11月4日にハリウッドの各メディアが報じたところによれば、大手VFXスタジオ、フレームストア(本社:ロンドン)が、旧デラックス傘下のカンパニー3メソッド・スタジオを買収した。買収額は現時点では明らかにされていない。この情報はすぐさまSNSの投稿を通じてハリウッドの映像業界に拡散され、まさにハリウッドのVFX業界を震撼させる大ニュースとなった。本稿ではこの買収劇の経緯について紹介する。

TEXT_鍋 潤太郎/ Jyuntaro Nabe
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

昨年から進んでいた旧デラックス傘下スタジオの再編成

フレームストアはロンドンに本社を構え、ハリウッド映画のVFXスタジオの大手として知られている他、コマーシャルなどの広告分野でも優れた実績を残している。近年、VFXベンダーとして参加した映画作品には『ブレードランナー 2049』(2017)や『ゼロ・グラビティ』(2013)などのアカデミー賞VFX部門受賞作品が含まれている。フレームストアは2016年11月4日に中国企業カルチュラル・インベストメント・ホールディングスに買収され、現在ロンドン、ムンバイ、モントリオール、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスという世界6ヵ所に拠点をもつVFXスタジオである。

▲ロンドンにあるフレームストア本社(写真提供:田中 眞/Framestore)

今回、フレームストアに買収されたカンパニー3とメソッド・スタジオは、昨年夏まで米デラックス・エンターテインメント・サービスグループ(以降、デラックス)傘下の「デラックス・ブランド」のポスト・プロダクションだった。デラックスは昨年10月に米連邦破産法第11条に基づき破産及び経営再建の手続きに入り、以降両社はデラックスから分離する形で、通常どおりプロダクション運営が行われていた。

カンパニー3はハリウッド映画のカラーグレーディング分野で世界的に有名なポスト・プロダクションで、来年公開予定のザック・スナイダー版『ジャスティス・リーグ』や『トップガン マーヴェリック』、そして『ワンダーウーマン 1984』などの新作ハリウッド映画のエンドクレジットでも、その社名を見ることができる。

メソッド・スタジオは元々アセント・メディア傘下の中堅VFXスタジオで、2010年にデラックスがアセント・メディアを買収後はグローバル化に力を注ぎ、世界各地に拠点をもつ大所帯のVFXスタジオへと成長した。2018年8月にはモントリオールのアトミック・フィクションを買収しメソッド・ブランドに吸収、カナダのケベック州が推し進めるハリウッド映画産業向けの大規模な税制優遇制度を強く意識した経営戦略も見られた。

デラックス傘下には、他にもEフィルム、アンコール、アンコールVFX、レベル3、ステレオDなど、多数のポスプロやスタジオが名を連ねていた。中でもEフィルムはハリウッドのDI分野で先駆的なスタジオとして世界的に知られていた。現時点では、Eフィルムとアンコールは、カンパニー3へと統合されている(ただしアンコールVFXはそのままブランド名を継続)。

これらのブランド統合により、カンパニー3はハリウッド、サンタモニカ、ニューヨーク、アトランタ、ロンドン、トロント、バンクーバーの7箇所に拠点を拡大。メソッド・スタジオは、ロサンゼルス、アトランタ、トロント、バンクーバー、プネー(インド)、メルボルン、そして旧アトミック・フィクションだったモントリオールとサンフランシスコを合わせた8箇所に拠点を構えている。

▲サンタモニカにあるカンパニー3およびメソッド・スタジオの本社(撮影:鍋 潤太郎)

フレームストアが目指すものは

今回の買収発表にあたり、フレームストアの設立者&CEOを務めるウィリアム・サージェント氏は、「我々のビジョンは、モバイルからIMAX、ヘッドセットからテーマパークまで、コンテンツ配信の全てのメディアにおいて、ストーリーテリングを行なっていくことにあります。そのためには、創造的かつ技術的に、それぞれのメディアに適応していく必要があります」というコメントを発表している。

また、カンパニー3とメソッド・スタジオの社長であり、自身も著名なカラーリストでもあるステファン・ソネンフェルド氏は、「今回のパートナーシップは、ワールド・クラスの専門知識をもつ2つの優れたチームの融合を表しています。私たちは団結した力で、サービスを提供していくことができるでしょう」とつけ加えている。

しかしながらハリウッドの現場では、今回の買収劇に首をかしげるVFX関係者は少なくない。彼らの中には実際にフレームストアやメソッドでの勤務経験者も多く、「すでに大所帯のフレームストアが、ある程度の規模をもつカンパニー3とメソッドを買収し、そこまで巨大化させるメリットがあるのだろうか?」と言う疑問の声も聞かれる。

前述のように、フレームストアの親会社は中国企業であり、ハリウッドビジネスに対する積極的な投資姿勢をもつ。これまで長きに渡り、テクニカラーとデラックスという大手ポスプロ系列の「2台巨頭」が君臨してきたながれの中、ここに来て両社とも破産し会社更生法の手続きに入ったことで、そのシェアをねらった強気のビジネス戦略である可能性が高い。

今後の動向から、ますます目が離せない今日この頃である。

▲メソッド・スタジオのマグカップ。メソッド・スタジオのブランド名は存続されるのだろうか(撮影:鍋 潤太郎)