仮想通貨として注目をあびるビットコイン、そのビットコインの信頼を支える技術であるブロックチェーンは仮想通貨のみならず、様々な分野に広がりつつある。4/26(金)に開催されたDeNA主催のゲームクリエイター向けセミナー「Game Developer's Meeting Vol.31」では、「GDM エンジニア向け勉強会~ゲーム x AI x ブロックチェーンの可能性と世界最新動向~」と題し、ブロックチェーンコミュニティBlockchain EXEの代表を務めるクーガー株式会社CEOの石井 敦氏から人工知能やブロックチェーンのゲーム開発への応用の可能性が語られた。

TEXT&PHOTO_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

<1>ブロックチェーンの基本原理とその周辺

  • 石井 敦氏(クーガー株式会社CEO/Blockchain EXE代表)

世界各地では、仮想通貨以外のブロックチェーンの社会実装が進められており、様々な実証実験が推進されている。登壇した石井氏は、まずブロックチェーンの基本原理について解説した。

ブロックチェーンの基本原理。複数のブロックが鎖のように繋がっており、あるブロックのアウトプットが次のブロックのインプットとなる

ブロックチェーンは分散型自律システムであり、全てを改ざんするのは実質不可能

ブロックチェーンの応用事例として代表的なものの1つとして仮想通貨として知られるビットコインがある。「インターネット黎明期の最初のキラーアプリがEメールだと言われるのと同様に、ブロックチェーンにおける最初のキラーアプリがビットコインと言われています」(石井氏)。その大きな理由としては、以下の3点が挙げられた。

●通貨はだれもが重視する、わかりやすい価値であること
●データ形式が数値のみで技術的に扱いやすいこと
●通貨(お金)は人から人に移転される。つまり移動を行うニーズが高く、頻繁に移動されること

また、現在主流のブロックチェーン実装としては下記のようなものがある。

Bitcoin Core:通貨を渡すためのブロックチェーン
Ethereum :特定の用途ではないブロックチェーン
Hyperledger Fabric:IBM が推進している企業向けのブロックチェーン

ブロックチェーンの特徴は透明性、公明性、トレーサビリティ(追跡可能であること)にあり、データのやりとりのスピードよりも、データの信頼性、公明性が重視されているものに向いているという。

<2>ブロックチェーンの実世界における活用事例

ブロックチェーンの活用事例として、近年広がりつつあるモビリティ(移動体、乗り物、各種移動手段)の例がいくつか紹介された。

トヨタは、自動運転を見据えた運転データの共有にブロックチェーンの導入を進めている。クルマはそれぞれ別の運転手が運転し独立して動いているわけだが、信号や他のクルマの状態がわかればより効率的に動けるはず。しかし、そのデータが間違っていたり、改ざんされては困るため、個人所有者、商用車の運行管理者、自動車メーカー間で安全で信頼できる情報共有を可能にするためにブロックチェーンが期待されている。

これが実現すれば、過去の事故履歴や車のパーツ、故障とかリコールとかの情報、カーシェアリングでの情報追跡にも利用できる。その他走行実績に基づく保険など、予想される用途は様々だという。

BMWは、様々な企業との提携により、ブロックチェーンで「未来のクルマ」を創ることを目指している。carVerticalとの提携による走行履歴やカーナビのデータ、車両の事故履歴、修理履歴の管理をはじめ、VeChain Thorとの提携による車の部品、交換部品などの商品追跡・管理、さらにBloomとの提携により安全かつ平易な消費者への融資などが考えられているとのこと。

ポルシェは、イーサリアムのスマートコントラクトを利用した次世代カーを開発中だ。ブロックチェーンを使用しデータを安全に集め、運転行動を分析する。このデータは渋滞の緩和、燃費の改善、電気自動車の充電ステーションとのやりとりなどに役立てられる。また、ブロックチェーンを活用したスマートロックのしくみで、車の貸し借り、レンタカーやカーシェアリングでの利用も期待される。さらにスマートウォッチとの連動で、トランクの開錠・施錠を可能とすることで、車のトランクを宅配ボックスとして活用する展開も考えられるという。

<3>ゲームとブロックチェーン

「デジタルアセットの塊であり、全てデジタルの世界で完結するゲームはデータの移転、データの秘匿性を実現するブロックチェーンの技術と、とても相性が良いと言われています」と語る石井氏。その対象となるのは下記のようなアイテムだ。

これらを例えば異なるゲームタイトル間、バージョンが異なるゲーム間でもユーザーID、アイテム、ポイントなどをブロックチェーンで共通化することができる。

様々なゲーム間で、アセットやデータが共有できる様子

さらにブロックチェーンによって活きてくるゲームでの応用例として、ユーザー間のアセット交換や不正ユーザー対策をはじめとする多数のユースケースがあるという。

ブロックチェーンをベースとしたゲーム作品として、0xGamesの『0xUniverse』が紹介された。『0xUniverse』は惑星を購入し、宇宙船を発明して探索するゲーム。本作はゲームとしてブロックチェーンを活用する必然性こそないが、ゲーム文化は新しいプラットフォームが登場するたびに学びがあり盛り上がる傾向にあるため、この先3〜4年のゲームプラットフォームとしてのブロックチェーンの成長には大いに期待できるとのこと。

ゲーム事例の2つめとして紹介された『イーサエモン』は、イーサリアムを活用したモンスター育成ゲームで、ブロックチェーンゲームの中では現在最も勢いのあるタイトルだ。プラットフォームの健全性がある特定の管理者ではなく、参加者全員によって保たれている。

ゲームにおいてブロックチェーンの活用が向いているのはスピードよりもデータの信頼性、履歴が重視されるもの、アイテムやキャラクターデータの売買や交換などへの応用だ。逆に、バトル系やレーシング系などのリアルタイム性が高いゲームや、更新頻度が高いもの、キャラクターのパラメータの更新処理などには向いていないという。しかし、チート行為防止のための信頼性向上や、ゲーム運営側の透明化(アイテム出現率の確率や、ステージの確率を公開して改ざんできないことを保証する)といった用途で、活用の可能性が広がっているとのことだ。

「ゲームの内容がそんなに高度でなくても、これからブロックチェーンゲームが出てくるのは必定なので、今のタイミングでゲーム要素をブロックチェーン化していくのが良い。ゲームをブロックチェーンで公開することで、データの透明性が担保され、運営による改ざんやユーザーによるチートが不可能であることが信頼される要因となります。そういう箇所をブロックチェーン化していくのが向いているでしょう」(石井氏)。

<4>「ゲーム✕ AI ✕ブロックチェーン」クーガーの取り組み

石井氏がCEOを務めるクーガーでは、ゲームAIを活用し人間のように意思決定するAI、ロボットや自動運転車に搭載されるAI学習の最大化、ロボットとクラウドが連動して稼働するクラウドロボティクス、IoTと複数サービスとの自動連動をブロックチェーンで実現するスマートコントラクト連動などを事業として手がけている。

また、最近では「バーチャルヒューマンエージェント」と呼ばれる、ゲーム世界に限定されていたキャラクターを現実世界に登場させ、ユーザーとコミュニケーションさせるための取り組みを進めているという。

バーチャルヒューマンエージェント事例

また、AIの信頼性を担保する方法として重要になってきている意思決定の理由を人に説明できるAI、「XAI(Explainable AI)」にも取り組んでいる。AIで扱われる数式、アルゴリズムがどうなっているのか? 機械学習の学習データには何を用いたのか? 何を基に成長したAIなのか? などのデータをブロックチェーンで蓄積することで特に学習データの信頼性については、非常に重要なポイントだと着目されている。

ブロックチェーンによってデータとAIの信頼性を担保する「XAI」

「今後は、"マシンインターネット"と言われるようにネットの中心が機械になってきます。データの形式が人間が読めるデータではなくなり、マシンと翻訳アシスタントとでやりとりするようになってくる。デバイス同士が検索しあって、デバイスそれぞれが繋がっていく世界が広がる。また世の中の物質が全てデジタル化された"ミラーワールド"という概念があります。ブロックチェーンの概念に近いのですが、現実を全てVR化するこのミラーワールドの実現は近いかもしれないと考えています」と石井氏は締めくくった。