4月20日(金)に公開初日を迎えた映画『いぬやしき』。その初日舞台挨拶がTOHOシネマズ新宿で行われた。第36回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭にて、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭にて、インターナショナルコンペティション部門のグランプリにあたる「ゴールデンレイヴン賞」を獲得した直後ということもあり、大いに盛り上がった、当日の様子をレポートする。

TEXT_UNIKO
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

「日本のVFXもここまで来たのか」
最先端のCG・VFX技術を目の当たりにしたキャストたちによる公開初日舞台挨拶

4月20日(金)に公開初日を迎えた映画『いぬやしき』の舞台挨拶がTOHOシネマズ新宿にて行われた。主人公・犬屋敷壱郎(いぬやしきいちろう)を演じた主演の木梨憲武、犬屋敷と対決する獅子神 皓(ししがみ ひろ)を演じた佐藤 健のふたりをはじめ、本郷奏多、二階堂ふみ、三吉彩花、伊勢谷友介というメインキャスト陣。それに加えて、佐藤信介監督が登壇した。彼らが壇上に姿を現すと、記念すべき公開初日、第一回目の上映を堪能したばかりの観客から拍手と歓声が上がった。

映画『いぬやしき』予告編

本作で16年ぶりの映画主演となった木梨は、晴れて公開初日を迎えることができたことに対し「映画の世界で久しぶりにやらせていただきましたが、こんなにも同じ設定(の宣伝)をしていくんだなと噛み締めながら来ました」と冗談を交えて笑顔で語り、観客に「いかがでしたか?」と質問。大きな拍手が返答として返ってきた。
続いて獅子神を演じ、撮影で最先端のCG・VFX技術を目の当たりにした佐藤 健は、「CGをつくっているスタッフの方たちが作業している現場を見させていただきましたが、ものすごく地道な作業なんですよ。その積み重ねと膨大な時間を経ての公開初日。とても感慨深いです」と感謝の言葉を述べた。

  • 舞台挨拶をする主演の木梨憲武


  • 獅子神 皓役を演じた佐藤 健


続いて、佐藤信介監督は「完成しなければいけない締め切りが確実に決まっているんですが、それを突破。再度決められた締め切りも未完成のまま迎え、その数日後にやっと完成。今日に間に合いました(笑)。本当にバタバタでいろんなことがありながらつくった作品ですが、今日みなさんに届けられて本当に幸せに思っています」と語った。
本作では、ポール・デベヴェック教授が率いるICT(USC)が開発する「LightStage」(ライトステージ)にて、木梨の3Dスキャンを実施。そのデータをベースに犬屋敷のデジタルヒューマンが制作された。3Dキャプチャを行うために木梨は台湾のNext Animation Studioまで足を運んだという。「(360度で自分の身体の)データを取ってそれを監督に渡しているので、後半はもう僕なんていなくて大丈夫。監督はそれを目安に全部つくりますから。最初は意味がわからなかった」とふり返った。


LightStageで3Dキャプチャ中の木梨


撮影中は身体にターゲットマーカーを貼った状態、「目安」を付けるように演技したという木梨

さらに木梨は、序盤で主人公・犬屋敷壱郎がベッドで落ち込んでいるときに頭部が割れ、内部の機械があらわになるシーンについて言及。
あれは全部僕が演じているのではなく全てCGです。本番前に全部顔、胸、手にマーカーを付けて僕を目安に(CGを)つくり込むわけです。そこから目安男優として後半全てシールを貼られて、マーカーと目安を中心に監督が編集していきました」と撮影現場の様子を説明し、CG表現が追加された完成形をイメージしながらの演技の難しさや面白さを観客に伝えた。




© 2018映画「いぬやしき」製作委員会
© 奥浩哉/講談社


そして、佐藤(健)は「日本のVFXもここまで来たのか! と。(この言葉を)みんな使っていいので周りの方に広めていただきたい」と話し、特に普段日本映画を観ない洋画好きの方に観てもらいたいと、アピールした。


「実際に完成した映像を観て一番驚いたシーンは?」との問いに、佐藤(健)は「ヘリコプターに飛び乗るシーンを撮ったときは、スタジオに本物のヘリを置いてブルーバックですごく大きな扇風機で風を当てられて演技しているんですが、もちろん飛んでいないわけで。どうなるんだろう大丈夫かなと思って映画を観たら、本当に飛んでるヘリコプターに飛び乗ってきたように見えたので、すごく感動したんですよね」と答え、かねてより飛んでいるヘリコプターに飛び乗ってみたかったという自身の夢がかなったシーンとなったようだ。


© 2018映画「いぬやしき」製作委員会
© 奥浩哉/講談社


獅子神を追う萩原刑事役を演じた、伊勢谷友介からは「身体から機械が出てくるすごいCGでしたが......(CGの犬屋敷が吹き出す)あの味噌汁は本物だったのではないかと思うのですがどうなんでしょうか?」という質問が上がり、佐藤監督は「素材は本物で撮り、少しCGを足しています」と回答。
続けて、木梨が「現場では壁に味噌汁やワカメを貼って垂らしたりしていましたよね」と補足するなど、本作でも印象的なシーンのひとつとなった機械化した主人公の腕が味噌汁を吐き出すシーンについてしばし会話が交わされた。

犬屋敷麻理(壱郎の娘)を演じた三吉彩花は、「木梨さん・健さんと共演するシーンが多かったので、台本を読んだときはどこがどうなっているのか全然想像できなかったです」とコメントした。


(左から)佐藤信介監督、三吉彩花、本郷奏多、木梨憲武、佐藤 健、二階堂ふみ、伊勢谷友介

獅子神に好意を抱く渡辺しおんを演じた、二階堂ふみは「健先輩が腕から色々(機械を)出すシーンがあったんですが、実際映画を観て現場でも同じようなことが起きていたなと思っていたんですよ。健先輩の芝居力が(実際には)ないものを見せてくださっていたんだなと確認することができて。CGの凄さももちろんですが、見えないものを見せてくださる健先輩は素晴らしい役者さんなんだなと改めて」とコメントし、佐藤(健)の演技を賞賛。

すると、それを受けて佐藤(健)は「いつからそんなに適当になった?(笑)」と返し会場の笑いを誘った。さらに「先ほど味噌汁を壁に貼ったと言っていましたが、食べ物をあんまり粗末にするのは、記者さんたちを前に大丈夫かなと思ったので、もちろんスタッフが美味しくいただいたということでよろしいですよね?」と、訝しげな表情で問う本郷奏多(安堂直行役)に対して、「もちろん。その通りです!」と木梨が答えるなど、キャストによるジョークが続き、舞台挨拶は終始和やかに進んだ。

「第36回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭」グランプリ
木梨に「第一回最優秀新人CG男優賞」贈呈

さて、本作は4月15日(日)に第36回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭・インターナショナルコンペティション部門でグランプリにあたるゴールデン・レイブン賞を見事受賞したばかり。
このブリュッセル国際ファンタスティック映画祭とは、世界三大ファンタスティック映画祭のうちのひとつで、佐藤監督にとっては『アイアムヒーロー』に続いて2回目の受賞という快挙となった。授賞式に参加した梶本 圭プロデューサーによると、本作がグランプリを受賞しなかった場合は、特別賞の贈呈が検討されていたというほど、審査員たちは木梨の演技を絶賛していたそうだ。

  • 2度目のブリュッセル国際ファンタスティック映画祭グランプリを獲得した佐藤信介監督


その話を受け、「いや、特別賞を僕にくれても良かったんじゃなかったんですかね(笑)? 『お笑いスター誕生』のグランプリくらいしか家にないので賞がほしかったな」と木梨。
すると、東宝の特別企画として、日本で唯一のCG専門情報誌(※2018年4月時点)「CGWORLD」より木梨に第一回 最優秀新人CG男優賞がサプライズで贈られることとなり、プレゼンターとして本誌編集長の沼倉有人が登壇した。


(右から)佐藤 健、木梨憲武、本郷奏多、沼倉有人(CGWORLD編集長)

沼倉は「本作における木梨さんのCG男優ぶりに感銘を受け、ぜひこの賞をお渡ししたいと思いお伺いさせていただきました。ここに『第一回 最優秀新人CG男優賞』を贈呈します、おめでとうございます」と、状況に戸惑った様子の木梨に、笑顔でトロフィーを授与した。
木梨は「......なんすか? この大会?」と笑いつつも、「いや本当に嬉しいです。僕と佐藤くんはCGが多く、何もないところから監督の言うことを聞いて感じを出すくらいしか目安がなかったので。こういう賞をいただいて、本当に(CGの)感じを出して良かったです」とコメントした。
そんな木梨の姿を見て佐藤(健)は「最優秀新人CG男優賞は、僕がこの世界に入ったときからずっと目標にしていた賞だったので、そんな賞を木梨さんが今回受賞されてすごく感慨深いです。おめでとうございます」と、"いかにも"な様子で祝辞を送ると、木梨は「お先に!」と笑顔で返答。最後まで笑いが絶えることのない舞台挨拶が幕を閉じた。


「第一回 最優秀新人CG男優賞」を受賞し、トロフィーを掲げる木梨憲武氏。余談だが、トロフィーにあしらわれた、犬屋敷の造形は映画用の3Dモデルデータを転用したものだとか

さて、本作のCG・VFX表現はハイエンドなVFX技法はもちろんのこと、役者、監督、プロデューサーをはじめ、撮影現場スタッフからCG・VFXをはじめとするポスプロスタッフに至るまで、関係者全員が一丸となって完成イメージを理解・共有し、目指す表現を追求できるだけの万全な協力体制を構築することができたという点が大きいと言える。

5月10日(木)発売予定の月刊「CGWORLD vol.238」(2018年6月号)の第2特集』では、「映画『いぬやしき』VFXメイキング」にて制作の裏側が隅々まで取り上げられていることを、ここでお知らせしておこう。
本作でリードVFXプロダクションを務めたデジタル・フロンティア中核スタッフへのインタビューを通じて、デジタルヒューマン表現を中心にVFX技法、それを実現するためのツール開発やパイプラインの構築について具体的に解説されている。

本作を含め、日本国内でもCG・VFXを駆使した良質な映画作品が昨今増えてきたように感じるのだが、先述した通り、制作関係者の相互理解が深まってきたという背景があるのはまちがいないだろう。このことが日本の実写VFX映画の新たな夜明けとなることを願うばかりだ。


© 2018映画「いぬやしき」製作委員会
© 奥浩哉/講談社


info.

  • 映画『いぬやしき』
    全国東宝系にて公開中

    <キャスト>
    木梨憲武 佐藤 健
    本郷奏多 二階堂ふみ 三吉彩花 
    生瀬勝久 / 濱田マリ 斉藤由貴 伊勢谷友介

    <スタッフ>
    原作:奥 浩哉「いぬやしき」(講談社「イブニング」所載)/監督:佐藤信介/脚本:橋本裕志/音楽:やまだ 豊/プロデューサー:梶本 圭、甘木モリオ/撮影監督:河津太郎/美術監督:斎藤岩男/CGプロデューサー:豊嶋勇作、鈴木伸広/VFXスーパーバイザー:神谷 誠、土井 淳/GAFFER:小林 仁/ポスプロプロデューサー:大屋哲男/VFXプロデューサー:道木伸隆/DIプロデューサー・カラーグレーダー:齋藤精二
    製作:映画「いぬやしき」製作委員会
    制作プロダクション:シネバザール
    配給:東宝

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