>   >  自分たちでリスクを取り、リモート開発を活用してオリジナル作品をつくる~『SYNAPTIC DRIVE』にみる新時代のインディゲーム開発
自分たちでリスクを取り、リモート開発を活用してオリジナル作品をつくる~『SYNAPTIC DRIVE』にみる新時代のインディゲーム開発

自分たちでリスクを取り、リモート開発を活用してオリジナル作品をつくる~『SYNAPTIC DRIVE』にみる新時代のインディゲーム開発

モバイルソーシャルゲームが主流だったゲーム業界に変化の兆しが見え始めた。競争の激化を嫌って、インディゲームという新天地に挑戦する事例が出てきたのだ。そこにはリモートワークを駆使した新しい協業スタイルと、ベテランのゲーム開発者ならではの知見があった。『SYNAPTIC DRIVE』の開発事例から、新しいゲーム開発プロジェクトのあり方について考える。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
© YUNUO GAMES All Rights Reserved.
Developed by Kouji Kenjou / Thousand Games

インディゲームに挑戦するベテランたち

国内のゲーム開発で開発費10億円はひとつの壁だ。ざっと計算しただけでも、リクープするのに数十万本の売り上げが求められる。いきおい国内市場だけでペイするのが難しくなる。

歴史をふり返ると、初代PlayStationでは数千万円だった開発費が、PS2で1億円の大台に乗った。これがPS3になると10億円を超え、PS4では数十億円から、中には100億円を超える事例も存在する。

こうしたリスクを嫌って、2000年代にWiiやニンテンドーDS、そして2010年代にモバイルソーシャルゲームへと、多くの企業が主戦場を移してきた。

余談だが、こうした新規市場が10年単位で登場したことで、日本のゲーム業界は社員の雇用を保ってきたと言える。

しかし、頼みの綱のモバイルソーシャルゲームも、年々競争が激化してきた。今や初期開発費と宣伝広告費を含めると、数十億円にのぼる事例も少なくない。

その一方でストアのランキングは定番タイトルか、『フォートナイト』『荒野行動』といった海外タイトル、そして近年ではハイパーカジュアルのゲーム群で占められるようになった。たとえ大手であっても、オリジナルタイトルが成功を収めるチャンスが、極めて難しいのが実情だ。

こうした中、日本でもインディ(独立系)ゲームという新天地に挑戦する動きがあらわれた。2020年5月にPCとNintendo Switch向けに発売された『SYNAPTIC DRIVE(シナプティック・ドライブ)』は、そうしたタイトルのひとつだ。

発売:YUNUO GAMES、開発:サウザンドゲームズ、発売日:発売中、価格:パッケージ版 3,980円+税/ダウンロード版 2,980円+税、対応プラットフォーム:Nintendo Switch/Microsoft Windows(Steam)、ジャンル:オンライン対戦シューティングバトル
yunuo-games.jp/synaptic-drive

近未来のバトルアリーナで2体のキャラクターがバトルをくり広げる対戦型アクションシューティングで、100種類を超える武器を自在に付け替えられる高いカスタマイズ性と、俯瞰視点で行われる格闘ゲームにも似たゲーム体験が特徴。オンライン対戦にも対応しており、世界中でバトルがくり広げられている。

開発を主導したのはゲームデザイナーの見城こうじ氏。NINTENDO64で人気を博した『カスタムロボ』シリーズの生みの親として知られる人物だ。現在はフリーランスで活動しており、本作も開発元のサウザンドゲームズとの協業で制作している。

実際、『SYNAPTIC DRIVE』のゲーム体験には、『カスタムロボ』シリーズを彷彿とさせる点が多い。そのため一部のファンから「『カスタムロボ』シリーズの精神的な続編」と言われることもあるほどだ。

もっとも開発者目線でいえば、本作のプロトタイプがサウザンドゲームズと見城氏のもち出しでつくられた点に触れないわけにはいかないだろう。

筆者の知る限り、本作クラスの規模のゲームで、クリエイターがもち出しでプロトタイプを開発した例は、それほど多くない。まさに「自分たちがつくりたいゲームを、リスクを取ってつくる」=インディ精神あふれるゲームだと言える。

  • 見城こうじ/Kouji Kenjou
    フリーランスゲームデザイナー 1965年、東京都生まれ。旧ナムコでディレクターとして様々なアーケードゲームの開発に携わった後、任天堂と共同で『カスタムロボ』シリーズ5作を手がける。他の代表作に『コズモギャング・ザ・ビデオ』(1992)、『コズモギャング・ザ・パズル』(1992)、『ゼビウス・アレンジメント』(1995)、『TWIN GATES』(2016)、『PENDULUM FEVER』(2017)など
    note.com/kenjohkohji

開発の経緯について、見城氏は次のように語る。

「これまで『カスタムロボ』シリーズを5本つくってきて、自分の中に家庭用ゲームにおける対戦ゲームのノウハウが蓄積されてきました。一方で何年も、こうしたゲームがつくれない時期が続いていました。国内外の対戦ゲームを遊びながら自分のゲームづくりについて考え直していく中で、原点に戻ったところがありました」。

「逆にいえば自分につくれるものは、対戦ゲームしかないだろうと。自分でリスクを背負ってゲームをつくるのであれば、一番自信があるジャンルで勝負したいという思いもありました」。

一方で本プロジェクトの中核を担った、株式会社サウザンドゲームズ代表の桑原敏道氏の話も聞こう。

「今回のプロジェクトは見城さんが実現したいゲームを作るというところからスタートしています。もっとも、近年オリジナルのゲーム企画をパブリッシャー様にもち込んでプロジェクトを実現するスタイルは、かなり減ってきていると認識しています。パブリッシャー様がIPを指定されたり、元になる企画や原案がある中で、肉付けを求められたりする案件が多いのが現状です」。

「そのような環境の中、実績が少ない弊社が大規模なオリジナル企画を書面だけで通すのは難しいと考えました。そこで、まずはプロトタイプを制作し、『どのようなプロジェクトを実現したいか』に加えて、『我々の本気度』を可視化することにしました」。

こうして開発されたプロトタイプ版は東京ゲームショウ(TGS)2018のインディーゲームコーナーに出展され、大きな話題を呼ぶ。

「インディーゲームコーナーへの出展は、既存のコネクションに囚われず告知・営業する好機と考えました。特に本プロジェクトは当初より海外市場を強く意識しておりましたので、海外のパブリッシャー様、投資家様、ユーザー様にアピールしたいと考えました。おかげさまで多くの海外企業様と打ち合わせもできましたし、インディーズアワードにノミネートしていただいたり、ユーザー様の反響も確かめられたりと、プロジェクトの実現に確信がもてました」。

TGS 2018インディゲームブース

『SYNAPTIC DRIVE』TGS 2018版

プロトタイプ版で登場したキャラクターとアリーナは1種類のみだが、基本的なゲームメカニクスは全て実装されており、対戦プレイも楽しめる。「『カスタムロボ』シリーズを手がけたクリエイターの新作」というニュースは瞬く間に広がり、連日多くのユーザーがブースに詰めかけた。

その後、本出展がきっかけとなり、ユーノゲームズ(禹諾国際株式会社)とのパブリッシング契約が決まる。ユーノゲームズ側で開発・宣伝プロデュースを担当した関 義一氏は「ほぼ即決だった」と当時をふり返った。見城氏の実績もさることながら、本作のゲーム内容が世界規模で成長を続けるeスポーツ市場に適していたからだ。

「ちょうど弊社でもeスポーツ市場を見据えたゲーム開発を進めたいと考えていたこともあり、契約させていただきました」。

  • 関 義一/Yoshikazu Seki
    ユーノゲームズ(禹諾国際株式会社)アシスタントゼネラルマネージャー yunuo-games.jp/

リモートワーク前提の座組

本作でもうひとつユニークなのは、リモートワークによる分散開発体制が採られたことだ。企画とプロデュースがサウザンドゲームズ、プログラムがクラウズプレイカンパニー、グラフィックがコラットスタジオリントという座組になっている。

このうちコラットはキャラクターモデルとアニメーション(モーション)制作、スタジオリントは武器プロップ、ステージ、エフェクト制作を担当している。また、見城氏と同じく、フリーランスのゲームデザイナーとして杉本てるみ氏がディレクションチームに加わり、クリエイティブディレクションとゲームデザインを担当した。

他にサウンドプロデューサーとして、『リッジレーサー』シリーズの楽曲制作などで知られる細江慎治氏。キャラクターデザインに寺田克也氏、タナカケンゴ氏、仲井さとし氏など、ベテラン勢が顔を揃えている。

キャラクターデザインやサウンドといった、外部に切り出しやすいパートはまだしも、プログラムやグラフィックまで、ほとんどのパートが外注という開発体制は、まだまだ珍しい。中でもクラウズプレイカンパニーに所属するプログラマー陣は勤務地が札幌で、開発は普段からSkype越しに進んだという。

もっともサウザンドゲームズからすれば、こうした開発体制は慣れ親しんだものだった。代表の桑原氏は次のように語る。

「弊社は常勤3名からなる企画・プロデュース会社です。複数のパートナー企業とアライアンスを組んでコンテンツ(ゲームに限りません)を制作するのが基本的なスタイルで、プロジェクトに合わせて、外部の企業やフリーランスの方に業務委託を行なっています」。

クラウズ、コラット、スタジオリントという編成も、桑原氏のそれまでの経験や人脈によるもので、いずれもプロトタイプ制作から参加した。まだプロジェクトが海のものとも山のものともつかない中、開発にかける思いや指針を共有しつつ、リモートワークで柔軟に進められる企業ということで、白羽の矢が立ったのだ。

「クラウズさんは、過去にいくつかのプロジェクトをご一緒しており、信頼関係が築けておりました。プロジェクトを柔軟に対応していただける会社で、多くの試行錯誤が必要な本件プロジェクトには最適だと考えました」。

「また、本件プロジェクトは武器のカスタマイズ数がポイントになっていますので、大量生産する前提でご対応いただけるCGプロダクションにお願いする必要があると考えました。モデリングだけでなく、モーションやエフェクトなどの方向性も一緒に議論する必要がありました」。

「もっともプロトタイプ制作時点では、最終的なプロジェクトの品質や規模(予算や物量)がはっきりしていなかったので、このあたりも一緒に考えていただける会社さんであるということで起用させていただきました」。

同社では多くのプロジェクトをリモートワークで進めている。モバイルゲーム開発で、エンジニアがベトナム・福岡・名古屋で勤務していたり、Webサイト構築業務でディレクターがトルコからオペレーションしたり、などの例もあるほどだ。

もっとも、本作クラスの開発は初めてだったとのことで、後述するが様々な問題も生じた。また、仕上げの段階で見城氏をはじめディレクションチームのみ、シェアオフィスに集まって、集中的に3ヵ月ほど作業を行なったという。

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