メディア&エンターテインメントの総合展示会Inter BEE 2018(主催:一般社団法人電子情報技術産業協会)が幕張メッセで2018年11月14日(水)~16日(金)まで開催され、最先端の映像機器や配信ソリューションの展示などに加えて、数々のステージイベントも実施された。本レポートではそのうち、WOWのビジュアルアートディレクター中間耕平氏と映像ディレクター柴田大平氏が登壇し、動画共有サイトVimeoの活用について語り合った「Vimeo Creator's Session」の内容をレポートする。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)



<1>Vimeoでの投稿が受注につながった

Vimeoは2004年にスタートした動画共有サイトだ。競合サイトに先駆けてHD画質に対応したことと、商業作品の転載やゲームのプレイ動画などの投稿を認めていないことから、主に映像作家やインディー映画監督、クリエイター、デザイナーに人気を博している。WOWで数々の映像作品を手がけてきた中間氏と柴田氏もVimeoで作品を公開中だ。2017年にはWOWの360度映像『Tokyo Light Odyssey』が、Vimeoが選出する「the top videos of 2017」にもノミネートされ、全世界から注目を集めた。

【360° Movie】Tokyo Light Odyssey (Full) from WOW inc on Vimeo.

業務のかたわら、個人的に制作した作品をVimeoに投稿している中間氏。サイトの規模だけで言えばYouTubeの方が大きいが、Vimeoに投稿する理由として「Staff Picks」コーナーの存在を挙げた。Vimeoのキュレーターが動画を実際に観てクオリティの高い作品を紹介するもので、「再生数ではなく、アートとして捉えられているのが良い」という。実際、動画を投稿しはじめた頃はフォロワーも少なかったが、「Staff Picks」に取り上げられてから状況が変わったという中間氏。「Vimeoに感謝している」と語った。

中間耕平氏(WOW)

同じように柴田氏も、「7年くらい前にYouTubeとVimeoの両方でアカウントを作成し、当初は双方のサイトに自主制作作品を投稿していたが、次第にVimeoにだけアップするようになった」とふり返った。「Vimeoにはクリエイターが使うサイトという空気感があり、アート系の作品が多く投稿されている」(柴田氏)。両者で異なるのがYouTuber的な動画の有無だ。「同じ3分の動画でも、YouTuberと僕らでは方向性が異なる。Vimeoではミュージックビデオやショートムービーが多く、棲み分けができている」(中間氏)

柴田大平氏(WOW)

NHKスポーツ番組のオープニングムービーや、大塚製薬「リポビタンD」で初となるミュージックビデオなど、広告系の映像制作を中心に活動している中間氏。ただし本人は「人にいろいろ言われてつくるのは大変だから、自由にやりたい。だから個人制作を通して信頼を集め、その上で仕事を依頼してもらえるようにしていきたい」という。実際にVimeoでの投稿がきっかけで、ナイキ、Dropbox、コカコーラの仕事を得ており、良い宣伝になっていると語った。

MAKIN' MOVES from Kouhei Nakama on Vimeo.

「昔は作品をつくっても上映できる機会がコンテストくらいしかなかった。それが今ではVimeoのようなプラットフォームができて、作品が完成した瞬間に世界中の人に観てもらえる。小さいバジェットで作品をつくっている個人クリエイターにはすごく良い時代で、大手企業と同じ土俵で勝負ができる。コメントなどで反応がもらえるのも、やりがいにつながる。自分も世界中の作品から刺激を受けている」(中間氏)。

これに対して柴田氏も「個人制作の作品や、仕事でつくった映像などを公開することで、いろんな人に見ていただくことができ、批評されたり、新しい仕事をもらえたり、知り合いになれたりする」と言う。もっとも、業務に追われる毎日で、なかなか個人制作に費やす時間が取れないともこぼした。「モチベーションが高いときに集中して作品をつくっています」(柴田氏)。

Daihei Shibata REEL 2018 from daihei shibata on Vimeo.

<2>世界中とつながれる時代だからこそ、作品づくりが重要

このコメントを受けて、トピックはクリエイティブにおけるモチベーションに移った。柴田氏は「自分が興味ある分野か、チームやクライアントのためにがんばろうと思えるかが大事」と語った。これに対して中間氏は「基本的に怠ける人間なので、年に1本はつくろう、というように、自分なりにルールを決めている。他には高価なPCやカメラを買うなど、これで何かつくらないともったいないという状況に追い込んだり......。個人制作はお金にならないので、普通はやらないと思う。そのため自分に何かストレスをかけるようにしている」と明かした。

もっとも、すでに語られたとおり、両名ともVimeoで作品を公開することが、仕事の受注にもつながっている。ただし、これに対しても中間氏は「人それぞれだと思う」と釘を刺した。「僕はたくさん上に人がいると、やりにくさを感じるタイプ。そうじゃない人は良いと思うが、僕みたいな人がいたら、世の中に作品を発表していくことが良い循環につながる。不平不満だけでは前に進めなくて、かたちにするのが大事。誰も自分のことは知らないし、映像は口では伝わらない。だからこそつくって発表することが大事」(中間氏)。

さらに話題はグローバリゼーションへと進む。かたや少子高齢化で国内市場は縮小傾向にあり、かたやデジタル化の進展で世界のフラット化が進展中だ。WOWもまた、東京・仙台・ロンドン・サンフランシスコに拠点を置き、ワールドワイドで活動を進めている。こうした状況の中で、日本のクリエイターはどのように対応していくべきだろうか。この問いかけに対して、中間氏は「海外の目は非常に気にしている。日本のわかりやすいしくみの中で生きていくと、これから厳しくなる」と言う。

これに対して柴田氏も「今はVimeoやTwitterやInstagram、FacebookといったSNSなどツールが充実しているので、作品をつくって公開すれば見てもらえるチャンスがある。ただ、そういう環境があるとは言え、結局は良いものをつくらなければいけないのは今も昔も一緒だとは思う」と、グローバリゼーションが進む時代だからこそ、作品づくりが重要であると指摘した。

2人は、最後に4K・8K時代におけるクリエイティブにも言及。12月1日(土)から4Kと8Kの衛星放送がスタートし、中でもNHKで始まる8K放送は世界初となる。これに対して中間氏は「自分でもCG映像を制作するため、大変だなというのが先に来る」と心情を吐露。柴田氏も「制作コストが上がるのはまちがいない。はじめて8K映像を観て感動したし、圧倒的な解像度がもたらす画の力はある。ただし、これをデスクトップ環境でつくれと言われても大変」だと語った。

もっとも、視聴者の映像を楽しむ環境も多様化している。中間氏は「映像はテレビだけではなく、スマートフォンでも観られる。その中で世間のニーズに向き合う必要がある。その上で解像度の高さは情報量の多さに繋がるので、正義だとは思う」と、一歩引いた視点で分析。柴田氏も「お笑い番組を8K映像で観ても仕方がないけれど、映画やきれいな風景は高解像度で観たいと思う。結局はコンテンツ次第」だと指摘。ちょうど終了時間となったところで、イベントは閉幕した。