世界最大級のテクノロジーとカルチャーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト) 2021 Online」のオフィシャルイベントとして、日本のテック系企業によるピッチと、音楽ライブを組み合わせたイベント「Tech Cave Japan [ハイテク洞窟日本] Music*Session」が開催され、バーチャルアイドルの東雲めぐがナビゲーターを務めた。本稿では各社のピッチ内容を深掘りして紹介していく。なお、本イベントは動画共有サイト上でアーカイブ配信されている。


TEXT_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



コロナ禍によりオンラインで開催されたSXSW

世界最大級のテクノロジーとカルチャーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」。毎年3月に米・オースティンで開催される、街を挙げての総合イベントだ。1987年に音楽イベントとしてスタートし、年々規模を拡大。2007年には「Twitter」がブログ関連の賞を受賞し、同社が世界的な注目を集めるきっかけとなったイベントとしても知られている。2021年度は、コロナ禍によりオンライン開催となり、3月16日(火)から20日(土)まで期間を縮小して開催された。

その一環として実施されたのが、バーチャルアイドルの東雲めぐをナビゲーターに、日本のテック系企業8社のピッチと、3組の音楽ライブを組み合わせたイベント「Tech Cave Japan[ハイテク洞窟日本]Music*Session」(主催:一般財団法人 デジタルコンテンツ協会(DCAJ))だ。SXSWのオフィシャルイベントの1つとして、3月16日(火・現地時間)に開催され、動画共有サイトの「Vimeo」とソーシャルVRプラットフォームの「VRChat」で配信された。

今回ピッチを行なった8社は、経済産業省が推進するビジネスマッチング事業「TechBiz(コンテンツ技術海外展開支援プログラム)」によって採択されたものだ。本イベントに加えて、SXSWでも「Tech Cave Japan "ENTRANCE"」と「Tech Cave Japan "EXIT" powered by DCAJ」の2ブースが設置され、自社の技術をアピールした。

●インタラクティブな音楽体験

Avatar Jockey/東京コンピュータサービス株式会社

「Avatar Jockey」は、複数人でMR空間を共有し、インタラクティブな音楽ダンス体験ができるHoloLens2用のアプリケーションだ。デバイスの前でエアタップすると、MR空間にアバターが出現。アバター自身を音源として、ダンスパフォーマンスが開始される。複数のアバターを出現させたり、複数の体験者とMR空間を共有してアバターと一緒に踊ったりすることも可能だ。アバターの種類はエアタップする位置で変更でき、楽器のフレーズ(3種類)、楽器の種類(5種類)から選べる。アバターのサイズを変えたり、音のフレーズにエフェクトをかけたりすることも可能。コロナ禍でライブパフォーマンスの機会が縮小する中、今ならではのアプリケーションと言えるだろう。


●ウィルスの接触感染を防止する空中操作AI

UbiMouse/知能技術株式会社

コロナ禍によって接触感染の不安が増す中、エレベーター、駅の券売機、ATMなどの操作をためらう人々も多い。こうした中、デバイスに触れることなく、空中で指を動かすだけでタッチパネルやキーボードを操作できるAIソフトが「UbiMouse」だ。デバイスの内蔵カメラを使用して、使用者の指の位置を認識し、AIで空間位置を特定するしくみで、PCやタブレットに本ソフトをインストールするだけで、すぐに使用できる。ピッチでは、大手回転寿司チェーンで2,000ユニット以上が導入されているほか、医療機関やデジタルサイネージでも使用されているなど、豊富な採用実績をアピールした。


●多彩な状況に対応する防災訓練VRシリーズ

RIVR/株式会社理経

災害大国日本。その一方で、災害に対する備えや教育は万全とは言えない。こうした中、自然災害(地震、火災、水害)や災害対応(自衛消防)などをVRで疑似体験できるコンテンツが「RIVR」だ。ピッチでは、自宅で地震が発生した際、戸棚から落下する皿や器具などを避けてテーブルの下に避難したり、ビル内で火災が発生した際、煙に巻かれないよう正しく非常口に移動したりといった、緊急時の行動を疑似体験できる様子が紹介された。同社では、ほかにも平成30年の西日本豪雨を基にした避難体験VRや、工場での火災避難を体験する防災訓練用VRなど、様々なVRコンテンツを開発し、自治体や企業向けに納品している。


●ビジネス向けVRコラボレーションサービス

NEUTRANS/株式会社Synamon

一気に身近な存在となったテレワーク。その一方で、Web会議などによるコミュニケーションの減少が、企業の生産性低下に繋がっているケースも少なくない。こうした中、VR技術の活用であらゆるビジネス活動を可能にするVRビジネス施設が「NEUTRANS」だ。現実のオフィスビルのアナロジーで、「バーチャルオフィス」、「トレーニング」、「プロモーション」、「イベント・カンファレンス」など、幅広い機能を備えている。アバターによるコミュニケーションのほか、ホワイトボード、3Dペン、3Dモデルのインポートなど、様々な機能をパッケージング。VRデバイスがなくても使用できる「PCモード」もあるとアピールした。


●QRコードを補完する空間リンクツール

XPAND Code/XPAND株式会社

日常生活に定着したQRコード。しかし、QRコードは「長距離からの読み取りができない」、「景観やデザインとの調和が難しい」、「セキュリティに不安がある」といった課題を抱えている。これらを一気に解消するソリューションが「XPAND Code」だ。QRコードとは異なり細長い「バーコード形式」をとるため、サインの表示領域が圧迫されない。遠距離からの読み取りはXPAND Code、近距離からはQRコードと、両者を併用することも可能だ。ピッチではサッカースタジアムに設置された215メートル先の電光掲示板から、スマートフォンでXPAND Codeを読み取るデモなどを紹介。コロナ禍において、ソーシャルディスタンスと利便性の両立が可能だという。


●オンラインライブを支援するブロックチェーン活用アプリ

livesola/株式会社レシカ

コロナ禍で急増したオンラインライブ。そこでアーティストや中小の事業者を対象に、ライブストリーミングとマネタイズの手段を提供するソリューションが「livesora」だ。本アプリを使用すると、アーティストはファンにチケットだけでなく、写真や音声ファイルなど、様々なアイテムを「ハート」と共に販売できる。ファンはスマホの画面などをタップし、声援の代わりにハートを送ることが可能。画面を介して、ライブのようなリアルな一体感が得られるというわけだ。本アプリにはブロックチェーン技術が活用されているほか、特定の動画プラットフォームに依存しない点も特徴。ピッチではさらなる機能拡張のためパートナーを募っていた。


●魔法の世界へ誘う3DCG VRコンテンツ

withID株式会社

フォトリアルで8K以上の高画質、かつ3DCGにこだわってVRコンテンツを制作している「withID」。東京大学大学院の建築系や東京工業大学大学院物理学の出身者によるスタートアップ企業で、数学、物理、建築などの知見を活かしたCG制作が特徴だ。また、ステージマジックのノウハウを応用し、空間内における視線誘導や、登場人物の会話に依存しないストーリー展開を組み込むなど、従来のアニメや映画とは異なる、VRならではのコンテンツ制作を強みにしている。ピッチでは、CEOの川 大揮氏がフォトリアルな3DCGキャラクターとして登壇し、映画『えんとつ町のプペル』など、同社が制作に関わったサービスやコンテンツが紹介された。


●デジタルフィギュア販売・視聴プラットフォーム

HoloModels/Gugenka(株式会社シーエスレポーターズ)

「HoloModels」はアニメキャラクターをデジタルフィギュアとして、HMDやスマートフォンなど、様々なデバイスで楽しめるXRビューアだ。ユーザーは専用ストアからフィギュアを購入し、任意の場所に配置してXRビューア上で鑑賞できるだけでなく、サイズやポーズなどを自由自在に変更することもできる。ピッチでは、音楽、映像、書籍、ゲーム等に続き、家具やペットなどあらゆるものが3DCG化され、XR上で活用される時代が到来すると指摘。近い将来、普及が予想されるグラス型デバイスなどにも対応してきたいとして、広くパートナーを募っていた。

▲本イベントは、GugenkaがVRChatとパートナー契約を結び、「SXSW 2021 Online」で設置したデジタルコンテンツ販売エリア「XRShop World」のライブイベントスペースで開催された

▲イベントの冒頭では、DCAJ会長でCGアーティストの河口洋一郎氏(東京大学名誉教授)も挨拶を行なった。河口氏はコロナ禍で1年にわたって家に籠もらざるを得ず、CGではなく手描きで絵を描き続けたとコメント。「ずっとコンピュータを使ってプログラミングでCGを描いてきたが、手でも描けることがわかり新たな発見だった」と述べた。右は河口氏の手描きによる作品の一例