放送中も大きな話題を呼び、好評のうちに放送が終了したTVアニメーション『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』だが、本作はアニメの放送期間中にゲームアプリとしての展開も行われていた。実は本作のED映像とゲームアプリは、同じ素材を使用して制作されたという。アニメーションとゲームを同じ素材で作るというシームレスなコンテンツ展開はどのようにして行われたのか、今回はED映像の制作を担当したORENDAとコンサルティング企業の ファンダムによって12月11日に開催された講演の模様をレポートする。
イベント冒頭、本セミナーを主催された株式会社ファンダムの代表取締役の高橋秀幸氏から開催趣旨のご説明があり、セミナーがスタートした。セミナーに登壇したのはエンディングアニメーションディレクターの糸曽賢志氏、株式会社ORENDAの小倉理生氏、株式会社 株式会社ジャイロスタジオ の佐久間一行氏ら3名。
アニメとゲームで一貫した映像制作
「本編のTVアニメのプロデューサーさんから、世界観さえ保っていれば自由にやっていいというお言葉をいただきまして、どうせやるなら新しいものを作りたい、目立ちたい、というところでどんなものを作ろうかと考えていたときに、ORENDAさんにいるジョッシュさんというデザイナーさんの絵を見せて貰ったんですが、それが影絵や切り絵のようなコンセプトアートでした。それが切っ掛けとなって、そのテイストで横スクロールアクションゲームっぽい世界を描いていこうと思いました。そうするとさらに欲も出てきて、最近アニメを作っていて課題だと思っていたのが、アニメは一方通行の体験だということなのですが、それに比べて、ゲームは受け手自身が体験するから強いなと。そこで、アニメの素材でゲームも作ってしまえば話題になるんじゃないかと考えました」(糸曽氏)。
▲ORENDAのスタッフが描いたED映像のコンセプトアート。「普通のアニメとは違う、ぱっと見たときに違和感があるような、絵本っぽいものが作れないかと考えていたときに、このコンセプトアートに出会って、これでいこうと思いました。海外出身のデザイナーさんが描いたもので、影絵とか切り絵みたいな表現が、日本人の感性とは違うなと感じました」(糸曽氏)
▲テイストに一貫性を持たせるために、コンセプトアーティストがアニメーションも作成している。「コンセプトアートを描いてくれたジョッシュさんは、日本のアニメの作り方に慣れていないので、全部原画で出てくるんです。だから効率は良くないんですが、一貫して彼のテイストで表現できるんです」(糸曽氏)
こうして、アニメのEDとゲームを同一の素材を用いて制作するという画期的な取り組みが始まったという。ゲームを作るということが念頭にあったので、本作は企画の当初からゲームデザイナーが参加するという、通常のアニメの映像制作にはない特徴的な制作フローで作られていったという。まずは小倉氏より、デザイン面でのお話をしていただいた。
▲今回のEDムービーの制作フロー。通常のアニメの制作フローと異なり、企画段階からゲームデザイナーが携わっている
「座組にゲームデザイナーさんが入ってくれてよかったのは、ここでアイテムを取ってとか、中ボスがいてとか、ゲーム的な演出に関しての意見をもらえたことです。今回、背景の3Dアセットでいうと、建物はBlenderで制作しています。通常、弊社のゲーム開発ではMayaを使用しているのですが、今回は研究も兼ねてBlenderで制作しました」(小倉氏)。
▲ゲームデザイナーの意見を取り入れることで、ED映像の中にも、中ボスの登場やアイテムの獲得など、ゲーム的な演出が追加された
▲本作の背景に使用されている3DアセットはBlenderで制作されている
さらに、今作のED映像制作において、UnrealEngine4が使用されていることにも着目したい。UnrealEngineはゲームエンジンと呼ばれる、主にゲーム開発において使用されるソフトウェアだが、映像制作にも広く使用されている。
「今回は3D空間上にアセットを配置していって、正面に固定されたカメラの前でキャラクターたちが演技していくといったような紙芝居的なイメージで制作していきました。シーケンサーという機能を使って制作しています。今回、UnrealEngine4を使って何が良かったかというと、チームの中で最終的なイメージを共有できたことですね。それによって、作業メンバーやクライアント間で認識の差異なく作業を進めることができました。調整・修正作業も素早く行えるので、最終的な映像クオリティの向上にも繋がったと思います」(小倉氏)。
▲「UE4を使うことでデザイナー、エンジニアらスタッフ間での完成イメージの共有ができ、それによって認識の齟齬を減らすことができました。また調整・修正作業の回数を増やせたので、最終的な映像のクオリティアップにも繋がりました」(小倉氏)
「アニメのED映像の制作と同時にゲーム化も進行していったんですが、最初からゲーム化を見据えてUnrealEngine4を使おうということになっていたので、そこからのハードルは低かったです。もちろんプログラム側には苦労もあったとは思うんですが、もともとゲーム風の映像をコンセプトに制作していましたので、若干の修正作業はありましたが、基本的には素材も使いまわせたので、デザイナー側の苦労は少なかったですね」(小倉氏)。
▲UE4を使ってアニメとゲームを並行して制作することで、開発・制作工数を減らし、スピード感のある開発をすることができた
こちらは1クール目と同じくORENDAが担当した、アニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』2クール目EDのコンセプトアートとキャラクターの3Dモデルだ。1クール目のEDが横スクロールアクションゲームをイメージしたものだったのに対し、2クール目は画面の奥に進んでいきながら、音に合わせて攻撃していく音ゲー的なコンセプトで企画が始まったという。
▲ED2クール目のコンセプトアート。1クール目が横スクロールアクションをイメージしていたのに対し、画面奥に進んでいく音ゲーアクションを意識したつくりになっている
▲人気キャラクター「アーサー」の3Dモデル。企画段階では頭身の高いバージョンも検討されていたが、SDキャラのほうが反応がよく、こちらに決定した
▲「ED2クール目ではより空気感や奥行き感を出すために、ポストエフェクトなども使っていきました」(糸曽氏)
UnrealEngine4を用いた効率的なゲーム制作とは
続いては、佐久間氏よりエンジニア面からのお話をしていただいた。
「私の方からは、プログラム側のお話をさせていただきます。今回、ゲーム内でキャラクターに長い距離を走らせる手法につきましては、カメラを固定して、同じ道路を繰り返し繰り返し画面内で流すという手法を使っています。色々な手法があるかと思いますが、今回は時間が限られている状況で、デザインとすり合わせをしていく中でこの方法なら比較的簡単にできるだろうというところから、道路を進んでは戻して同じ道を繰り返し使うことで長い道のように見せています」(佐久間氏)。
▲ゲーム背景の設計についての解説動画
「次に操作方法についてですが、スマートフォンを横置きにして、画面の右と左をタッチすることでキャラクターをアクションさせる方式になっています。ボタンを設置して、それに対応したアクションさせるというやり方もありますが、今回は画面の左右を2分割して、それぞれに対応した動きを実装したという形になります。こちらも様々な実装の方法がある中で、限られた時間の中で作るということを主軸に置いていたので、このような方法を選びました」(佐久間氏)。
▲操作方法の仕様設計についての解説動画
「UIについては、デザイナーと連携することが必要になってきます。用途に合わせてウィジェットを使ったり、タイトルなどは3D空間に置いて、カメラの前に差し込むような表現となっています。特にデザインのほうで確認しやすいやり方もあるので、プログラムだけでなく、デザイン側からも確認しつつ、どのようにすればイメージに近い実装がしやすいかを考えていきました。リザルト、スコアなどはウィジェットを使う必要がありますので、使用用途に応じて選択を変えていきました。スコアに応じて、設定されているテキストをプログラムのほうで更新するといったことをしています。たくさんUIが重なってくると見えづらいということもありますので、適宜、細かくウインドウを作って実装の確認をしやすいようにしていました」(佐久間氏)。
▲UIの設計についての解説動画
「続いて自機についてお話させていただきます。今作ではシンラ&アーサーの2種類の自機から選択してプレイができ、それぞれ別のアクションが楽しめる仕様になっています。ジョッシュというスタッフにアニメーションの素材を作ってもらって、プログラムの方ではそれを繋ぎ合わせています。それから、当たり判定の設定もしています。今回は3D空間の中を移動するゲームですので、3次元の当たり判定を設定しています。当たらないとか当たりづらいとか、その辺りを調整するというのは細かく目で見ながら、プログラムの時間の許す限りやっていきました」(佐久間氏)。
▲自機周りの設計についての解説動画
「最後に敵について。ED映像の作り方でシーケンサーを使っているというお話がありましたが、今回動きに関して、それぞれが個別に動くAIではなく、まとまって繰り返し敵が現れてくるというシンプルな形で作っています。そうすることによって、まとまった単位で一塊の敵を順番に出すということをしています。こちらも様々なアプローチがあるとは思いますが、今回すでに出来上がっているED映像がありましたので、そちらを最大限活用させてもらっています。デザイナーと完成形を共有しながらでしたので、それほど苦労することなく比較的簡単にできたと思います。全体を通して、作りながら完成形がイメージできたというのは、貴重な体験でした」(佐久間氏)。
▲敵キャラクタの動き等の設計についての解説動画
▲アニメ第1クール目ED映像に使われたものと同じ素材を活用して作られたゲームアプリ『炎炎ノ消防隊 焔道の決戦』。スマートフォンを横にして、画面をタッチすることでキャラクターを動かしてプレイする横スクロールアクションゲームだ。2種類の自機から選択してプレイができ、それぞれ別のアクションが楽しめる仕様になっている。無料ということもあって非常に多くダウンロードされ、一部では実況配信もなされた
「アニメは大きな話題になって、そのおかげでゲームをリリースした時にも沢山ダウンロードしていただけました。ゲームとアニメがワンパッケージになっていたら面白いと思って始めた企画でした。今回のように、ゲームとアニメの連動はまたやりたいですね」
糸曽氏はそう語って、今回の講演を締めくくった。
お知らせ
なお、ファンダムとORENDAでは、エンジニア向けのオンラインセミナーの開催を検討しているとのことだ。興味のある方は下記URLよりぜひチェックしてみてほしい。
▼ウェビナー紹介ページ
『ゲームエンジンを活用したロボティクス』
https://fandom-mkt-seminar.connpass.com/event/199173/