建築ビジュアライゼーションにおいて絶大な信頼を得るV-Rayがバージョンアップし、「V-Ray 5」となった。これを受けて、9月24日(金)にオークの技術サポート担当・山内裕二氏による「3ds Max×V-Ray 最新機能紹介セミナー」が開催され、3ds Maxでのレンダリング事例を用いてV-Ray 5のアップデートについて解説した。


TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎぞうデザイン)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE


●Information
「建築ビジュアライズに携わる方必見!3ds Max × V-Ray 最新機能紹介セミナー」
開催日:2021年9月24日(金)
時間:15:00~16:00
会場:オンライン
参加費:無料 ※事前登録制
参加対象:V-Rayに興味のある方/V-Ray 3をお使いの方/建築ビジュアライズに興味のある方、携わっている方

主催:ボーンデジタル
協賛・協力:株式会社オーク

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「V-Ray 3」から大きく変わったワークフロー

「V-Ray 5」の最大の変更点は、GIのアルゴリズムで「イラディアンスマップ」が廃止され、「ブルートフォース」と「ライトキャッシュ」のみとなったことだろう。イラディアンスマップが廃止された背景には、プログレッシブレンダリングやIPRと親和性が低いこと、Adaptive Sample・LightMixが使えないこと、照明変化アニメーション時のフリッカー問題、詳細なジオメトリの照明ディテールが得られないこと、V-Ray GPUではもともと使えないことなど、複数の理由がある。

イラディアンスマップはレンダリングスピードに大きく貢献するアルゴリズムのため、廃止されることでレンダリングが遅く、高周波ノイズが出るなど悪影響を及ぼすのではないかという懸念も出てくるが、V-Ray 5の新しいワークフローでは「デノイズ」を使うことで解決している。本セミナーでは、実際にイラディアンスマップとブルートフォース+ライトキャッシュでのレンダリングの比較がされた。

「イラディアンスマップ」による4分程度のレンダリグ結果と、「ブルートフォース+ライトキャッシュ」にデノイザーをかけた1分程度のレンダリング結果を比較すると、ノイズは後者の方が圧倒的に少なくディテールも出ていた。一般的にデノイズはディテールが潰れることもあるが、V-Rayではサンプリングを上げれば問題はないとのことだ。「デノイザーの種類はいくつかありますが、Intel® Open Image Denoiseがオススメです」(山内氏)。

▲右側にある白いリビングボードを中心に、右がブルートフォース、左がラディアンスキャッシュ。ノイズとディテールの詳細の差がわかる

サンプリングはProgressive image samplerの [Max. Subdivs] と [Noise threshold] の設定を行えば、後は全て自動的にサンプルリングするようになっている。以前のように、GIやライト、マテリアルなどでそれぞれのサンプリングをローカルに変更する必要がなくなり、まるでアンバイアスのレンダラのようなシンプルな設定方法となったことで、大幅に簡素化された。

また室内シーンでの「窓から差し込む光」のために、ドームライトの他にポータルライトを仕込む場合も多かったが、それも必要なくなったという。「V-Ray 5ではイラディアンスマップを捨て、プログレッシブとデノイズを活用してください」(山内氏)。



V-Ray 5の新機能。「VFB2」に進化し、編集機能が追加

V-Ray 5の大きな新機能の目玉は、VFBが刷新され「VFB2」となりレイヤー合成編集が追加されたことだろう。「Render Elements」に追加された新機能の「LightMix」と「Back to Beauty」を使えば、VFBをPhotoshopのようなコンポジットツールとして使うことができる。

▲VFB2の編集画面。右サイドにPhotoshopのようなレイヤー構造があるのがわかる。その下のCompositeスイッチで編集モードに切り替える

「Back to Beauty」はレイヤー合成においてで便利な機能だ。Render ElementsでBack to Beautyを追加すれば、GIやreflectionといったAOVの要素に内部で分割された上でコンポジットされた状態でレンダリングされるので、個々の要素で細かい調整が可能だ。今まで同様の調整はコンポジットソフトを使えば可能だったが、Back to Beautyのみでレンダリングしたものを使って調整できるのは、非常に簡単で大幅な時間短縮が可能となるだろう。

▲「Back to Beauty」エレメントを開いたところ。左上に見えるリストのように要素ごとに分かれており、個別に編集可能だ

▲MultiMatteのようにマスクとしても使え、「一部分だけ色を変えたい」際に有効だ

▲レイヤー合成編集はいわゆる「Photoshopのレイヤー機能」のようなもので、外部から画像を読み込むこともできる。バックグラウンドの差し替えも容易

「LightMix」はレンダリング後にライトの選択ができる機能で、[Render Elements] で設定する。エリアライトやドームライトをいくつでも追加できるため、一度にレンダリングして、後から環境をガラッと変えることも可能だ。

サンプルの街のシーンでは、夕方のドームライトと昼間のドームライト、その他に室内のライトや街灯など、多くのライトがレイアウトされている。このシーンを1度レンダリングしただけの素材を基に、夕方と昼を切り替えるフローのデモンストレーションが行われた。

これまではレンダリングした素材をPhotoshopなどのコンポジットツールへ持ち込み、細かく調整していた手間のかかる作業であったが、3ds Max内のVFB2だけで手早く完結できるようになった点は、数をこなさなければならない建築ビジュアライゼーションの現場では重宝するフローではないだろうか。特にLightMixは、時間がかかるレンダリングをしてから、後で細かく調整できるのは大きな時間の短縮になるだろう。

▲全てのライトをONにした状態。ライトがたくさんあるので、露出オーバーで白く飛んでしまっている

▲夕方のHDRや室内照明、街灯、車のヘッドライトなど、レンダリングされた素材の中のライトを適切に選んでいくと夕方の背景となる

▲同じサンプルのレンダリング素材から、LightMixでライトを切り替えて昼のシーンにしたもの。1度のレンダリングで行なったとは思えない調整幅だ

V-Rayマテリアルにも「Coat」や「Sheen」などのアトリビュートが追加されるといった変更が加えられた。「Coat」はカーペイントのようなブラーがかかっている反射の上に、はっきりとした反射を乗せるといった「反射の二重構造」が可能なアトリビュートだ。以前であれば、「Blend Material」を使わなければ表現できなかったものが簡単に作れるようになった。

▲ボンネットの上のぱっきりとした反射の下に、ブラーがかかった反射がある

「Sheen」は、布の表現をする際に「光沢を加えてベルベット生地のような質感」にするアトリビュートだ。こちらもノードを組まないとならなかった表現が簡単になった。。さらにTranslucensに「SSS」というモードが追加。これは [refract] が [0] で透明ではない状態でもSSSが効くようになるもので、[Scatter radius] で透けている部分の色を調整できる。以前は不透明な部分と透けた部分の調整が難しかったが、コントロールしやすくなった。

▲人形の透明部分に赤、不透明部分に青を設定したもの。特に難しいとされていた「赤く透ける表現」も調整が非常に簡単だ

GPUレンダリングの機能もアップデートされ、「RTXサポート」をONにすれば、対応機種であれば10%程度早くなる。また「Out of Core」が改良され、ディスプレイスメントやモーションブラーに対応。これにより、GPUレンダリングがプロダクション業務で普通に使えるようになったとのことだ。



充実の無料アセット

V-Ray 5ではレンダリング周りのサービスも無償で提供される。Chaos Cosmosは無料アセットのライブラリで、「家具」、「アクセサリー」、「照明」、「植生」、「クルマ」、「人物」、「HDRI Sky」の7つのカテゴリに分類された650以上のモデルがロイヤリティフリーで使用できる。モデルのクオリティは高く、現場でもすぐに使えるものだ。 

Chaos Cosmosの使用方法はいたって簡単で、ライブラリのウィンドウから3ds Maxのビュー上にドラッグ&ドロップするだけだ。3ds Maxの操作に慣れていなくても、すぐにレイアウトが可能。これらのアセットのマテリアルはV-Rayのマテリアルでできているため、3ds Maxの操作に慣れている人であれば色や質感の調整も容易だろう。

▲ハイクオリティなモデルが多数用意されている。ドラッグ&ドロップするだけで使用可能

同様に、コンクリートやカーペイントといったよく使うマテリアルが「マテリアルライブラリ」としてまとめられているので、V-Rayのシェーダを知らなくても3ds Maxにドラッグ&ドロップするだけで設定することができる。

▲「マテリアルライブラリ」はテクスチャも含めてライブラリ化されている。こちらもドラッグ&ドロップするだけだ

Chaos Vantageは、Chaosが始めた新しいリアルタイムレンダリングのクラウドサービスだが、こちらも1年間無償で使えるという。Chaos Vantageを使うことで、3ds Maxのビューと連携させてリアルタイムでのレンダリングが可能だ(ただしRTXレベルのGPUが必要)。

▲左が3ds Max、右がChaos Vantageの画面。レイアウトが一緒であることがわかる。Chaos Vantageはプリレンダーに近いリアルさだ

山内氏は建築ビジュアライゼーションにおいて、V-Ray 5の新機能を「建築ユーザーの方は建築を見せるのが最も重要で、マテリアルの設定やGIの設定は "ソフト側でやってよ" と考えられる方が多いと思います。そのような方でも、楽にレンダリングができるようになりました」とまとめた。

セミナーでの機能紹介を通して、確かにレンダリングのクオリティアップだけではなく、いかにユーザーの負担にならないシンプルなフローやアセットでビジュアライゼーションできるかに重点が置かれたアップデートだったように感じられた。

セミナーの最後には、V-Rayのメリットについて他のレンダラと比較しつつ紹介された。上記の新機能のほか、V-Rayには「レンダーノード」というレンダリングだけの安価なライセンス設定があるため、運用コストを抑えることができるということだ。1時間と短時間ではあったが、要点を押さえたわかりやすいセミナーだった。アーカイブ(視聴にはクリエイターズIDの登録が必要)もされているとのことで、興味ある方はぜひ視聴してみてほしい。

●Information
「建築ビジュアライズに携わる方必見!3ds Max × V-Ray 最新機能紹介セミナー」
開催日:2021年9月24日(金)
時間:15:00~16:00
会場:オンライン
参加費:無料 ※事前登録制
参加対象:V-Rayに興味のある方/V-Ray 3をお使いの方/建築ビジュアライズに興味のある方、携わっている方

主催:ボーンデジタル
協賛・協力:株式会社オーク

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