ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(以下:SSFF & ASIA)は、今年で21周年を迎えるアジア最大級の国際短編映画祭だ。5月29日(水)〜6月16日(日)に開催されるSSFF & ASIA 2019では、130の国と地域から集まったおよそ10,000の応募作品の中から選ばれた約200作品が都内複数の会場で無料上映される(一部イベントは有料予定)。本記事ではSSFF & ASIAのCGアニメーション部門にフォーカスし、CGアニメーションによるショートフィルムの魅力を複数回に分けてお伝えする。
最終回となる第4回では、SSFF & ASIA 2019 CGアニメーション部門の審査員を務めた諏訪道彦氏(テレビプロデューサー)、とよた真帆氏(女優)、杉山知之氏(デジタルハリウッド大学 学長・工学博士)の3氏に、審査直後の心境や、各々の審査基準、ショートフィルムの魅力などを語ってもらった。
・本連載のバックナンバー
No.1 ショートフィルムとデモリール、デジタルハリウッドはどちらの制作を推奨するか?
No.2『Tweet-Tweet』を成功に導いた、アイデア・マネジメント・スタジオ
No.3 学生のショートフィルム制作を成功に導く、3つのポイント
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
CGであることを特に意識せず、ひとつの映画として見ていました
CGWORLD(以下、C):SSFF & ASIA 2019 CGアニメーション部門の審査、お疲れ様でした。優秀賞(※)の発表は6月16日(日)なので審査結果は伏せていただくとして、まずは審査直後の心境を語っていただけますか?
※今年の同部門は73ヵ国から747作品の応募があり、その中から選出された12作品がCGアニメーションプログラムで上映され、1作品に優秀賞が贈られる。なお、同プログラムでは、第91回(2019)米国アカデミー賞短編アニメーション部門ノミネート作品の『週末に(Weekends)』と、デジタルフロンティアグランプリ2019ベストCGアニメーション賞受賞作品の『レディエイト(Radiate)』の2作品も特別上映される。詳しくは下記サイトを参照。
・SSFF & ASIA 2019 CGアニメーションプログラム1
・SSFF & ASIA 2019 CGアニメーションプログラム2
諏訪道彦氏(以下、諏訪):選出された12作品はどれも素晴らしかったですね。いろんなストーリーや表現方法の作品がある中で、1作品を選ぶのは難しかったです。優秀賞の作品は、圧倒的なナンバーワンという感じではなく、3人の審査員が各々の判断で挙げた候補の中から、総合的なバランスの良いものを選びました。私が挙げた候補だけでも3作品あって、甲乙をつけがたかったですね。
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諏訪道彦
ytv Nextry 専務取締役 アニメーションプロデューサー。1959年愛知県生まれ。大阪大学工学部環境工学科卒業後、1983年読売テレビ入社。1986年に手掛けた『ロボタン』のプロデュースを皮切りに、『シティーハンター』、『YAWARA!』、『魔法騎士レイアース』、『犬夜叉』、『金田一少年の事件簿』のほか、『ブラック・ジャック』や『名探偵コナン』など数多くのヒットアニメ番組を企画制作。日本を代表するアニメプロデューサーとして知られる。2012年4月よりラジオ番組『諏訪道彦のスワラジ』を文化放送超A&Gにて放送中。2016年よりデジタルハリウッド大学で客員教授を務めている。2019年6月より現職。
とよた真帆氏(以下、とよた):ほんとに、3作品くらい選べれば良かったですね。どの作品も「あの主人公、今は何をしてるんだろう。どんなふうに過ごしてるんだろう」と思わせてくれる余韻が残っていて、私の心の中で、ちがう場面が生まれ始めているんです。作品として、すごく力があるってことだと思います。
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とよた真帆
女優。1967年東京都生まれ。学習院女子高等科在学中にモデルテピューし、1986年にアニエス・ベーのモデルとしてパリコレクション等に出演。その後女優に転向し1989年『愛しあってるかい!』(フジテレビ)でデビュー。以降多数のドラマや映画、舞台等に出演。また芸術の造詣が深く写真や絵画の個展を開いたり京友禅の絵師として着物のデザインを手掛けるなど趣味の域を超えた活動を展開。NHKドラマ10『デイジー・ラック』、KTV/CX『後妻業』、KTV/CX『パーフェクトワールド』に出演中。ラジオbayfm『SATURDAY BRACING MORNING』(毎週土曜朝8時)バーソナリティーを務める。
C:演じることが仕事のとよたさんが、そんなふうに思われたのは素敵なことだなと思います。どの作品もデジタルデータの固まりですが、ちゃんと生命が吹き込まれていたのでしょうね。
とよた:私はCGであることを特に意識せず、ひとつの映画として見ていました。どの作品も、CGだ、実写だといったことを超えて、すごいパワーをもっていましたね。もうCGだからと区別する時代ではないと思いました。多分、多くの方は私と同様にCGに詳しいわけではないので、同じように感じるんじゃないでしょうか。今回はそういう方々の代表だと思って審査に参加しました。
C:私も12作品を見ましたが「この流体シミュレーションはすごい」とか、「これはレンダリング負荷が高そうだな」とか、ついつい気にしてしまいました(苦笑)。なまじCGのことを知っていると、かえってCGであることを意識してしまいますね。
杉山知之氏(以下、杉山):私は何十年にもわたってCGを見過ぎていますから、ちょっとちがったもの、CGらしくないものを選びたくなりました。例えば『ル・マン 1955(Le Mans 1955)』は1950年代にヨーロッパではやったポスターのような世界が再現されており、1955年のル・マン24時間レース中の大惨事を扱ったストーリーに見事にフィットしていたので良いなと思いました。CGはあらゆる映像スタイルを選べるからこそ、一番そのストーリーに合った映像スタイルを選べているか、突き通せているかという点が重要になると思います。
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杉山知之
デジタルハリウッド大学 学長・工学博士。1954年東京都生まれ。1987年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。1990年より国際メディア研究財団主任研究員、1993年より日本大学短期大学部専任講師を経て、1994年10月にデジタルコンテンツの人材育成スクールであるデジタルハリウッドを設立。2004年に日本初の株式会社立デジタルハリウッド大学院を開学。翌年、デジタルハリウッド大学を開学。現在は同大学・大学院・スクールの学長を務めている。
諏訪:映像スタイルという点では『ミスター・ウィダーシンズ(Widdershins)』も印象的でしたね。近未来的な世界をクラシカルな線画のようなスタイルで描いており、いつの時代も人間の思いは変わらないというテーマをうまく表現しているなと思いました。
▲【左】『ル・マン 1955(Le Mans 1955)』(制作国:フランス)。Quentin Baillieux監督作品/【右】『ミスター・ウィダーシンズ(Widdershins)』(制作国:イギリス)。Simon P. Biggs監督作品
とよた:男性の夢やロマンが、手の込んだスタイルで表現されていましたね。本作に限らず「これはCGなの?」と思う作品も多くて、色々な表現を取り込めるんだなと感心しました。CGの使い方は、どんどん巧妙になってきているんですね。
杉山:『きつね(The Fox)』も一見すると手描きのようでいて、CGを使っているんですよね。『運命の矢(Anacronte)』の絵画的なシュールな表現、ヨーロッパのキリスト教文化とはちがう、かと言って東洋的でもない、ちょっと気持ち悪くもあるスタイルにも惹かれました。
▲【左】『きつね(The Fox)』(制作国:イラン)。Sadegh Javadi Nikjeh監督作品/【右】『運命の矢(Anacronte)』(制作国:アルゼンチン、メキシコ)。Raúl Koler監督、Emiliano Sette監督の共同監督作品
諏訪:『きつね(The Fox)』の動きは素晴らしかったですね。それから、とよたさんが言われたように「CGの使い方は、どんどん巧妙になってきている」という点は、普段の仕事の中でも感じます。『名探偵コナン』の場合ですと、初期の映画では「これはCGだな」とすぐにわかることが多かったのですが、最近はトムス・エンタテインメントのCGチームの技術力が上がってきたこともあって、作画と合わせたときの違和感がほとんどありません。クルマなどは1回つくれば複数のカットで使い回せるので、CGを使う頻度は年々高くなっています。とはいえ、作画は日本のアニメを支える大事な要素のひとつだと思っているので、その良さは守っていきたいと意識しています。
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送り手の思いを伝える上で
シナリオは一番わかりやすい切り口
送り手の思いを伝える上で、シナリオは一番わかりやすい切り口
C:諏訪さんは、30年以上にわたり商業アニメをプロデュースしてきた実績をおもちです。私の個人的な思い出にはなりますが、1980年代に諏訪さんが企画なさった関西ローカル番組の『アニメだいすき!』は、今でも記憶に残っています。昭和の時代からアニメの可能性を開拓してきた諏訪さんの目に、世界各国のCGアニメーションのショートフィルムはどのように映ったのでしょうか?
諏訪:審査員の話をいただいたとき、新しいドアを開けるような思いで、喜んでお引き受けしました。その期待通り、「つくりたい」という思いがほとばしるような、本当に良いものを見せていただきましたね。審査にあたっては、私の場合はまずシナリオに注目しました。TVアニメであっても、CGのショートフィルムであっても、シナリオがベースにあり、その上に映像と音があるのだと私は理解しています。そのシナリオでもって、視聴者に何を伝えたいのか、わかりやすく表現されているものほど高く評価しました。
C:普段の仕事における優先順位が、審査の判断基準にもなったわけですね。
諏訪:送り手として受け手である視聴者に向けてつくる以上、送り手が発する何らかの思いやテーマが必要だと思っています。それを伝える上で、シナリオは一番わかりやすい切り口です。私たちは普段から、受け手が登場人物に感情移入して、何らかの疑似体験をして、「面白かったね」と満足してくださることを目指してアニメをつくっているので、私の判断基準もそれに沿ったものになったと思います。今回は受け手として12本の作品を見て、すごく楽しい体験ができました。その中でも、一番深くシナリオをオーバーラップできた作品を優秀賞に選ばせていただきました。
C:とよたさんの場合は、80年代からドラマや映画、舞台などで様々な人物を演じてこられた女優としてのバックボーンをおもちです。諏訪さんとはちがう判断基準で審査に臨まれたと思うのですが、如何でしょうか?
とよた:私はハッピーエンドが好きなんです。起承転結があって、途中でハラハラしても、見終わった後に充実感が得られる作品が良いですね。悲しい終わり方のものは、個人的には好きではありません。それから職業柄なのか、細やかな演技や表情が描かれている作品ほど、ぐぐっと気持ちが動きます。例えば『観覧車(La Noria)』では、少年のまばたきや、ちょっとした髪の毛の揺れを通して、彼の心の叫びのようなものが描かれていました。それから少年のうなじが映ったときに、子供の愛おしさみたいなものが伝わってきて感動しました。
諏訪:うなじですか。確かにうなじのシーンはありましたが、演じる人はそんなふうに感じるのかと、びっくりしますね。
とよた:子供のうなじって、かわいいんですよ。実写ではよく思うのですが、CGでも自然と「かわいい」と思えるクオリティの描写ができていたのは素晴らしかったですね。
C:『観覧車(La Noria)』の少年は比較的リアルなデザインのキャラクターでしたが、『本当の居場所(The Wrong Rock)』のキノコのように、目も口もないキャラクターの場合は、どんなふうに感じましたか?
とよた:顔がなくても、笑っているとか怒っているっていうのがわかるのはすごいなと思いました。キノコちゃんたちのお話は、ずっとニコニコ笑って見ていられましたね。
▲【左】『観覧車(La Noria)』(制作国:スペイン)。Carlos Baena監督作品/【右】『本当の居場所(The Wrong Rock)』(制作国:アメリカ)。Michael Cawood監督作品
杉山:とよたさんの見方は私とは全然ちがっていて、すごく心理描写を見抜いているので、審査員をしていただいて良かったと思いますね。私の場合は、どうしても外側から見ている感じなんですよ。とよたさんは、もうちょっと内側から見ている感じがします。
諏訪:そうですね。完璧に内面から見ている点に驚きました。あのキノコたちが光ったり踊ったりしているのを見ても、私は「笑っている」とか「怒っている」というようには感じなかったですね。それよりも、主役のキノコの先行きが気になっていました。
杉山:私と同様、諏訪さんも完全に外側から見ていましたよね。個々のキノコの喜怒哀楽よりも、シナリオだったり、結末の方が気になってしまう(笑)。
とよた:役者ならではの思考なのかもしれません。内側からしか見られないので、キノコの気持ちになって見ていました。大勢いるキノコの性格が、全部ちがっているように見えたのが面白かったですね。
C:諏訪さんと杉山先生は演出家的な思考、とよたさんは役者的な思考でご覧になっていたということでしょうか?
諏訪:それはすごく感じました。
杉山:そんなふうに見え方のちがう審査員を集めた方が作品の価値を多角的に評価できるので、バランスの良い人選だったと思います。
CGで表現する10分、15分は、受け手にとってすごく重い
C:『雨のあとに(AFTER THE RAIN)』はMoPA(フランスのCGアニメーションスクール)の学生作品ですが、非常に高い完成度でした。杉山先生が作品をご覧になる際には、学生作品なのか、プロの作品なのかという点を気にしますか?
杉山:まったく気にしないですね。MoPAに限らず、フランスの学生作品は関わっている人数が多いのに加え、指導者のレベルが高いので、学生作品として一括りに扱えるものではありません。大学院生レベルの学生が数年がかりでつくるケースもあって、プロと学生を線引きすることにあまり意味がないとも思います。『雨のあとに(AFTER THE RAIN)』のように、羊や雲が出てくるCG作品は過去にもたくさんありましたが、羊の毛が雲になるという展開は初めて見たように思います。結末も意外性があって、面白かったですね。
▲『雨のあとに(AFTER THE RAIN)』。フランスのMoPAに在学中の6人の学生(Rebecca Black、Céline Collin、Valérian Desterne、Juan Olarte、Juan Pablo De La Rosa Zalamea、Lucile Palomino、Carlos Osmar Salazar Tornero)の作品
とよた:いい話ですよね。私も好きな作品です。
諏訪:ほかの作品にも言えることですが、「そうきたか」と思わせるような結末を見せてもらえると、すごく新鮮で嬉しい気持ちになります。視聴者の期待する結末のことを、私はいつも青図(あおず)と言うのですが、視聴者は自身が書いた青図をもちながら作品を見ています。送り手はその青図をどこかで裏切らなければいけません。それができている作品が、受け手を楽しませる作品だと思います。自分が送り手になるときには、受け手が「ここに来るだろうな」と予想している球をそのまま受け取らせないよう、常にすごく意識しています。
C:言われてみると、選出作品は予想を裏切ってくれるものが多かったように思いますね。では最後に、今回の審査を通して皆さんが感じた、CGアニメーションとショートフィルムの魅力をお聞かせいただけますか?
杉山:CGで表現する10分、15分は、受け手にとってすごく重いなと改めて感じました。相当な量感があって、見た後に疲れを感じる作品が結構ありました。別所哲也さん(SSFF & ASIA 代表)がよくおっしゃっている通り、ショートフィルムであっても2時間の映画に負けない感動を受け手の心に残せるし、世界のCGアーティストはそういう作品をつくれるレベルに到達しています。ほんの10分であってもCGアニメーションの制作にはものすごい労力がかかっていて、その大変さが想像できるから、余計にずっしりとした重みを感じましたね。
とよた:ショートフィルムは短いけれど、印象的なショットが積み重なっているから、とても濃厚で、見た人の人生観を変えるくらいのパワーをもっています。ぼんやりと過ごしてしまえる10分、15分を、素晴らしいショートフィルムを見ることに使えば、その後の人生のちょっとしたスパイスになると思います。今回審査した作品を、1本でも多く皆さんに見ていただきたいですね。
諏訪:CGという表現手段はとても自由で、画の隅々まで、送り手のこだわりを反映できます。それが杉山先生の言う重みにつながっているのでしょう。作品に携わる監督さんやアニメーターさんたちの「こうしよう」「ああしよう」という思いが積み重なり、凝縮されているから、とても見応えがあるのだと思います。一方で、10分、15分というショートフィルムの短さは、色々な挑戦ができる腰の軽さも持ち合わせています。私たちも、TVアニメの企画段階でたまに数分のパイロット版をつくります。その制作を通して、いろんな表現スタイルや演出を試したりするのです。今回は12の作品を通して、12通りの挑戦を楽しませていただきました。SSFF & ASIAでの上映は、ショートフィルムやCGアニメーションの楽しさに触れる、良い入口になると思います。
C:皆さんのお話を伺っていたら、上映会場の大きなスクリーンでもう1度作品を見直したくなりました。お話いただき、ありがとうございました。
info.
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ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2019
映画祭代表:別所 哲也
フェスティバルアンバサダー:LiLiCo(映画コメンテーター)
開催期間:5月29日(水)~6月16日(日)
上映会場:都内複数の会場、およびオンライン会場にて
※開催期間は各会場によって異なります
料金:無料上映
※事前予約は下記Webサイトにて受付中。一部、有料イベントあり。
お問い合わせ先:03‐5474‐8844 / look@shortshorts.org
主催:ショートショート実行委員会 / ショートショート アジア実行委員会
https://www.shortshorts.org/2019