LDHが新たに世に送り出す次世代総合エンタテインメントプロジェクト『BATTLE OF TOKYO』。架空の未来都市「超東京」を舞台に、Jr.EXILE世代のメンバー総勢38名がCGアバターとなって壮大なストーリーを繰り広げていく。今回はCGアバターやMVなどの制作にあたっているCRAFTARを取材。MVほか、イベントでのリアルタイム演出のメイキングについて紹介していく。
TEXT_峯沢☆琢也
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
©LDH JAPAN 「BATTLE OF TOKYO」プロジェクト
『BATTLE OF TOKYO』
battleoftokyo.jp
LDH×CRAFTARが切り開く新時代のエンタテインメント
LDHが仕掛ける総合エンタテインメントプロジェクト「BATTLE OF TOKYO」は「GENERATIONS」、「THE RAMPAGE」、「FANTASTICS」、「BALLISTIK BOYZ」の4チーム総勢38名から構成されるJr.EXILEのプロジェクトである。2019年からMVやライブなどで活動してきたが、今年4月から38名を3DCGでアバター化し、アニメやゲームといったデジタルコンテンツを多方面に展開する「Mixed Reality Entertainment」として本格始動することとなった。 アバターとしてリデザインされ、3DCG化されたコンテンツを制作しているのはCRAFTARだ。劇場作品やTV番組にとどまらずVRなど様々なコンテンツを、デジタルテクノロジーを駆使して制作してきた同社が、そのノウハウを大いに活かしてキャラクターのデサインからアニメーション映像制作、バーチャルアバターのリアルタイムパフォーマンスなど、本作の映像全般を手掛けている。
今回はそのCRAFTARより、アニメーションプロデューサーの臼木太一氏、アニメーターの松浦宏樹氏、裾分雅明氏、リギングディレクター兼テクニカルディレクターの鈴木大輔氏、テクニカルディレクターの田尻真輝氏の5名を取材。今年4月に行われた記者発表イベントのプロジェクトと、同月に配信された4本のMV制作について紐解いていく。
具体的なプロジェクトの始動は2019年の夏。LDHのチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるHIRO氏より「ライブとMVでの企画」の相談があり、「近未来の仮想空間『超東京』を舞台にJr.EXILE38名のメンバーが4チームに分かれて活躍する」という具体的な企画内容が決められた。監督には東 弘明氏、シナリオ開発には佐藤 大氏と平沼紀久氏、キャラクターデザインにコザキユースケ氏、メカニカルデザインは出渕 裕氏らを迎え、同年よりシナリオ~絵コンテといったプリプロ開発やデザイン作業と並行して順次モデリング作業も開始された。2020年に入るとアニメーション作業を行いながら、記者発表のイベント用のリアルタイムでの掛け合いシステムも同時並行で進められたという。
架空の未来都市「超東京」のデザイン
▲CRAFTARで描いた「超東京」のコンセプトデザイン。近未来の東京をモチーフに和風なデザインや、ネオン看板など、日本ならではのスタイリッシュな雰囲気が醸し出されている
3DCGアバターのデザイン
▲コザキユースケ氏による「GENERATIONS」、「THE RAMPAGE」、「FANTASTICS」、「BALLISTIK BOYZ」の4チーム総勢38名のキャラクターデザイン、服装に関しては実際のチームメンバーの衣装を参考にしている
ストーリーを演出するメカニック
▲CRAFTARで描いたメカニックデザイン。近未来的なデザインの中にもギミックの展開など、世界観を反映しつつ詳細が描かれている
3DCGアバター「TEKU」のリアルタイムパフォーマンス
2021年4月18日(日)に行われた「BATTLE OF TOKYO」の記者発表会では、「FANTASTICS」の世界氏をイメージした3DCGのアバター「TEKU」が登場。別の場所でモーションキャプチャを使用してリアルタイムに収録されている動きと「TEKU」の声優を務める武内駿輔氏の声を同時並行して生配信し、そこに世界氏本人が登場して本人とアバターの「TEKU」が同じ舞台上でリルタイムに掛け合いを行ってダンスバトルも行うという、不思議なコラボレーションを披露している。リアルとバーチャルが掛け合って生まれた新しいかたちの表現は正に「Mixed Reality Entertainment」の名前にふさわしい。このような横断的なメディアの使い方は3DCGアニメーションを得意とするCRAFTARのスタッフによって、モーションキャプチャを使ってキャラクターを動かす技術、記号的に見せる日本アニメ技術、そしてリアルタイム表現が可能な3DCGの技術を融合したからこそ成功しているとも言える。
ただ、記者会見はお台場で行われ、モーションキャプチャ収録のスタジオは赤坂からの中継で行なっており、送出からアプリなどの細かい部分までCRAFTARのスタッフで運営していて、その裏側では泥臭い苦労もあったとのこと。キャラクターのモーションに関しては「世界さんから『3DCGのキャラクターは重みを感じないので違和感がある』という意見があったため、肩の動きから指先のキレまで収録できる高い精度でキャプチャを撮り、服の揺れものに関しても軽くみせないように調整を重ねました」と鈴木氏。最終的には世界氏本人のお墨付きももらえるクオリティまで引き上げた。
使用したメインツールはUnity、揺れものはMagica Clothなどを使用している。実はリアルタイムの掛け合い部分はUnityによる生中継、ダンスパートは世界氏自らがダンスアクターを努めたモーションを3ds MaxからAlembicを経由してUnityに流し込んだプリレンダリング映像。この2つをカットインで自然に切り替えることで、あたかもそこに世界氏と「TEKU」が同時に存在してコラボレーションしているようにみせており、出力を同じUnityで行うことにより誰一人違和感をもたせることのない記者会見にすることができた。「ダンスパートの動画の出力もきれいにつくるのではなく、リアルタイムのままの映像出力でつくりました。記者の方々もリアルタイムでの掛け合いから動画に切り替わったと気づかなかった方も多かったようで、うまく演出できたと思います」と田尻氏。CRAFTARのこれまでのノウハウを「Mixed Reality Entertainment」として表現できたと自信をのぞかせる。
「この記者会見では『TEKU』の生中継のテストがどうしても必要でしたが、当初の予定ではリハーサルができるのは当日だけでした。配線周りまで考慮した環境テストを提案して検討してもらい、LDHさんにもご協力いただいて、最終的には当日含めて3回のリハを実施できました。一緒に寄り添ってくれたLDHさんのフットワークの軽さに助けられましたね(笑)」と臼木氏はふり返る。
3DCGアバターとのリアルな掛け合いとダンス対決
▲2020年4月18日(日)お台場で行われた記者会見イベントの様子。世界氏と3DCGのアバター「TEKU」がリアルタイムに掛け合いを行い、注目を集めた
▲「TEKU」と世界氏によるダンス対決
4チームによる「BATTLE OF TOKYO」MVの裏側
「BATTLE OF TOKYO」プロジェクトのもうひとつの目玉が現在オフィシャルサイトで公開中の4本のMVだ。こちらもキャラクター開発を同時期に行い、東 弘明監督の下で絵コンテからVコンテを作成して進められた。キャラクターが38名、4チームそれぞれのMVという物量に加え、今作では実写パートとの絡みもある。実写パートの監督である久保茂昭氏とも協議してCGアニメパートとの乗り替わりのエフェクトやコラボレーションカットの内容が詰められ、HIRO氏も交えて密接に連携してこの難題に挑んだ。アニメーションパートが先行して制作が進められたが、都度実写のチームとも情報を共有。2020年の8~10月にかけて実写パートが撮影され、オフラインを作成しつつ合わせてCGアニメパートも調整していくことになった。特に実写とCGキャラクターの乗り替わりがあるシーンに関しては実写の映像に合わせて手付けでCGキャラクターを載せ、表情やライティングを詰めていく作業を行なっており、その中でもキメ顔の表情や服の形状を合わせる部分には細心の注意を払って作業がされている。 「特に力を入れたのはGENERATIONS『LIBERATION』の冒頭での飛行シーンから高速道路にかけてのシーンです」と裾分氏。「超東京」用に用意したオリジナル看板はこのシーンで全部使い切ってしまい、重いデータだったことも相まって監督こだわりのカメラワーク作業含め難易度が高かったとのこと。
実写とCGキャラクターの乗り替わり表現
▲実写パートとの乗り替わりのシーンでは、実際の実写映像から3DCGモデルを上に重ねて、カメラワーク、ライティングを手付けで微調整していったとのこと。特に表情のアップがあるので、実際のアーティスト側に寄せるように表現するのが苦労した点だったという。画像はCGアバター「PARTE」のモデル
▲完成した「PARTE」のモデル
▲完成画
スピード感あふれる冒頭の飛行シーン
▲GENERATIONS『LIBERATION』冒頭、CGアバターの1人である「SherRock」がビルの屋上から滑空し、主観カメラでそのまま高速道路にカメラがよっていくというダイナミックな一連のカット。監督のこだわりもありカメラワークは何度もブラッシュアップされて完成に至った
▲背景モデルと看板素材。オリジナルのネオンサインの看板を多数用意していたが、この一連のカットでほぼ全部を使いしつくしてしまったという。その密度感にも注目してほしい
松浦氏が担当したBALLISTIK BOYZ『VIVA LA EVOLUCION』では最後のシーンで他チームのメンバーが登場する演出もキャラクターの人数が多く、難易度が高かったという。また、登場するキャラクター数の多さもさることながら、各キャラクターには個別の設定があり表情に関しても差別化できるようにつくり込む必要があった。「やはりキャラクターたちはメンバーの分身なので、パッと見ただけで実際のメンバーが誰かわかるように心がけました」と松浦氏。
3ds Maxをメインツールとして制作された本作MV。キャラクター動きに関しては手付けで行なっており基本的には2コマ打ち(12FPS)で作成されたが、フルコマなども使用してアニメーターが可変させて調整。レイアウト段階でフィードバックを重ねて音楽や実写とのすり合わせを行なってきた。また、エフェクト周りも魔法のようなものや召喚獣のようなものなど、設定を意識して作成されており、38人のそれぞれの設定を活かしたこだわりの表現も楽しみのひとつになっている。「MVでは日本の作画アニメの文脈と3DCGの文脈の持ち味をミックスして、タメツメを意識した動きを世界に発信できればと思いました。LDHさんと監督から求められたクオリティを満たすのは大変ではありましたが、最終的には監督からもHIROさんからもクオリティの高さを評価していただけたのが印象に残っています」松浦氏はふり返る。
ほかのメンバーに乗り代わっていく表現
▲BALLISTIK BOYZ『VIVA LA EVOLUCION』のハッカー集団という設定をもつキャラクターが他のメンバーに乗り代わっていくシーン。コマ単位で動きを合わせて、間をエフェクトでつないでいる。ストーリー上でも重要な意味をもつシーンではあるが、制作時はその重さに苦労して生み出した表現でもあった。画像は3ds Maxの作業画面
▲アニメーションコンポ
▲完成画
3DCGアバターによるダンスシーン
▲BALLISTIK BOYZ 『VIVA LA EVOLUCION』ではCGアバターによるダンスシーンも登場。実写の映像に重なるように合成されたCGキャラクターがアーティストと同じようにキレのあるダンスで踊るコラボレーションカットだ。実写パートの久保監督とも協議してシームレスな世界観を感じられるようにイメージを膨らませたとのこと
▲完成画
「Mixed Reality Entertainment」の行く先とは?
リアルな演者をアバター化してCGアニメーションと融合させるという本プロジェクト。取材の最後、CRAFTARのアニメーションプロデューサー・臼木氏は「これからもキャラクターを中心とした新しいコンテンツがどんどんと生まれていきます。この先、世界に対してどういうものを発表していくのか、一緒に楽しみにしていただけたら嬉しいです」と語ってくれた。各ジャンルのプロフェッショナルを集結し、世界を意識したコンテンツとしてグローバル展開を目指している一連の作品群。チャレンジブルな企画に期待が集まっている。