>   >  都市をアソビ空間に変えてしまう! CEDEC 2020で示されたゲーム開発者と建築家の共創によるエンターテインメントの可能性
都市をアソビ空間に変えてしまう! CEDEC 2020で示されたゲーム開発者と建築家の共創によるエンターテインメントの可能性

都市をアソビ空間に変えてしまう! CEDEC 2020で示されたゲーム開発者と建築家の共創によるエンターテインメントの可能性

新型コロナウイルスの影響により、オンラインに移行して開催されたCEDEC2020。9月2日(水)から4日(金)まで開催された本カンファレンスから、注目度の高いトピックスを厳選してお届けする。第2弾ではバンダイナムコ研究所の本山博文氏と、建築家の豊田啓介氏(noizgluon)によるセッション「現実空間をレベルデザインする。建築・都市領域と共創することで『新しいアソビ体験を生み出す手法』とゲーム開発者の新たな役割について」の概要について紹介しよう。

提供:バンダイナムコ研究所
PAC-MAN™&©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

ゲーム体験をモニタの外に広げる上で必要なこと

MRデバイスの進化にともない、ゲームが現実世界に拡張し始めている。『Pokémon GO』などの位置ゲーが注目を集めているが、これらは第一世代にすぎない。Microsoft HoloLens 2、LiDARスキャナ搭載型のスマートデバイスなど、技術進化と共に多彩なゲーム体験が可能になることが想定されている。アニメ『電脳コイル』(2007)で描かれたような、都市空間がアソビの舞台になる時代が、すぐ目の前に近づいているのだ。

もっとも、こうした「空間エンターテインメント」を実現するには、様々な課題が存在する。歩きスマホといった社会的な課題解決は、そのひとつだろう。どこでコンテンツの開発をするかという、環境面の整備も重要だ。実空間をどのように3DCGデータに変換し、ゲーム内で活用するか、という問題もある。ゲーム会社が1社で取り組むには荷が重く、業界全体で手探りが続いている。

こうした課題に対して、異業種との共創で解決を進めている企業にバンダイナムコ研究所がある。2020年3月、東宝スタジオ(東京都世田谷区)のプロダクションセンター内に「東宝スタジオラボ」を新設。外界から隔絶された広大な敷地内で、専門家の知見を踏まえつつ、空間エンターテインメントの新たな姿を研究開発中だ。取り組みの一端はCEDEC 2020のセッションで明かされ、高い評価を得た。

そこで本稿では、この講演「現実空間をレベルデザインする。建築・都市領域と共創することで『新しいアソビ体験を生み出す手法』とゲーム開発者の新たな役割について」の内容について、関係者への追加取材をふまえつつ、より深掘りしたかたちでレポートをお届けする。中核にあるのがゲームエンジンで、フォトグラメトリとレベルデザインがそれに続く。本稿が新たなコンテンツ制作の一助になれば幸いだ。

  • 本山博文/Hirofumi Motoyama
    バンダイナムコ研究所 フューチャーデザイン部 クリエイティブディレクター

  • 豊田啓介/Keisuke Toyoda
    建築家、noiz・gluon

はじめに本山氏は2017年から始まるバンダイナムコグループのMR研究と、そこで生まれた新たな問題意識についてふり返った。2016年にHoloLensが発売されると、さっそく研究開発を始めた本山氏。ここで得られた知見は2017年のアルスエレクトロニカ展示、2018年にナンジャタウンに導入されたライド型MR体験ゲーム『一網打尽! 蚊取りパッチン大作戦』、GDC 2019におけるデモ『PAC IN TOWN』などに結実。大きな可能性が感じられたという。

その過程で生まれたコンセプトが「コラボラティブ・プレイ」だ。遊ぶ人同士がアイコンタクトしながら、同じ目標を共有し、コラボしてコミュニケーション(インタラクション)する、MRならではのアソビ体験となる。屋内の限られたスペースに留まるものではなく、都市空間そのものが遊び場になるという、大きな可能性を感じさせる概念だ。

もっとも、そのためには2つの課題を解決する必要があった。安全性が確保された屋内外のシームレスな試作環境と、現実世界を精緻に扱える深い知見だ。

そこでバンダイナムコ研究所では国内随一の規模を誇る東宝スタジオと協業し、「バンダイナムコ研究所 東宝スタジオラボ」を新設。映画『シン・ゴジラ』の撮影にも使用された、400坪の広さを誇るステージ8をはじめ、情報管理が徹底された広大な敷地内でコンテンツの試作を行う体制を整えた。

その上で建築家の豊田啓介氏と協業し、現実空間を3Dキャプチャしてゲームエンジンにインポート後、レベルデザインを行うワークフローを開発した。これにより、様々な試作が可能になったという。

「きっかけは2019年6月に出版された雑誌『WIRED』Vol.33に掲載された『デジタルツインへようこそ』という特集でした。ここに寄稿されていた豊田さんの記事を読み、すぐにメールさせていただきました」。

「ポイントはゲームエンジンに対する理解と活用です。異業種の方とお話させていただく際、内容は興味深いものの、話が具体的なレベルに進まないことも多いのですが、ゲームエンジンという接点を基に、共通の問題意識をもっていることがわかったため、話がトントン拍子に進みました」(本山氏)。

▲バンダイナムコ研究所 東宝スタジオラボ外観(実物)

▲バンダイナムコ研究所 東宝スタジオラボ外観(キャプチャ)

▲HoloLensを用いて実空間をキャプチャし、レベルデザインが行われた事例。一周100mのライドコースをキャプチャするのに、2回キャプチャを行わなければならず、精度も粗かった。なお、本事例はUnite Tokyo 2018講演「とても楽しい!HoloLensとUnity、テーマパークのMRゲーム開発について」で詳しく紹介されている

建築・都市領域からみたゲームエンジンの可能性

一方で建築・都市領域でゲーム開発技術の可能性について、どのように捉えているのだろうか。講演は豊田啓介氏に移り、現状と問題意識が共有された。

UnityUnreal Engine 4(以下、UE4)といったゲームエンジンの採用事例が、自動車・建設・医療など、非エンターテインメント分野で進む昨今。マンションのモデルルームがVRデバイスで仮想的に体験できる、などは好例だ。豊田氏も基本計画から実施設計までの全工程をUE4で行い、個人住宅を設計した事例を紹介。施工者から「VRとまったく同じだ」と称されるものに仕上げられたという。

「ゲームエンジンについては2013年前後から存在を知り、注目していました。特にこの数年間はゲームAIにおける知識表現をはじめ、ゲームエンジン上でのキャラクターの振る舞いなどに関心が広がり、ゲーム開発者との対談やヒアリングなどを通して、知見を深めていきました」(豊田氏)。

このように豊田氏は「建築・都市領域におけるゲームエンジンの活用は、単にVRの活用に限らない」と指摘する。ポイントはドローンやアバターといった、人間以外の存在の普及だ。今や家庭内にお掃除ロボットが入り、Amazonの配送センター内では荷物の仕分けにロボットが活躍している。自動車を筆頭に、パーソナルモビリティの自動走行に関する実証実験も、現実世界で着々と進行中だ。

こうした時代において、建築・都市領域においても、否応なしにヒト(物理エージェント)以外の存在を念頭に置いたデザインが求められはじめている。お掃除ロボットが活動しやすいように部屋を片付けるところから、お掃除ロボットの導入をあらかじめ念頭においた家づくりが行われる......そうした時代が到来しつつあるのだ。

今や、こうした概念は屋内から屋外に広がっている。いわゆるスマートシティ化のながれだ。そのためには情報の基盤となる「都市OS」的な存在が必要になる。

例として、自動走行車について考えてみよう。現在は自動車側が逐一、外界をスキャンしながら空間認識を行なって走行している。しかし、複数の自動走行車や、他のエージェントが互いに情報を共有しようとすると、組み合わせ爆発を起こしてしまい、現実的ではなくなる。それよりも、空間側にタグなどの形で情報を埋め込み、エージェント側に情報を逐次提供するといった考え方が有効だ(※1)。

※1 渋滞や交通規制などの道路交通情報を、FM多重放送やビーコンを使ってリアルタイムにカーナビに届ける「VICS(Vehicle Information and Communication System)」は、その原始的なかたちだ

もっとも、そのためには、現実世界とエージェント間で情報を切り分け、処理の最適化を行うことが必要になる。そのためには共通のインフラ......都市空間の空間情報をデジタル化し、APIを介して外部のエージェントと情報をやりとりしたり、そのためのアプリケーションを作成するAPIを整備したりする取り組みが必要になる。都市空間そのものをコンピュータに見立てて、基盤となるOSを構築する必要が出てくるのだ。

▲自動走行の実証実験の例。組み合わせ爆発に陥らないためには、基盤となるOSが必要だ

こうした文脈の上で、近年注目を集めている概念に「デジタルツイン」や「都市OS」がある。もっとも豊田氏によれば、都市のデジタル化において基盤となる3Dデータを整備したり、活用する上で必要になるノウハウは、建築・都市領域には意外なほど存在しないのだという。

「都市空間をデジタルデータ化するには、BIMやCADのように建築業界由来のものや、点群レーザーのように測量業界由来のものなど、様々な方法があります。しかし、いずれも各々の分野に閉じていて、分野横断型の規格ではありません。中でも問題なのは、時間軸に対する即応性がないことです。この点でゲームエンジンの有用性があります」(豊田氏)。

ポイントは「人間社会と人工知能がともに依拠できるモノや空間記述の共有基盤『コモングラウンド』を構築し、発展させていく手法を確立すること」だ。もともとは2018年の人工知能学会で行われた、西田豊明氏の基調講演内の言葉だが、豊田氏はそのまま建築・都市領域にも応用できると指摘した。物理エージェントとデジタルエージェントが相互に現実を認識し、それぞれが自律的に行動することで、そこに暮らす人々の価値が最大化される空間をデザインすることが目的だからだ。

その上で豊田氏は、この分野で先端を行なっているのがゲーム業界だと指摘した。例として挙げられたのが、FPSやMMORPGにおけるNPCの挙動だ。これらのゲームでは、人間が操るプレイヤーキャラクターと、コンピュータが管理するNPCが同じ空間内に共存し、それぞれが自律的に行動する。

もっとも、人間が五感を通してゲーム世界を認識するのに対して、NPCは事前に用意された知識表現を基に認識する。同じ空間をそれぞれがちがう方法で認識しているのだ。その上でNPCはときに単体で、ときに集団で連携を取りつつ、プレイヤーを「もてなす」ように行動する。その結果、ゲーム体験の最大化につながっていく。

このとき、ゲーム世界を現実空間、プレイヤーキャラクターを現実の人間、NPCをロボットやアバターなどに置き換えれば、関係性は自明だろう。最大のちがいはゲームと異なり、現実世界には基盤となる情報空間が存在しないこと。その上で、ゲームエンジンはその可能性を担っているのではないか......豊田氏はそのように指摘した。

もっとも、ゲームは現実世界の記号化にすぎない。ゲームエンジン上で実装できる仕様には限界があり、ゲーム内の知識表現もハードウェアの限界に制限される。どれだけリアルな世界に見えても、プレイヤーにわからないように、絶妙に嘘をついているにすぎないのだ。このことは、ゲーム開発者であれば自明だろう。

筆者が追加取材中にそのように指摘すると、豊田氏はすかさず「その嘘の付き方がノウハウであり、ゲーム業界が最も進んでいるところ」だと指摘した。その上で本山氏が「こうしたコメントが出てくるところが、豊田氏ならでは」だと補足した。両者の共創関係が垣間見えた瞬間だった。

ちなみに、このことからも豊田氏が提唱するコモングラウンドが、現実そっくりのフォトリアルな3DCG世界をコンピュータ上でつくり上げることではない、ということがわかる。重要なのは「体験の最適化」であり、現実世界で暮らす人々の多幸感を増すことにあるからだ。

そのために人と人以外のエージェントがどのように有機的な関係性をもてるか。そのためにどのような共有基盤を記述できるか、という点にある。ゲームの知識表現がゲーム世界とは似て非なるもののように、コモングラウンドも現実とは異なるものになるだろう。

それでは、どのような記述が求められるのか。当然、OSがアップデートをくり返すように、コモングラウンドもまた、時代に応じてアップデートが必要になるだろう。この点については豊田氏にも明確な答えがあるわけではなく、社会全体で考えていくべき命題だとした。現在大阪で、2025年の万博を見越した「コモングラウンド・リビングラボ」という多業種連合による実験場の開設準備が進められ、豊田氏はそのディレクションを行っているのだという。バンダイナムコ研究所との共創についても、そうした取り組みの一環というわけだ。

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