11月4日に開催された「CGWORLD 2018 クリエイティブカンファレンス」で、AixsponizaのMatthias Zabiegly氏とティー・エム・エスの宮田敏英氏は協同で、「理想のデザインを実現する方法【Aixspoinza】」と題して講演した。CGアーティストとして15年以上のキャリアをもつZabiegly氏は、2018年8月にリリースされたCinema 4D Release 20の新機能を活用し、ハイクオリティな映像を低コストで作成するためのテクニックについて解説し、参加者の注目を集めていた。

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TEXT & PHOTO_小野憲史/Kenji Ono
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>ボリュームモデリング

Cinema 4D(以下、C4D)は独MAXSON Computerが開発・販売する統合型3DCGソフトウェアだ。1990年代にAmiga向けのツールとして制作された経緯があり、現在も放送業界を中心にユーザーが多く、特にモーショングラフィックスの制作などで高い評価を得ている。そのCinema 4Dが本年8月に「Release 20(R20)」としてバージョンアップ。ノードベースのマテリアル作成など、さまざまな新機能が備わった。

Aixsponizaは2006年に独ミュンヘンで設立されたCGスタジオで、モーショングラフィックスや3Dアニメーション、VFX、グラフィックデザインなどの分野で、独創的な映像制作に取り組んできた。主要ツールはC4Dで、R20の開発でもβテスターを務めたという。業界で15年以上のキャリアをもち、同社でリード3Dアーティスト兼VFXスーパーバイザーとして勤務するMatthias Zabiegly氏は、C4D R20の数ある新機能のうちボリュームモデリングから解説をスタートした。


  • Matthias Zabiegly氏/リード3D、VFXスーパーバイザー(Aixsponza)
    www.aixsponza.com
    撮影:弘田 充

通常の3DCGはポリゴンに代表されるサーフェスモデルで表現される。そのためモデルは表面のみが定義され、中身は存在しない。これに対してボリュームモデルは空間内に定義されたパラメータ分布によって形状や現象を表現する手法で、ひらたくいえば体積が存在する(ソリッドモデル)。そのため通常の3DCGよりもサーフェスを押し出したり、引っ込めたりといった操作が、より容易にできる。Zabiegly氏はこの特性から、「ラピッドモデリングに最適」と評価した。

ポリゴンデータでは頂点と、その接続方法によってモデルの表面が定義されるのみだが、ボリュームモデルでは体積が存在する。C4D R20ではOpenVDBベースのボリュームビルダーとメッシュ化を使用することで、基本形状の結合や型抜きなどのブーリアン操作を可能にしている。任意のC4Dオブジェクトを使用し、有機形状やハードサーフェスのボリュームをプロシージャルに作成することも可能だ。ボリュームは連番.vdb形式でエクスポートすることもでき、OpenVDBをサポートする全てのアプリケーションやレンダリングエンジンで使用できる

実例とした紹介されたのが、ブリキ玩具の蒸気機関車のCG制作過程だ。はじめに円筒型のボリュームモデルを用意し、そこに凹凸をつけるように前面部分をモデリングしていく。これを母体として煙突や運転席部分を付け加えるなどして、全体の形を整えていく。ボリュームモデルをボクセルデータで確認することも可能だ。これらはAixsponizaが制作に参加しており、ドイツ語圏で2019年1月に公開予定の映画『Tobi and the secret of our planet』のCGパート制作でも多用されているという。

映画『Tobi and the secret of our planet』のトレーラーから。実写のドキュメンタリー映像の中で、フルCGムービーがインサートされている。CGパートは玩具のような世界を表現するのに使用されており、その特性からボリュームモデリングが非常に良く機能したという

蒸気機関車が制作されていく様子。作業途中でボクセルデータが表示されており、これがソリッドモデルであることがわかる。同社ではレンダラにOctane RenderRedshiftを採用しており、本CGのようにモデルや背景がシンプルな映像では、Octane Renderが使用されるケースが多いという

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<2>MoGraphフィールド

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<2>MoGraphフィールド

続いてトピックはC4D R20の新機能の1つで、ボリュームモデリングと共にZabiegly氏のお気に入りだという「MoGraphフィールド」に移った。事例としてあげられたのが、Aixspoinzaが制作し、C4D R20のリリースにあわせて公開された映像作品『chroma』だ。日本語で「彩度」という意味をもつタイトルどおり、色鮮やかな幾何学模様が音楽にあわせてアニメーションするという内容で、MoGraphフィールドによってオブジェクトのレイヤー表現やアニメーションが手軽にできたと語った。

Cinema 4D R20 Feature Video: Chroma

Zabiegly氏ははじめに「マーブル模様の小石からインスピレーションを受けました。これがアニメーションしたら、おもしろいだろうなと」とあかした。もっとも、これを通常の3DCGソフトウェアで表現するのは、なかなかに骨の折れる作業だ。しかし、C4D R20ではボリュームモデリングと同じように、サーフェスからの距離に応じてボリュームのマテリアルにグレースケールがつけられる。動画中の構造物の内側がマーブル模様になっている例では、構造体の深さを400ミリに設定し、グレースケールの1〜100%を4ミリ単位で割り当てた。この情報をもとにボリュームをレイヤー状に色分けすることで、より手軽に表現することができたという。

C4D R20のMoGraphフィールドは、従来のMoGraphエフェクタ(数式・シェーダー・ステップ・サウンド・ボリューム)が強度を定義しているのに対して、それらをレイヤーとして扱うことができる。これにより、MoGraphエフェクタが強度と距離に伴う減衰、すなわちエフェクト表現に使用されることが多かったのに対して、より多彩な表現が可能になっている

続いて紹介されたのは、球体が周囲に衝突しながら、上方に移動していくシーンだ。球体が衝突した際に波のようなエフェクトが表示されるが、これらは流体シミュレーションではなくフェイク的な表現で、MoGraphフィールドを用いて作成されている。球体が衝突した周囲に頂点マップを発生させ、そこにディレイマップを加えて、時間と共に減衰しながら消えていくように設定することで、球体の軌跡が残るようにしているのだ。その上で頂点マップに波のようなエフェクトを加えることで、流体のような表現を実現している。

C4D R20のMoGraphフィールドは、従来のMoGraphエフェクタ(数式・シェーダー・ステップ・サウンド・ボリューム)が強度を定義しているのに対して、それらをレイヤーとして扱うことができる。これにより、MoGraphエフェクタが強度と距離に伴う減衰、すなわちエフェクト表現に使用されることが多かったのに対して、より多彩な表現が可能になっている

同様の手法はナイキの「サッカーワールドカップ2018キャンペーン」むけポスター制作でも活用された(参考サイト:www.prodirectsoccer.com/responsive/nike/just-do-it-pack.aspx)。外見は白色だが、ソールが4色に異なるサッカーシューズを効果的に見せるというもので、ナイキ側の対応が非常に柔軟で、さまざまなアイディアが提案できたとのこと。その中から最終的に「サッカーシューズが外側の世界に影響を与えている」というイメージにもとづき、商品を中心に波紋のようなエフェクトが加えられた。もっとも、その際に複数のエフェクトのパターンを短時間で作成する必要があり、MoGraphフィールドの使用が効果的だったという。

なお、ポスターだけでなく、同コンセプトの動画も制作されている。ここではサッカーシューズが牛乳を思わせる白い液体に沈んだり、浮かび上がったりする様子が描かれており、靴の周囲に波紋が広がっている。一見すると流体シミュレーションのように見えるが、これもMoGraphフィールドを用いたフェイクのエフェクトだという。Zabiegly氏は流体シミュレーションではなく、フェイク表現を使うことで、クライアントからの修正指示に短いスパンで対応できたと語った。

制作途中のアイディア(上)と、最終的なレンダリング結果(中)と、それをもとに制作された動画(下)。波紋1つとっても4種類のパターンが併用されている。商品が液体に沈むような提案はポスターでは没になったが、動画では復活した。ちなみに、クライアントからの修正指示に対して、チームでは「Just Do it」といって対応したという

このほか、講演ではスイスでスポーツくじを運営するSwisslosむけTVコマーシャル映像制作の事例も紹介された。「ナイキとは異なり、最初に長々とした会社の社風やミッションに関するドキュメントを読む必要があり、驚かされました」(Zabiegly氏)。内容を注意深くチェックしたチームは、そこから「力強さ」、「様式化」というキーワードを抽出。それにもとづいて映像制作が始められた。

Sporttip - TV-Spot - Deutsch

映像は手描きのスケッチやPhotoshopなどを使用することなく、いきなりC4Dで制作されていったという。はじめにパワフルさを象徴するような、オートバイや自転車の3DCGモデルをインターネット上からダウンロードしてプリプロ映像を作成。そこに色味を加えて画面のレイアウトを整え、クライアントに提案していった。その過程から「彩度をおさえてシンプルな色使いにする」、「円形状のモチーフを強調する」などの方向性が導かれていったという。

クライアントから提示された会社のミッションドキュメント(上)と、それにもとづいてつくられたプリプロダクション(下)。「サークル」というモチーフが効果的に使われた

講演終了後、Zabiegly氏は「すでにC4Dを使用している人」、「この講演を聴いてC4Dに興味をもった人」と、それぞれ挙手をもとめた。すると前者ではパラパラとしか手が上がらなかったが、後者ではずっと多くの手が上がった。これを見てZabiegly氏は満足そうにうなずいた。そして、これをもってセッションが終了となった。