『ワンパンマン』は、同名の漫画を原作とするTVアニメシリーズで、2015年のSEASON 1(第1話〜第12話)に続き、2019年4月よりSEASON 2(第13話〜第24話)が放送された。SEASON 2のCGは(もえ)が制作しており、アニメCGに特化した同社の高い表現力と技術力が遺憾なく発揮されている。脱皮や全長変化まで視野に入れた、ムカデ長老の緻密な設計を紹介したセットアップ篇に続き、以降ではCGカット制作におけるハイライトを紹介する。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 256(2019年12月号)掲載の「「絶対に(手で)描かない ! 」3DCGでやりきったムカデカット TVアニメ『ワンパンマン SEASON 2』」に加筆したものです。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_島田健次 / Kenji Shimada

ムカデはもちろん、作画用ガイドの動きでもタメツメまで表現

ムカデ後輩、ムカデ先輩、ムカデ長老からなる3体のムカデ型怪人は全て第16話が初出で、セットアップ篇で紹介したセットアップツールやセレクタがさっそく使用された。「その時点では未完成の機能もあったので、最終話に向けてツールのブラッシュアップを重ねつつ、カット制作も進めました。ムカデ後輩の登場カットはほぼ止め画でしたが、ほかの2体はよく動いたのに加え、ムカデ先輩は金属バットとの接近戦がメインだったので、セレクタが重宝しました」(平岡氏)。

▲第16話のムカデ先輩カットを制作中のMayaの作業画面。3コマ打ち、2コマ打ち、フルコマを織り交ぜた若手による手付けアニメーションを、平岡氏と神谷氏がディレクションしている。なお、下方には金属バットのモデルも配置してあり、その動きもタメツメを付けてしっかり表現され、これをガイドに作画が行われた。CGが絡まない場合でも、作画が難しい一部のカットではCGによるガイドが制作されている


▲第16話のムカデ長老カットの作業画面。本カットでも、ムカデ長老の上を疾走する金属バットの動きまで表現されている


▲先のカットの完成画像


▲同じく、第16話のムカデ長老カットの作業画面


▲第24話のムカデ長老カットの作業画面。本カットでは、ムカデ長老と戦うジェノスの動きまで表現されている

ディテールラインの表示・非表示はAE上で指定

本作の作画では、シルエットラインに加え、細かな線がSEASON 1の時点から描かれていた。このルックをCGでも再現するため、ムカデのモデリング時には全てのディテールラインをポリゴンで造形し、それら全部をレンダリングした後、After Effects(以下、AE)上で必要に応じて間引くフローが採用された。「レンダリングしたディテールラインの表示・非表示は、Pencil+ 4 Line for After Effectsを使ってAE上で指定しました。ラインの有無をムカデの表示サイズや角度に応じてアニメーターたちが細かく調整したので、同じモデルを使っているようには見えない、変化に富んだカットを効率的に制作できました」(平岡氏)。

▲【左】ムカデ長老の顔のライン。ディテールライン(細かな線)も含め、全てポリゴンで表現している/【右】カラー(陰影)はテクスチャで表現している。ディテールの粗いものから細かいものまで4〜5種類ほど用意してあり、表示サイズに応じてAE側で使い分けている


▲【左】ラインとカラーを同時に表示したもの/【右】撮影後の完成画像


▲ムカデ長老の体節部のモデル。顔と同様、ディテールラインの1本1本まであらかじめモデリングしてあり、極端なアップにも耐えられるだけの情報量を有している


▲先のモデルを用いた完成画像。「特定のカットのためだけに、モデラーやアニメーターが新しいモデルをつくったり、レタッチをしたりする必要がないように、最初からモデルをつくり込んであります。第16話の時点で『アップもお任せできますね』と監督から評価していただき、第24話ではアップのカットが増えました」(平岡氏)


▲ムカデ長老が迫ってくる第24話のカット。リードアニメーターの猪狩貴文氏が担当しており、表示サイズに応じてラインの数やテクスチャのディテールを切り替えている


▲先のカットの完成画像


©ONE・村田雄介/集英社・ヒーロー協会本部

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Pencil+ 4 Line for After Effectsによって
数百パターンのラインを表現

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Pencil+ 4 Line for After Effectsによって、数百パターンのラインを表現

▲変化に富んだムカデ長老の表情も全て同じモデルで表現しており、カットごとのモデリングやレタッチは行なっていない。レンダリングしたラインはPLD形式(Pencil+ 4 Line for After Effectsでライン編集を行うための専用データ形式)で出力し、AE上で表示・非表示や、太さの変更、各種加工を行なっている。どれもボタン操作で指定でき、数百パターンのライン表現が可能なので、最初の設計がしっかりしていれば、同じモデルを使っても単調な画にはならない


▲第24話でムカデ長老が脱皮するシーンでは、口が内側からこじ開けられ、新しい顔が出現するという難易度の高いカットがあり、平岡氏自らが担当した。上は脱皮カットを制作中のMayaの作業画面


▲先のカットの完成画像。「監督たちとの打ち合わせの席では、顔の部分だけ作画で表現してもらうという案も出ましたが、作画とCGの切り分けが難しいだろうと思ったので『全部CGでやってみます』と提案しました。当初からやり方はイメージできていましたが、モデルやリグの再調整を必要とする特殊なカットだったので、私の方で担当しました」(平岡氏)

HoudiniやMayaの2D Fluid Textureによるエフェクト表現

▲ムカデに関連するエフェクトの多くもCGで表現している。【上】第16話の「百足大うねり」によるビル破壊や、【下】第24話のムカデ長老登場時の小屋破壊ではHoudiniを使用している。「Houdiniを使えるスタッフは数名在籍しており、彼らが構築したノードは今後もブラッシュアップして、ほかの作品でも再利用する予定です。モデルと同様、エフェクトもワンオフにならないよう留意しています」(平岡氏)


▲炎の表現には、Mayaの2D Fluid Textureを使用している

ワンオフモデルと手描きを撤廃し、全体のクオリティアップに注力

ワンオフのモデル制作や手描きによるディテールの追加を撤廃した結果、本作では新人でも一定クオリティを保ったカット制作ができるようになり、熟練アニメーターは動きのクオリティアップにより多くの時間を使えるようになった。

「サイタマのマジ殴りによる破壊エフェクトをはじめ、難易度の高いカットは私も担当しましたが、今回はディレクションに多くの時間を割くことで、全体のクオリティアップに注力できました。監督からは高評価をいただけましたし、視聴者の反響も良かったように思います。本作では作画と馴染ませることを重視しましたが、常にそういうルックが求められるわけではないので、作品ごとの最適解を探りつつ、CGの利点を活かした画づくりを追及していきたいです」(平岡氏)。

▲第24話のクライマックスを飾ったサイタマのマジ殴りによる破壊エフェクトも、CGで表現されている。上はMayaの作業画面。ムカデ長老の体節部のサーフェスをランダムに分割し、ブレンドシェイプベースで螺旋状に膨張させている。「第24話では、約100カットのCG制作を萌が担当しました。制作期間の都合上、使える時間は限られていたのですが、やりたいことはイメージできていたので、3日ほどで完成しました」(平岡氏)


▲先のカットの完成画像。本カットは破片の表示サイズが大きいため、形状、角度、散りながら溶けていく様子などが手で細かく調整されている


▲先のカットに続く引き画のカットを制作中の作業画面。こちらは体節の数が多く、次のカットでも引き画の破壊エフェクトが続くため、神谷氏がスクリプトを使って破片の動きを制御した


▲先のカットの完成画像。本カットは約1日で完成した


「本作のムカデは、クオリティの面でも、コストパフォーマンスの面でも、CGの方が良い結果を出せるキャラクターでした。それをエフェクトも含めてやりきったことは、萌の新たな実績と、スタッフの自信につながったと思います。今後も向上心を忘れず、制作体制の強化に努めたいです」(平岡氏)。


©ONE・村田雄介/集英社・ヒーロー協会本部

info.

  • 『ワンパンマン SEASON 2』

    原作:ONE・村田雄介『ワンパンマン』(集英社『となりのヤングジャンプ』連載)
    監督:櫻井親良、シリーズ構成:鈴木智尋、キャラクターデザイン:久保田誓、美術監督:池田繁美・丸山由紀子、色彩設計:店橋真弓、撮影監督:大河内喜夫、編集:後藤正浩(REAL-T)、音響監督:岩浪美和、音楽:宮崎誠、アニメーション制作:J.C.STAFF
    onepunchman-anime.net
    ©ONE・村田雄介/集英社・ヒーロー協会本部



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.256(2019年12月号)
    第1特集:今気になる、男性アイドル
    第2特集:CGエフェクト再考
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2019年11月9日
    cgworld.jp/magazine/cgw256.html