随所で効果的に使われた
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「息切れ」「出ハケ」......リアリティは細部に宿る
「息切れ」「出ハケ」......リアリティは細部に宿る
C:未央が歌の合間にステージからハケ、戻ってきたときに「お水飲んできましたー」と報告するところはリアルでしたね。
山添:はい。3人とも全力で歌ったり踊ったりしていますから、途中で水分補給をしたくなります(笑)。
福田:通常はアーティストが「お水飲んできましたー」なんて報告はしないかもしれませんが、「CG STAR LIVE」ではあえてそうした方が、アイドルたちが目の前に「存在」していることを参加者に強く実感していただけるのではと思ったのです。「アイドルたちが何をすれば、"自然"に生きて見えるのか」というところは、いろいろ工夫していますね。
C:「人間としての自然さを、あえて見せる」というのは面白いですね。
福田:「CG STAR LIVE」では「実はあまり目にする機会がなかったでしょう?」というアイドルたちの生の姿を見ていただければと思っています。ダンスを踊った後は息が切れたりするし、「シャッターチャンスタイム」でポーズを取っていたらだんだん足がプルプルしてきちゃったりもする。彼女たちは「生きて」いますから、疲れてくることだってあります。そんなちょっとした"弱さ"も含めた、自然な光景をあえてお見せできればと思っています。
▲「シャッターチャンスタイム」でポーズを取る未央。参加者が自身のカメラで撮影するための時間だが、3人とも「生きて」いるため、常にどこかが動き続けており完全に静止することはない
福田:楽曲が終わって最後のポーズを決めた後、アイドルたちはちゃんと元の立ち位置に歩いて戻るんです。これもこだわりポイントのひとつですね。ステージを暗転させたり、姿を消したりするのではなくて、ひとつながりのステージの中で、アイドルたちが何をしているかが常にわかるようになっています。
山添:ステージの出ハケもちゃんとお見せしたいというコンセプトです。ステージの照明が消えて暗転しても、アイドルたちは、参加者から見える見えないに関係なく歩いて舞台に入ってきます。ステージの下手から走ってハケたアイドルが、上手からステージに戻ってくるときのタイミングも、リアリティがあると思います。ミュージックビデオなどの完成された映像とはちがい、ライブには舞台裏の"ノイズ"がつきものなので、こうしたノイズからも、普段は見られないアイドルの姿を感じられるようにしたいと思いました。
「ファン」「プロデューサー」......アイドルごとに変わる参加者の役割
C:「CG STAR LIVE」は、実際のライブに限りなく近いのですね。
福田:いえいえ、実際のライブとは全然ちがいます。それよりも「CG STAR LIVE」という場所を通して、どうしたら来場者に「あのアイドルに会えた!」と思っていただけるかに重きを置いています。構成もそのひとつで、「CG STAR LIVE」の曲数は、かなり少ないんです。なぜなら、ライブではないからです。「IDOLiSH7 PRISM NIGHT」は4曲、「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS new generations★Brilliant Party!」は5∼7曲しか歌いません。「CG STAR LIVE」の醍醐味は、そこに「存在」する憧れのアイドルと、実際にコミュニケーションをとることにあるのです。
C:「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS new generations★Brilliant Party!」の場合は、「教えて!シンデレラ」「シャッターチャンスタイム」「ハッピーバースデータイム」などのコミュニケーションパートがありましたね。
福田:「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS new generations★Brilliant Party!」の「シャッターチャンスタイム」では、来場者にたくさんの写真を撮っていただき、SNSに上げることもOKにしています。『アイドルマスター』シリーズのファンの皆様は「プロデューサー」なので、自分が撮影したアイドルの写真をSNSにアップするという「プロデューサー業」をこの場所でも体験していただきたいと思い、「シャッターチャンスタイム」には多くの時間を使っています。彼女たちは「存在」しているので、「プロデューサー」も「存在」しているんです。
▲「ハッピーバースデータイム」は、公演月に誕生日を迎えた「プロデューサー」に、3人がバースデーソングをプレゼントするというコーナー。「彼女たちと『同僚』が誕生日をお祝いしてくれます。3人がバースデーソングを歌うときには、ステージ上の階段を一段上がってもらい、後ろの方々にもちゃんと顔が見えるようにしています」(山添氏)
福田:参加者にコール&レスポンスをしていただくことで、「CG STAR LIVE」はアイドルと自分たちが一緒につくり上げるものなんだと感じていただければと思っています。
C:3人が歌う楽曲を「プロデューサー」の投票で決めるコーナーも、参加者のコール&レスポンスを促す意図があるわけですね。
福田:「アイドルと参加者との関係性をどうつくるか?」は、「CG STAR LIVE」で大切にしている要素のひとつです。なので「参加者はどんな立場なのか?」は、アイドルごとに、結果的にちがってきます。「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS new generations★Brilliant Party!」の参加者は「プロデューサー」になりますので、宣材写真を撮影したり、歌う楽曲を選んだりするコーナーをつくりました。「IDOLiSH7 PRISM NIGHT」では「CG STAR LIVE」に来てくださった方々を「『アイドリッシュセブン』世界にいるファン」に見たてたので、公演中にアイドルたちが「大好きだよー!」と言ってくれるコーナーをつくりました。
C:「大好きだよー!」ですか。それは『アイドリッシュセブン』のファンに響きますね!
「キャラクター」ではなく「CGスター」を育てたい
C:「CG STAR LIVE」のスタッフの数や制作期間はどれくらいでしょうか。
山添:ダンス、音楽、舞台演出などを合わせると、20∼30人くらい関わっています。会場であるVR ZONE SHINJUKUの運営スタッフまで含めると、もっといます。制作期間は、福田さんから構成をいただいてから6ヶ月くらいを要しています。
福田:「今回の『CG STAR LIVE』はこうしたい!」という要望を書いた構成案を私が出して、実際の開発はCGCGスタジオさんにお願いしています。構成案をつくった時点で私の頭の中には「完成形」がありますが、譲れないところ以外は「こうしたい」とは強くは言わないで、基本はスタッフさんにお任せします。そうした方が、想像していた「完成形」よりもっとすごいものができ上がってくるんです。
山添:スタッフひとりひとりが、「そのアイドルらしさ」や、「アイドルの存在を実感してもらうために、自分が何をすればいいか」を考えながらつくっています。それが結果に表れているんじゃないかと思います。
C:「そのアイドルらしさ」を追求できるということは、スタッフさんは作品の元からのファンの方が多いのですか。
山添:いいえ。CGCGスタジオのスタッフは「CG STAR LIVE」以外も含め、いくつもの作品を担当しているので、毎回作品について猛勉強しています。
福田:「CG STAR LIVE」の大きな特徴は、登場できるアイドルが多岐に渡ることです。今後も様々なアイドルを登場させたいという野望をもっています! 男性向け・女性向けを問わず、幅広いアイドルと一緒にお仕事ができるよう頑張りたいと思います。
C:「CG STAR LIVE」の今後の抱負をお聞かせ下さい。
福田:ブランドにしたいですね。「CG STAR LIVE」という名前は、「CGスター」という存在を確立したいという願いをこめてつけたのです。よく海外では「ムービースター」とか「ロックスター」という言い方でそのジャンルの花形を表すので、それを意識して「CGスター」と名づけました。「CGキャラクター」ではなくて、「CGスター」。将来は「『CG STAR LIVE』に出るのが夢です」と言ってもらえる存在になりたいです。
C:その頃には、もっと大きな、アリーナみたいなハコになっているのでしょうか。
福田:ハコは現在の大きさがいいですね。あの等身大で、あの距離感で、あの息づかいで見るから、アイドルたちの存在を実感できるのだと思います。3万人のハコだと、180センチのアイドルが立っていても、遠くの客席からは姿が見えないのでモニターに映っている映像を見ることになってしまい「会えた!」という実感をもてないでしょう。「CG STAR LIVE」では「会った感」を追求していきたいと思います。
▲「通常の公演では参加者の上限を100人にしています。公開ゲネプロのときよりもアイドルを見やすくなるので、「会えた!」という実感をもちやすいと思います」(福田氏)。「『CG STAR LIVE』のハコは、参加者が前の方に詰めてしまうと、最前列の方以外は見えにくくなってしまうんです。前後の間隔を開けた方が見やすくなります」(山添氏)
山添:参加者とコミュニケーションが取れる規模感がいいですね。アリーナだと、「質問コーナー」で参加者が掲げるペンライトの数をアイドルたちが数えられません(笑)。今は、僕たちのいる世界と地続きの世界に住むアイドルに「降臨」してもらっていますが、異なる時代や世界観のアイドルの舞台演出もやってみたいです。例えばステージ上で、美しく戦いながら歌うといった演出もできると思います。
福田:いつか専用の劇場をもちたいです。今の会場はほかのVRアクティビティでも使っており、「CG STAR LIVE」に特化した施設ではありません。専用の劇場があれば、来場者が思っている「あともう少しこうなったらいいな」という要望を叶えやすいし、もっと特化したことができると思います。
山添:ぜひ、アイドルたちに会いに来て、楽しんでくださいね。
福田:今後の「CG STAR LIVE」にもご期待ください。
C:ありがとうございました。
▲取材の最後に、VR ZONE SHINJUKUの決めポーズをとってくれた福田氏【左】と山添氏【右】
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