現在大ヒット上映中の映画『STAND BY ME ドラえもん 2』。前作にひき続き制作を担当した白組は、前作のアセットがある程度活用できるという算段を立てていたが、蓋を開けてみると、ソフトウェアのバージョンなど様々な問題に直面する。限られたスケジュールで前作以上のクオリティとボリュームを実現するにあたり、新しいワークフローやツールの導入によって解決が図られた。
TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
映画『STAND BY ME ドラえもん 2』
原作:藤子・F・不二雄、監督:八木竜一、脚本・共同監督:山崎 貴
配給:東宝
www.toho.co.jp/movie/lineup/doraemon-3d-2.html
©Fujiko Pro / 2020 STAND BY ME Doraemon 2 Film Partners
限られた期間で最善の結果を生み出す制作体制
本作は、原作の連載開始から50周年の節目となる2020年内の公開を前提として制作がスタートした。企画の起ち上げは2018年末で、当時は別の3DCG映画の制作後期であったため、まずは上流工程として八木竜一・山崎 貴両監督によってシナリオ制作とコンテ制作が行われた。具体的に3DCG制作が始まったのは2019年初頭で、完成は2020年5月頃と、わずか1年あまりで3DCG映画を1本つくりきるというスケジュール感だったため、当初からドラえもんやのび太などの主要アセットを前作から転用して時間短縮を図る想定で進行。ただし、CGスーパーバイザーの鈴木健之氏によれば「過去の資産を流用して時間を短縮するところがスタート地点でしたが、実際には互換性の問題で完全な再利用は困難でした。また『2』ということもあり、見た目上の新しい要素も必要だったため、アセットのブラッシュアップなどを含めてつくり込みを行なっています」とのことで、多くの点が改良されているという。例えば、主要キャラクターに関しては首部を短くする、足の長さを変えるなどのプロポーション調整が行われており、レンダリングについても、従来のヘア表現(ScanLineを用いてレンダーし、後工程で合成する手法)ではなく一貫してV-Rayレンダリングを行うなどの改善が行われている。また、前作ではショット班として最終的なルックの制作にあたっていたライティング・コンポジットを分業体制にするなど、ワークフローも一新されている。
制作環境の変化
▲『STAND BY ME ドラえもん 2』は、2014年に公開された前作『STAND BY ME ドラえもん』からアセットを流用するため、当時と同じく3ds MaxをメインのDCCツールとして制作が行われた
▲また、作業モニタとスクリーンの色味の差を抑える目的でACES規格を採用したため、コンポジットには新たにNukeが取り入れられている
前作から6年が経過していた関係で、制作環境は3ds Max 2011から3ds Max 2017へと変化(3ds Max 2019でない理由は、当時の制作実績と安定性を加味しての判断とのこと)。これに伴い、V-Rayもバージョンアップされている。データのコンバート作業や細かな修正などの必要が生じ、結果的にはアセットのブラッシュアップ以外の部分でも一定の工数を要した一方で、当時はできなかったヘアも含めたV-Rayレンダリングや、ACESによるカラーマネジメントが実現した
分業化したワークフロー
ワークフローは、シナリオおよびコンテの完成からレイアウト作業に着手。レイアウト作業が完了したら順次キャラクターアセットの制作およびブラッシュアップ、ミニチュアの作成および撮影などの各工程を進行するかたちとなっており、その後ライティング工程、コンポジット工程を経て完成形となるながれとなっている。赤いラインがデータの受け渡しで、緑のラインが参考データのやり取りを示している。また、アートディレクターの花房 真氏によるデザイン作業は、これらの工程を縫うようにして制作後期まで継続的に行われた(特に、BGに関しては終盤までデザインを行なっていたとのこと)。前作から変化したのは、ライティングとコンポジットの作業を分業化した点。従来は最終的な画づくりにアプローチする部分をショット班が一括して行なっていたが、今作からはNukeを用いる関係でコンポジット班、ライティング班へとセパレートし、それぞれが専門性を活かして作業を行うかたちに変化した
ACESの採用
前作の制作時に課題となったのが、「PCモニタで作業している際の色味と、スクリーンに投影した際の色味が異なる」という状況への対応方法。従来は作品を映画館のスクリーンに投影し、モニタと見比べながら最終的なカラコレ作業を行なっていたが、この方法では基本的な描画方式が異なるためにどうしても合わせられない色味が存在した。そこで本作では、直前に手がけたフル3DCG映画からひき続き、標準的なカラーマネジメント規格となる「ACES(Academy Color Encoding Space)」を採用。さらに、ACESで作業しながらも前作(sRGBカラースペース)のトーンと一致させるための色調補正値を作品トーンのLMT(Look Modification Transform)としてOCIO(OpenColorIO)に組み込み、NukeのViewerで再現、色味の差異を小さくしている
▲作品トーンLMT+sRGB(ACES)