Epic Games Japanが主催するUnreal Engineの公式大型勉強会「UNREAL FEST EXTREME 2021 SUMMER」が、5月17日(月)~22日(土)にかけて開催された。Unreal Engine 4が一般公開された2014年から、秋に関東、春に関西で行われている本イベントだが、前回に引き続き、今回もオンラインでの開催となった。イベントでは、17日から21日までの期間、GAME講演とNON-GAME講演それぞれをYouTubeで毎日配信。本記事では17日のGAME講演、Epic Games Japanによる「MetaHumanサンプル解体新書」の模様をレポートする。
TEXT_土居りさ子 / Risako Doi(Playce)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
高忠実度のデジタルキャラクター「MetaHuman」
「MetaHumanサンプル解体新書」と題した本セッションでは、Epic Games Japanから、UE4のライセンシーサポートを担当する、テクニカルアーティスト・斎藤 修氏とソフトウェアエンジニア・岡田和也氏が登壇した。本セッションでは、デジタルキャラクター「MetaHuman」と、Epic Gamesが2021年初頭に公開したMetaHumanを作成できるクラウドストリーミングアプリ「MetaHuman Creator」について解説。これまで多くの予算と時間を費やして作成していた高品質なキャラクターが、誰でも簡単に作成できるようになったことで広がる新たな可能性と、MetaHumanの魅力について、両者が熱く語った。
セッションの前半は、斎藤氏がMetaHumanやMetaHuman Creatorの基本事項を説明した。そもそもMetaHumanとは、高忠実度のデジタルキャラクターのこと。UE4によってアニメーションやモーションキャプチャに対応できるようリギングされており、コンテキストに沿って作業することができる。またUE4によってリアルタイムで実行され、シームレスな動きを実現できるのも特徴だ。
そしてなんといってもMetaHumanの大きな魅力の1つは、クラウドストリーミングアプリMetaHuman Creatorで簡単に作成できるということ。斎藤氏は「MetaHuman Creatorでは、もともとあるいくつかのプリセットから自分好みのものを作成できるようになっている。複数の顔をブレンドしたり、髪の毛やヒゲ、シワなどを調整したりすることもできるので、老若男女、多種多様なモデルを作成することが可能だ」と説明した。
▲肌、目、歯、毛、シワなど、あらゆる部分を調整することができ、多様なモデルを作成できる
MetaHuman Creatorで作成したモデルをUE4で使用するには、アセット管理アプリケーションである「Quixel Bridge」を使用する。アプリを起動してMetaHumanのタブを選択するだけで、作成したモデルを好きな解像度でダウンロードしたり、エクスポートしたりすることが可能だ。また、無料でダウンロードできる50以上のサンプルがあらかじめ用意されているため、モデルを作成しなくてもすぐにUE4上でMetaHumanを使用することができる。
▲1K、2K、8Kの中から好きな解像度でダウンロード可能。ただし、サンプルモデルをダウンロードする場合は8Kでしかダウンロードできないため、注意が必要だ
続いて斎藤氏は、MetaHumanのアセット構成について説明した。なかでも重要なアセットのひとつとして挙げたのがMetaHumanのLODを一括管理する「LODSyncコンポーネント」だ。MetaHumanでは8段階のLODがあり、例えば頭の部分は、LOD 0のときの頂点数が24,000、LOD 7のときが130となる。そのため「ハイエンドからモバイルまで幅広く対応することが可能だ」と斎藤氏は語る。
▲MetaHumanにはデフォルトで8段階のLODがあり、これら多数のLODをLODSyncコンポーネントが適切に管理することで、プラットフォームごとのスケーラビリティ対応が可能だ
最後に斎藤氏は、MetaHumanモデルの「ボディ」、「毛」、「フェイス」についてそれぞれの詳細を述べた。「ボディ」は、手足、上半身、下半身、靴のマテリアルがそれぞれ1種類ずつ、LODは4段階とシンプルだ。しかしマテリアルはLODがなく、LOD 0ものが常に使用されるため、インストラクションやテクスチャサンプルが多いことを留意しておく必要があるという。
「毛」については、髪の毛、眉毛、産毛、まつげ、口ひげ、顎ひげの6種類があり、これらは全て顔にバインディングされる。アフロヘアなど形状によってはLODが作成されないものもあるが、基本的には自動で作成されると説明した。
「フェイス」部分は最も複雑で、フェイシャルアニメーションのためのモーフターゲットやマテリアルが数多くある。なかでも肌マテリアルは特に重要で、ベースカラー、毛穴、肌の赤みやそばかすなどを細かく調整することが可能だ。斎藤氏は「非常に高性能でインストラクション数やテクスチャサンプル数が多くなるため、LOD0の場合には注意が必要だ」と語った。
▲「ベースカラー」と「ノーマル」はフェイシャルアニメーションに合わせて4枚のテクスチャが顔マップに応じてブレンドされており、「口を動かしたらシワができる」というようなマテリアルの機能が含まれている
MetaHumanでアニメーションを作成。「Control Rig」に注目!
セッションの後半では、岡田氏がMetaHumanのアニメーション機能について説明した。なかでも、注目すべきポイントとして挙げたのが、アニメーションにおいて重要な「リグ」をUE4上で作成・制御できる機能「Control Rig」だ。岡田氏は「Control Rigを使用することで、UE4上でアニメーションを作成したり、既存のアニメーションを調整したりすることできる」と語った。
MetaHumanで使われているControl Rigは、全身を動かすボディ用と、表情を制御するためのフェイシャル用のものがメインとなる。岡田氏は「シーケンサー上で、Control Rig用トラックに対してキーを打つだけで、簡単にアニメーションの作成と編集ができる」と解説。さらにUE4.26からの新機能として、シーケンサーにControl Rig用のトラックが自動的に追加されるようになったことも紹介した。
続いて岡田氏は、便利な機能としてEditor Utility Widgetを挙げた。この機能を使用すればツールからControl Rigの各コントロールを選択したり、IKとFKを切り替えてポージングの操作をしたりすることが可能になる。さらにEditor Utility Widgetは、自身が使っているキャラクターに沿った実装に変更するなど、自由に解析・改造ができるところも利点だと語った。
▲「IKでモデルの動きを整え、FKで調整するといった操作ができるため、とても使い勝手が良い」と岡田氏
またMetaHumanでは、Control Rigを使ってTwistボーンの補正処理を行なっており、例えば手首や肩の角度に応じてTwistボーンを調整することで、違和感なく見えるようになる。さらに衣類の補正処理も行なっており、首ボーンの回転量に応じて補正することで、襟元をより自然に見せることが可能だ。岡田氏は、「この機能は、スカートやキャラクターの武器、アクセサリーなどにも応用できる。細かいところだが、とても効果的な機能なのでぜひ採り入れてみてほしい」と語った。
▲Twistボーン機能は、UE4だけでなく、キャラクターを作成する上でよく採り入れられている重要な機能のひとつ。補正処理なしでは、手首がねじれているように見えたり、首元と襟がくっついているように見えたりと、不自然さが出てしまう
MetaHumanではこうした補正処理を「Post Process Animation Blueprint」で行なっており、通常のAnimation Blueprint(以下、Anim BP)のあとに実行、スケルタルメッシュアセット側で設定する。これにより、Anim BPに実装・設定されている処理やアセットに手を入れることなく、衣類やパーツ固有の挙動を実現できるという。岡田氏は「キャラクターごとにアニメーションやAnim BPを用意するとなれば管理が大変で、メモリ使用量も膨大になる。そのため多数のキャラクターや衣装替えをするキャラクターが登場するゲームでは、こうした設計が非常に大切だ」と語った。MetaHumanのように、空のスケルタルメッシュで共通のアニメーションやAnim BPを再生、その結果をコピーして流用することで、効率良く作業を進めることが可能になる。
MetaHumanは、アニメーションの編集機能だけでなく、細かな補正処理が組み込まれており、アニメーション関連の処理、アセットの流用・量産を考慮した構成になっている。岡田氏は、「MetaHuman自体を使う予定がない人にとっても、勉強になる部分がたくさんあるはず。ぜひいろいろ試して、自身のプロジェクトに取り入れてみてほしい」と話し、セッションを締めくくった。
「MetaHumanサンプル解体新書 | UNREAL FEST EXTREME 2021 SUMMER」講演動画